「ん?でもよーく見たら知らない人?いるね。誰?」
シンプルな疑問をミカは抱いた。そもそもアリウススクワッドに復讐するために来たというのに、いざ蓋を開けてみればよく分からない奴が居たからである。
そして、ミカが疑問を抱くと同時に、ゼハートは察した。
………
「み、聖園ミカ!!丁度いい、目の前にいるコイツや裏切り者どもを───」
「黙っててくれないかな?今質問してるとこなの」
「っ……………」
間違いなく、彼女は強い。下手をすればそれこそ……ヒナや
「ねー?聞いてるんだけど?」
………このまま黙り込んで刺激するというのは、この状況的にも、常識的に考えても無し、か。
先程の戦闘、そして、レギルスで今まで勝利しか収めていない事による油断を自覚した私は、戦闘にいつでも移れるようにしながら返事をした。
「…ゼハート・ガレット。ミレニアムサイエンススクール所属の二年だ」
「………変な名前。というか、ミレニアム?ゲヘナでもトリニティの人でも無くってミレニアム?どういう事?」
再度質問をしてくる少女。
「まあ、こちらにも事情があるという事だ」
「……ふーん。ま、どうでもいいんだけどさ?」
そこで言葉を区切り、少女は再び言葉を発した。
「でも、サオリ達と共闘してるって事は……私の邪魔をしてるって事だよね☆なら────邪魔だから、消えてね?」
………どうやら、戦闘は避けられない様だな。やむを得ん。
そうして私が戦闘体制を整えようとした瞬間───
"待って!!!!"
背後から先生の声が聞こえて来た。その声に反応したのか、彼女が少し戦意を喪失した隙に背後を確認してみると、どうやらヒヨリと共に来ていた様だ。
「……せ、先生!?何で、こんな所に……」
"それはこっちの台詞だよ!何で、ミカがこんな所に………"
先生の言葉を聞き、瞼を閉じるミカ。それは過去を想起しているからなのか、或いは───先生が己の進路を妨げようとしている事を、信じたくなかったからなのか。それは分からない。
少し間を開け、彼女は濁った目を此方に向けて、話を始めた。
「…………私さ。自分が今こうなってるのは、自業自得だって思ってるんだ」
「自分の都合で周りを振り回して……ナギちゃんやセイアちゃんまで傷付けた。私にお似合いの末路だって」
「………でも、納得出来ない」
「なんで、貴女達はやり直そうとしてるの?」
「私の手には………何も残ってないんだよ?この手から全部溢れちゃった。友達にも嫌われちゃった。なのに、なんで私はこうなってるのに、貴女達はやり直せるの?」
「……………そんなの、不公平だよね?」
それは、壊れた少女の成立しない論理。
自分が幸せになれないのに、なんで取り返しの付かない事をしたサオリ達がのうのうと幸せになろうとしているのかと。そんな事は絶対に納得できる訳ないのだと。
「だからこれは、復讐なの」
「そのために、私はここまで来たんだから。だから───」
………っ!?マズイ!!
「させん!!!」
俺は現時点で出せる最高速度でミカを殴り飛ばした。
余りの速度に激突した壁は崩れ、今の今まで動きを止めていたアリウスの生徒と
「先生!!彼女がこちらへ来る前にカタコンベに入るぞ!!」
"…………………分かった!!"
納得出来ない部分もあったが、それを飲み込んで、先生は承諾した。
「……なら。私達は先生を守れる様な布陣につくと、しよう」
「………サオリ姉さん」
「だ、大丈夫ですか?」
「………ああ、分かっている。後ろを振り返る暇があるのなら、前進するしかないのだ。もう、時間は迫って来ているのだから」
そして、サオリや先生を先に行かせ、殿を務めた私は、アリウス内に点在していたアリウスの生徒、ユスティナ生徒会の
◯
「………ここまで来れば大丈夫だろう。敵もいない」
そうサオリが言った瞬間、全員が脱力した。
ここはどうやら、かつて彼女達が秘密裏に使っていた廃墟のようで、ボロボロだが微かに生活感が残っているように感じた。
「………何アレ。威圧感が凄いとかそんな次元じゃなかった」
「ほ、ホントに怖かったです…………!!」
"…………ミカ、何で……"
「……ああ。正直、トリニティにあそこまで威圧感を出せる少女がいるとは思ってもいなかった。甘く見積り過ぎたな。それに……」
「それに?」
俺の言葉に反応し、問いかけて来たサオリ。
「…………ガードされた。腕でな」
「……冗談でしょ?あの速度でも見切れるって事?」
あり得ない事態を目の当たりにしたかのように、ミサキは額に手をつき、ため息をつきながらそんな事を言った。
そして、その問いにサオリが答えた。
「いや、恐らくだが………勘だろうな。私の主観だが、彼女……聖園ミカは戦闘訓練をそこまで受けていない筈だ。天性のセンスという事だろう」
そこに関しては俺も同じような印象を受けた。
あの瞬間、俺は間違いなく彼女よりも早く動いた筈だ。目で俺の動きを捉えられてもいなかった筈。だが、即座に腕で攻撃される場所をガードされた。
恐るべき才と言うしかないだろう。
「………って事は、また来るかもしれないって事?」
「……そうなるだろうな。まず間違いなく、俺達に再び接敵してくる筈だ」
………レギルスライフルで天井を砕き、通路に瓦礫を積み上げる事で足止め出来るようにはしたが、果たしてどこまで時間稼ぎ出来るのか……
俺が弄した策が少しでも時間稼ぎに繋がる事を祈りながら、ひとまずの休憩を取った。
拠点とした場所は、先程と変わらず廃墟だが、必要最低限身を隠すことは出来、屋上があった。これで監視もできるというものだ。
そういう訳で、体力が残っている俺が監査をする事になった。また追っ手が来るとも限らないからな、警戒は必須だ。
と言っても、最初は───
『いや、お前にはかなり負担をかけてしまっているからな。私にやらせてくれ』
と言って来たのだが………
『………サオリ、お前は少なくとも数日間まともに寝ていなかったのだろう?体調を崩している恐れもあるのだ。大人しく俺に任せてくれ』
『そうだよサオリ姉さん。結構疲れてるでしょ?休みなよ』
『し、しかし………』
『頼むサオリ。俺にも、お前達の負担を分けてくれ。ここまで歩んできた同志として』
『………分かった。だが、私も休憩を終え次第、すぐお前と変わるからな?』
『ああ、それで良い』
廃墟の屋上とも言える場所で、新たな刺客が来ないかを確認していると───足音が聞こえた。
"やあ、ゼハート。体調は大丈夫?"
「ああ。大丈夫だ」
振り返ってみると、先生が俺の近くまで近づいて来ていた。そして、屋上にある柵代わりの壁に両手を置き、俺に話しかけて来た。
"そっか。なら良いんだ。…………あのさ"
「ん?何だ?」
"………ゼハート。勘違いしないで欲しいんだけどさ、ミカは、悪い子……なんだけどその……トリニティで言われてるように、魔女なんかじゃないんだ。どっちかって言うと……お姫様って言うか……"
………相変わらずの生徒想いだな。俺が彼女のことを嫌っている可能性があると危惧したのだろう。
だが───
「………そんな心配そうな顔をしなくとも、俺にも分かる。何となくだがな」
セイアが彼女の事を『友達』と言っていたのだ。魔女であるはずが無い。あそこまでセイアが笑顔で語れる友達など、そうそういないだろう。
自分の中でそう結論づけ、先生にそれを伝える。
"………そっか、それなら良いんだ。ミカは確かに悪い事をした、不良生徒なのかも知れないけど、もう罰は十分受けたはずだ"
"それに、責任は大人が背負うものだからね"
力強く拳を握りながら、そう言い切る先生。
……責任、か。
……改めてこうして考えると、この世界の歪さがハッキリと分かるな。
子供が一人で何もかも背負おうとする所まで追い込まれるのは、頼れる大人が今の今までに居なかったからだ。それこそ、先生のような大人がな。
「先生。お前のような奴が、皆から慕われる大人なのだろうな」
……甘すぎるきらいはあるがな。
俺がそう考え込むと、先生は首を振った。
"いや、私はそこまで高尚な人間じゃないよ。ただ、目の前で苦しんでる子を、何処かで悲しんでる子を助けたいだけ。ただそれだけなんだ"
「………まあ、今はそれで良い」
………その行為が高尚なのだと、俺は暗に言っていたつもりなのだが、それを言った所で伝わらないのだろうな。
"あ!勿論ゼハートもどんどん頼ってくれて良いんだよ?遠慮なんてしなくても良いんだ"
「ほう、それは心強いな………なら先生」
"ん?どうしたのゼハート?"
「俺はどうやら、一人で背負い込みがちな奴なのだそうだ。……だから先生。もし俺がいつか、何かの気の迷いで、
「ぶっ飛ばしてやってくれ。それが、俺からの頼みだ」
俺の言葉を聞いて、ポカンとした先生。そして、少し笑いながら、俺に話しかけて来た。
"………うん、分かった。でも、私が先にやるんじゃなくて私の生徒達が先になるんじゃないかな?絶対痛いよー?"
「………………そうなるなら、その子達が加減を覚えてくれる事を祈るとするか」
そこから少しの話を終え、先生は下の階に降りて行った。
そして、そこから入れ替わるように現れたのは───
「ゼハート。そろそろ交代する時間だ」
サオリだった。
「ああ、もうそんな時間だったのか。……だが、体調は大丈夫だったのか?」
何でも、俺がここにいる時に熱を出していたとか。俺が話していた時は大丈夫そうだったのだがな………すぐ安静にさせたから大丈夫だと思うんだけど、とも先生は言っていたな。
過去を想起しているの、サオリが話し始めた。
「心配無用だ。これでも訓練で鍛えられて来たからな。それに、先生が色々と施してくれたお陰で大分マシになった。感謝しても仕切れないとはこの事だ」
と、少しの罪悪感と感謝を混ぜながら、サオリはそう言った。
「そうか、無理はするなよ。ここから先、激戦が待っているのだろう?」
「……そうだな。ここからまた移動すれば姫が囚われているパシリカに着く。当然、マダムがそこに兵を配置していない筈がない。激戦は必至だ」
「………………ゼハート」
しばらく間を開け、サオリは俺に話しかけて来た。
「私は、取り返しのつかない事をしてしまった。聖園ミカを………復讐鬼に変えてしまった。そして、それが原因で、ミサキやヒヨリにも危害が加わるかもしれない……どう償えば、良いのだろうな」
………そうだな。
「良いか、サオリ。その答えは、お前がこれから見つけていく物だ。模範解答などという物はない。お前が歩み、進む事で見つけるしかないのだ」
何故なら、そうしなければ己が納得することなどないからだ。俺もそうだった。
他者に言われた言葉を鵜呑みにするのではなく、そこから自分自身で思考し、一歩を歩み出す。これが大事になるのだろう。
……まあ、他者から言われた事が救いになる事も、確かにある。そこから一歩踏み出せれば、或いは───
「………自分で歩む、か」
「ああ。罪悪感に身を苛まれ、苦しむ事になろうと、考える事をやめてはいけないのだ。『自分は何をすべきなのか』『どう在るべきなのか』『何がしたいのか』考える事は沢山ある」
「…………難しいな」
「そうだな。生きるという事は、難しい事なのだ。だが、お前は大丈夫だ」
「……それは、何故だ?」
そんな事、決まりきっている。
「お前には家族がいるのだろう?お前一人で歩もうとするからより難しく感じるのだ。共に歩もうとすれば、茨の道でも突き進めるだろう」
「……だが、迷惑にならないだろうか」
心配そうにそう言うサオリ。
「これは経験談だが……一人で歩もうとすれば訪れる物は、破滅だ。……そんな物を、果たしてお前の家族は望んでいるのか?」
「………………いや、そうではない、筈だ」
「なら頼れば良い。それが、お前にとっても、ヒヨリ達にとっても良いだろう。最初は難しいだろうが、そのうち慣れてくる筈だ」
「……まあ。あれこれ言ったが、まずは目の前の問題を解決してからだろうな」
「………そうだな。この先へ進む為に、まず姫を助けねばな。……最後まで、協力してくれるか?ゼハート」
「ああ。当然だ」
そう言い、俺とサオリは握手したのだった。
◯
そうして、休憩を終え足を進めていた俺達だが………
「………妙だな。ここまで何もない事などあるのか?」
サオリが周囲を警戒しながら問いかける。
"………確かに、ちょっと変な感じはするかもね"
どうやら、先生も似たような結論に至ったようだ。俺も、先程から少し違和感は感じていた。
まるで、誘い込まれているような……
と、そう思い至った瞬間───
『お久しぶりですね。アリウススクワッド』
声が、響き渡った。
『そしてようこそ。先生、ゼハート・ガレット。歓迎致しましょう』
目の前にホログラムが浮かんだ。
遠目から見れば背の高い女性のように見えたのだろうが、肌は所々が赤黒く、どこか気味が悪かった。極め付けに、目が大量に顔のパーツとして存在している事が、その異質さを更に増していた。
……それにしても、俺の事を知っているのか。
疑問を抱いていると、先生が拳を握りながら話を始めた。
"………貴女が、マダムって事で良いの?"
『その通りです。……少し自己紹介が遅れましたね。私の名前はベアトリーチェ、このアリウス自治区では、マダムと呼ばれています』
"……そっか。それじゃあ貴女が、サオリ達とアツコを引き離して、今まで酷い目に合わせて来た張本人って事で良いの?"
『ええ、その通りです』
ベアトリーチェは即答した。
『子供とは、大人が搾取し、便利に扱うことの出来る……言わば道具のような物です。道具を私がどう使おうが、私の勝手なのですよ』
その言葉を皮切りに、先生の怒りは溢れた。
"違う!!そんなの間違ってる!!自分の為に子供を犠牲にするなんて、絶対に間違ってる!!"
『いえ。それこそ間違っています。大人にはその権利があります。子供など、どこまで行こうと愚かなのですから、私達が適切に"使用"する事により、一番幸せになれるのですよ』
『………どうやら、納得はしてくれそうにありませんね』
"……当たり前だ。ベアトリーチェ、私は貴女を、指導者として、大人として、一個人として、絶対に認めない"
『……なら、貴方はどうですか?ゼハート・ガレット』
「…………俺?」
『ええ。これはそうですね………勧誘のような物です。貴方が身に纏うその【ガンダム】とやら、それを量産出来れば、間違いなく私の手駒は強くなり、私の【崇高】にも手が届く事でしょう』
『どうです?私の元に来る気はありませんか?代価として、貴方が望む物を与えましょう』
……ああ。既視感の正体がようやく分かった。コイツは────
「……………ベアトリーチェ。道具の正しい扱い方という物を、お前は知っているか?」
『…………言っている意味が分かりませんね。私は、契約をしようと───』
「黙れ」
俺が心底軽蔑した
『………………』
「道具という物は、正しく丁寧に、適切に扱う事でその真価を発揮するのだ」
「逆に、適切に扱えなかったのなら………訪れる物は、総じて使用者の不幸に繋がるだろうな。……分かりやすく、車で例えるとしよう」
「車のメンテナンスをすれば、心置きなく快適なドライブを楽しめ、移動手段としても使える。だが………それを怠り、『大丈夫』だろうと驕ることが事故につながり、不幸を呼ぶのだ」
『………何が言いたいのです?』
「お前は『適切に道具を扱えていない』と言っているのだ。彼女達を道具と宣うのなら、睡眠や食事、軍事に関わらない所までケアするのが扱い方だろう」
まあつまり、何が言いたいかというと───
「お前が杜撰な扱い方をした事で、彼女達は反旗を翻し!お前は自分自身が『道具』だと見下していた少女達に、完膚なきまでに敗北を喫するという事だ!」
「………ゼハート、お前は……」
『…………はっ、何を言うかと思えば、敗北?この私が?笑わせてくれますね』
人を心底馬鹿にしたような顔で、ベアトリーチェは嗤った。
「………俺は知っている。お前のように全てが自分の為に存在し、他者を使い潰す事も当然なのだと驕り、自分をどこまでも正当化する屑を。そして、その末路も」
『ほう?その末路とやらは、何なのです?』
「ここまで言っても尚分からないのか?破滅だ。お前は、お前のような奴は、自分が見下した奴に滅ぼされるのが運命だと言っているのだ!!」
……兄さんが、Xラウンダーでないアセムに、自分が見下した存在に叩き潰されたように、な。
"………そうだね!ベアトリーチェ、貴女の思い通りにはさせない!私は、私達は、何があろうと貴女を認めはしない!!"
俺たちがそう言うと、ベアトリーチェはまるで聞き分けのない子供を見るような目でため息をつき、俺たちに話しかけた。
『……全くもって理解不能ですね。ですが、良いでしょう。私には向かうというのなら───望み通り、叩き潰してあげましょう』
その言葉と共に、アリウスの生徒と
『貴方達の威勢がどこまで続くか……見物ですね。せいぜい、足掻く事です』
そして、そこから少し間を空け、サオリ達に話しかけた。
『それから、アリウススクワッド。………貴女達が、私に歯向かうと言うのなら、改めて思い知らせてあげましょう』
『貴女達は何処まで行こうと搾取される側の人間であり、私の道具なのだと』
その言葉を最後に、ベアトリーチェは消えた。
「………例えそうなのだとしても、私は………」
「抗う事を、決して辞めはしない!!!」
少女の言葉を皮切りに、幾度目かの戦闘は幕を上げるのだった。
ベアトリーチェはカス。異論は無いと思います。
さて、ゆっくりとですがエデン条約編もラストスパートに入っています。
ちゃんと皆を魅力的に描けるように頑張りたいですね。
それでは、また次回お会いしましょう!