楽園に至るには   作:NTT.T

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友達

 

「………本当に、この場所に行ったら借金を、半分も負担してくれるんですか?」

 

「ええ。その通りです。正直な話ですが、貴女達が幾ら努力をしようと、この額の借金を支払うのは……半ば不可能と言っても過言では無いでしょう」

 

ですが、と黒い影は続ける。

 

「貴女がこの場所へ……アビドス砂漠の、こちらの座標に向かってくれるのなら、私の研究も捗り、貴女は膨大な借金を半分も返済する事が出来る」

 

「……その、研究というのは何なんですか?」

 

「興味がありますか?……ふむ。そう、ですね……貴女達『生徒』には『神秘』と呼称されている、いわばその本人の性質を模るモノ、エネルギーのようなモノがあります」

 

昼には似つかわしくない、暗い暗い部屋で、黒い影は椅子から立ち、部屋を歩きながら指を立てながらユメに語りかける。

 

「この神秘が何を齎すかと言えば……例えばですが……銃弾に神秘を無意識的、或いは意識的に込める事で、威力の向上が見込めるでしょう。体表に、身体に纏えば、身体能力の向上も見込めます」

 

「私は、この神秘について研究をしているのですが……実は、この神秘を活性化させる可能性を見つけまして。それが、この場所にあるかもしれない……という事で、調査をして欲しいのです」

 

「神秘……ですか」

 

本当にそんな物があるんだろうか。ユメはと顔に出してしまっていたのだろうか、それを見抜いた黒い影は、再び語り始めた。

 

「確かに、一見すると眉唾物のように思えますが……疑問に思いませんでしたか?貴女の後輩……小鳥遊ホシノの、異常と言っていいほどの耐久力、身体能力。どれもただのトレーニングだけでは成し得ない物であると」

 

「……それは……」

 

確かに、少しだけ疑問に思った事はあった。……ホシノちゃんに言ったら絶対怒られるけど、あんなに小さい体で、何であそこまで攻撃を受けながら耐えられるんだろうって。

 

それに慣れてからは『ホシノちゃんだからなぁ……』で納得してたけど、理由があるのなら、そっちの方が納得は出来るかな。

 

「貴女の心は覗けませんが、その様子だと、納得してもらえたようで何よりです。時期は………そうですね。一週間後ということにしましょうか」

 

「……分かりました」

 

……正直、何か他の目的がある気はするけど。これを成功させれば、きっといつか借金返済することも現実味を帯びてくる筈!だから……これくらいは頑張らないと!

 

「快い承諾、ありがとうございます。それでは、当日は私がドローンで案内させていただきます。………それでは、またお会いしましょう」

 

その言葉に頷き、ユメは席を立ち、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「………ふむ。これで準備は大凡整いましたね」

 

彼女、梔子ユメを餌にすれば、間違いなく小鳥遊ホシノは誘導される。もし、梔子ユメが傷付いていれば………怒りに包まれる事はほぼ確実と言えるでしょう。

 

「そうなった場合、神秘はどれ程活性化するのか………それを私は知りたい」

 

……最悪の場合は、絶望で神秘が恐怖(テラー)に反転する可能性はありますが、それはそれ、です。

 

「キヴォトス最高の神秘……その煌めきを、ぜひ見せて欲しい物ですね」

 

ただ、変数があるのもまた事実。

 

「ゼハート・ガレット……彼は未知数です」

 

故にこそ、下手に刺激するのは愚策という物でしょう。

 

……ですが、神秘という観点から見れば、彼は一般的な学生の範疇を超えてはいません。刺激さえしなければ、考慮する必要はそこまで無いでしょう。

 

研究対象としての価値も、あまり無いと言えます……それはさておき、です。

 

「……ククッ、楽しみですね。激情に駆られた『暁のホルス』そして──『違いを痛感する静観の理解者』が合間見えた時、どのような様相を見せるのか………ええ、とても楽しみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

無性に嫌な予感がした。何故かは分からない。

 

シスターが体調を崩し、その看病をしていた為、4、5日程ユメ達と会っていないからだろうか。

 

……それとも、ただ単純に、私がそう直感的に感じたからなのだろうか。或いは、珍しく天気が曇っていて、雰囲気も少し違うように感じたからなのだろうか。

 

曇り空を眺めながら、足を進める。

 

そして、再び前を向き直していると───見覚えのある姿が、校舎の門の前で見えた。……いや待て、様子がおかしい。何故あそこまで動揺しているのだ?

 

普段のホシノとは明らかに違う。

 

少し足を早め、焦燥に駆られるままホシノの元へ向かう。

 

「どうしたホシノ?何かあった────」

 

言葉を思わず、失ってしまった。普段の覇気がまるで感じられない。何より────どこか、今の自分と重ねてしまったからだろうか。

 

まるで、何かを取り零したかのような、後悔を抱いているように見えたのだ。

 

「………メ……先輩が……」

 

俯きながら小さく、ホシノはそう呟いた。

 

「………ユメが、どうかしたのか?」

 

私の問いかけに反応したのか、ホシノは顔を上げ──

 

 

 

 

「ユメ、先輩が………いなくなって、しまったんです……!!」

 

 

 

 

泣いていた。涙を流していた。何度も泣いたのだろうか、泣き腫らした跡があった。そんな状態で、私に訴えかけていた。

 

「……ゼハートが居ない間に、私……ユメ先輩に酷く、当たって……!!それで、次の日に学校に来なく、て……!心配になって、ユメ先輩の家に行ったら……鍵が、空いてて……書き置きが、置いてあったんです………!!」

 

ホシノは手を震えさせながら一枚の紙を取り出し、私にその紙を手渡した。

 

「………これ、は……」

 

『ごめんねホシノちゃん!でも、心配しないで!私が借金なんとかしてみせるから!ゼハートくんにも、よろしくね!』

 

間違いない。この字は、ユメの………

 

「……私が、私のせいなんです……!!私が、ユメ先輩の気持ちも考えずに……もっとしっかりして下さいって……言って、しまったから……!!」

 

「……もう、ユメ先輩がいなくなってから、1、2日は経ってます……!けど、見つからないんです………!どうしたら、良いのか……分からないんです……!」

 

……そうか。だから、ここまで………

 

……涙の後で見えなかったが、よく見れば目元に隈が残っている。寝る間も惜しんで探し回ったのだろう。もしかすれば食事さえまともに取っていないかもしれない。

 

……私は、何をしていたのだ……!!

 

シスターを看病していたから来れなかったなどという言い訳は意味が無い。分かっていた筈だ、いつかユメとホシノは喧嘩してしまうと……それがきっかけで取り返しのつかない事が起こるかもしれないと……!!

 

それを、そうなってしまうきっかけをみすみす見逃した………!

 

…どうすれば良い……何処を探せばいい……何処を探せば……!!

 

いつになく思考が乱れるのを感じた私は───ホシノを、見た。

 

「……ユメ、先輩……会いたい、です………」

 

………いや、違う。私が今すべき事は、それではない。

 

「…………ホシノ」

 

感謝を伝えるのだ。ここまで一人で頑張って来た事に。

 

辛かった筈だ、苦しかった筈だ。もしもユメに何かあればなんて事も考えた筈だ。

 

それでも、ホシノはここまで心を擦り減らし、体を酷使しながら足掻いたのだ。

 

なら、先ずは感謝からだろう。

 

「………よく、こうなるまで頑張ったな」

 

「……頑張って、なんかないですよ……!!私の、せいで……こんな、事に………!!」

 

「それでも、だ。私はその間、お前に寄り添い、共に足掻く事が出来なかった。だから、まずは感謝を伝えたいのだ。………よく頑張った、と」

 

「………でも、やっぱり見つからないんだったら……意味が、ないです。………やっぱり奇跡なんて……起こりっこないんですよ!!」

 

喉を詰まらせながら、涙を流して叫ぶホシノ。………奇跡、か。

 

「………私にとっては、お前達と過ごす日常が、奇跡のようなものだった」

 

「………ゼハートも、ユメ先輩と同じ事を言うんですね。奇跡は、当たり前に起こるものなんかじゃ、ありません……まして、日常なんて……」

 

乾いた笑いを漏らすホシノ。それは、何処か自分に言い聞かせているようで───それでも、それに縋りたいと、そう思っているように見えた。

 

「ああ。………私も、かつてはそう思っていた」

 

この数ヶ月。逃避の果てにこの地に訪れ、様々な物を見た。感じた。そのどれもが、日常になっていったが……その日常は、ふとした時に消えてしまう物なのだと、私は知っていた。

 

……どれだけ望もうとも、戻る事が無い(日常)があると、知っていた。

 

かつての私と同じ勘違いをしている目の前の少女に、語りかける。

 

「……いいか、ホシノ。日常は、決して当たり前のようにある物ではないのだ。…そう思い込んでいるだけで、何かの拍子に、全てが壊れてしまう可能性を孕んでいる」

 

……今この瞬間、私達の日常が、壊れかけているように。

 

「………だが、今の今までそうはならなかった。ホシノが日常を『当たり前』だと感じてしまう程、時間は緩やかに、優しく流れていった。……これは、奇跡だと言えるのではないだろうか」

 

「……それ、は……」

 

言葉を詰まらせ、再び下を向くホシノ。……私にも、その絶望は分かる。自らの手で、慕ってくれていた者を傷付けた、私だからこそ分かる。

 

「………誰かを傷付け、絶望に苛まれる痛みは、私にも分かる。……私も、そうだ」

 

「…………ゼハートも、ですか?」

 

少し驚きながらも、何処か納得したような顔をしたホシノ。……全く、ホシノにも勘付かれていたか……やはり、隠し通せるものでは無いのだな。

 

何処か納得めいた感情で、私は私の罪を吐露する。

 

……ホシノだけが、そのような意識に囚われているのでは無いのだと、お前は一人では無いのだと、伝える為に。

 

「……ああ。私を慕う者の願いを叶える為に、彼らの事を傷付け……願いは叶えられず、私だけが、のうのうとこうして過ごしている。………お前には、私のようになって欲しく無いのだ」

 

罪悪感に苛まれ、苦しむ辛さなど、私だけが知っていれば良い。この苦しみは、私の罰に違いないのだ。

 

……これに比肩する痛みを、私の友達に感じて欲しくはない。

 

「だからこそ、私は信じる。ユメが見つかるという奇跡が起こると。いや、起こしてみせる」

 

それを成し遂げられる確率が、例えどれほど低かろうと、私は足掻く事を決して辞めはしない!だから──

 

「……だから、今はゆっくり休め。もう十分お前は頑張った筈だ。もし、それでも動きたいと思うのなら、少しは休んでから、だ」

 

「…………信じて、良いんですか?……まだ、諦めないでいいんですか?」

 

恐れながら、それでも期待したいのだと、感情を露わにしながらホシノはゼハートに縋った。………ちゃんと仲直りをして、あの愛おしい日常(奇跡)を、噛み締める為に。

 

「……ああ、約束する。私は必ず、ユメを見つけてみせると」

 

「…………良かった、です。私も、すぐ、行きま、す、から…………」

 

座りながら横に倒れ、頭を打ち付けそうになったホシノの体を支える。

 

泣き疲れたのか、それともここまでの活動で蓄積した疲労で限界だったのだろうか……きっと、両方だろうな。兎も角、ホシノは気絶した。だが………その顔は、とても安らかなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノをアビドス高校の保健室のベッドに寝かしつけ、書き置き(・・・・)を残してから、私はある場所(・・・・)へ向かっていた。

 

「………冷静に考えて、ホシノが二日も探し続けたのにも関わらず、ユメが見つからないなどあり得るはずがない」

 

なら、恐らく候補は絞られる。一つはアビドスの外、それこそミレニアム、トリニティ、ゲヘナ、或いはそれ以外の何処かという可能性だ。

 

だが、これらの場所は危険性はあれど、命を失う可能性があるかといえばそうではない。それに、そこまで行く理由が見当たらない。私が単に見逃している可能性はあるが……

 

兎も角だ、私が探すべき場所は『一度行って仕舞えば死ぬ危険性がある場所』だ。それ以外の場所にユメが行っているのなら、いずれ帰ってくるだけだ。私達の心配は杞憂で終わり、最終的には安堵に包まれながら、普段の日常に戻れる。

 

だが、もしもユメが死ぬ可能性のある場所に行ってしまったのなら……最悪のケースになっている可能性は十分にある。

 

そして、その最悪のケースに陥る可能性がある場所、それこそが───アビドス砂漠だ。

 

あそこは一度迷って仕舞えば、取り返しのつかない事態に陥る。それもだ。生徒会室に行ったが……ユメのコンパスが、机に置かれていた。

 

もし、だ。コンパスもなしに遭難しているのだとすれば、家にも帰らず、ここまで見つからないのも納得の範疇に収まる。

 

……だが、だとするなら、何故アビドス砂漠に行く理由があったのだ?……いや待て、まさか。

 

………ユメは『借金をなんとかしてみせる』と書き置きに残していた。だが、そんな手段をホシノが知っているのなら、とっくに実行していた筈だ。

 

つまり───何者かに唆されたのか?ユメとホシノが仲違いしたタイミングを見計らい、精神的に動揺している時に、借金返済が出来るという餌を吊り下げ、ユメを誘導した。

 

「………だとするなら。私は、そいつの事を許す事は出来なさそうだな」

 

様々な可能性が頭をよぎりながらも、足を進めた。すると、思ったよりも早くアビドス砂漠についた。足元に注意しようとした次の瞬間────

 

 

ドゴォォン!!!

 

 

「………っ!?コレは……!!」

 

突如、何かが爆発するような音が聞こえた。この世界で今まで聞いたどの爆発音よりも盛大で、少し離れても聞こえるのではないかと思ってしまうほどだった。

 

私はその後の発生源へと向かった。そこには────

 

「………アレは……」

 

まさに、機械仕掛けの白い蛇という単語が相応しい、ナニカがいた。当然、このような規模の兵器はこの世界で見た事が無い。それこそ、モビルスーツや、それに相当するサイズだ。モビルアーマーと言っても良いかも知れない。

 

そして、その足元には───

 

「………ユメっ!!」

 

盾に体重を掛けながら、なんとか立ちあがろうとしていたユメの姿が、先にあった。身体中に傷を負っているのか、少し血を流している。

 

「……助けなけ、れば────」

 

 

 

 

 

足を踏み出そうとしたその瞬間。もはや聴き慣れてしまった声が聞こえる。

 

それと同時に、辺りは暗闇に包まれた。

 

『おいおい、まさかそこまで馬鹿だとは思ってなかったぜ。ゼハート』

 

「兄さん!今は貴方の相手をしている場合では───」

 

『見て見ぬ振りするのは止めろよ。もう分かってんだろ?』

 

「…………何が、だ?」

 

………いや、分かっている。このまま私が行った所で──死ぬだけだと。

 

『そうだ、死ぬぜ?お前。コレは脅しでもなんでもない、ただの事実だ。それで?あそこにいる奴を助けようとして、無駄死にする。───俺らの時と何も変わってねえじゃねえか』

 

「……………」

 

何も、言い返せなかった。そうだ。このままでは、ただ死ぬだけだ。ユメもあそこまで傷を負っている。私がいた所で、逃げる事は出来ないだろう。

 

文字通りの、無駄死にだ。

 

兄さんは、喜悦に顔を歪めながら、指を二本立てた。

 

『選べよ。今ここで無駄に足掻いて、何も出来なかったと、結局何も償えなかったと後悔しながら死んでいくか。それともここであいつを見捨てて、誰かを助けようとする事で償うか』

 

『さあ、どうするよ?……まあ、どっちに転んでも俺にとっちゃただのお笑い草だがな!!』

 

………私は、償いながら生きなければならない。なら、逃げる事が最善なのだろう。だが……それは、ホシノの願いを、無碍にしてしまう事になる。

 

『良いじゃねえか別に。仲良しごっこはやめにして、あの孤児院で引き籠ってれば良いんだよ。連絡先なんて交換してねえんだろ?どうせあのガキもあの死にかけの奴を失えば壊れる。復讐なんてされることもない。その責任はいつでも放り出せるぜ?』

 

………確かに、私は生きなければならない。生きて、罪を償う必要がある。そうしなければ、彼らの死が無駄になるからだ。

 

 

 

 

 

だが───果たして、ここでユメを見殺しにする様な奴が、罪を償えるのだろうか。

 

 

 

 

『良いから良いから、そんなの関係ないよ!だって、ここまで一緒に頑張ってきたじゃん!もう一生の友達だよ!』

 

『……そうですね。友達、です』

 

 

 

 

私の事を友達だと言ってくれた、ユメ達を見殺しにする事が、本当に正しい事なのか?

 

本当に……そうまでして、私は生きなければならないのだろうか。

 

いや、仮に生きたとして、私は…………それで、胸を張って、彼らに誇れる私として生きていると、言えるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『ゼハート様。私は貴方の事を、誇りに思っています』

 

 

 

 

 

何処かで、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

………そうだ。私は、フラムに、ダズに、皆に誇れる様な自分でいなければならないのだ!!なら、何故こんな所で燻っていられる!?

 

 

 

 

 

『償いながら、一人で苦しんで生きる事を………その人達は本当に、望んでたのかな……?』

 

 

 

 

私の知る彼らは、本当に私をここまで責める様な人だったか!?違う!!彼らはその様な人ではない!!私が知る彼らが、私に託した彼らが、その様な無責任な発言をする筈がない!!

 

 

 

 

漸く分かった。私はずっと勘違いをしていた!死んだ者の気持ちが分からずとも………彼らがそんな事を言う筈がないと、私は知っていた筈だ!それすら分からなかったのは………偏に、私のこの下らない意識のせいだ!

 

 

 

 

 

「兄さん!私は、俺は(・・)!!もう生きて償う事に囚われはしない!!貴方の甘言に惑わされはしない!俺は!彼らに誇れる俺でいる為に───」

 

 

 

 

これは誓いだ。ただ苦しみながら生き永らえる事に固執するのではなく、彼らに誇れる自分でいる為の物だ。俺がそうすべきだと思ったからではない!俺がそう生きたいと思ったからだ!!例え──

 

 

 

 

 

「死ぬのだ!!!!」

 

 

 

 

 

この戦いの果てに、償いを果たせず死ぬ事になろうとも。俺は、もう生きる事を理由に逃げようとはしない!

 

 

 

 

『………漸く、俺の見たかったゼハートになったな』

 

 

 

 

その言葉と同時に、何処までも広がっている草原が姿を現した。風は吹き、小鳥が囀っている。そして、俺の向かい側には───

 

 

 

 

「…………アセ、ム」

 

『おいおい、そんな驚く事じゃないだろ?お前の同僚もいるんだ。なら、俺がいてもなんらおかしくはない。違うか?』

 

俺の、かけがえのない友達がいた。

 

『といっても、別に本人ってわけじゃないんだけどな?まあ……それは薄々お前も分かってただろ?』

 

「………ああ」

 

兄さんはきっと、俺の罪の意識そのものだったのだろう。俺が見て見ぬ振りをしてきたものを、突きつける為に出てきた。

 

なら、アセムは───

 

『察しの通り、俺は【お前が自分を許す】って気持ち、それが具現化したものだ。……まあ、そんな簡単にお前が自分を許せるとは思ってないんだけどな』

 

真面目だからなお前は。と、やれやれと首を振りながら、アセムは呆れていた。

 

「………まあ、その通りだな。俺は漸く、スタートラインに立ったというだけだ。実際の所、本当にこれで良いのかと迷っている」

 

『良いんだよそれで。それは、お前一人に背負えるものじゃないんだ。背負うにしても………誰かと一緒に、だ』

 

即答だ。迷う事なく、アセムは俺にそう言った。

 

「………そうだったな。これは、俺一人に背負えるものではないと、そう言ってくれていたな」

 

『ああ。なのに記憶を取り戻してからはずーっとあの有様だからな?もし俺に体があるってんならまたぶん殴ってやりたい所だっての!!』

 

「………それは、すまなかったな」

 

『…………ったく、そんな顔されたら殴る気なくなるっての。………さて、準備はいいか?言っとくが、ここから出た所で別に何か能力が覚醒する訳でもなく、お前はその身一つであの化け物と立ち向かわないといけないんだ。……死ぬかも知れない。本当に、それでいいのか?』

 

「………ああ。それに、勝算はある」

 

『……そうかよ。なら、こんな所で喋ってるわけにもいかないよな!』

 

草原に、木製の扉が出来る。

 

『…言っとくが、もう、お前はお前の兄貴にも、俺にもこうして会う事は無くなる。もう、お前の中の迷いが無くなってきてるからな。だから───こうして会うのは、これが最後だ』

 

「………そうか」

 

扉の方に振り返る。……もう、アセムの顔は見えない。

 

『……何だ?寂しいのか?らしくねえな』

 

少し困惑する様な、それでいて何処かからかうような声色で、アセムは問いかけてきた。

 

「…………ああ、寂しい。もっと話したい事があった。もっと……お前と、ロマリーと、モビルスーツクラブの皆と、一緒に、居たかった」

 

それでも、進まなければならない事は分かっている。故に、足は言葉とは正反対に進む。

 

扉が近づく、そして、扉を開けようとしたその瞬間───

 

 

 

 

 

『……そうか。なら────奇跡(・・)が起こる事でも願えばいいだろ!お前が言うには、奇跡はありふれたものらしいからな!』

 

 

 

 

してやったりと言った顔で言っているのだろう。アセムは俺の背後でそう言った。

 

…………一本取られたな。

 

「……そうだな。なら、いつか奇跡が起こる事を、願っておく」

 

『おう!それじゃあ………またな(・・・)!ゼハート!』

 

「……ああ、また会おう。………アセム」

 

 

 

 

願わくは、もう一度会える事を────

 

 

 

 

そう思っていると、俺の意識は現実に戻った。もう、あの草原は無くなった。今広がっているのは、広大な砂漠、そして────俺が助けたい友達と、立ち向かうべき敵だ。

 

 

 

 

さあ、やる事はもう決まっている。………命を賭けて、足掻くとしよう!!

 

 

 

 

………力強く、そして優しく誰かが俺の背中を押してくれた様な気がした。

 

 

 

 

俺はその勢いのまま、ユメの元へ走り出すのだった。

 





漸くゼハートの迷い晴らせましたよ……!!5話もかけて苦しませた甲斐がありました……!!

アセムも出せましたし、私は非常に満足です!やっぱこの二人が揃ってこそですよね。

さて、次回はいよいよビナー戦です。気長にお待ちください。

それでは、また次回お会いしましょう!

アビドス過去編の後に何書いて欲しい?

  • ミレニアム編一章(時系列的には過去編)
  • ミレニアム編二章
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