仮面ライダーGT   作:カッティングカマター

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2019年編#4-1

2019年編 #4-1

 

S.H.I.F.T.本部の地下統括フロアは、地上の喧騒とは完全に隔絶された別世界だった。厚い鉄筋コンクリートと特殊合金の壁に囲まれ、外界の光も音も一切届かないこの空間には、人工照明の白い光と、絶え間なく流れるデータ表示、そして機械が発する低いうなりだけが常に存在している。温度も湿度も完璧に制御され、人間の感情や生理的なゆらぎさえも排除しようとするかのような、無機質で冷たい雰囲気が満ちていた。

 

紫苑と蒼が任務から帰還し、このフロアのブリーフィングエリアに足を踏み入れたのは、夜も更けた時間帯だった。二人の肩には、長時間にわたる潜入と戦闘による疲労が重くのしかかっていた。同時に、戦いの中で湧き上がった緊張感と高揚感がまだ完全に消えず、心臓の鼓動はいつもより速く、血の巡りも熱く感じられた。

 

そんな二人の前で、三原はすでに自分のデスクに深く腰を下ろし、複数のモニターに映し出された膨大な情報を次々と処理していた。彼の指はキーボードの上を滑るように動き、画面上の数字や図形が瞬く間に入れ替わっていく。彼は最初の数分間、こちらを振り向こうともせず、黙々と作業を続けていた。

 

やがて、キーボードを叩く音が一瞬途切れ、低く落ち着いた声が空気を震わせた。

 

 

「調査班が現場から持ち帰ったデータは、今、解析チームに回してある。破損した記録媒体の復元、暗号化されたデータの解読には、最低でも数日、場合によっては数週間を要する。結果が出るまで、我々が新たな手がかりを得ることはできない。今はただ『待ち』だ。」

 

その言葉は事務的で、感情の色がまるでない。まるで機械が定められた手順を読み上げているかのようだった。

 

 

「……二人とも、長時間の活動で消耗しているだろう。今のうちに休養を取れ。次の事態が発生した時、万全の状態で対応できるように備えること。それが今、お前たちに課せられた最善の行動だ」

 

その淡々とした命令口調が、蒼の心の奥底にくすぶり続けていた疑念に火をつけた。

 

ここに至るまでの数ヶ月、数回の任務を重ねる中で、蒼の中には次第に不信感が積もっていた。

特に「刈谷義孝」という名前が浮上してから、その疑いは確信に近いものへと変わりつつあった。刈谷――かつて天才科学者であり、今ではこの組織が追跡する最大の標的となった男。そして、紫苑の過去にも深く関わり、蒼自身が抱える家族の悲劇にも影を落としている存在。

 

蒼はこう感じてならなかった。三原はすべてを知っている。刈谷が何を企み、何を生み出し、どれほどの悲劇を引き起こしてきたのか。自分たち二人が、過去にどんな傷を負い、何を失い、どれほどの苦しみを抱えてここにいるのかも。それなのに彼は、何も語らない。真実を隠し、自分の胸の内だけにすべてを留め、都合の良い時だけ自分たちを指示通りに動かそうとしている――まるで意思のない道具のように。

 

抑えていた感情が堰を切って溢れ出すのを感じ、蒼は一歩前に踏み出し、デスクの縁に身を乗り出すようにして、三原の背中に問いかけた。

 

 

「……三原さん。あんたは本当のところ、どこまで知ってるんだ? 俺たちに話せないことが何なのか、そして俺たちが何のために戦わされているのか、全部説明する気はないのか?」

 

その声には、秘密にされていることへの怒りと、真実を知ることでさらに厳しい現実に直面するかもしれないという、矛盾した恐怖が混ざり合っていた。

 

問いを受けて、三原の指が再びピタリと止まった。だが彼は依然として蒼の方を向かず、ただ無言のまま背中を見せ続けている。長く重い沈黙が空間を支配し、モニターの光だけが彼の無表情な横顔を淡く照らしていた。その背中からは、怒りも困惑も同情も、何一つ読み取ることができない。まるで感情そのものを切り捨てたかのような、硬い殻に閉じこもった姿だった。

 

「答えろよ!」

 

 

蒼はついに激情を爆発させ、手のひらでデスクの天板を強く叩き、乾いた大きな音がフロアに響き渡った。

 

 

「 いつもそうだ! 都合が悪くなるとだんまりを決め込みやがって……! 今回だって、最初から危険だと分かっていたんじゃないのか!?」

 

言いながら蒼は手を伸ばし、三原の肩を掴んで無理にこちらを向かせようとした。だが、指先が服の布地に触れる寸前で、三原はゆっくりとした動作で椅子ごと体を回転させ、蒼と真正面から向き合った。

 

その表情は、凍りついた氷のように無表情だった。眉一つ動かさず、口元も硬く結ばれ、そして瞳――その奥底は、まるで光の届かない深い闇のように底が見えず、蒼の心臓を冷たく射抜くような鋭さを宿していた。

 

そして、まるで地の底から響いてくるかのような、低く重く、しかしはっきりとした声が、蒼の耳に届いた。

 

 

「……俺はな、刈谷義孝と矢切周平――この二人の、世間からは天才と呼ばれた男たちが、かつての研究と野心によって生み出してしまった、歪で忌まわしい因果の連鎖を、この俺の代で完全に終わらせる。それだけが、今の俺に課せられた使命であり、過去に対する償いだと思っている」

 

三原は一つ一つの言葉を、まるで心の中で何度も噛み締め、確かめるように語った。

 

 

「その目的を達成するためならば、俺は手段を選ぶつもりはない。汚れ役を引き受けることも、表に出せない裏工作を進めることも、すべては必要なことだ。一時的な感情や倫理観に流されていては、何も終わらせることはできない」

 

「あんたは……俺たちのことも、ただの駒だと思ってるのか!? 使えるだけ使って、不要になったら捨てればいいと――そう考えてるのか!?」

 

蒼は絶句し、次いで胸の奥から絞り出すように声を上げた。目の前に立つこの男は、正義のために部下を守り導く指揮官などではない。ただただ「過去の清算」という一つのゴールだけを見つめ、まるで修羅の道を突き進むだけの存在なのだ。その道の途中にいる自分たちの命や思いまでも、目的のための交換可能な道具としか見ていないのではないか――そんな最悪の疑念が、蒼の全身を震わせた。

 

だが三原は、蒼の激しい非難を受けてもなお、表情一つ変えずに微動だにしなかった。静かな口調で、さらに言葉を続ける。

 

 

「……これから先、この道を進むことで、俺自身がどれほどの罪を重ね、どれほどの汚点を身にまとうことになろうと、咎ならいくらでも受けるつもりだ。だが、それはすべて、この世界の歪みを完全に断ち切り、戦いに終止符を打ってからだ」

 

その言葉の奥底には、自らを厳しく裁き、どんな絶望的な結末でも受け入れることを厭わない、救いようのないまでの覚悟と決意が深く宿っているのを、蒼にも感じ取ることができた。

 

二人の激しい対峙を、紫苑は少し離れた壁際に背中をもたせ、腕を組んだまま、ただ黙って見守っていた。

 

感情の赴くままに真実を求め、抑えきれない怒りを爆発させる蒼。

そして、すべての感情を殺し、心を鉄のように固め、ただ一つの目的のためだけに突き進もうとする三原。

 

そのどちらの気持ちも、今の紫苑には痛いほどに理解できた。紫苑自身も、かつて蒼のように真実に苦しみ、疑い、怒りに身を焦がした時期があった。また別の時期には、三原のように感情を捨て、個人の思いを抑え込み、ただ「やるべきこと」だけを見つめて生きようとしたこともあった。

 

どちらの選択にも正しさがあり、同時にどちらにも限界と代償が存在することを、紫苑は長い経験の中で身をもって学んでいた。

 

静かな緊張感が張り詰める中、紫苑はゆっくりと一歩前に踏み出し、二人の間に割って入るように立った。

 

 

「……三原さん」

 

低く落ち着いたその声が響くと、その場に充満していた刺々しい空気が少しだけ緩み、蒼も三原も自然と紫苑の方へ視線を移した。

 

「あんたが何を背負い、何を考えてこの事態に臨んでいるのか……それは俺にとってはどうでもいいことだ」

 

紫苑ははっきりとした口調で語り始める。

 

 

「俺はあんたに救われた部分もあるし、逆に恨んでいる部分も無くはない。あんたがどんな結末を望み、どんな手段を選ぼうと、それはあんた自身の道だ。そして、俺は俺の意志に従い、俺自身の道を行くだけだ」

 

そこで一度言葉を区切り、紫苑は自分の右腕――肩から先が金属と特殊繊維で構成された義手に置き換わった部分を、軽く叩いて確かめるような動作をした。義手の表面が微かな光沢を放つ。

 

次いで、紫苑は三原の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、一切の曖昧さを残さない口調で宣言した。

 

 

「だが、一つだけはっきりさせておく。最後に刈谷と対峙し、この長い因縁と因果に終止符を打つのは……俺だ。引き金は、俺が引く。」

 

紫苑の右目が、その瞬間、まるで闇夜の中で秘められた炎が燃え上がるかのように、静かでありながら冷酷なまでの赤い輝きを灯した。それは彼自身の存在と運命をかけた決意の表れであり、三原がどんな思惑を持とうと、それを超えて自分の結末を選び取ろうとする、強固な意志の光だった。

 

その言葉と瞳の輝きを受け、三原はわずかに眉間を緩め、目を細めて紫苑を見つめた。長い沈黙の後、彼は小さく息を吐き出し、何かを深く悟ったような、わずかな変化がその無表情な顔に浮かんだように見えた。

 

蒼もまた、紫苑の言葉とその覚悟に触れ、自分の中で渦巻いていた激情が、少しずつ冷めていくのを感じていた。怒りだけでは何も解決できないこと、そしてこの戦いが、単なる組織の任務ではなく、それぞれの人間が自分自身のために決着をつけなければならない闘いであることを、改めて理解し始めていた。

 

明確な答えの出ない問いかけ、それぞれが抱える異なる正義と覚悟、そしてそれぞれの方法で「終わらせ方」を胸に秘めたまま、このフロアには再び重苦しい静寂が戻ってきた。三原は椅子を元の向きに戻し、またモニターの画面に視線を戻す。蒼は深いため息をつき、拳を強く握り締めながらも怒りを内側に収めようと努める。紫苑は壁際に戻り、自分の義体の腕を眺めながら、遠い過去と近い未来に思いを巡らせていた。

 

三人はそれぞれの思惑の中に沈み込み、この歪な因果の鎖が次にどのような形で絡まり合い、どこへ向かっていくのか――それを予測することは、誰にもできなかった。ただ一つだけ確かなのは、この対立と決意が、いずれ大きな結末へと向かって動き出すことだけだった。

 

 (続)

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