仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#2-5

2019年 編 #2-5

 

太陽が焼けつくような光線を地上に降り注ぎ、コンクリートの建ち並ぶ街は、まるで熱せられた鉄板の上に置かれたかのように、ゆらゆらと陽炎が立ち上っていた。かつては人々の活気に満ちていたこの街も、今や戦禍によって至る所が崩れ、瓦礫の山が連なる凄惨な光景へと変わり果てている。空気には硝煙と鉄錆の混ざった、重たいにおいが漂い、風が吹くたびに砂ぼこりが舞い上がり、視界をわずかに遮る。

 

そんな戦場の中心から少し外れた位置、半分が崩れ落ちた高層ビルの壁面が作り出す陰の中に、東美穂は身を潜めていた。手で壁をつかむ指は白くなるほど力が入り、体は自分の意思とは関係なく小刻みに震えている。額には冷や汗がにじみ出し、心臓が早鐘のように激しく打ち鳴らされ、まるで胸が裂けるような感覚に襲われていた。

 

目の前、陽光の下に広がる戦場で起きている光景が、彼女の理解と想像をはるかに超えていたからだ。

 

「……あいつは……生きてやがったのか!」

 

荒々しく、そして信じられないものを見たという色を濃く宿した声が響く。声の主はレイジ。彼は大きく目を見開き、その目の奥には驚愕と、そして抑えきれないほどの激しい憎悪と興奮がないまぜになって燃え上がっていた。

 

レイジにとって、その男は忘れることのできない存在だった。過去に自身を徹底的に苦しめ、力の差を見せつけ、敗北の痛みと屈辱を骨の髄まで思い知らせた相手。再び相まみえることなど、二度とないだろうと思っていた――いや、心のどこかでは、もう一度会って今度こそ完全に叩き潰したいという執念が渦巻いてもいた。

 

だがまさか、こうして自らの目の前に、その男が立っているとは。

 

「……紫苑……!?」

 

美穂の口から、かすれた、震えるような声が漏れ出す。その名前は、彼女にとってあまりにも重く、そしてあまりにも多くの悲しみと思い出を詰め込んだものだった。唇からこぼれ落ちたその名は、熱い風にあおられて、すぐにかき消されていく。

 

鷹宮紫苑。

 

5年前のあの日、大学のキャンパスで、彼が仮面ライダーGTとして、この世界の命運をかけた戦いの末、大悟と対峙し、その場を去ってからというもの、美穂は彼がこの世にいないものだと思っていた。消息は完全に途絶え、生きているという確証もなければ、遺体や痕跡さえも見つからなかった。多くの人が彼のことを「伝説の戦士」として語り、やがて記憶の彼方へと薄れていく中で、美穂だけはずっと心のどこかに、彼の笑顔や温かい声を留め続けていた。

 

だが今、目の前に立っている男は、確かに彼女が知っている鷹宮紫苑でありながら、同時にまったくの別人へと変わり果てていた。

 

背格好や立ち姿、輪郭の一部には、かつての彼の面影がはっきりと残っている。だが、その体は痛ましいまでに変化していた。

 

右半分の顔は、深く刻まれた無数の傷跡に覆われ、かつての穏やかで優しい表情はそこにはなく、見る者に痛みと緊張感を与えるものとなっている。右手は金属光沢を放つ精巧な義手に取って代わっており、わずかに動くたびに、微かな機械の作動音が漏れ出していた。

 

そして最も変わってしまったのは、その瞳だ。

 

かつてはまるで春の日差しのように温かく、迷った時には道を示してくれるような優しい光を宿していたその瞳に、今はもう何もない。ただ冷徹で、計算され尽くした機械のような、感情のない光が静かに燃えているだけだ。まるで人間の心を捨て去り、戦うためだけの存在へと生まれ変わってしまったかのように。

 

紫苑は周囲の状況などまるで目に入っていないように、ただ眼前に立つ敵たちだけを見据えていた。美穂の存在にも、レイジの驚きや怒りにも、まったく反応を示す様子はなく、その視線は一点に定められ、凍てついたように動かない。

 

その時――

 

青空を鋭く切り裂くような高い音が響き渡った。

 

どこからともなく、まるで意志を持っているかのように一筋の銀色の光が走り、紫苑の周囲を素早く旋回する。それは銀色のシフトカーだった。空気を切り裂きながら飛ぶその姿は、まるで獲物を狙う猛禽類のように俊敏で、正確だ。

 

シフトカーは紫苑の左腕にはめられた、同じく銀色のブレスレットへと向かい、吸い込まれるようにしてすっぽりと納まる。

 

『MACHINE SET』

 

無機質で、感情のない電子音声が周囲に響き渡る。それに続いて、カチリ、カチリという機械的な作動音が重なり、やがて空気を震わせるような高く鋭い待機音が、戦場全体に反響した。

 

紫苑はゆっくりと、だが淀みない動作で右の義手を動かす。金属同士が接触する鈍い音を立てながら、腰にしっかりと装着された白銀のベルト――『エクスドライバー』のグリップ部分へと手をかける。

 

その動きは、流れるような滑らかさを持ちながらも、どこか人間的な温かみがなく、精密機械が予定されたプログラム通りに動いているかのような硬さと正確さを含んでいた。

 

「……変身」

 

低く、重く、そして感情の読めない、平坦な声が紫苑の口から発せられた。その声には喜びも怒りも悲しみもなく、ただ行動を宣言するだけの冷たい響きがあった。

 

 

次の瞬間、世界が光に包まれた。

 

『TYPE TURISMO』

 

真昼の強い太陽光をさらに反射し、目も眩むような白銀の光が紫苑の体を中心に爆ぜ、視界いっぱいに広がる。光の波は周囲の瓦礫や地面を照らし出し、一瞬だけ戦場全体が昼よりも明るく輝き、そしてゆっくりと光は収まっていく。

 

光が薄れ、視界が元の明るさに戻った時、そこに立っていたのは、かつて多くの人が目撃した伝説の戦士の姿ではなかった。仮面ライダーGTは、その姿を根本から変え、さらなる高み、あるいは別の境地へと進化を遂げていた。

 

仮面ライダーGT-X タイプツーリスモ。

 

極限まで研磨されたアルミニウムのような冷たい質感の装甲が、全身を覆っている。光を受けるたびに鋭く輝き、その輝きは触れるものすべてを拒絶するかのような硬さと冷たさを宿していた。頭部のバイザーの奥には青い単眼が一つ、まるで高性能なレーダーや照準器のように、まっすぐに標的を捉え、微動だにしない。

 

胸部には、大きく「X」の形を模した傷のような紋様が深く刻まれており、その内部からは青いシグナル光が点滅を繰り返し、まるで生き物の心臓のように規則正しく脈打っている。全身から発せられる存在感は圧倒的で、そこに立つだけで周囲の空気が重く沈み込み、敵対する者に強烈な威圧感を与えていた。

 

蒼が変身する仮面ライダーインフェルナスが、炎のような熱さと躍動感、そして未来へ向かう若々しい力強さを持つ戦士だとすれば、このGT-Xはまさに完成された機械であり、あらゆる性能を極限まで高めた「兵器」という言葉が最もしっくりとくる存在だった。激しさはなく、ただ冷徹に、確実に敵を殲滅するための力。

 

紫苑――GT-Xはゆっくりと、まだ呼吸を整えている蒼の方へと向き直る。装甲が軋むような微かな音が響く。

 

「おい……」

 

低い呼びかけに、蒼ははっとして身構え、警戒心を解かずインフェルナスの青い装甲の下で全身に力を込めた。

 

「……?」

 

GT-Xは蒼の様子を値踏みするように、わずかな時間だけ視線を注ぎ、そして静かに口を開く。その声は変身前と同じく、平坦で感情の起伏がなく、まるで事実だけを告げるような響きだった。

 

「こいつらは俺が引き受ける」

 

「なに……?」

 

思わず蒼は声を上げる。予想外の言葉に一瞬思考が停止し、次いで疑問と警戒心が膨れ上がる。GT-Xは蒼の反応を意に介さず、続けて言葉を紡ぐ。

 

「戦えないなら、撤退してもいいんだぞ。これ以上、無駄な傷を増やす前にな」

 

その言葉には、蒼の力がまだ未熟であること、今の状況ではこれ以上戦い続けるのは難しいことを指摘するような冷たさがありながら、同時に彼をこの危険な戦いから遠ざけようとするような、微かな気遣いのようなニュアンスも含まれていた。

 

だがそれは、若く、正義感に燃え、自分の力でこの街と人々を守ろうと奮闘する蒼のプライドを、激しく刺激するには十分な言葉だった。

 

「舐めるな……!」

 

蒼は声を荒らげ、拳を強く握りしめる。全身の青い炎がさらに激しく燃え上がり、周囲の温度を上昇させる。

 

「俺だって、まだ……! まだ戦える! この街にはまだ守るべき人たちがいるんだ! 絶対にここを、この日常を、俺が守らなきゃならないんだ! 誰かに代わってもらうわけにはいかない!」

 

蒼が反発するように叫び返す。その真っ直ぐな想いは、確かに力強く、輝かしいものだ。だがそれと同時に、経験の浅さや状況を見極める冷静さに欠けている部分も、GT-Xには手に取るようにわかっていた。

 

二人のやり取りを、瓦礫の陰から、そして敵陣の中からじっと見つめていた存在があった。レイジだ。

 

彼は二人の姿を目にした瞬間から、全身の血管に悪い血が巡るような、抑えきれないほどの凶悪な殺意と闘志を沸き立たせていた。体が震えるほどの興奮と怒りが彼を支配し、今にも叫び出さんばかりに口を開く。

 

「うるせえ!! 余計な口上なんざいらねえ!」

 

レイジは地面を蹴り、GT-Xに向かって指を突きつける。その目は血走り、憎悪をありありと剥き出しにし、口元は歪み、凶悪な笑みを浮かべている。

 

「会いたかったぜ、矢切のガキ! あの時の続きをやらせてもらう! 今度こそ、てめえの息の根を止めてやる!」

 

そのレイジの叫びに対し、GT-X――紫苑はただ冷たく、どこか遠い目をしたままレイジを見据える。まるで目前の敵が、自分にとって取るに足らない存在であるかのような態度だ。

 

「……好きにしろ。俺はそっちの子供を片付ける」

 

レイジの傍らにいたクライが冷淡に吐き捨て、ゆっくりと前に進み出る。彼は冷静沈着で、常に状況を計算しながら行動するタイプだ。自らの周囲に浮かんでいた複数体の大型ロイミュードたちに、鋭い視線を送る。機械のような目が、青く光って点滅する。

 

「レイジ、お前はあっちだ。その新しいおもちゃで昔の相手と遊んでいろ。」

 

クライの低い指示に、レイジは嬉しそうに歯を剥き出して頷く。

 

「ああ、そうさせてもらうぜ! 最高の時間になりそうだ!」

 

レイジは足元のアスファルトを砕き割るように強く踏み込み、地面に亀裂を走らせながらGT-Xへ向かって一気に突進する。重い体からは想像もつかないほどの速さで、空気を引き裂くように駆けていく。

 

それと同時に、クライが操る大型ロイミュードの一体が、重々しい金属音を響かせながら巨体を大きくしならせ、地面を強く蹴って上空へと高く跳躍した。太陽の光を遮るように巨大な影が落ち、GT-Xを上から押しつぶし、そのまま圧殺せんと、急降下して襲いかかる。

 

だが――

 

GT-Xは一歩も動かない。まるで自分に向かって巨体が落ちてくることなど、最初から予測し、計算し尽くしていたかのように、微動だにせず、その場に立ち続けている。頭部の単眼は上空のロイミュードを正確に捉えたまま、まばたき一つしない。

 

巨大な質量が作り出す影が彼を覆い尽くし、衝突まであとわずかという、まさにその刹那。

 

GT-Xの傍らの地面に突き立てられていた剣――『ファントムカリバー』に、紫苑の右腕が、虹色の残像を描くほどの超高速で伸びる。

 

カチリ、という音と共に剣の柄をしっかりと握りしめ、回避行動と同時に放たれたのは、鋭いカウンターの一閃だった。

 

剣身に巻きつけられていた布が勢いよく風に舞い上がり、その下から現れた銀色に輝く刀身が、真夏の強い日光を鮮烈に跳ね返し、きらめく。まるで一筋の稲妻が走ったかのような光景だ。

 

GT-Xはそのまま逆さまに体を回転させながら空中へと跳ね上がり、迫り来る大型ロイミュードの頭部めがけて着地すると、渾身の力を込めてファントムカリバーを深々と突き刺した。

 

ドオオオオオン!!

 

白昼の街に、耳をつんざくような凄まじい轟音が響き渡る。衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、地面には大きな亀裂が生まれる。頭部から致命的な一撃を受けたロイミュードは、制御を完全に失い、内部から次々と部品やエネルギーが噴出し、大きな炎を上げながら四方へと爆散した。

 

燃えさかる火の粉と金属の破片が雨のように降り注ぐ中、GT-Xは爆風をものともせず、わずかな距離を滑るように移動しながら着地する。そして足元が地面に着くと同時に、まるで磁石に引き寄せられる鉄のように、素早くレイジの突進してくる方向へと向き直る。

迷いのない一歩、また一歩と、確かな足取りで距離を詰める。

 

「お前の相手は俺だ」

 

一方その頃、蒼の前にはクライが素早く移動し、するりと体を翻して立ちふさがっていた。クライは周囲に散乱している瓦礫やコンクリートの破片を、まるで見えない手でつかむように空中に浮かべ、強い力で圧縮していく。ギギギ、という嫌な音と共に、それらの破片は次々と鋭い弾丸へと変形し、蒼めがけて雨のように放たれる。

 

「くっ……!」

 

蒼は咄嗟にインフェルナスの武器であるシフトブレードを横に構え、体を低くして防御態勢を取る。飛来する礫を次々と刃で叩き斬り、あるいは弾き飛ばしながら、全身に力を込めて耐える。鋭い破片の一部は装甲に当たり、カチカチと小さな音を立てて弾ける。

「やってやるよ!」

蒼は叫び、インフェルナスの全身から青い炎をさらに激しく燃え上がらせ、周囲の空気を熱気で満たす。彼はクライの強さが並外れたものであることを感じ取っていた。だがそれでも、逃げるわけにはいかない。ここで自分が倒れるわけにはいかないのだ。

 

「たとえ相手が幹部だろうと、どんなに強敵だろうと、俺は絶対に退かない! 俺がこの街を守るんだ!」

 

蒼は決意を胸に地を強く蹴り、炎をまとった体を高速で滑らせるようにして、クライへと向かって突進していく。シフトブレードにも炎が纏われ、青い光の刃が敵を捕らえんと牙を剥く。

 

白日のもとに完全に晒された凄惨な戦場。

 

かつてこの世界を救い、そして自らの選んだ道によって絶望の底へと落ち、再び姿を変えて戻ってきた伝説の戦士、GT-X。

 

まだ経験は浅いながらも、正義の心と熱い想いを胸に、新たな時代を背負って立とうと奮闘する新星の戦士、インフェルナス。

 

二人の仮面ライダーは、それぞれに強大な敵を前に、刃を交えようとしていた。それは単なる戦いではなく、運命が引き寄せた共闘であり、あるいは世代を超えた競演でもあった。

 

風が二人の間を吹き抜け、砂ぼこりを舞い上げる。緊張感が空気を凍らせ、次の瞬間に訪れる激突の時を、すべてのものが息を呑んで待っているかのようだった。

 

伝説と新星の戦いが、今、この場所で、本当の意味で始まった。

 

 

(続)

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