仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

95 / 96
2019年編#3-3

2019年編#3-3

 

「刈谷の手がかりが見つかった」

 

紫苑のその低い声が、会議室の空気を一気に張り詰めたものに変えた。壁際に立っていた蒼の体がぴくりと反応し、肩が小さく跳ね上がる。彼の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、期待と不安がないまぜになった感情が胸の内で渦巻いた。

 

「まさか……俺の親父が、生きているっていうのか?!」

 

蒼は思わず声を上げ、前のめりになる。幼い頃に姿を消した父。彼の記憶にある父の姿はほとんどなく、ただ周囲の大人たちが口をつぐみ、何かを隠しているような雰囲気だけがいつも残っていた。自分の出自について長い間疑問を抱き続けてきた蒼にとって、その言葉はあまりにも衝撃的で、そして何か答えにたどり着けるかもしれないという希望の光でもあった。

 

蒼が息を呑み、次の言葉を待つ中、テーブルの向こう側に座る三原は無言のまま指を組み合わせ、その手にぎゅっと力を込めていた。骨が軋むような音が聞こえそうなほどに強く、彼の心の中に渦巻く苦悩と決意がその姿から伝わってくるようだった。重苦しい空気をそのままに、ゆっくりと背中を丸め、まるで長い時間をかけて口を開く準備をするかのように、沈黙が数秒間流れた。

 

「……お前には、いずれ話すつもりだった。だが、このタイミングで明かされることになるとはな」

 

三原の声はいつもの冷静さを失い、かすれて震えていた。彼は蒼の顔をまっすぐに見ることができず、視線をテーブルの表面に落としたまま、語り始める。それは今から25年も昔、この世にロイミュードという災いが生まれ、そして仮面ライダーという希望の光が生まれるきっかけとなった、すべての始まりの物語だった。

 

「その男の名前は、刈谷義孝だ」

 

蒼は息を飲む。やはりそうだった、自分の父の名前がこの事件の核心にあったのだ。

 

「かつて彼は、矢切周平――つまり紫苑の父親と共に、世界中の誰もが到達していない技術の最前線に立っていた。二人は当時、天才と呼ばれ、互いに切磋琢磨し合う最高の親友であり、同時に強いライバル同士でもあった。だが……刈谷はその才能を、とんでもない方向に使ってしまったのだ」

 

三原は一度言葉を区切り、紫苑の方をちらりと見る。紫苑は無表情のまま黙って頷き、自分の過去と向き合う覚悟を示していた。

 

「刈谷は、ロイミュードという名の“悪魔”をこの世に産み落とした張本人だ。そして蒼……お前がまだ5つにもならない頃、突然家を出て姿を消し、今もなおどこにいるのか、生きているのか死んでいるのか、誰も知らない。それが、お前の父親の正体だ」

 

「俺は当初から、彼の行方を追い続けていた。だが、まったく足取りは掴めなかった……まるで最初からこの世に存在していなかったかのように、すべての痕跡を消し去っていたのだ」

 

三原は苦々しげに唇を噛み、当時の無力感を思い出すように目を細める。

 

「そして紫苑も同じだ。奴は2年前、単独でかつての極秘研究施設に侵入し、刈谷が残した隠蔽データを奪取して以来、表舞台から姿を消し、影となってただ一人、刈谷の足跡を辿り続けていたのだ」

 

紫苑が静かに頷く。彼がこの2年間、何を思い、どんな危険な道を歩んできたのか、その一端が明らかになり、室内の空気がさらに重く沈んでいくのを誰もが肌で感じていた。

 

「すべては、25年前から始まっていたんだ」

 

三原の言葉と共に、長い間封印され、闇の中に葬られていた忌まわしい真実が、ゆっくりと紐解かれていく。

 

当時、矢切周平と刈谷義孝は、同じ研究機関で共に働き、同じ夢を追いかけていた。人類の未来のために、画期的な技術を生み出す――その純粋なる理想のもと、二人は日夜研究に没頭し、ついに当時の常識では考えられない未知の物質を生み出すことに成功する。

 

それが、金属のような強靭さと、生体組織のような柔軟性・自己修復能力を併せ持つ新素材――『ネオメタル細胞』であった。

 

この発見は世界中に衝撃を与え、人々はこれによって医学も工学も飛躍的に進歩し、より良い社会が築かれるだろうと期待に胸を膨らませた。だが、この偉業を達成したことで、二人の道は致命的なまでに分かたれることになる。

 

矢切周平はこのネオメタル細胞の可能性を、人命救助や社会福祉、人々の生活を助けるためのパワードスーツへと応用しようと考えた。災害現場で活躍し、怪我や病気の治療に役立て、弱き者を守るための「盾」として、平和のために技術を使うべきだと強く信じていたのだ。

 

一方、刈谷義孝の考えはまったく異なっていた。彼はネオメタル細胞こそが人類の進化の鍵であり、さらに改良を加えることで、病気も怪我もなく、永遠の命を持つ「完璧な生命体」を創造できると信じて疑わなかった。彼にとって人類は未完成な存在であり、自らの手で進化させることこそが、自分に与えられた使命だとまで思い込んでいたのだ。

 

「“完璧な生命”を創る。その狂気じみた理想が、すべてを狂わせた」

 

三原の声は震え、その目には怒りと悲しみが交じり合った色が浮かんでいた。

 

刈谷は研究を独断で進め始めた。彼は組織の規則も法律も倫理もすべて無視し、秘密裏に実験を重ね、ネオメタル細胞を変異・強化させていく。そしてついに、制御不能な自律進化を遂げる禁忌の存在――『ロイミュード細胞』を生み出してしまったのである。

 

ロイミュード細胞は生体と融合すると、驚異的な力と再生能力を得る代わりに、理性を失い凶暴化する性質を持っていた。だが刈谷はそれでも構わないと言わんばかりに、さらに実験を続けた。

 

あろうことか彼は、親友である矢切周平の当時まだ幼かった息子、つまり紫苑の細胞を、何の断りもなく採取し、それをロイミュード細胞と融合させることで、この世で最初のプロトタイプ個体を誕生させたのだ。

 

「この男は…矢切の息子である紫苑さえも、ただの実験材料、道具としか見なかったのだ……友情も倫理も、彼の前ではすべて捨て去られ、理想のためなら何でも犠牲にする、冷酷な科学者に成り下がっていた」

 

三原の言葉に、その場にいた朔也が息を呑む。親友の裏切り、そして我が子が何の知らない間に実験台にされていたと知った矢切周平の絶望と怒りは、いかばかりだっただろう。想像するだけで胸が締め付けられるような思いだった。

 

矢切周平は、自らが信じた道と親友の野望との決別を決意する。これ以上刈谷の暴走を許せば、取り返しのつかない事態になる。そして何より、この呪われた研究の連鎖から我が子を遠ざけ、守り抜かなければならない。そう考えた矢切は、幼い紫苑を自分の元から引き離し、身元を隠して孤児院へと預けた。

 

「紫苑を安全な場所に置くこと、それが彼にできる唯一の守り方だったのだ。自分のそばに置いておけば、また刈谷に狙われるかもしれない。そう恐れた矢切は、愛する我が子を手放すという、最も辛い選択をした。そして彼は、たった一人で研究方針を転換した。平和のための技術を、敵と戦い、人々を守るための『兵器』へと作り変える決意をしたのだ」

 

こうして、後に人類最後の希望と呼ばれることになる仮面ライダーGT、そして現在稼働しているすべてのライダーシステムの原点が生まれたのであった。

 

長い話し合いが一区切りつき、重い沈黙が会議室を支配する。誰もが言葉を発することができず、ただそれぞれの思いを胸に抱えていた。

 

そんな中、紫苑が三原の隣で静かに口を開く。その声は低く、それでいてどこか自虐的な響きを含んでいた。

 

「俺は……生まれた時から、ロイミュードの“苗床”だったわけだ」

 

紫苑は自分の体を見下ろし、淡々と言葉を続ける。

 

「父さんはそれを知って、俺を守るために、俺を突き放し、捨てた……。孤児院にいた俺には、父が突然自分を捨てた理由なんて分からなかった。ただ、自分は要らない子供なのだと、ずっと思い続けて生きてきた」

 

紫苑は自分の右腕をじっと見つめ、衣服の下に隠された金属部品が軋む感触を確かめるように、ぎゅっとその手を握りしめた。彼の体の多くは、今やネオメタル細胞を用いた機械部品で構成されている。

 

「そして皮肉なことに、俺は5年前、大悟に殺されかけて体の大半を失い、瀕死の状態だったところを三原さんに拾われた結果、このザマだ。ネオメタル細胞で、体の半分が機械になっても、結局俺はただの実験体のままだったのかもしれない。刈谷が最初に作り出した不完全な実験結果……それがこの俺なのだからな」

 

「紫苑と……蒼の父親に、そんな因縁があったなんて……」

 

朔也が声を震わせながら言う。彼はこれほどまでに重く、暗く、そして複雑な歴史が自分たちの背負っているものだったのかを、改めて思い知らされ、言葉もなくただ驚くばかりだった。

 

蒼はというと、真っ青になった顔で唇を噛み切らんばかりに震わせ、テーブルに置かれた自分の拳からは血が出るほどに力が込められていた。指の関節は白く浮き出し、体中の血が逆流するような感覚に襲われる。

 

「じゃあ……じゃあ俺の親父がすべての元凶だったっていうのか……!?」

 

蒼が絞り出すように声を上げる。その瞳には怒りと絶望、そして自分の出自への嫌悪感が渦巻いていた。

 

「ロイミュードを作った張本人で、多くの人を苦しめ、この人の人生をめちゃくちゃにして……俺はそんな男の息子だっていうのか……!?」

 

蒼の絶叫にも似た問いかけに、三原はただ視線を逸らし、沈黙する。その重たい無言こそが、何よりも雄弁に事実を肯定していた。蒼の心はまるで氷の塊のように冷たく、重く沈んでいく。自分がこの事件の加害者の息子であり、そして目の前にいる仲間は、自分の父親によって人生を狂わされた被害者なのだ。その事実があまりにも重く、蒼は自分の存在そのものが許されないもののように感じた。

 

「三原さん……! なんでだよ! なんでこんなに大事なことを、今まで俺に黙ってたんだよ!」

 

蒼がテーブルを強く叩き、三原に詰め寄る。彼の心の中には、父親への怒り、自分への嫌悪、そして三原への不信感が一気に溢れ出し、制御できなくなっていた。険悪な空気が部屋中に満ち溢れ、今にも張りつめた糸が切れてしまいそうな緊張感が漂う。

 

そんな張りつめた空気の中、紫苑の乾いた声がその空気を切り裂いた。

 

「諦めろ、蒼。三原さんはな、いつも一番大事なことを後になってから言うんだよ」

 

冗談なのか本気なのか、判別のつかない冷ややかな口調と、どこか含みのある言葉。それは長年三原と共に行動してきた紫苑だからこそ出る、皮肉であり、そして慣れ親しんだからこその恨み節だった。

 

三原もその言葉には居心地が悪そうに眉間にシワを寄せ、顔をしかめる。言い返す言葉もなく、ただ沈黙するしかない自分が情けなくもあった。

 

紫苑はそんな三原を一瞥した後、射抜くような鋭い眼光を蒼に向けた。蒼はその鋭い視線に思わず体を後ろに反らす。

 

「蒼。お前と俺は、ある意味で同じだ」

 

紫苑ははっきりと、力強く言い放つ。

 

「生まれた時から運命に弄ばれ、理不尽な目に遭わされてきた、同じ“被害者”だ。俺は実験台にされ、お前は自分の父親の罪を背負わされた。だがな、蒼」

 

紫苑は一歩前に進み、蒼の目をまっすぐに見つめる。

 

「俺はもう誰の駒にもなるつもりはない。たとえこの体が機械じみて、人間としての形を失い、心さえもいつか機械に支配される日が来たとしても、俺の意志だけは、俺だけのものだ。誰かに操られることも、誰かの罪に押しつぶされることも、俺は自分の力で否定する。俺は俺のために生きる」

 

その言葉には、過去の苦しみを乗り越え、自らの道を切り開こうとする、何者にも屈しない強い意志が込められていた。蒼はその言葉に、自分の中にあった絶望が少しだけ溶けていくような感覚を覚える。

 

三原がゆっくりと立ち上がり、部屋の中の二人を静かに見渡す。

 

「これがすべてだ。ロイミュードの誕生、そして我々ライダーシステムの存在意義……その光と影、すべての始まりがここにある」

 

会議室を、まるで墓場のような重く冷たい沈黙が支配する。だがその沈黙の中には、ただ絶望するだけではなく、これからどうするかを考えるための、静かな時間が流れていた。

 

復讐の炎を胸に宿し、それでもなお正義の道を歩もうとしながら、父の罪と向き合わなければならなくなった新星・蒼。彼はこれから、自分の中にある怒りと悲しみをどう処理し、どんな選択をするのだろうか。

 

冷徹な機械の体を引きずりながらも、過去に縛られることなく、自らの生き方を貫こうとする亡霊・紫苑。彼の強い意志は、蒼に何を教えるのだろうか。

 

同じ闇から生まれ、異なる道を歩んできた二人の男たちは、目の前に横たわる運命の重みに、ただ言葉を失っていた。だがその瞳の奥には、もう一度立ち上がり、自分たちの未来を切り開くための、小さなけれれど確かな光が灯り始めていたのだった。

 

 

(続)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。