よろしくお願いします。
放課後だった。
高校二年生の彼は、友人たちと別れて帰路についていた。
特に変わったことはない一日だった。
授業を受けて、昼休みに馬鹿話をして、放課後に少し寄り道をした。
どこにでもいる男子高校生の日常。
その終わりはあまりにも突然だった。
横断歩道を渡っていた時。信号無視の大型トラックが交差点へ突っ込んできた。
誰かの悲鳴。
耳をつんざくクラクション。
振り返った瞬間にはもう遅かった。
全身を襲う衝撃。宙に浮く感覚。そして――暗闇。
それで終わりだった。
少なくとも彗斗はそう思った。
____________________________________________
「……ん」
意識が浮上する。
最初に感じたのは暑さだった。容赦なく肌を焼く熱気。
乾燥した空気。そして眩しい太陽光。
彗斗はゆっくりと目を開いた。
視界いっぱいに広がる青空。雲一つない快晴だった。
「……あれ?」
呟きながら上半身を起こす。
そこはコンクリートの床だった。周囲には錆びたフェンス。
崩れた設備。割れた看板。
どうやら建物の屋上らしい。しかし違和感があった。
見える景色がおかしい。
屋上の端へ近づいた彗斗は息を呑んだ。
「なんだよ……これ」
砂漠だった。
どこまでも続く広大な砂漠。地平線まで広がる砂の海。
そしてその中に沈みかけている無数のビル群。
まるで巨大都市が砂に飲み込まれたような光景だった。
日本ではありえない。
いや、地球上でもそう簡単に見られる景色ではない。
「夢……か?」
そう呟いた時だった。
背中に違和感を覚えた。何かがある。重い。
存在感がありすぎる。
恐る恐る振り返った彗斗は硬直した。
「……は?」
翼。巨大な翼。
銀白色の外殻。鋭利な刃のような形状。内部に走る赤い発光ライン。
さらに腰の後ろには長い尾が伸びていた。その尾もまた銀色の装甲に覆われている。
見覚えがあった。ありすぎた。
モンスターハンターシリーズをやり込んでいた彼だからこそ、一瞬で分かった。
「
天空を流星のごとく飛翔する古龍。その特徴を象徴する翼と尾。
それが自分の身体から生えている。
意味が分からない。
頬をつねる。痛い。
夢ではない。
「待て待て待て……」
事故。死。
知らない場所。
そして異形の身体。
頭の中で一つの結論が形になっていく。
「もしかして……転生?」
あまりにも現実離れした答えだった。だがそれ以外に説明がつかなかった。
彗斗は深呼吸する。まずは状況確認だ。
混乱していても仕方ない。
そう思いながら再び周囲へ視線を向けた。
そして。
遠くの地平線にそびえる巨大な建造物を見つけた。
それは塔だった。あまりにも巨大な白亜の塔。雲を貫き、天へ届くかのような圧倒的存在感。
その姿を見た瞬間、彗斗は目を見開いた。
「まさか……」
知っている。何度も見た。ゲームの中で。
学園都市キヴォトスの象徴。全ての学園を見下ろす塔。
「サンクトゥムタワー……」
確信した。
ここがどこなのかを。
「ブルーアーカイブの世界だ……!」
思わず声が漏れる。
砂漠。埋もれた都市。巨大な塔。
全てが一致する。
ここはキヴォトス。そしてこの景色は間違いなくアビドス自治区だ。
「マジかよ……」
現実感がない。だが間違いない。
自分はブルーアーカイブの世界へ転生したのだ。それもバルファルクの翼と尾を持った状態で。
しばらく呆然と景色を眺めた後、彗斗は我に返った。
「とりあえず人を探さないとな」
幸いブルアカの知識はある。
アビドスなら中心に行けば街があったはずだ。ここの自治区は砂漠だから食料も水も必要になる。
屋上から離れ、建物の内部へ向かった。
____________________________________________
廃ビルの中は静かだった。
割れた窓。崩れた壁。放置された机。人の気配はない。
階段を下りながら彗斗は何度も翼を見た。本当に自分の身体の一部になっている。
少し動かすだけで反応する。不思議な感覚だった。
やがて一階へ到着する。
建物の外へ出た瞬間、熱風が吹き付けた。
「暑っ……」
その時だった。
「おい、そこのお前!」
突然声を掛けられる。
振り向くと数人の少女がいた。全員がヘルメットを被り、自動小銃を持っている。
見覚えがあった。
ブルーアーカイブではお馴染みの存在。ヘルメット団だ。
「見ない顔だな…ヘイローがない?しかも男?」
「初めて見るな観光客か?」
「観光に来たんだったら金持ってるよね?」
嫌な笑みを浮かべながら近付いてくる。
彗斗は内心で顔を引きつらせた。
ゲームの中ではよく見たが、実際に銃を向けられると話は別だった。
「いや、持ってないけど」
「へぇ?」
「じゃあ身ぐるみ全部置いていきな」
完全にカツアゲだった。しかも銃持ち。
拒否権はなさそうだった。
「どうするかな……」
そう呟いた瞬間だった。
パァン
ヘルメット団の一人が引き金を引いた。乾いた銃声が響く。
彗斗は反射的に飛び退いた。弾丸が足元の砂を吹き飛ばす。
心臓が跳ね上がる。本物だ。
ゲームじゃない。
撃たれれば終わる。恐怖で足が震える。
戦った経験など一度もない。
だが生き残るためには動くしかなかった。
咄嗟に翼を広げる。
その瞬間、翼の内部が赤く発光した。身体の奥底から熱い力が溢れる。
次の瞬間――耳を引き裂くほどの轟音が鳴り響く。
ゴォォン!!
「うわっ!?」
自分でも制御できない加速で前方へ飛び出した。まるでロケットだった。
狙ったわけではない。だが先頭のヘルメット団へ一直線に突っ込む。
「えっ――」
激突。
相手が吹き飛び、彗斗自身も盛大に地面を転がった。
砂まみれになる。
痛い。
だが立ち止まる余裕はなかった。再び銃声が響く。
反射的に翼を前へ出す。
カキンッカキンッ
金属音。
弾丸が翼の外殻に弾かれた。
「防いだ!?」
自分でも驚く。
さらに尾が勢いよく振られた。
近くの電柱を叩き折る。轟音と共に折れ曲がるコンクリートで出来た柱。
ヘルメット団たちの顔色が変わった。
「な、何なのコイツ!?」
「化け物かよ!」
彗斗自身も驚いていた。
しかし翼はさらに赤く輝き始める。龍気が周囲へ溢れ出し、圧迫感を放つ。
その姿はまるで人型でありながら生きる災害――古龍だった。
「ひっ……」
「無理無理無理!」
「逃げるぞ!!」
ついに恐怖が勝ったらしい。ヘルメット団たちは我先に逃げ出した。
砂煙を上げながら遠ざかっていく。
残されたのは彗斗だけだった。
「……終わった?」
しばらく呆然と立ち尽くす。勝ったらしい。だが実感はない。ただ必死だった。
もし相手が逃げなければどうなっていたか分からない。
戦闘経験ゼロなのだから当然だ。
「先が思いやられるな……」
苦笑しながら空を見上げる。青空が広がっていた。
ここはブルーアーカイブの世界。知っているようで知らない世界。
そして自分にはバルファルクの力がある。
だがそれだけで生きていけるほど甘くないだろう。
まずは拠点を探すべきか。
アビドス高等学校へ向かうべきか。
それとも情報収集を優先するべきか。
考えることは山ほどある。
「まあ、とりあえず……」
彗斗は遠くに見えるサンクトゥムタワーへ視線を向けた。
巨大な塔は静かにそびえ立っている。
「生き残るところから始めるか」
そう呟き、砂漠へ一歩を踏み出す。
まだ彼は知らない。
赤き流星のようなその力が、やがてこの世界の運命に大きな波紋を広げていくことを。
天宮彗斗の物語は、ここから始まる。
バルファルクは推しです。
癖を詰め込みました。