魔法少女のマスコットになったと思ったら、魔法少年(女装)だった話 作:らくべえ09
解離性同一性障害。
簡単に調べたところ、こういう言葉が出てきた。
確かに、今の自分には的確かもしれない。
『前世』で生きて、経験したことはハッキリと記憶にある。
しかし、これも病人が頭の中で作り上げた妄想かもしれない。
自分の意識などが、単なる虚構で造りものだという可能性か。
良い気分はしない。
だが、恐れるほどではないか。
まして絶望など程遠いものだった。
手のひらに魔力を集中し、イメージしてみる。
すぐに、圧縮された魔力の玉が浮かんでくる。
不安定ではあるが、『前世同様』に使いこなせる。
これが幻覚でなければ、だが。
〝俺〟の人格、それとも魂か。
それが憑依したから魔法が使えるのか?
確かに魔法と魂は切っても切れないものだ。
脳ですら端末の一部に過ぎないとも言う。
近くにあった空き缶を魔力で浮かせてみる。
拳を握れば、一気に圧縮して潰れた。
操作は問題ない。
だが、肉体は飢えていた。
魂に肉体へ最適化しようとしている。
そのためには、燃料がいる。
つまりカロリーだ。
痩せたこの体では、それが圧倒的に足りない。
さっき飲んだコーラがなければ、もっと足りなかっただろう。
幸い、この世界には無駄にカロリーの高い食物であふれている。
安くて太りやすいモノには事欠かない。
補給は容易だ。
・ ・ ・
「あれ?」
出たところは、魔法協会やなかった。
どっかの、廃ビル? みたいな……。
暗いし、汚いし、夜には幽霊でも出てきそうな雰囲気やで。
「お待ちしてました」
そこにおったのは、スーツ姿の切れ者っぽい男。
例えるなら、せやな。
大手企業勤務のエリートサラリーマンちゅう感じやのう。
「あんたは?」
溝出が聞くと、
「魔協の現場担当をしている、日野です」
男はぺこりと一礼。
「さっそくですが、あなたたちには魔法少女の仕事をしていただきます」
「……俺は【少女】じゃあないがな?」
溝出は、背筋の冷たくなりそうな、怖い顔で笑いよる。
「え、えーと、モンスターの退治とか、捕獲? でしたか?」
わいは昨日のことを思い出しながら言った。
「はい、その通りです。溝出くんの魔力は……未知数、といいますか。ともかく、まだ新人ということで相応の仕事をお願いすることに」
「具体的には?」
溝出が腕を組んだ姿勢で、冷たい目で言いよった。
「――それは、あなたがたならもうおわかりだと思いますが」
何意味深なこと言うてるのん、この人……。
わいが首を傾げそうになった時や。
「……?」
妙な違和感? いや、臭い? いや、なんやろう……肌とかにピリピリくる感覚やった。
「なんかおる……。ん? いや、おるっちゅうか、これ……」
言葉に困ってると、
「なるほど。わかった」
溝出がニヤリと笑って、片腕をあげる。
と、思った途端や。
黒い蛇みたいなもんが、とにかくえらいたくさん出てきて、溝出の体中に巻き付いて。
「え? え? え?!」
驚いてると、溝出は例の【魔法少女】姿に……。
「……ポーズとか、アイテムとか決め台詞とか、そういうのないんやね?」
「俺の場合はな。他は知らん」
てなことをやってるうちにや――
周りに、なんか赤黒い
うむむ。
この感じは、そうや!
昨日の、魔法少女関係にかかわることになったきっかけの――
赤黒い気持ちの悪い空間やで!
むう?
な、なんや? 靄の中にまたおかしな感じが……。
そうか! きっとあの変な異空間につながる入口があるんやな!?
「いくぞ。お前もさっさと変われ」
横に立った溝出に、肩をつかまれたで。
せやけど、変わるって。
……おおう、そうか!
わいは腹に力を込めて、意識を集中して、変身のイメージをしてみた。
そしたら。
体がボンヤリ光って、縮んで……。
あのマスコット姿になった!
「――あなたがたの仕事は」
「言わんでもいい。こっちに入り込もうとする異界のモノを駆除するんだろ」
溝出は、日野さんの言葉をさえぎって歩き出した。
「そうです。異界とこちらとつなぐ空間……我々は魔空間と呼んでいますが、そこからやってくるモンスターが相手です。可能なら、捕獲を優先してください。今回の対象は、危険度が低いですから」
「ああ、そういえばそんなことも言われたな。つかまえて、どうする? 動物園にでも売るのか? それとも、解剖して標本か?」
「まあ……似たようなものです。異界のモンスターはいまだに未知の存在ですから」
そしてや。
わいらは魔空間に突入したで!
「な、なんじゃこりゃ……」
そこにおったのは、
「す、スライムか、これ……?」
灰色っぽい、ブヨブヨとしたモンスターやった。
しかも、たくさん……10匹近くはおる。
「……鬱陶しい」
溝出は不愉快そうに言って、手からビームを連射した。
バババババババッ!!
まさに、あっという間や。
スライム? は1匹を残してみーんな焼き払われた。
あれ? わいの出番は?
「――おい。捕獲するのにお前の協力がいる」
「え?」
「昨日やったろう。装備になれ」
おお、そういえば無意識やけどやったなあ!
うまくいくか不安やったが……。
すんなりいけたで。
ガントレットになったわいを装着した手。
溝出はそれを残った多分スライム? に向けた。
ん? んんん???
なんか頭の中に聞こえるような。
声と顔とちゅうよりも、こう電波でも感じるような?
言葉にしてみるとやな――
【捕獲】
【
そしたらや。
スライムの上に緑に光る魔法陣が浮かんだ。
で、スライムはアクリルみたいな半透明の箱に閉じ込められたで。
その箱も緑色や。
「片づいた」
溝出はちょっと首をななめにして、つまらなそうに言った。
「え、もう終わり?」
「新人用の簡単な仕事なんだろ」
「そういうもんか」
うーん……。
なんちゅうか、けっこう地味なもんやな魔法少女って。
安全とも言えるか?
まあ問題なく終わったんなら、ええことや。
さて、それで。
魔空間から箱詰めスライムを持って帰ると、
「……早い、ですね」
日野さんはちょっと驚いた顔で言った。
やれやれ。
これで初日の仕事は終わりかなあ。
と、思ってたんやが。