黄泉の行人。ダンジョンに行く。   作:かまくら御前

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善悪問答、そして―反撃の狼煙

 

  「き、貴様...!【鬼じ...】」

 

  「遅い」

 

 斬。こちらに気づき切りかかってきた男の首を刎ねる。仲間が殺されほかの闇派閥イヴィルスも俺に気づいた。

 

  「襲撃だ!こ...」

 

  仲間に呼びかけようとした男を斬る。すると、残されたものはこちらを化け物でも見るかのように鬼の形相で見てくる。

 

  「貴様!人の心は無いのか!」

 

 お前らには言われたかねぇよ。油断してんのが悪いだろ。

 

  「お前ら!数で当たれ、相手は一人だ!」

 

 動揺していた男達だったが、その呼びかけで一塊になってこちらを襲ってくる。

 

  「纏まってくれんのか?好都合だ」

 

 刀を納刀。"技"を放つために構える。

 

  「死ね!【鬼人!】」

 

  「...【居合】ココノエ」

 

 纏まった男達に対し、九つに重なった斬撃を放つ。男達は反応すらもできずに切り刻まれていく。

 

  「斬っても、斬っても闇派閥イヴィルスが減らん」

 

 あの後、輝夜とライラと別れた俺は闇派閥イヴィルスを少しでも減らすためにオラリオを駆け回っていた。

 

  「それに、本命にも会えんな。どこにいるエレボス」

 

 闇派閥イヴィルスを狩っていく中で、幹部の連中やあわよくばエレボスに会えないかと探しているが、一向に気配がしない。

 

  「そう言えば...アルフィアとか言う女は何故か廃教会にいたな...もう一度あそこに行けば見つかるかもしれん」

 

  行ってみるか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「教会...?廃墟の海の中に、こんな建物がまだのこっていたとは...」

 

 "正義"が負けたあの日。リオンは、見た。体中から血を流し倒れ伏す冒険者の山。瓦礫に埋もれ苦痛にあえぐ民衆の声。――何人死んだ?――何人殺された!?我々が追い求めた正義は秩序は!こんなにも容易く悪に屈するものだったのか...!――何も救えない。何も守れない。

 そして...――民衆すらも正義に牙を剝く。罵倒を浴びせ、石を投げる。私達だって、大切な人を失っているのに!

 

 何かが...――砕ける音がした。正義が砕け散る音が...

 

 "正義"とはなんだ!輝夜は言う。この惨状、あらかじめ覚悟していたと。ふざけるな!あらかじめ犠牲を見据えた覚悟など正義と呼んでいい筈がない!

 

 "正義"を問う。いつもまぶしくて私達の希望であるアリーゼに。だが...――答えてはくれなかった。違う、違う。謝ってほしいわけじゃない。ただ、私は...犠牲を覚悟の正義など否定してほしかった。何時ものように笑顔で、私の手を、引っ張ってほしかった!

 

 こうして、――私は正義仲間から逃げだした。

 

 そして、逃げた先。大切なものの死さえも利用する"正義"を見た。

 

  「敵に情けをかけるな!アーディのような()()()()()()!」

 

 な!?

 

  「アーディはその甘さ故に死んだ!あまつさえも、"貴重な上級冒険者の数"を減らした。我々の足を引っ張た」

 

 アーディが...甘かった?彼女の死が愚かだった?違う!アーディは優しかった!誰よりも"正義"を尽くそうとしていた!あの時だって、幼い子供を守ろうとした!彼女は小さな命を救おうとしてっ――

 

  「そして、死んだ。今のオラリオの中で"綺麗事"は許されん。団員達を死なせないためにも、私はそれを徹底する。"反面教師"そ用いてでもな。この難境を乗り越えるために、実妹アーディの死さえ利用する...それが、今の私の"正義"だ」

 

 嘘だ...それが、正義...?嫌だ!認めたくない、認められるものか!!姉であるあなただけは、アーディのことを...!  

 

 ――また逃げ出した。

 

 そして...アーディが死んだ場所に来てしまった。ここで、ロキ・ファミリアの【剣姫】に闇派閥イヴィルスと間違われ、戦闘になる。決着はつかずリヴェリア様が来たため今の私の顔を見せるわけにもいかずその場を後にする。そして...

 

  「己が信仰を築く場所で再開するとは...神ながら運命を感じずにはいられない」

 

  「邪神エレボス...!何故ここに!」

 

  ――絶対悪と再会する。

 

  「戦いに来たわけじゃない。また神の酔狂に付き合ってくれ」

 

 分からない。何が目的だ...後ろにヘラ・ファミリアの女も連れて。

 

  「――君達の"正義"とは、一体何なんだ?」

 

 眩暈がした。鼓動が弾けた。無意識のうちに足が、目の前の神から遠ざかろうとしていた。

 

  「どうして..."悪"が、"正義"を問い詰める...!?」

 

 エレボス絶対悪は語る。これは神聖な儀式だと。今のオラリオは世界の"縮図"。ゼウスとヘラが"黒竜"に敗れ、下界そのものに混沌が渦巻いている。絶望による自暴自棄、快楽のための暴力、よくぼうによる略奪。これらのことが今も、どこかで、必ず起こっている。光に照らされるか、闇に染まるか...世界こそが二者択一に問われている。エレボスはもちろん闇に染まる方を支持する。だが、そうなると気になるのは正義の同行。

 この暗黒の時代でなお、"正義"は真なる答えを持ち、反逆の剣を掲げてくるのか、否か...

 正義も悪も、己のみで成立はする。が、対立する番があった方が、より映える。巨正と巨悪の理と同じ。正義と悪は衝突するからこそ肥大化し、強大になる。

 そう語るエレボスに対し、リオンは問いを投げる。

 

  「ならばあなたが謳う悪とは!正義を嘲笑う邪悪の正体とは、一体何だ!?」

 

  「気持ちのいいもの

 

 それは利己的で、他者にとっては不利益である。そして行き過ぎれば、決して許されざるものとなる。

 人は、それを"悪"と呼ぶようになる。エレボスは悪を語りそして、リオンに問う。

 

  「さて、俺は答えた。そろそろ正義おまえの答えを聞こう。」

 

  「っ!」

 

  「"無償に基づく善行"。"いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値"。"そして悪を斬り、悪を討つ"...以前、お前が告げた答えだ。俺は一言一句覚えている」

 

  「,,,やめろ」

 

 答えは変わらないか?その問いに対し私は、何も答えられない。言い返せない。

 感謝はされたか?見返りはあったのか?裏切られる"理不尽"、理解されない"孤独"それを恐れず――少しでも正義を疑わなかったか?

 淡々と、淡々とリオンの心を抉っていく。

 

  「今一度、問おう。お前たちの正義とは、一体なんだ?」

 

 口が動かない、正義とは何なんだろうか。私の抱く正義は――崩れ去ってしまった。

 

  「――ははははっ!これが正義!絶望の淵では叫ぶこともできないか!そんなお前に、再びこの言葉を贈ろう。――脆き者よ、汝の名は正義なり。そして、愚かなる者の名もまた、正義」

 

 沈黙、そして絶望。答えは出せず、ただ茫然とするのみ。

 

  「"正義の卵"、あるいは雛鳥は答えをだせず...期待はずれだったな。」

 

 こうして、問答を続けていると... 

 ドオォォォォン!!と、外から爆発の音がした。

 

  「蹴散らせぇ!破壊しろぉ!民衆を殺戮し、このままギルド本部を攻め落としてれる!」

 

 外を見ると白髪の男。オリヴァスが街を襲撃していた。

 

  「やれやれ、オリヴァスの仕業か。控えろと言った筈だが...しかも、よりにもよって俺達の目と鼻の先とは――だが、"余興"を思いついたぞ」

 

 そう言うエレボスはアルフィアに周囲一体の警備を任せ、増援を阻止させた。 

 

  「無幸の民が...!助けに行かなくては!」

 

  「暗黒の神エレボスの名において命じる。()()()()()()()。俺の神意に逆らったなら、すぐにアルフィア達を呼び出し、周囲を最悪の地獄絵図に変えてやる。お前は、ここで見ていろ」

 

 辺りが炎に包まれていく。闇派閥イヴィルスは逃げ惑う民衆を敢えて狙い冒険者を誘き寄せていた。そして、その場にいたアスファフィ・アンドロメダ。ヘルメス・ファミリアの団長が居た。

 

  「さて――リオン。遊戯ゲームだ」

 

 ゲーム。そう言ってエレボスは"トロッコ問題"について説明する。

 

  「選べ、リオン。多を殺し、個を救うか。民衆を守るために、"女"を犠牲にするか」

 

   ――"悪"とは、目の前の存在のことを言うのだと。私は、確信した――

 

 女を助けに行けば民衆を全て殺し。この場に残り女を見殺しにすれば民衆はを助ける。選ばなければお前は"悪"だと、そう言われる。

 無理だ...!私には選べない。選べるわけがない...!

 

 

 

 

   ――さて、そろそろ行くか。

 何かが動く、この絶望の中。足掻くものが。自らの"正義"を成しに。――変わる。ここから、全てが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「――来る」

 

 水色の髪の女が全身から血を流し、白髪の男に追い詰められながらもそうこぼした。そうして、膝をついていた足を上げ、立ち上がる。

 

  「...やって、来る。希望は...彼女たちは来る。リオンは、ここに現れる」

 

 ――――言葉が出ない。リオンは来る。アスファはどうしてそんなことが言えるのだろうか。今の私は、正義もなく大義もない。空っぽの私を何故...

 

  「リオン?アストレア・ファミリアだと?正義の使者が都合よく現れるとでも!?何を根拠に!妄信の類だ、正気の沙汰ではない!!」

 

 オリヴァスは嘲笑う。そんな、来れるはずもない女を熱心に呼ぶ目の前の女を。でも、それでもアスファは...

 

  「だって...彼女たちを信じなければ...リオンを信じれられないなら、私は何を信じればいいか分からない!誰よりも正義に殉じ、誰よりも献身を尽くし、誰よりも傷ついてきた!誰よりも平和を願ってきた!そんな彼女達を信じられないなんて、嘘だ!その噓を肯定してしまえば、私はもう何も信じられなくなる!」

 

  「愚かな願望だ!正義などという幻想に縋りおって!周りを見ろ!お前に賛同する民はどこにもいない!顔を見ればわかる!奴らこそが、正義を信じられなくたった張本人だろうに!」

 

 その言葉に民衆は息を吞む。図星を突かれたそう思ったからだ。

 

  「拒絶された正義が、そんな愚民を救うとでも?はははっ、ありえぬ!今頃、失望と絶望に打ちひしがれているだろう!」

 

 そう、なのだろう。事実、今いる民衆たちも助けてくれぬ冒険者に失望し、このまま死ぬのだと絶望している。

 

  「現実に失望し、絶望して...それでも最後には、彼女たちは赦すでしょう。かけがえのない友に、赦すこともまた正義だと、教えてもらったから」

   ――リオン、赦すことは正義にはならないかな?

 

  「正義に傷付き、正義を自問し、今も迷い続けているなら...それこそが"正義の証明"だ。」

 

 迷っているずっと。エレボスに問われ、大抗争で正義は崩れた。民に罵倒され感謝もない。どうして、そう思っていた。だが、私はこれを聞いて...

 

  「正義で在り続けようとする、正しき者の在り方だ!だから、来る。彼女は来る。希望リオンはやって来る!」

 

 気が付けば...涙を流していた。気が付けば、体は走り出していた。

 

  「ぐあぁ...!?」

 

 剣を握り、剣を振るう。疾風のごとく駆け抜ける。  

 

  「たった一人で!馬鹿め!!死にに来たか!」

 

 奴の言う通り。打開の術はなく、問題は何も解決していない。私は"岐路"から飛び出した。すぐに邪神の号令が下り、多くの者が襲われるだろう。

 

  「そこだ、死...」

 

  「――誰がたった一人だって?」

 

  「なに?ぐわぁぁ...!?」

 

 爆炎が迫ろうとしていたその時、私の目の前に遮るように一人の小さな男が割り込み爆炎を消し去り、オリヴァスを蹴り飛ばす。

 

  「どうやら、"答え"を見つけたみたいだなリオン。いい顔をするようになったじゃねぇか」

 

  「あなたは...!?」

 

 爆炎が晴れ姿が見える。黒い髪に極東の着物。年相応の身長に年に合わない聡明を宿した漆黒の瞳。ココノエ・泉だった。

 

  「来てやったぜエレボス絶対悪さあ、ぶっ飛ばしてやるよ」

 

  ――反撃の狼煙が上がる。

 

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