青い空と赤い星   作:(눈_눈)

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次は本編を出すと予告したな
あれは嘘だ

今回の話は、天宮彗斗よりノノミとシロコとホシノに焦点を置いています。
主人公が…空気に…!


原作開始前番外編
番外編1  令嬢と狼とおじさんと


ビナーとの死闘から二ヶ月後。

アビドスの冬は朝が冷える。砂漠の気候らしく昼は暖かくなるが、

朝晩は吐く息が白くなるほど寒い。

 

「……寒いはずなのにあんま寒くないな」

 

息が白くなっている時点で今の気温は予想がつく。しかしその気温とは裏腹に彗斗自身は寒さを感じていなかった。そんな違和感を持ちながら天宮彗斗は制服の襟を少し引き上げながら歩いていた。肩には通学鞄、空は雲ひとつない快晴、だが吹き抜ける風はいつもより冷たい。

 

「やっぱこれも龍気のおかげなのか…?」

 

そう呟きながら

左手を見た。指を一本ずつ曲げては伸ばし、曲げては伸ばす。

以前のように滑らかに動く。

ビナー戦で失った左腕。あれから二ヶ月。

驚異的な再生速度で腕は完全に元通りになった。体の再生だけに限ると一ヶ月で、完全に治っていた。なくなった左腕も見た目だけではなく、筋肉も神経もほぼ回復していた。

ただ長期間使っていなかった影響で感覚に若干の違和感が残っていた。

だから今もこうして歩きながら左腕を動かし、リハビリを続けている。

 

「よし」

 

拳を握る。違和感はほとんどなくなっており、以前の力が戻っている。

龍気を流す。すると左腕に熱が流れるのを感じる。どうやら龍気も以前と同じようにスムーズに流せるようになったらしい。治った左腕は完全復活と言っていいだろう。

そんなことを考えていると校門が見えてきた。

いつものアビドス高校。砂が30cmぐらい盛り上がっている門。

少し傾いたフェンス。相変わらずの光景だった。

 

「ん?」

 

その時だった。

校門近くに一人の少女が立っていることに気づいた。

ベージュ色の長い髪、そしてどこか上品な雰囲気。

彼女は校門の方をじっと見つめていた。視線の先を見る。

そこには——欠伸をしながら校舎へ向かうホシノの姿があった。

 

「……あの方が、副生徒会長

 

ベージュ髪の少女は何故か視線を送り続けている。

遠目でも分かる。完全に十六夜ノノミだった。

 

「……何してるんだ?」

 

思わず口から漏れる。少女は気付いていない。ホシノも気付いていなさそうだ。

一方的に見続けている。不審者ではないことは知っている。

だがちょっと怪しい、というかかなり怪しい。

彗斗は少し考えた。そして結論を出した。

 

(まぁ話しかけるか)

 

そのまま少女へ歩いていく。

数歩、そして数メートル。そして声をかけた。

 

「おはよう」

 

「…え、あ、おはようございます……!?まさか赤い彗星さん…?

 

少女は挨拶を返した後に飛び上がった。

驚きすぎである。勢いよく振り返ったノノミと目が合った。

すると、ノノミの隣にいつの間にか見知った顔がいた。

 

「へぇ……私の前でナンパするとは、いい度胸だねぇ〜」

 

聞き慣れた、どこか気の抜ける声。

 

「ホ、ホシノさん!?」

 

不意を突かれたノノミが肩を震わせる。

 

「ナンパな訳ないだろ……! はぁ、おはようホシノ」

 

思わずため息をつきながら否定する。ホシノはくすくすと笑っていた。

以前の彼女なら、こんな軽口を叩くことはまずなかった。どこか他人と距離を置き、必要以上の感情を見せない性格だったはずだ。けれど、俺が退院した頃からだろうか。

少しだけ肩の力が抜けたように、時折こうして冗談を言うようになった。口調も柔らかくなり、表情も前より豊かになった気がする。

 

「おはよう、彗斗……で、誰? 私の名前知ってるみたいだけど」

 

笑みを浮かべたまま、ホシノの視線がノノミへ向く。

その瞬間、空気が少しだけ張り詰めた。

 

「わ、私は……」

 

「どこの生徒? 所属と学年は?」

 

柔らかな声色とは裏腹に、その瞳は相手を見定めるように鋭い。ノノミは一歩、後ずさる。

 

「たぶん私立ネフティス中学校のだぞ。校章がそこの中学のだし」

 

俺が間に入るように答える。

 

「知っているんですか……?」

 

ノノミが驚いたように目を丸くする。

ホシノは彼女の制服をじっと見つめ、小さく呟いた。

 

「……私立ネフティス中学校。ネフティス企業傘下の超エリート校」

 

その言葉と共に、彼女の表情から笑みが消えていく。

 

「ネフティスの後継者が残ってるとは聞いたけど……なるほど、君だったんだね。

 十六夜ノノミさん?」

 

ノノミの肩がぴくりと震えた。

自分の正体を見抜かれた驚きと、嫌な予感。そんな感情が、その表情にありありと浮かんでいる。

ホシノは一歩前へ出た。

 

「かの高名な悪徳企業《ネフティス》のお嬢さんが、私たちの学校に何の用?」

 

その声は静かだった。だからこそ、余計に重い。

 

「回答によっては……ヘイローの無事は保証しないよ」

 

冗談ではない。ノノミにも、それが分かった。彼女の顔から血の気が引いていく。

 

「待て待て、落ち着けホシノ…」

 

思わず俺は二人の間に立った。ホシノの警戒も分かる。

アビドスにとって、企業という存在は決して良い印象ばかりではない。

だが――。

目の前のノノミは、怯えきった一人の少女にしか見えなかった。

 

「ご、ごめんなさい……私は……」

 

何かを言おうとしたノノミの声は、小さく震えていた。

言い訳をするべきか。本当のことを話すべきか。迷っているうちに、言葉は喉で止まってしまう。

そして。

 

「……っ!」

 

くるりと背を向け、そのまま走り去ってしまった。残されたのは、気まずい沈黙だけだった。

 

「……言いすぎちゃったかな」

 

ホシノがぽつりと呟く。さっきまでの強気な態度はどこへやら。

少しだけ耳を伏せた猫みたいに、ばつの悪そうな顔をしていた。

俺はため息をつく。

 

「お前も、もうすぐ後輩ができるかもなんだから、そういう口調は直しとけよ……」

 

ホシノが視線を逸らす。

 

「……」

 

「それはそれとして、あとでユメ先輩に説教してもらうからな」

 

「うぇっ……」

 

ホシノの顔がみるみる青ざめた。

 

「さすがに勘弁してほしいかな〜……。」

 

さっきまでの迫力は完全に消え失せている。その様子に、思わず苦笑してしまった。

すると。

 

「おはよう! 彗斗くんとホシノちゃん!」

 

明るく元気な声が、朝の空気を吹き飛ばすように響いた。

振り返ると、満面の笑みを浮かべたユメ先輩が、大きく手を振りながらこちらへ駆けてきていた。

その姿を見たホシノは、自分の運命を悟ったような顔をして、小さく固まっていた。

 

「ホシノちゃん……ちょっと、お話ししようか?」

 

ユメ先輩は笑顔だった。だがいつもの柔らかい雰囲気はない。

 

「……はい」

 

その雰囲気を感じたのか、ホシノは珍しく抵抗しなかった。

 

「彗斗くん」

 

「ん?」

 

「ちょっとホシノちゃん借りるね」

 

「了解です」

 

「うへ〜……」

 

そんな情けない声を上げながら、ホシノはユメ先輩に連れて行かれた。

その背中を見送りながら、俺は小さく肩をすくめた。

 

「……自業自得だな」

 

____________________________________________

 

放課後。

仕事も終わり、俺は鞄を肩に掛けた。

 

「帰るか」

 

昇降口を抜ける。夕日が沈み太陽の反対側の空は暗くなっていた。

校門くぐろうとして。足を止める。

 

「……」

 

人影が二つ。校門の横の積もった砂の近く。

ホシノ、そしてノノミ。

俺は声を掛けなかった。少し離れた場所で見守る。

ホシノが、珍しく落ち着かない様子で頭を掻いていた。

 

「朝はごめんね、ちょっと言い過ぎたね」

 

夕日に照らされた校門の前。ホシノは頭を掻きながら、小さく頭を下げた。

ノノミは目を丸くする。

まさか、副生徒会長自ら謝ってくるとは思っていなかったのだろう。

 

「い、いえ!」

 

慌てて首を振る。

 

「私の方こそ、急に押しかけてしまって……」

 

「でも、怖かったでしょ?」

 

その問いに、ノノミは少しだけ言葉を詰まらせた。

 

「……はい」

 

正直な返事にホシノは苦笑する。

 

「そっか」

 

短い返事。

それ以上、言い訳はしなかった。

 

「ユメ先輩にも怒られちゃったしね〜。」

 

「怒られたんですか?」

 

「いっぱいね、すごくいっぱい」

 

「……」

 

ノノミは思わずくすりと笑った。

その笑顔を見て、ホシノも少し安心したようだった。

しばらくの沈黙。夕方の風が、砂をさらっていく。やがて、ホシノが口を開いた。

 

「それで君は、なんでアビドス高校に来たの?」

 

ノノミは胸の前で両手を重ねる。少しだけ緊張した表情をしている。

 

「私は……」

 

夕日に照らされた金色の瞳が、真っ直ぐホシノを見る。

 

「アビドス高校を助けたいんです」

 

「……」

 

「皆さんが借金で困っているって聞いて、だから」

 

ノノミは決心したように頷いた。

 

「私、お役に立てると思うんです。」

 

そう言って、制服のポケットから、一枚のカードを取り出した。

夜空の光に照らされて、金色に輝くカード。

 

「これを使ってください!」

 

ホシノは驚いた表情をする。

ノノミは胸を張って言う。

 

「ネフティスのゴールドカードです!これなら、アビドス高校の借金も全部返せると思います!」

 

その言葉に、ホシノはカードを見てノノミに視線を戻す。

そして、静かに首を横に振った。

 

「ごめん」

 

「……え?」

 

「それは受け取れないかな」

 

ノノミは驚いた。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

ホシノはカードを見つめたまま言う。

 

「そのゴールドカードで借金を返済するって意味、ちゃんとわかってるの?」

 

ホシノはノノミを見る。

 

「善意から言っているのはわかるよ、でも他の人にはそれをどう受け取ると思う?

 そのカードはネフティスのものでしょ、つまり学校の借金を返したのは、ネフティスってこと

 になる、君じゃなくてね。少なくとも世間からはそう思われてしまうよ」

 

ノノミの手が、小さく震えた。

 

「私は……」

 

一幕おいて再びホシノが口を開く。

 

「自由に使えるからといって、そのお金は君のものじゃないんだよ、お嬢さん、

 これまで、自分でお金を稼いだことは?家のお手伝いでもいいけどさ、

 そのお金は誰が用意したものか、よく考えたほうがいい」

 

「で、では…どうすれば、アビドスの借金を返せるでしょうか?」

 

その問いにホシノは答える。

 

「アビドスの生徒として稼いだお金で、稼いだお金で、返せばいいんじゃない?」

 

ホシノの答えにノノミはハッとする。

 

「…わかりました、出直してきます、それと私はお嬢さんではありません、

 ノノミです、ホシノ先輩」

 

「…え?」

唐突な自己紹介にホシノは困惑する。

困惑するホシノをよそにノノミはアビドス高校から立ち去っていく。

 

「では、また来ますね」

 

ホシノは立ち止まったまま呆然としている。

ノノミの背中は、夕日の中へ消えていった。

 

軽く手を振り、砂を踏みしめながら遠ざかっていく。ノノミの背中は、夜の闇へ消えていった。

ホシノは、その背中をただ見送っていた。

 

「……」

 

ぽかん、とさっきまでの副生徒会長らしい顔はどこへやら。

 

「……変なお嬢さんだね」

 

俺は少し離れた場所で、その様子を見ながら苦笑した。

 

(あいつ、完全に面食らってるな、なんというか……このときから、相性いいんじゃないか?)

 

そう思った瞬間だった。

 

「……ねぇ」

 

びくっ

 

嫌な予感がした。

ゆっくりと顔を上げる。するとホシノがこっちを見ていた。

ばっちりと目が合った。

 

「…………」

 

数秒の沈黙。

そして。

 

「彗斗くん?」

 

にこっ。

笑っている、笑っているのにとても怖い。

 

「……いつから見てたのかな?」

 

「あー……その……」

 

俺は視線を逸らした。

 

「帰ろうとしたら偶然見えてな」

 

「うん」

 

「で、声掛けるのも悪いかなって」

 

「うんうん」

 

「だから、そのまま」

 

「最後まで…?」

 

「…はい」

 

ホシノの笑顔が深くなる。キレてる、間違いなくキレている。内心、恐怖でチビりそうだった。

 

「つまり最初から最後まで全部聞いてた?」

 

「……はい」

 

「へぇ〜」

 

ホシノは頷いた。

 

「そういうことなんだねぇ〜」

 

逃げよう。本能が叫んだ。

 

「じゃ!」

 

踵を返す。

 

「俺、家に帰るよ!」

 

「待ちなよ」

 

制服の襟を掴まれた。

 

「うおっ!?」

 

ホシノの方へ振り返ると、目と鼻の先には拳が迫っていた。

 

ゴスッ

 

鈍い音が響く、彗斗はあまりの痛みに顔を抑えうずくまる。

 

「ア“ア“ァ〜〜」

 

うずくまる彗斗を見てホシノはつぶやく。

 

「じゃ、私は帰るから」

 

ホシノはそう言いながら、彗斗の横を素通りし校舎から離れていった。

結局放置された彗斗は鼻を抑えながら家に帰った。

 

____________________________________________

 

ノノミと初めてあって二週間後、そしてユメ先輩の卒業式をしてから一日後

アビドスの朝は、相変わらず砂風が吹いていた。

彗斗はアビドス高校へ向かいながら呟く。

二週間前、あの日ノノミとの会話を盗み見していたことがホシノに見つかり、

全部聞いていたことがバレて。

そして顔面に一発。

龍気で身体能力が上がっていようが、ホシノの不意打ちには勝てない。

 

「……痛かったな」

 

小さくため息をついた。そんなことを考えながら校門へ向かっていると。

 

「あ」

 

見知った二人組が目に入った。ベージュ髪の少女と、順調におじさん化が進んでいる副生徒会長、

ノノミとホシノだった。

しかも、普通に並んで歩いている。

 

(……めちゃくちゃ仲良くなってるな)

 

二週間前の空気はどこへやら。俺は温かい目をしながら近づいた。

 

「おはよう」

 

「あ、おはようございます! 彗斗さん!」

 

ノノミが満面の笑みで手を振る。ホシノもこちらを見た。

 

「おはよ〜……」

 

俺はふと疑問に思ったことを口にする。

 

「そういえば中学校はどうしたんだ?」

 

「あ、それなんですが」

 

ノノミは胸を張った。

 

「卒業しました!4月頃には正式にアビドス高校のお世話になります!よろしくお願いします!」

 

深々と頭を下げるノノミ。

 

「こちらこそよろしく」

 

そんな他愛ない話をしながら、三人で校門へ向かった。朝の空気に笑い声が混じる。

その時だった。

 

ザザッ

 

砂を蹴る音。何かが高速で近づいてくる。反射的に振り向いた。

そこには灰色の髪、獣の耳。ボロボロになった服を着た少女がこちらへ一直線に飛び込んできた。

 

(…シロコ!?)

 

見覚えのある特徴それは、ブルーアーカイブのメインヒロイン(?)の砂狼シロコだった。

シロコは一直線にこちらに向かって来た。しかもそれなりに速い。

普通の生徒なら反応できない。

だが、ホシノよりは遅く完全に捉えていた。

右へ半歩ズレて、突進を回避。回避されたことにシロコが驚いたように目を見開く。

その隙に、左手で手首を掴む。

 

「!」

 

さらに体をひねり、突進してきた勢いを利用して、地面へ転がした。

 

「ぐっ……!」

 

シロコはすぐに立ち上がろうとする。

だが、俺はその前に背後へ回り込み腕を軽く押さえる。

 

「そこまでだよ〜」

 

するとホシノの声がかかる。見るとホシノも完全に臨戦態勢になっている。

複数人だと分が悪いのか、少女が動きを止めた。

静寂が続く。

数秒後静寂を破ったのは完全に困惑しているノノミだった。

 

「え、えっと……?」

 

するとシロコは小さく呟いた。

 

「……失敗した。」

 

「俺を倒せてたところで、ホシノがいるから意味ないぞ」

 

「……」

 

シロコはじーっとこちらを見る。

綺麗な青い瞳だった。よく見ると瞳孔がオッドアイになっている。にしても小さいすごい小さい。アビドス三章を見ていたから、小さいのは知っていたけど実際見るとかなり小さい。

これがあと二年でシロコ*テラーみたいなビッグサイズになるのか…成長期ってすごいな!

とそんなことを思っているシロコの殺気がなくなっていることに気づく。

ボロボロの少女を取り押さえていることに罪悪感を感じている俺は手を離す。

手を離した後、シロコは服についた砂を払った。

そして、ホシノがシロコの前まで歩いていく。

 

「君のお名前は?」

 

ホシノは、できるだけ警戒心を与えないように、柔らかい声で尋ねた。

目の前の少女は、さっきまで彗斗に飛びかかっていたとは思えないほど静かだった。

 

「……シロコ、砂狼シロコ」

 

短い返事。ホシノは小さく頷く。

 

(シロコちゃん、か。少なくとも自分の名前は覚えてるんだね)

 

少しだけ安心した。

 

「えっと、シロコちゃんはどこの学園?」

 

続けて尋ねる。彼女はどこの生徒なのか。

その質問にシロコは予想外の返答をする。

 

「……分からない。気づいたらここにいた。名前以外わからない」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

「……え?」

 

ホシノは思わず目を見開いた。

 

(名前以外、分からない……?)

 

冗談を言っているようには見えない。

その青い瞳には戸惑いも悲しみもなく、ただ事実を告げているだけだった。

だからこそ、胸の奥が少し痛んだ。

 

(この子、本当に何も覚えてないんだ。)

 

ノノミも困ったようにシロコを見つめる。

 

(記憶喪失……? そんなことって、本当にあるんでしょうか。)

 

自分でも何を言えばいいのか分からない。

原作を知っているとはいえ、こんな小さな女の子がたった一人で砂漠を彷徨っていたのかと思うと、かなり不安になる。

 

「ほ、ホシノ先輩、彗斗先輩、どうしましょう?」

 

助けを求めるように二人を見る。俺は小さく息を吐いた。

 

(今はそんなことを考えている場合じゃないな…)

 

シロコの格好を見る。

ボロボロの服、防寒具もない。さらには冬のアビドスの朝だ、普通ならとっくに身体を冷やしている。

 

「とりあえず中に入れようぜ。この薄着で外はまずい」

 

そう言うと、ノノミも何度も頷いた。

 

「そ、そうですね!」

 

ホシノも静かに頷く。

 

(……うん。何者かなんて後でいい、この子は今、一人ぼっちなんだから)

 

そう思うと、放っておけなかった。

ホシノはゆっくりとシロコの前に立つ。

 

「シロコちゃん。」

 

「……?」

 

「とりあえず、一緒に来よっか」

 

そう言って、マフラーを巻きそっと手を差し出した。

シロコはその手を掴み、アビドス高校へと向かった。

 

____________________________________________

 

アビドス高校に到着したシロコは、予備の制服へと着替えた。その後、物置部屋に放置されていた銃を手渡される。一通り準備を終えると、ユメ先輩が「校舎を案内するね」と言って生徒会室を後にした。ユメ先輩とシロコが部屋を出て数分。校舎に、乾いた銃声が響いた。

 

「えっ?」

 

「今の音……!」

 

生徒会室に残っていたホシノと彗斗は顔を見合わせ、銃声のした方角へと駆け出す。

そして――現在に至る。

 

「ひぃん、私を撃たないで〜!」

 

廊下の先では、ユメ先輩が涙目で逃げ回っていた。

その後ろを、銃を構えたシロコが淡々と追いかける。

 

「……私は、自分より強い人の言葉しか聞かない」

 

「ホシノちゃん、彗斗くん、助けて〜!」

 

ユメ先輩の悲鳴を聞き、ホシノが大きくため息をついた。

 

「いやぁ……これは止めないと駄目だねぇ」

 

「野生児かよ…」

 

シロコは二人を見るなり、静かに銃口を向けた。

 

「邪魔をするなら、あなたたちも」

 

「そう」

 

ホシノが肩を回す。

 

「だったら、おじさんたちが相手をしてあげるよ」

 

次の瞬間、シロコが引き金を引いた。

しかし、放たれた弾丸はホシノが素早く身を翻して回避する。

その隙に彗斗が龍気を体に流し、距離を詰めた。

 

「校内で銃火器は厳禁だぞ」

 

シロコが反応するより早く、その手首を掴む。銃口が逸れた。

シロコは抵抗しようとするが、その動きをホシノが後ろから封じる。

 

「はい、終わり〜」

 

「……」

 

シロコはしばらく動こうとしたが、やがて抵抗をやめた。

 

「私の、負け」

 

ホシノが頷く。

 

「潔いね〜」

 

シロコは静かに二人を見上げた。

 

「……あなたたちは、私より強い。」

 

「まあ、だろうな」

 

「なら」

 

シロコは小さく頷いた。

 

「私は、二人の言うことを聞く」

 

その一言に間をおいてホシノは答えた。

 

「じゃあ、アビドスに入学しておじさん達のことを先輩って呼んでもらおうかな」

 

シロコは少し考えてから、小さく答えた。

 

「……ん、分かった」

 

____________________________________________

 

それから数日後。

 

「借金があるなら、お金が必要」

 

シロコは真剣な表情でそう言った。

 

「だから、古鉄屋にあった物を持ってきた」

 

校舎の前には、金属くずや工具、古びた機械部品が山のように積み上げられていた。

その光景を目にした彗斗は、思わず固まる。

 

「……これ、どこから持ってきた?」

 

「街の古鉄屋」

 

「買ったの?」

 

「違う」

 

一拍置いて、シロコは淡々と答えた。

 

「持ってきた」

 

「それを世間では盗んだって言うんだよ!」

 

ユメ先輩が頭を抱えて叫ぶ。隣では、ホシノも額に手を当ててため息をついた。

 

「借金を返すために、借金を増やすようなことをしちゃ駄目だよ〜」

 

シロコは不思議そうに首を傾げる。

 

「借金は減ると思った」

 

「人の物を勝手に持っていくのは駄目」

 

ユメ先輩はシロコの目を真っ直ぐ見つめた。

 

「困っていても、それを理由に人の物を盗っていいわけじゃないよ」

 

「……」

 

シロコは黙ったまま、積み上げられた鉄くずへと視線を落とす。

 

「一緒に返しに行こうね」

 

しばらくの沈黙の後、シロコは小さく頷いた。

 

「ん、分かった」

 

____________________________________________

 

古鉄屋。

シロコと彗斗は、持ち出した品々を荷車に積み直し、店の前に立っていた。

店主は腕を組み、険しい表情で二人を見つめている。

シロコは一歩前に出ると、静かに頭を下げた。

 

「……ごめんなさい」

 

そのまま深く頭を下げる。隣で彗斗も頭を下げた。

 

「シロコを止められませんでした。監督が行き届いておらず、本当に申し訳ありません」

 

店主は二人をじっと見つめる。やがて、大きくため息をついた。

 

「……ちゃんと反省してるみたいだな」

 

少し間を置き、苦笑を浮かべる。

 

「今回は許してやるよ」

 

シロコは顔を上げた。

 

「……うん」

 

店主は荷車に積まれた鉄くずへ目を向けると、軽く手を振った。

 

「それと、今度から必要ならちゃんと声をかけな。不要な鉄くずが出たら、連絡してやる」

 

「……本当?」

 

「ああ。ただし、勝手に持っていくのはなしだ」

 

「ん、分かった」

 

店主は満足そうに頷く。

 

「それじゃあ、またな」

 

「……うん」

 

シロコは静かに頷き返した。

古鉄屋を後にするその横顔には、どこか少しだけ、来た時よりも反省の色が浮かんでいた。

 

____________________________________________

 

古鉄屋での一件から、二週間が過ぎた。

その日の朝、アビドス高校の体育館では、ユメ先輩が忙しそうに準備を進めていた。

 

「ホシノちゃん! その花、もう少し右!」

 

「はいはい、おじさん頑張るよ〜」

 

「彗斗くん、その看板お願い!」

 

「分かった」

 

体育館の入口には、大きな看板が立て掛けられている。

 

『アビドス高校 入学式』

 

生徒の数は少なくなってしまったが、新しい仲間を迎える大切な日だ。

ユメ先輩は何度も会場を見回し、満足そうに頷いた。

 

「うん! これで準備完了!」

 

しばらくすると、体育館の扉が静かに開いた。

 

「失礼します。」

 

ベージュの長い髪を揺らしながら、ノノミが入ってくる。

その隣には、真新しい制服に身を包んだシロコの姿もあった。

 

「二人とも!」

 

ユメ先輩が駆け寄る。

 

「入学おめでとう!」

 

「ありがとうございます」

 

「ん、ありがとう」

 

ホシノは帽子を軽く上げた。

 

「ようこそ、アビドスへ」

 

彗斗も微笑みながら頷く。

 

「歓迎するよ」

 

二人は揃って頭を下げた。やがて、入学式が始まる。

ユメ先輩が前に立ち、大きく息を吸った。

 

「今日から、シロコちゃんとノノミちゃんはアビドス高校の仲間です!」

 

体育館に拍手が響く。

 

「昔はたくさん生徒がいた学校だけど、今は少し寂しくなっちゃいました」

 

少しだけ表情を曇らせるユメ先輩。しかし、すぐに笑顔を浮かべた。

 

「でも、二人が来てくれたおかげで、また賑やかになります!」

 

ホシノも拍手を送る。

 

「仲間が増えるのは嬉しいねぇ」

 

ノノミは嬉しそうに微笑んだ。

 

「これからよろしくお願いします」

 

「ん、よろしく」

 

シロコも小さく頷く。

 

ユメ先輩は満足そうに両手を叩いた。

 

「これで入学式はおしまい!」

 

「短いねぇ」

 

ホシノが苦笑する。

 

「大事なのは気持ちだから!」

 

ユメ先輩は胸を張った。その時、彗斗が思い出したように口を開く。

 

「せっかくだし、記念写真を撮らない?」

 

「賛成!」

 

ユメ先輩が元気よく手を挙げた。

 

「入学式だもん! 絶対撮ろう!」

 

体育館の中央へ椅子を並べる。ユメ先輩がシロコとノノミを真ん中へ呼んだ。

 

「今日は二人が主役だからね!」

 

「はい!」

 

「ん」

 

ホシノは後ろに立ち、彗斗もその隣に並ぶ。

 

「よーし、撮るよー!」

 

ユメ先輩は慌ててカメラのタイマーをセットした。

 

「十秒! 十秒しかない!」

 

「急げ急げ〜。」

 

ホシノが笑う。ユメ先輩は全力で走って戻り、シロコの隣へ飛び込んだ。

 

「間に合った!」

 

「……あと三秒」

 

シロコが冷静に告げる。

 

「えっ!?」

 

慌てて姿勢を正すユメ先輩。

ノノミはくすくすと笑い、ホシノは小さく笑みを浮かべた。彗斗も自然と笑顔になる。

そして。

 

カシャッ

 

シャッターの音が体育館に響いた。

撮れた写真には、少し慌てたユメ先輩と、穏やかに笑うノノミ、静かに立つシロコ、優しく微笑むホシノ、そして仲間たちと並ぶ彗斗の姿が写っていた。

ユメ先輩は出来上がった写真を見て、嬉しそうに言う。

 

「これで、みんなアビドス高校の仲間だね!」

 

シロコは写真をじっと見つめ、小さく頷いた。

 

「……ん、大切にする」

 

春の暖かな風が体育館を吹き抜ける。

こうして、シロコとノノミを迎えたアビドス高校は、新しい仲間との最初の一日を、

笑顔と一枚の記念写真とともに刻んだのだった。




1万を超えた…だと…
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