「イザナミ様いるか?」
気絶しているアーディを抱え出せる範囲の最高速度で一度、ファミリアのホームに戻る。
俺の恩恵は消えていない。なら、イザナミ様は生きているはずだ。それに気配もする。
「泉...!生きておったか!」
「ああ、心配かけてすまん。それより取り敢えず、こいつを頼む」
アーディをさっさと治療しないと死んでしまう。
「ガネーシャのところの娘か。あい分かった」
アーディをベッドに寝かせ、咽ぬようにポーションを飲ませていく。
「それで...イザナミ様。地上で何があった?」
何故、あんなにも神が送還される事態に陥っている。
「わしも詳しくは知らぬ。分かっていることは闇派閥が襲撃を仕掛けてき、数多の神が送還された。そしてその後、満を持したかのようにエレボスと言う神が名乗りを上げたんじゃ」
襲撃が合った。それ以外は俺が知っている事と概ね変わらないか...
「ギルドに内通者がいた。俺達の作戦は始めから割れていたんだ。
「成る程の...情報が漏れておったとは」
「だからその情報を利用されて、攻勢に出られた。俺たちオラリオの最大戦力を三か所に集めて手を出せなくして」
嫌な予感はしてたんだ、だがまさかここまで大きな被害になるとは。
「泉...これからどうする?わしは泉の判断を尊重する。わしはもう行ってほしくないないなどと生娘のよううには叫ばん」
そんなもの決まっている。このままやられたままで終われるか。
「反撃に出る。あの邪神に目見もの見せてやらないと俺の気が済まない。オラリオをめちゃくちゃにしやがって」
「そうか...そうじゃな。分かった」
「今日はもう寝る。明日からだ、覚悟しやがれエレボス」
「はい、どうぞ。あったかいスープです」
オラリオの一角。崩れた民家が瓦礫と化し、悲壮感を漂わせた場所で一人の少女が炊き出しをしていた。
「俺にもくれ!」「ちょっと、押さないでよ!」
少なくない人が匂いに釣られ列に並んでいく。この炊き出しをしている少女は
「炊き出しか...」
「しかもギルドの配給じゃねぇ。すげえな、誰もかれも余裕がねえこんな状況でやるなんて...」
近くを通っていた輝夜とライラは、炊き出しをしている少女に関心していた。
「炊き出しなんて、ありがたいよ...いつ、あんた達の食料が尽きるかもわからないのに」
「困ってるときは、お互い様です。それに心配しないでください。このスープは"豊穣の女主人"というお店の差し入れですから。すごく怖くて、でも都市で一番安全な酒場なんです。皆さん、もし困ったら西のメインストリートに来てくださいね!」
「嘘でも、うれしいです...そんなこと言ってもらえて」
「ああ。もうオラリオに、安全な場所なんて...」
「う~ん、噓を言っているつもりはないんですけど...皆さんを明るくするには、先にお腹一杯になってもらった方がいいですね。沢山食べて、笑顔が浮かんじゃうくらい、温まってください!他に、まだもらっていない人は――」
民衆はこの惨状の中で、限りがある食料を分けくれて、更には元気づけるような言葉まで発してくれる少女に感謝していた。だが、この光景を見てもそう思わない者もいる。
「無駄だ、無駄だぁ!炊き出しなんてしても、意味がねえんだよぉ!」
「?」
少女は今の言葉が理解できなかったのか首を傾げる。
「どうせ俺たちは死ぬ!飢え死にしなくたって、闇派閥に殺されてお終いだ!」
...確かに、この民の言いぐさも理解ができる。守ってくれていた冒険者ですら、今は神の送還による恩恵の喪失や、恐怖によって助けてくれないものも多い。それでも、と民のために動くたちもいるのだがこの民にはそんなことは頭にはないのだろう。
「俺も、ほかの奴等も、死ぬんだ...冒険者が、守ってくれなかった、俺の妹のように...!」
それは、悲痛な叫びだった。大切な妹を失った。たった一人の兄としての。悲痛な叫び。
輝夜とライラはその言葉を聞き、暗い表情を浮かべた。
「う~ん...じゃあ、みんなで死んじゃいましょうか」
「「は?」」
その男の話を聞いていた少女は急にそんなことを言い出した。それを聞いた民衆と輝夜達は開いた口が塞がらない。
「天に還れば、あなたの妹さんにも会えるかもしれません。大丈夫、神様達の話が本当なら、いつか生まれ変われますから!」
「え、あ、いやっ...な、なにを」
話の衝撃で言葉が出ない民に対し、女が立て続けに話していく。
「みなさーん!この方とご一緒に、死にたい人はいらっしゃいませんかー?もう苦しむことはありませんよー!」
「...なんだ、あの女...やべぇ」
ライラは単純にそう思った。もはやこの思考は狂人の域だろう。辛い、苦しい、それは生きているから。なら、一度死にましょう。大丈夫!死んでも次がありますから!と、この少女は言っている。
「いやーマジでヤバイなあの女。一瞬人じゃないかと思ったぜ」
「!?お、お前...生きてたのか!泉!」
ライラと輝夜に話しかけて来た男。その男の正体は、信者の自爆に巻き込まれ死んだかのように思えた泉だった。
「ああ、俺に炎の類は聞かねぇからな。爆発の衝撃は食らったがスキルである程度相殺できたから、傷は深くなかった」
「おい、阿呆鬼。アーディはどうした?まさか、貴様だけ生き残ったわけじゃあるまい」
輝夜は泉しか見えないのを怪訝に思い、質問する。頼む、生きていてくれとアーディの死を頭に入れずに。
「ああ、
「そうか...生きているならいい」
生きている。その言葉を聞き、輝夜とライラは心底安堵した。親しかったものが目の前で死ぬ。その光景は絶望以外の何物でもないから。
「それにしても...あの女。すげぇなリオンより正義を語れているぞ」
偽善、偽善者。それでいいじゃないか。自分のことで手がいっぱいな状況、その中でも誰かの為にと動こうとする"偽善"それは、――とても尊いものだから。上辺の正義だとしても、この状況で"偽善者"になれる人こそ、"英雄"と呼ばれる資格があると、民衆に対し少女は語る。
「ははは!輝夜。お前..."英雄"だってよ!」
「こっ...の阿呆鬼め!知っておるわ。それは、私にとっては最も縁のない言葉だ――」
ん?爆発音。闇派閥か。ちょうどいいじゃねぇか、成しに行こうぜ"偽善"をよ。
「おい、俺は行く。二人とも、偽善者になりてぇのなら連いてこい」
「言われなくても分かってるわっ。この阿呆鬼が!」
爆発を起こした闇派閥のもとまで駆けていく。
「都市内地だからといって、油断しき...」
「五月蠅い」
斬。容赦はしない、胴を泣き別れにさせる。
「ぎゃああ...!」
「おいおい、逃げねぇで民衆に注意喚起か?大した胆力だな」
闇派閥が現れても逃げ出さず。周りに避難を促す少女に俺はそうこぼす。
「あなた達は...」
「なぁに――ただの"偽善者"だ」
――正義がもう一度動き出す。