猫は狼と遊びたい   作:酢酢酢豆腐

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猫は狼と遊びたい

トゥサンである。

河にはワインが流れ、豊かで温暖な土地だ。

そして精強な騎士団と衛兵隊、素晴らしい装備とそれを作る工匠たちの業前でも高名な土地である。この地ではウィッチャーであっても北方諸国のように差別はされない。差別されずに稼げる上に飯も酒もうまいから来たというのはあるが、俺にも転生者としてそれなりのゲームプランがある。

 

・伝説級の猫流派装備を作れる匠と知己を得ること

・トゥサン騎士団の鋼の剣にを手に入れること

・トゥサン衛兵隊の鎧ないしは将校の鎧を手に入れること

 

トゥサン系の装備はゲームだと武器は防御貫通など攻撃性能が高く、防具は体力が増える装備が多かった。というかクリア後に行く前提のエリアなのもあって装備の質が単純に高い。夜陰に乗じて乗り込めば武装商人団(盗賊)の拠点から設計図の回収も出来るだろう。

 

ゲームだと明確に軽装・中装・重装の区別があったが、リアルになると中装でも見た目が軽そうだったり実際に重量が辛い装備であれば猫流派の動きの妨げにはならなそうなのでそこは良かった。

 

人間の合戦に参戦して、人間と戦うことを考えたらフルプレートアーマーを着用して正面から殴りに行くのが良いんだろうけど我々はウィッチャーなので。一撃もらったら致命的な相手も多いのでそこは。

 

本当だったらテシャム・ムナ装備とかヘン・ゲイズ装備とか回収したいけど死の匂いが濃すぎるし、触らぬ神に何とやらなので近付きません。無理無理無理カタツムリ。絶対入り込みたくない。あれはウィッチャーの中でも上澄みオブ上澄みのゲラルトだからビビらずに入ってってるけど、俺には無理です。

 

そんなこんなでトゥサンに滞在して数ヶ月、俺は葡萄畑を荒らす大ムカデとシェルマール退治に勤しみ"殻砕き"ノヴィグラドのタデウスとしての評判を積み上げていった。しかし、ワインの保管庫とかにシェルマール出てくるのヤバいな。ゲームでも便利だったけどサマムで爆破して銀の剣でチクチクするしか無い。トゥサンはそれなりに安宿も多くあるから、桶一杯の湯を沸かしてもらうのとベッドで寝るのに定宿を決めて店主や小僧にも優しくケチらずに振る舞えば口コミでの仕事も舞い込んでくるというもの。

 

夜は各地の武装商人団の拠点を偵察して、設計図だけを盗み出すなどしている。原作開始前だからそこに配置されてないアイテム等等もある中で、衛兵隊の将校装備の設計図はちゃんと流出してた。終わっとるだろ。雇いの騎士というか遍歴の騎士頼みの治安維持、街や街道から外れたところで大人数で屯する武装商人団には個人の武力が高い騎士たちさえ手を出さない。何故なら旨味が少ないから。トゥサンはトゥサンで者のある土地なんだよな。明るくて豊かで人も良い人多いから勘違いされがちだけど、問題はどこにでもある。

 

嬉しい出会いもあった。若い頃のラファーグ氏である。誰?ってなるかもしれないけど、サイドクエストで出てくる伝説級の腕前(になる予定の)鍛冶屋である。大ムカデ駆除の依頼をくれたワイン農園にいい鍛冶屋がいれば紹介してくれるよう頼んでおいたところ、彼との間を取り持ってくれたのだ。ワインを差し入れ、陽気な態度で話し、ウィッチャーの装備やこういうものがあれば便利だろうという話をすると彼の興味を引いたようで、知人程度には親しくなれた。

 

「や、ラファーグ氏!」

 

「ああ君か。調子はどうだい。そろそろ"殻砕き"の歌を詩人が歌い始めるんじゃないか?」

 

「ここは高名な騎士があまた居るトゥサンだからね。まだ歌にはならんだろうね!」

 

ラファーグ氏はこの世界ではかなり信頼できる方の人種だ。

後々、猫流派の伝説級の設計図を売って金に換えて引退しようとするウィッチャーが出てくるが、あいつが取引しようとしたカスとは違う。ウィッチャーへの忌避感も低いし、エルフに師事した(している)から猫流派の剣技がエルフ由来のものだという話でも盛り上がった。

 

「今日はこの設計図の通りの鎧を作って欲しくてね」

 

「どれどれ、見てみよう…この意匠、衛兵隊の将校のものではないか。これをどこで?」

 

「武装商人団を自称するごろつき共の拠点で」

 

「何ということだ…奴等の手にこんなものまで渡っているとはな。よく無事に戻ったな」

 

「偵察と何人か暗殺するくらいならなんてことはない。この猫の目もあるしな」

 

この頃の俺の見た目といえば白髪のモヒカンに琥珀色の猫目、目の周りに謎の濃いクマ、死人のように青白い肌、傷だらけでデカい身体である。こっわ。そりゃ差別されますわ。ダリウスの凶相を笑えない酷さだ。

 

相応の金額を支払い前払いし、待つこと1ヶ月。俺はクリエイターを急かさない。逃げるわけもなく大成することが分かってる職人相手なのだから呑気なものである。全額前払いされたラファーグ氏は嬉しそうにしながらも少し呆れていた。信頼しているし、職人の手の業を尊敬していると言ったらやる気になってくれたようだったので良かった。

 

仕上がりは想像した以上の出来だ。

綿のたっぷり入ったシンプルだが上質なギャベゾン(胴着)、その上には分厚い革のジャケットの上に頑丈な肩鎧とガントレット、ズボンも分厚い革のもの、裾は鋲打ちされたブーツに入れるスタイル。これがトゥサン衛兵隊将校の伝統的装備だ。悪目立ちしないよう染料は全て黒染め、ジャケットの襟にだけ猫流派の紋章を付けてもらった。また、身体の線と装備の継ぎ目を隠すため、汚れにくい厚手の布地で背中にこれまた猫流派の紋章を入れたサーコートも仕立ててもらった。

 

「さすがはラファーグ氏、素晴らしい出来栄えだ」

 

「期待通りの一品かな?」

 

「もちろん。さすがは未来の鎧職人ギルド長だ!」

 

「持ち上げ過ぎだよ」

 

ラファーグ氏の小さな工房とも呼べる私室で、試着し、微調整を施してもらってから二人でワインと塩漬け肉を楽しむ。ウィッチャー装備やバケモノとの戦いの話でひとしきり盛り上がった後、先程まで着用していた猫流派の装備品と一般市民が1〜2年間暮らしていける程度の金額のクラウンを渡す。

 

「ウィッチャーの各流派は常に変異や錬金術の研究とともに装備の改善を進めてきた。無数の取り組みが行われては歴史の陰に消えていったものもある。そういった散逸した設計図を取得したら送るか持参するから、それを参考に改良してくれても良いし、ラファーグ氏の閃きで改造してくれてもいい。そこは任せるよ」

 

「うん、これは興味深い取り組みだ。君の装備には前々から興味があった。必ず信頼に応えよう」

 

これは単なる好奇心と命が軽い世界への予防線だ。ゲームだと設計図と素材、前の段階の流派の装備が無ければ防具の改良は出来なかった。現実になった場合はどうなのか?伝説級の職人に時間と予算を与えて装備を預けたら?ゲーム的制約に縛られずに防具の改良が可能なのではないか。

 

新装備で意気揚々と街中を歩いていると面白いサイドクエストに出会った。画家がモデルになって欲しいというのだ。それもグリフィンとの戦いを観ながら絵を描くというのだ! …老ウィッチャーの肖像やんけ!

ウィッチャー3では老ウィッチャーの肖像という類似のクエストがある。話によるとゴルゴン山嶺にロイヤル・グリフィンが棲みついており、討伐したものには賞金が与えられるとのお触れが出ているらしい。ウィッチャー3の時代においても現在においてもグリフィンが棲みつくということは、ゴルゴン山麓は快適な環境なんだろうなと。早速依頼を引き受け、画家と連れ立ってゴルゴン山麓を目指す。道中ワイン農園にて食肉用に潰す間際の牛を一頭買い受ける。ゴルゴン山麓に着いてからは牛の腱を切って動けないようにして、軽く出血させ、グリフィンが現れるまで隠れる。

 

大きな羽音、恐ろしい鳴き声!グリフィンだ!

 

交配種の怪物であるグリフィンには幾つか有効な対策がある。

散弾をぶち撒ける爆弾、石弓、交配種殺しのオイルを塗った銀の剣、アードである。

 

牛に飛び掛かって仕留めたグリフィンの横合いから斬りかかり、アードで頭を抑える。ウィッチャーの基本的な戦法はサークリングと崩しである。地力で勝る怪物に正面から挑むのは圧倒的に不利。

 

グリフィンの爪や嘴の一撃をステップやローリングで避けながら、顔にイグニを浴びせる。纏わりつくような炎がグリフィンの体表に燃え移る。ゲーム的表現で言うと防御力の喪失と炎使いのスキルは取れてるだろうなという感想だ。炎が消えず、グリフィンは半狂乱で暴れている。

 

すかさずアードで殴りつけサークリング、近付いて翼を斬る、羽根を斬る。とにかく飛ばせない。グリフィンは飛ばせないことが肝要なので徹底してヒット&アウェイで翼とその根本の身体を傷つけることに注力した。同じところを精密に何度も何度も何度も何度も攻撃する。

 

鋭い爪の一撃に吹き飛ばされる。クェンを纏っていなかったら即死だった。

 

10分〜20分は戦っただろうか。ようやくグリフィンが倒れ伏した。

念のためアードで衝撃波を加えてから首を切り取り、用意した袋に入れる。これで衛兵隊からの褒賞も手に入る。

 

…ん?グリフィンの身体の奥になんかあるな?剣…か?

トゥサン衛兵隊の鋼の剣(レリック)やんけ!この形はトゥサン衛兵隊の鋼の剣(レリック)やんけ!こんなところまで老ウィッチャーの肖像と同じなの!?何なの!?ゲーム脳なの?てか、怪物からドロップする装備ってあれ胃袋の中から取ってたの!?トゥサン衛兵隊の鋼の剣といえば、クリティカルダメージ・クリティカル率・出血率・気絶率・防御貫通にバフのある鋼の剣なのでラファーグ氏に軽く見てもらってから、使うとしよう。

 

画家はウィッチャーの戦いを目の前で観ることが出来て大興奮の様子だった。帰り道も愉快に話しながらグランプラスまで帰り着いた。その後の事はもうお分かりだろう。画家からモデル料を受け取り、絵の完成を待ちながら画家の作業を眺める。周囲からの物珍しげな視線を感じるが、そのまま待つ。出来上がった肖像画には勇壮に戦う猫流派のウィッチャーの姿がある。これをモデル料以上の金額で買ってやり、包んでもらう。その足で衛兵隊から賞金を受け取り、銀行で口座開設と金庫に絵画と金を預ける。もちろん窓口の事務員に心付けを渡す事を忘れない。

 

こうしてトゥサンにちょっとした足掛かりが出来た上に、トゥサンを訪れた目的の物も手に入れる事が出来たのだった。ちなみにラファーグ氏の見立てでは剣の造り自体は通常のトゥサン衛兵隊の鋼の剣だが、鋭さや切れ味がかなり良いとのことなのでやっぱりトゥサン衛兵隊の鋼の剣(レリック)でした。

 

 

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