神の霧が去る時に ~幕末化学兵器異聞~   作:公家麻呂

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2-2 神聖に当てられる心と、純粋なる信奉

桃華は祭壇の前に立ち、血を流す子供たちのために、全身全霊の祈りを捧げ始めた。

 

「高天原に神留まり坐す……大御神の慈悲の御光を、この哀れな雛鳥たちへ……!」

 

桃華の細く白い指先から、滝のように溢れ出したのは、純白と黄金の混ざり合う圧倒的な【治癒と豊穣】の神通力だった。その本物の奇跡の光が、本殿全体を昼間のように照らし、負傷した子供たちの肉体を優しく包み込んでいく。

 

ジジジ……カチッ、カチッ。

 

人間の医療では絶対に不可能な現象が起きた。少女の焼けた皮膚が一瞬で真新しい桃の肌のように再生し、少年の千切れた足の断面から、肉芽が急速に波打って骨と肉が再構築されていく。光を浴びた子供たちの脳内に、痛みの消失と共に、天上の救いとも言うべき【圧倒的な多幸感と、限界突破の身体強化】の濁流が注ぎ込まれた。

 

さっきまで死の恐怖に怯え、痛みに泣き叫んでいた子供たちの顔から、一瞬で「涙」と「苦悶」が消え去る。彼らの瞳から恐怖が消え、代わりに桃園神宮の絶対的な神聖に当てられた、異常な熱を帯びた瞳が開いていく。

 

「……あ……ああ……」

 

片足を再生させた少年が、ゆらりと立ち上がった。全身に無敵の力が漲っている。彼は魂の底から救われた歓喜に涙を流しながら、満面の笑みを浮かべた。

 

「すごい……痛くないや……。お姉様……お姉様の光が、僕を包んでくれている……! 僕は、僕は桃園神宮のために、お姉様のために生きるんだ!」

 

隣の少女も、再生した綺麗な顔を輝かせ、桃華に向かって両手を合わせ、純粋なトランス状態で呟き始めた。

 

「聖女様……桃華様……あなた様こそが、本物の神様だ。我が命も、我が肉体も、すべてはあなた様のために捧げます……」

 

「おお……おおお……!」

 

その奇跡を目の当たりにした藩主・丹羽長次もまた、激しい後悔から一転、歓喜の涙を流して桃華の足元へ平伏した。もはや大名としての矜持など、この人の前では何の意味も持たなかった。ただ、この光の前にひれ伏すことだけが、自分に許された唯一の誠実さだと、長次の全身が震えながら叫んでいた。

 

「桃華様……! あなた様こそが、この乱世に降臨なされた真の御使いだ……! 我が二本松藩、これより全ての領民、兵卒を挙げ、桃園神宮の忠実な信奉者となりましょう……! 薩長の理不尽な鉄火から、桃華様を、この聖域を護る盾となる……! それだけが、この子供たちの血に報いる、我らに残された唯一の道だ……!」

 

奇跡が終わった。

 

光が引いていく。

 

桃華はそっと祭壇の柱に手をつき、誰にも見えないよう、静かに息をついた。全身の力が、砂のように抜けていく。奇跡を使うたびに、いつもこうだった。救えば救うほど、人々は自分に縋ってくる。縋られるたびに、もっと救わなければという祈りが膨らんでいく。その祈りが、また自分の体を削っていく。

 

(……私は、この人たちにとって何なのだろう)

 

平伏する長次を、トランス状態で自分を見上げる子供たちを、桃華は静かに見渡した。救われた喜びで輝く瞳が、眩しくて、少しだけ、怖かった。

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