楽園に至るには   作:NTT.T

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叶わぬ夢と、掴める夢

 

一度トリニティから離れた俺は、再び戦場に向かうためにレギルスのエネルギーを回復させると同時に、休息を取るために一度ミレニアムに帰っていた。

 

そして深夜。

 

俺は少し仮眠をとり、目が覚めたのでレギルスを再び装着、そのままの流れでミレニアムから出発しようとしていたのだが───

 

「あ、な、た、ねえ!?何でこの状況で古聖堂なんて向かったの!?ただでさえ他の子達と比べても貴方は身体強度が劣ってるのに……!!」

 

「ユウカちゃん?しーっですよ。もうみんな寝てる時間ですから」

 

「……それもそうね。ごめんなさい」

 

「大丈夫ですよユウカちゃん。でもゼハートさん、流石に少しやりすぎですよ?ユウカちゃんがこうなるのも当然です」

 

「……すまない。ユウカ、ノア」

 

「いえいえ、分かってくれたなら良いんです」

 

「……全く、最初はマトモだと思ってたのに……いや、ウタハ達と比べたらマトモではあるのよ?ただ、一度こうって決めたらそこに全速力で突っ走るのが危なっかしいってだけなんだけど……」

 

現在、俺はあと一歩の所でユウカとノアに見つかってしまい、説教を受けている所だ。

 

……いや待て、ユウカ達は何故ここまで遅い時間まで起きているのだ?ユウカ達に見つかる可能性を見越して、俺は早くトリニティに向かおうとしていたのだが……

 

「現在、先生は重傷を負っている。それを確認しに行くだけだ」

 

「………はぁ、どうせ言っても聞かないんでしょうね。確かに、先生が重傷を負っているなら本当に心配だし、確認して欲しい気持ちもある」

 

「そうですね……私達もお見舞いに行きたい所ではありますが、あの場に私達が向かってしまえば、更に事態が混乱する恐れがあります。隠密が出来るゼハートさんが適任でしょう」

 

「でもノア?これで隠密出来るの?」

 

俺の事を目を細めながら見るユウカ。

 

「……言われてみればそうですね」

 

まあ、納得できないのも無理はない。ここは俺が説明するとしよう。

 

「ああ。それについてだが、このガンダムにはウタハが開発した光学迷彩を搭載しているのでな。その点は問題ない」

 

……まさか、ウタハが開発していた『光学下着迷彩』の技術、そしてヴェイガンが保有していた光学迷彩の技術を組み合わせるとこの様な事ができるとはな……

 

小型で尚ここまで様々な機能を搭載出来たのは僥倖と言えるだろう。

 

だが、光学迷彩を使用し過ぎれば、それこそエネルギー切れの恐れがある。フルで使い続ければ10分も持たないだろうな。

 

それに、戦闘時にビームサーベルなどと併用して使えばレギルスが持たないと言うデメリットもある。これは戦闘に光学迷彩を使う様な立ち回りはしない以上、響きはしないが……

 

「何でもありすぎないそれ……?ビームも放てて、空も飛べるのよね?」

 

「どのような技術を使ってるのでしょうか……?」

 

と、疑問を抱く二人。

 

まあ無理もない。この世界とはまた別の技術体系なのだ。理解の範疇を超えていてもおかしくはない。

 

……いや、それよりも。一刻も早くトリニティに向かわなければ。

 

「二人とも頼む。俺に行かせてくれないか?頼まれたのだ。学校を、友を守ってくれと」

 

「……やっぱり先生のお見舞いだけじゃなかったのね……」

 

ため息をつきながらそう言ったユウカ。

 

「でも、どうせ止まらないんでしょう?」

 

「ああ。心配を無碍にする様で悪いが、強行突破させてもらう」

 

少しの間、静寂がこの空間を支配した。

 

………どうだ?

 

「……いい?絶対無事に帰ってくる事。約束ね?」

 

「そうですね♪無事帰って来なかったらオシオキ、と言う事でどうでしょうか?」

 

……少し心臓に悪いな。無事に帰って来なければそれはそれで危機が訪れるという事か……

 

「良いわねソレ。書類仕事でも手伝ってもらおうかしら……」

 

随分ノリノリだな?

 

……だが、無茶を許してくれた二人に感謝をしなければならないだろう。

 

「ありがとう、二人とも」

 

「お礼はいいから。早く行きたいんでしょ?……けど、さっき言ったこと破ったら、書類仕事手伝わせるから。良いわね?」

 

「………承知した」

 

少し憂鬱になりながらも、俺は戦場へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一人でレギルスの光学迷彩、そしてこの闇夜に紛れる様に飛ぶ事で周囲から認識される事を未然に防いでいた。

 

とは言え、バッテリーの消耗が激しいからな。出来る限り使用は避けなければ。

 

そう自分に言い聞かせていると、気がつけば、トリニティ総合学園に辿り着くことができた。

 

……静かだな。昼間の荒れようが嘘の様だ。休息をとっているのだろうか……

 

と考察をし、俺が光学迷彩を解こうとすると───

 

「ヒフミちゃん、何処へ行ったのでしょうか……」

 

誰かを探している少女の姿が目に入った。桃色の髪を揺らし、辺りを見回して探している様だ。

 

………時間はまだある。一先ず、目の前で困っている少女を助けてからにするとしよう。

 

そして、少女から少し離れた所で光学迷彩を解き、話しかけた。

 

「すまない、お困りごとの様だが……何かあったのか?」

 

「………!?あらあら♡こんな所に珍しいお客さんですねー?まさか……ゼハート・ガレットさん、ですか?」

 

「………俺の事を、知っているのか?」

 

初対面な筈なのだが……それに、レギルスを纏っている筈なのに、俺を認識出来ているのか……?

 

「これでも私、結構情報通なんです♡それ以上は、乙女の秘密……という事で、どうでしょうか♡」

 

……これはまた、手強そうな少女だな。

 

「成程……それは分かった。それにしても、誰かを探している様子だったが……もし良ければ、手伝わせて貰えないだろうか?これでも俺はかなり上空からでも人を視認することが出来る。危害は加えないと約束しよう」

 

恐らくだが、この少女はかなり疑り深い。一度嘘をつけば、レギルスを纏っているこの状態でさえバレることだろう。

 

「………その情報を、私はどう信じればいいのでしょうか?」

 

「証明する方法はない。だが約束しよう。俺は誰も傷つけず、この場へ帰ってくると」

 

俺に証明する手段がない以上、誠実に対応するしかない。

 

そして、俺の言葉を聞き、少し悩む様な仕草をした少女は──

 

「……分かりました♡私は引き続きこの付近を探すので、ゼハートさんは上空から探してみてください♡」

 

……何とかなったか。

 

「感謝する」

 

「いえいえ♡感謝したいのは寧ろこっちですよ♡今探している子……ヒフミちゃんと連絡が取れなかったので、人手が欲しかったんです♡ゼハートさんがいれば、百人力でしょう♡」

 

「………ああ。その期待、応えてみせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺は彼女……浦和ハナコから伝えられた情報を元に、ハナコが探している少女、阿慈谷ヒフミを捜索していた。

 

………ん?アレか?

 

上空から捜索していると、歩道橋に、ハナコから伝えられた情報と合致する少女がいる事に気が付いた。

 

彼女を視認した俺は静かに着地し、少し離れた場所から話しかけた。

 

「そこの君、大丈夫か?」

 

「え?……ってえ!?ロボットさんですか!?随分派手な色をしてますね……」

 

驚きながらこちらを見る少女。……ひとまず、誤解は解かねばな。

 

「いや、俺は人だ。これは言わば……鎧の様な物だ」

 

厳密に言えば違うが、ここで解説をするというのも違うだろうと感じた俺は、簡潔にそう言った。

 

「あ、そうなんですか……」

 

というか、さっきまでいなかった様な気がするんですが……と訝しむ少女。

 

……流石にこの格好で、それも初対面なら警戒されるのもおかしくはないな。以後気をつけるとしよう。

 

というか、先程も警戒されていたしな……

 

反省を深めながらも、俺は事情を目の前の少女に話した。

 

「すまない。君が一人でいるところを見かけてしまってな。実は、俺は浦和ハナコという少女に頼まれ、君を捜索していた所だったんだ。阿慈谷ヒフミ」

 

「………!?あ!そうでした!さっきからスマホが鳴ってたの完全に忘れてました……!!不覚です……!!」

 

少し空元気気味に笑いながら、少女はそう言った。

 

「……何か、悩み事でもあるのか?」

 

「え!?よく分かりますね……」

 

「これでも、俺は良く人を見て来たからな。多少は観察眼というものが鍛えられたのだ」

 

迷いを秘めた目だ。これから何をすべきなのか、足を踏み出せずにいる、そんな目だ。

 

彼女をハナコの元に連れて帰る前に、まずは彼女の憂いを出来る限り除くとしよう。

 

……甘くなったものだな、俺も。アスノ家の影響か、或いは──いや、考えるのは後にしよう。

 

「それにしても、君の名前を一方的に知っていると言うのに、俺の名前を伝えないのは些か不平等だな。自己紹介をさせてくれ」

 

そして、少し間を空け、自己紹介をした。

 

「俺の名前はゼハート・ガレット。ミレニアムサイエンススクールの二年だ」

 

「良ければだが、聞かせてくれないか?君に何があったのか」

 

「……ヒフミで大丈夫ですよ!そこまで礼儀正しくされちゃうと、ちょっとソワソワしちゃうというか……」

 

……成程。

 

「なら、ヒフミと呼ばせてもらおう。ヒフミ、お前の身に何があったのだ?」

 

そして、少し下を向き、歩道橋のガードレールに背中を預けながら、ヒフミは言葉を紡ぎ初め───

 

俺はその動作に合わせ、手に持っていた武装をいつでも取れる様な位置に置いておき、話を聞く体勢を作った。

 

「……その、ですね。今まで仲が良かった友達が、どこかに行っちゃったんです。自分と一緒に来たら危ないからって、全部私の責任だからって……それで、離れ離れになっちゃったんです」

 

「……一緒に海に行こう、とか。色んな約束、したんですけどね……あっという間に、私の手の届かない所まで行っちゃったんです」

 

声を震わせながら、ヒフミはそう言った。

 

「………そうか。それは…………」

 

………友達、か。

 

「……俺にもかつて、かけがえの無い友がいた」

 

思い返すは、かつての記憶。僅かな期間ではあったが、今でも尚脳裏に刻まれている、大切な記憶。

 

「そうなんですか?って………今、いたって言いました?」

 

……鋭い子だな。

 

「ああ。ソイツとはもう、会えないのだ」

 

「…………何で、ですか?」

 

……何で、か。

 

「そう、だな……手の届かないところまで、俺が来てしまったからだろうな」

 

アイツが伸ばした手を掴まず、光に包まれたかと思えば………気がつけばこの世界に生まれ落ちていた。

 

自分が何故生きているのか理解が出来ず、施設で惰性のまま過ごしていただけだった。

 

例え、幾ら手を伸ばそうとも。俺の手が届く事は……もう、ありはしないのだろう。

 

届かぬ星に手を伸ばしながら、俺はそう思った。

 

「……その、すみません。そんな辛いお話させてしまって」

 

申し訳なさそうな表情で、ヒフミは俺にそう言って来た。

 

「ふっ、気にするな。それに、別れたと言っても、何もいきなりサヨナラと言うわけでもなかったのだ」

 

拳を軽く握りながら、私はそう言った。

 

「最期の最期に、俺達は腹を割って話し合えた。僅かな時間ではあったのかもしれないが……それだけで不思議と、心が救われたのだ」

 

遅すぎたのだと言う人もいるのかもしれない。だが、あの瞬間、あのひと時だけは。俺はただのゼハート・ガレットとして、アイツと話せた様な気がした。

 

それだけで、俺には十分だ。

 

「……そんなの、全然ハッピーエンドじゃ無いです!だって、仲の良かった友達ともう会えないなんて……そんなの、悲しすぎるじゃ無いですか……」

 

………優しいのだな。他者のことを思い、共感することが出来る。それが出来ない人間がどれほどいるか。

 

「なら、だ。俺の事はいい、ヒフミの友達に手を伸ばしてやれ」

 

俺がそう言うと、ヒフミは少し黙り、やがて──

 

「……出来るんでしょうか。だって、私、アズサちゃんの目の前に居たのに、手が出せなくて……一歩歩き出せば、その手を掴めた筈なのに、掴めなくて……そんな私に、本当に出来るんでしょうか……」

 

自信なさげに、ヒフミは俺にそう言った。

 

……お前になら出来るさ。他者を思いやり、歩み寄ろうとすることのできるお前なら。

 

その心は、誰もが持つ事はあっても、手離さずにいられる者は少ないのだ。

 

この短い時間の中、こうして話しただけで、お前の優しさが伝わって来た。

 

なら、後は俺が背中を押すだけだろう。

 

「ヒフミ。確かに、俺達は離れ離れになったのかもしれない。お前の言う様に、ハッピーエンドを迎えることも無く、全てを終えた。手を伸ばした所で、何の意味も持たない」

 

「だが、お前達はまだ間に合うのだ。走り出して、その手を掴めば、もう一度やり直すことが出来る」

 

そうだ。俺達はもうあの頃に戻ることなど出来ない。例え後悔した所で、涙を流した所で、何も変わりはしないのだ。

 

お前達は違う。

 

「ヒフミ、俺の分までハッピーエンドを迎えてくれ。それが、俺にとっての救いにもなる」

 

俺がここに来た事で、かつての俺達の様に、離れ離れになる運命を変えられたのなら……それは、何よりの救いになるだろう。

 

俺がここまで歩み、ここにいる事に意味が芽生えるのだから。

 

そう俺が言うと、少し吹っ切れたのか、ヒフミは頬を軽く叩き、俺に話しかけて来た。

 

「………分かりました!ハッピーエンドにしたいのに、こんな所で足踏みしてる訳には行かないですよね!!頑張ります!」

 

「……良い顔つきになったな。きっと、今のお前なら出来るさ」

 

それに──

 

「お前は独りじゃない。友達が、他にもいるのだろう?」

 

「……!!はい!!」

 

「なら、頼ってやると良い。無理に独りで物事を成そうとした所で、いつか限界が来てしまうのだからな」

 

……まあ、俺が言えた義理ではないのだろうがな。

 

と、俺が心の中で自虐をしていた所、いきなりヒフミがハッとした様な顔で───

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうです!ゼハートさん、良かったら、私と友達になってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

俺に、そう言って来た。

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

「その……事情はよく分からないんですけど、友達とお別れしちゃったんですよね!?なら、新しく友達を作れたら、ちょーっとは楽しくなるんじゃないかなーって……あはは、見当違いもいい所ですよね」

 

………そうか。

 

「ふ、ふふっ、フハハハハハハッ!!!」

 

思わず腹を抱えながら、俺は笑った。

 

「え!?そ、そんな笑われる様な事私言いましたっけ……!?」

 

思わず慌てふためきながら、そんな事を言うヒフミ。

 

そして、ひとしきり笑い合えた俺は、ヒフミに話しかけた。

 

「……いや、先程は俺がヒフミの相談に乗っていたというのに、気が付けば俺が慰められていたからな。少し滑稽に感じただけだ」

 

俺がそういうと、ヒフミは少し頬を膨らました後に───

 

「こ、滑稽なんかじゃないですよ!!ゼハートさんは、初対面の私に、こんなお話まで聞かせてくれたじゃないですか!!滑稽なんかじゃないです!!」

 

即座にそう言い切った。

 

「………そうか。いや、そうだな。そう思っておこう」

 

……本当に、優しい子なのだな。

 

そして、そこから間も無く───

 

「ヒフミ。良かったら、俺と友達になってくれないか?」

 

俺がそう言うと、ヒフミは花が咲く様な笑顔で───

 

 

 

 

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

元気よく、そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺はヒフミを連れてトリニティ総合学園に戻っていた。

 

「ゼ、ゼハートさあぁん!?ちょっとスピード遅くして下さああい!!」

 

レギルスの機動力を駆使し、出来るだけヒフミの身体に負担をかけずに、尚且つ高速で、だ。

 

「済まないな。だが、これでも俺には用事があるのだ。大丈夫だ、体に異常を感じたらすぐに伝えてくれ。減速出来る様にする」

 

先生の容態を確認しなければならないのだ。まあ、あの先生の事だ。心配はしているものの、何だかんだで大丈夫な気もするが………

 

「そ、そういうことじゃないですってえええ!!!!」

 

「そ、それに………コレって、お姫様抱っこじゃ………

 

「ん?済まない。風切り音で良く聞こえなかった」

 

「な、何でもないです!!!」

 

少し怒り、頬を赤く染めながら、ヒフミは俺にそう言った。

 

……やはり、人の心を理解するというのは難しいものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

………アセム。お前は今、どう過ごしているのだ?ありふれた、それでいて尊い日常を過ごせているのか?

 

キオ・アスノや、フリット・アスノと言葉を交わしているのか?

 

或いは───いや、考えても仕方のない事だな。

 

……なあアセム。俺は今でも、お前の友として、お前の心に残っているのだろうか……?

 

もし、残っているのならば──俺も、お前の友として、恥じない生き方をするとしよう。今までも、これからも。

 

 

 

 

 

 

月光に照らされながらも、少年少女は空を翔ける。何物にも負けない想いを、強く胸に抱き締めながら。

 





ヒフミって、普通の少女に見えて実は物凄い光属性の子ではあるんですけど、やっぱりちょっとは迷ったりしてたと思うんですよね。

そこに、友達ともう会う事の出来ないゼハートが背中を押す……ってシチュエーションが浮かんで来たので、こんな感じの展開にしました。

高評価、コメントなどなどありがとうございます!もしよろしければしてくれるだけでモチベが上がりますので、是非やってください!

それでは、また次回!
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