青い空と赤い星   作:(눈_눈)

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ハーフアニバーサリーまで石を貯めなきゃ…


#14  赤き星と運命の始まり

アビドス高校。

朝日が昇った砂漠は、今日も変わらず乾いた風を運んでいた。

彗斗は校舎の屋上に立ち、遠く広がる青空を静かに見上げる。

 

(……今日が、先生が来る日か)

 

そっと目を閉じた。

先生。連邦生徒会長が最後に託した存在。

やがてアビドスを救い、多くの学園を救い、そしてキヴォトスそのものの運命を変えていく、大人。そのことは知っている。けれど――。

 

(実際、どんな人なんだろうな)

 

未来の出来事は知っていても、先生本人については案外知らない。

がっしりした体格で、生徒を軽々と担いで走り回るような、開発部先生かもしれない。

それとも、どこか胡散臭い笑みを浮かべる便利屋先生かもしれない。

あるいは、優しい女性の先生なんて可能性だってある。

もしかしたらガチでアロナの似顔絵みたいな可能性も……ないな!

想像すればするほど、答えは浮かばない。

 

「……結局、会ってみないと分からないか」

 

小さく苦笑する。知らない。だからこそ、少しだけ楽しみだった。

連邦生徒会長が、自らキヴォトスの未来を託した大人。

そんな人物が、一体どんな人なのか。乾いた風が吹き抜け、彗斗の髪を揺らす。

彼は静かに空を見上げ、小さく呟いた。

 

「さて……見に行くか」

 

気づけば小さく呟いていた。背中から龍気が溢れる。

 

キィィィィン!!

 

赤黒い光が翼を形作る。腰の後ろでは尾がゆっくり揺れている。地面を蹴り、砂が舞う。

次の瞬間、彗斗の身体は空へ飛び上がった。翼から噴き出す龍気が轟音を響かせる。

赤い流星が砂漠を越えた。

目指すはD.U. 、サンクトゥムタワーへ。

 

____________________________________________

 

空を飛んで数十分後、アビドスとは似ても似つかないほど発展しているD.U.の景色。

道路、商店街、学園、公園、高層ビル。まるで元いた世界の都会のようだ。

やがて、遠くに黒煙が見えた。

 

(もう始まってるのか!?)

 

彗斗は翼を傾け、一気に高度を下げる。

しかし、戦場へ飛び込む直前。翼を大きく広げ、急制動。

風を殺しながら近くの高層ビルの屋上へ降り立った。

 

「……」

 

足音を消し、屋上の縁へ歩く。そっと下を覗き込んだ。

そこでは数人の不良生徒たちが、一人のヴァルキューレの生徒を取り囲んでいた。

 

「くっ……!」

 

制服は汚れ、銃を構える腕も震えている。周囲には倒れた仲間が数人。

 

「全く手応えがねぇな!」

 

不良の一人が銃を向け、引き金が引かれる。

その瞬間。

 

――ヒュン。

 

鏡のようなものが弾丸を斬る。

 

ガキィン!!

 

弾丸が真っ二つになって地面へ落ちる。

 

「なっ!?」

 

誰もが刀が飛んできた方を見る。

視線の先には、異質な形の影があった。

背中からは鳥や蝙蝠などととは根本的に違う形の翼を持った、人がいた。

フードでよく見えないが、こちらを見下ろしているのがわかる。

 

「誰だ……!」

 

答えはない。彗斗は一歩踏み出した。

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

屋上から飛び降りる。重力のままに落下していく。

その勢いのまま、不良の集団の中央へ着地した。衝撃で砂煙が舞う。

 

「化け物がよ!」

 

「撃て!」

 

一斉射撃がくる。だが、彗斗は一歩も動かない。背中の翼が大きく広がった。

 

ガガガガガッ!!

 

銃弾は赤い翼に弾かれ、火花を散らす。

 

「そんな……!」

 

彗斗はゆっくりと歩き出した。

不良の一人が殴りかかる。その腕を掴み、軽く投げる。

 

ドゴォン!!

 

数メートル先まで吹き飛んだ。

別の一人には蹴りで、銃を弾き飛ばす。振り向きざまに盾で一撃。

三人目、四人目、五人目、誰一人として反応できない。

 

「逃げろ!」

 

「無理だ!」

 

「なんなんだよ、こいつ!」

 

彗斗は一言も喋らない。

ただ、確実に、一人ずつ戦闘不能にしていく。

やがて、最後の一人が震えながら後ずさる。

 

「ひっ……!」

 

彗斗は静かに刀を構えた。

刀を横に振り、手に持っていた銃だけを叩き折った。

不良たちは悲鳴を上げながら走り去っていった。

戦場に静寂が戻る。

すると助けられたヴァルキューレの生徒が立ち上がった。

 

「あ、あなたは……!」

 

彗斗は振り返らない。背中の翼が赤く輝く。

 

「待って! せめて名前だけでも!」

 

答えはない。

 

ゴォォォッ!!

 

翼が大きく広がり、赤い光を放つ。

次の瞬間、彗斗の姿は空へ飛んでいく。ヴァルキューレの生徒は呆然と見送るしかなかった。

 

「……助けてくれたのか?」

 

「でも、誰だったの……?」

 

しばらく飛んだ後。彗斗は人気のないビルの屋上へ降り立った。

 

(……目立ちすぎたな)

 

そう思った矢先。遠くから銃声が聞こえる。

視線を向けると、四人の少女が不良たちと戦っていた。

 

(……ラッキー!)

 

ブルーアーカイブのプロローグで操作する四人の少女がいた。

白い髪に頭から翼が生えているスズミ。黒い大きな翼を持ったハスミ。

青い髪に二丁のマシンガンを持ったユウカ。そして眼鏡をかけているエルフ耳のチナツ。

そして、少し後ろに大人が一人。

 

(あれが…!)

 

先生がいた。

彼はユウカ、スズミ、ハスミ、チナツにそれぞれ指示を出している。彗斗は指揮をしたことがないが、それでも先生の指揮はすごいと思えるほど、圧倒的だった。

周囲の少女たちは自然とその人の指示を聞いている様子で、全体の動きに無駄がないと思えた。

 

(……さすがだな)

 

戦っているのは生徒たち。それなのに、戦場全体を動かしているのは先生だった。

一人一人がそれぞれカバーし、隙を無くしている。それがよく分かった。

 

(これが…)

 

先生、連邦生徒会長が選んだ人。

自然と口元が緩む。

その時だった。

風向きが変わり、彗斗の眉が動く。嫌な予感がする。

視線を動かすと瓦礫の向こうに巨大な影を見つける。

 

(……戦車)

 

巡航戦車だ。

瓦礫に潜み砲塔がゆっくり回る。

砲身の向いている先を見るとそこには——。

 

「先生!!」

 

ユウカが叫ぶ。

 

「危険です!」

 

チナツ。

 

「避けてください!」

 

スズミ。

 

ハスミはライフルを構えた。

 

(間に合わないっ…!)

 

そう思った。考えるより先に身体が動いていた。

翼が大きく広がり龍気が爆発するように噴き出す。

 

キィィィィン!!

 

耳をつんざくような高音が響く。その異様な音に全員が空を見る。

空を見ると空の青を切り裂くような赤い閃光が走った。

 

「何……!?」

 

ユウカが呟く。

そしてチナツが目を見開く。

 

「あの赤い光……!」

 

戦車に向かって加速しながら落下する。

彗斗は空中で翼を折り畳む。そのまま身体を回転し刀を構える。

 

(叩き切るッ!)

 

一直線に戦車へ向かう。

 

ズドォォォン!!

 

落下の勢い、龍気による加速、全てを乗せた一撃。

砲塔ごと、戦車が真っ二つになった。

その瞬間、爆発し炎が上がる。爆発の衝撃波で中にいた、不良たちが外へ飛ばされる。

彗斗はそのまま着地し、殺しきれなかった勢いで地面が陥没する。

静寂が場を支配する。誰も動かなかった。

チナツがそっと呟く。

 

「……噂は、本当だったのですね」

 

ハスミは過去の出来事を思い出す。

 

(あの方は……)

 

二年前、トリニティ上空。

対空防衛網に引っかかった、突如現れた赤い飛行体。

ナギサ様に案内されロールケーキを買ってそのまま姿を消した存在。

 

(あの時の!)

 

心の中で呟く。

先生は、ただ呆然と見ていた。

 

(か、かっこいい!)

 

そんな感想が自然と浮かぶ。

その時、風が吹いた。風の吹いた方向を見る。そこには、つい最近出会った知人——-。

狐面、黒髪、狐尾の少女、狐坂ワカモがいた。

 

「うふふ…」

 

瓦礫の上で少女が笑った。

 

「こんな所で出会うとは…奇遇ですね…」

 

彗斗は振り返る。

 

「……ワカモ」

 

「うふふ…四日ぶりですね」

 

狐の尾が揺れ、銃剣が向けられる。

 

「……決着を、つけましょうか。」

 

ワカモが静かに微笑む。

狐面の奥の瞳は、先生でも、ユウカたちでもなく、ただ一人――彗斗だけを映していた。

彗斗はゆっくりと刀を抜く。

左腕の盾を構え、背中の翼が大きく広がった。

 

キィィン……

 

赤い龍気が翼の隙間から溢れ出し、熱を帯びた風が周囲を吹き抜ける。

 

(……ここは俺が止める)

 

ちらりと後ろを見る。

先生たちは無事だった。ユウカたちも先生を守るように立っている。

ならば。

 

(あとは、俺の役目だ)

 

再び視線をワカモへ向ける。刀を構え、一歩踏み出した。

 

「来いッ!」

 

その一言に、ワカモは嬉しそうに肩を震わせた。

 

「ええ!」

 

狐尾がふわりと揺れる。銃剣が静かに持ち上がった。

風が止まり、互いの視線が交わる。次の瞬間。

 

パンッ!!

 

乾いた銃声が響き渡る。

それを合図に。災厄の狐――狐坂ワカモ。

そして、赤い彗星――天宮彗斗。二人の戦いが、再び幕を開けた。

 

____________________________________________

 

ワカモの放った一発を、彗斗は半歩だけ身体をずらして躱した。

頬を掠めた弾丸が、背後のコンクリートを砕く。

 

「さすが…速いですね!」

 

狐面の奥で、ワカモが嬉しそうに笑う。

彗斗は刀を構え直す。

 

(ここで止める)

 

視線を僅かに動かす。

先生たちは、ワカモが現れた隙を逃さず、シャーレへ向かって走っていた。

ユウカが先生を庇うように前へ、チナツが周囲を警戒し、スズミが退路を確保する。

ハスミはライフルを構え、いつでも援護できる位置を取っていた。

 

(……よし)

 

最低限の役目は果たせた。

後は。

 

「タイマンと行こうか…!」

 

ワカモが銃剣を向ける。

 

「うふふ…!最初からそのつもりです!」

 

二人が同時に地面を蹴った。

 

ドンッ!!

 

二人が一直線にぶつかり、刀と銃剣が鍔競り合う。

 

ギィィィン!!

 

甲高い金属音と共に火花が散った。

ワカモはそのまま身体を回転させ、尾の勢いを乗せた蹴りを放つ。

彗斗は左腕の盾で受ける。

 

ガンッ!!

 

重い衝撃がくる。盾越しに腕が痺れる。

 

(……重いッ!)

 

七囚人。

その異名は伊達ではない。

ワカモは着地と同時に銃を連射した。

 

パン!パン!パン!

 

彗斗は盾を傾け、ワカモが盾に隠れないようにする。

盾から火花が散り、銃弾を弾いた。それを合図に踏み込み、刀を振る。

ワカモが銃剣で受け流す。

追撃に下段から蹴りを入れる。ワカモがそれを跳んで回避する。

その瞬間、背中の翼から赤い龍気が噴き出した。

 

ゴォォッ!!

 

龍気弾を放つ。

間一髪で空中で身体を捻り回避するワカモ。しかし避け切れない。

和服の袖を掠め、布を焦がした。

 

「うふふ……!」

 

狐面の奥で笑う。

 

「本当に、楽しいですね!」

 

その頃。

先生たちはシャーレへ辿り着いていた。

 

「急いでください!」

 

ユウカが叫ぶ。

先生が振り返る。そこには赤い光と黒い影。二人の姿が激しく交錯していた。

思わず足を止める。

 

「先生!」

 

チナツが呼ぶ。

 

「行ってください!」

 

“……!“

 

先生は頷き、シャーレへ駆け込む。ユウカたちは入口を固めた。

 

「ここを守るわよ!」

 

「了解です!」

 

「ええ!」

 

ハスミだけは二人の動きを目で追っていた。

 

(援護を!)

 

ライフルを構え、照準を合わせ、ワカモを狙う。

その時、上空から声が響いた。

 

「撃つな!」

 

彗斗だった。

 

「!」

 

その言葉を聞きハスミは引き金から指を離した。

 

(……そうですか)

 

静かに目を閉じ、ライフルを下ろした。

 

「…承知しました」

 

戦いは続く。屋上を駆け、壁を蹴り、空を舞う。

ワカモが撃つ。彗斗が避ける。刀が閃き、銃剣が受ける。翼が風を裂き。龍気が爆ぜる。

 

ドォォン!!

 

瓦礫が吹き飛ぶ。

 

ガンッ!!

 

盾が受け止める。

 

ギィィィン!!

 

刃が鳴る。

ワカモとの戦いが始まって五分、十分、二十分、三十分と経過する。

互いに決定打はない。息は乱れ、肩で呼吸をする。

それでも、ワカモは楽しそうだった。

銃剣で突き、刀で流す。蹴りが来て、盾で受け。蹴りの受けた反動で距離が開く。

その時だった。風向きが変わり、ワカモの耳がぴくりと動いた。

 

「……?」

 

シャーレの扉が開き、一人の大人が飛び出してきた。

先生だった。どうやらシッテムの箱を手に入れてから急いで戻ってきたのだろう。

肩で息をしながら、それでも仲間たちの方へ駆けてくる。

 

「みんな!」

 

先生の声が聞こえ、ワカモが急に動きを止めた。

 

「……」

 

狐面の奥から、じっと先生を見つめる。

彗斗は眉をひそめた。

 

(ま、まさか)

 

長い沈黙。

するとワカモは挙動不審になっていく。

 

「……あら、あららら」

 

慌てて銃を下ろす。ワカモの様子を見て、彗斗は警戒を解いた。

ワカモは先生から目を離さない。隣に俺がいるということに気づいていないように。

 

「し、し、しつれいしました〜〜〜!」

 

屋上へ跳び、そのままビルの向こうへ消えていった。

翼の赤い龍気が静かに消えていく。

先生たちが近付いてきた。

 

“だ、大丈夫!?“

 

真っ先に先生が駆け寄る。

 

「まあ何とか…」

 

彗斗は苦笑した。チナツが安堵の息を吐く。

 

「お怪我は?」

 

「特にないよ」

 

俺の言葉を疑うようにチナツは傷を探し出す。

スズミは目を輝かせていた。

 

「すごかったです!」

 

ハスミも静かに頷く。

 

「見事なお手並みでした」

 

ユウカも歩み寄る。

 

「災厄の狐相手に無傷で戦い続けるなんて…」

 

そして、先生。

 

“助かったよ、ありがとう“

 

その言葉に、彗斗は思わず笑った。

 

(この人が…)

 

未来を変える人。

数え切れない生徒を救う大人。翼を折りたたみ、一歩前へ出る。

 

「初めまして」

 

右手を差し出した。

 

「俺は天宮彗斗」

 

少し照れくさそうに笑う。

 

「アビドス高校の三年です」

 

先生も笑顔で手を伸ばした。

 

“初めまして“

 

固く握手を交わす。

その温もりを感じながら、彗斗は胸の内でそっと呟いた。

 

(……やっぱり)

 

きっと、この人なら。

歪んだ未来も、色彩さえも、乗り越えていける。

そう、信じられた。

 

「よろしくお願いします、先生。」

 

戦いの煙が、ゆっくりと青空へ溶けていく。

キヴォトスの運命を変える物語は、この小さな出会いから、静かに始まったのだった。




原作プロローグ〜完〜
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