青い空と赤い星   作:(눈_눈)

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UIAがついに1000を超えました!
見てもらっている人には感謝ぁでいっぱいです!


#4  赤い翼の居場所

翌朝。

アビドス高等学校の校舎には、いつも通り乾いた砂漠の風が吹いていた。

保健室の窓から差し込む朝日を受けながら、彗斗はゆっくりと身体を起こした。

昨日よりはだいぶ楽になっている。

背中の痛みは残っているが、歩くくらいなら問題なさそうだった。

 

「よし……」

 

そう呟いた時だった。

 

コンコン

 

保健室の扉がノックされる。

 

「入ってどうぞー」

 

ガラッ。

 

扉が開く。

入ってきたのはユメとホシノだった。

 

「おはよう、彗斗君」

 

「おはようございます」

 

ユメはいつも通り柔らかく笑う。

対してホシノは腕を組んだまま壁にもたれかかっていた。

 

「体調はどう?」

 

「だいぶマシになった」

 

「よかったぁ〜」

 

相変わらず優しく接してくれる。

するとユメが突然手を叩いた。

 

「それでね!」

 

嫌な予感がした。

ホシノも同じだったらしい。露骨に顔をしかめている。

 

「私、考えたんだ」

 

「何をですか?」

 

ホシノが聞く。

ユメは満面の笑みで言った。

 

「彗斗君をアビドスの生徒にしようと思うの!」

 

一瞬。

部屋の空気が止まった。

 

「……はい?」

 

彗斗が固まる。

 

「……は?」

 

ホシノも固まる。

ユメだけが楽しそうだった。

 

「だって帰る場所ないんでしょう?」

 

「それはそうですけど……」

 

「だったらアビドスに住めばいいじゃない!」

 

「軽く言いますね……」

 

思わずツッコミが出る。だがユメは真剣だった。

 

「生徒も足りないし!」

 

「それが本音ですよね?」

 

「えへへ」

 

図星だった。ホシノが頭を抱える。

 

「ユメ先輩」

 

「なに?」

 

「何でそんな簡単に信用してるんですか」

 

その言葉にユメは首を傾げた。

 

「ダメかな?」

 

「ダメです」

 

即答だった。

ホシノの視線が彗斗へ向く。鋭い。

副生徒会長ではなく、一人の戦闘員として相手を見ている目だった。

 

「正体不明」

 

「出身不明」

 

「ヘイローも無い」

 

「しかも空から降ってきた」

 

一つずつ指を折る。

 

「怪しさしかありません」

 

「否定できないね」

 

「でしょう?」

 

ホシノはため息を吐いた。

 

「悪い人とは思いません」

 

「でも信用は別です」

 

その言葉に彗斗は頷いた。むしろ当然だった。

自分だって逆の立場なら警戒する。だから反論はしない。

するとユメが頬を膨らませた。

 

「ホシノちゃん厳しい」

 

「当たり前です」

 

「でもいい子だよ?」

 

「昨日会ったばかりですよね?」

 

「そうだけど?」

 

「そうだけどじゃありません」

 

漫才のようなやり取りだった。

だが結局。

話は平行線のまま終わった。

 

____________________________________________

 

その日の午前中、彗斗は校内を歩いていた。

ユメの案内でアビドスを見て回っていたのである。

広い校舎。だが人がいない。

教室も空き部屋ばかりだ、全盛期の面影だけが残っている。

 

「すごいな……」

 

「昔はもっと賑やかだったんだよ」

 

ユメが少し寂しそうに笑う。

その時だった。

突然。

遠くで爆発音が響いた。

 

――ドォォォン!!

 

 

窓ガラスがビリビリと震える。

直後、走ってくるホシノが見えた。

 

「北側です」

 

すれ違いざまに言い、そのまま出口へ向かう。

 

「ホシノちゃん!」

 

ユメが呼び止める。しかしホシノは振り返らない。

 

「先に行きます」

 

短くそれだけ言う。

 

「もう!」

 

ユメが慌てて生徒会室に盾を取りに行く。

 

「学校で安静にしててね、怪我してるんだから」

 

「帰ってきたらまた学校の案内するからね〜!」

 

「ホシノちゃん待って〜!」

 

そのままユメも駆け出した。

 

_____________________________________________________________

 

「……」

 

やはり心配だ。

ホシノとユメ先輩は強い。それは知っている。だが二人だけなのだ。

しかも爆発音が聞こえたということは、それなりのトラブルが起きている可能性が高い。

彗斗はホシノとユメ先輩が向かった先を見る。すでに黒煙が上がっていた。

嫌な胸騒ぎがする。

立ち上がる。

すると。

背中がズキリと痛んだ。

 

「っ……」

 

忘れていた。

まだ傷は治っていない。包帯の下では翼の付け根が熱を持っている。

ユメからも散々「安静にしてて!」と言われていた。普通なら追いかけるべきではない。

だが。

 

「……気になるよな」

 

ため息を吐く。そして校舎を飛び出した。

砂漠の風が身体を叩く。遠くにホシノ達の姿は見えない。

このまま走っていては追いつけない。

だから。

彗斗は背中へ意識を向けた。

赤い粒子が舞う。翼がゆっくりと展開する。

その瞬間だった。

 

「ぐっ……!!」

 

激痛。

まるで焼けた鉄杭を傷口へ突き刺されたような痛みが走る。

思わず膝をつく。呼吸が止まる。

冷や汗が流れる。翼の付け根が悲鳴を上げていた。

まだ飛べる状態ではない。身体がそう訴えている。

だが。

 

「ここで止まるのも……性に合わない」

 

歯を食いしばる。

翼をさらに広げる。傷口が引き裂かれるような感覚。

視界が涙で滲む。

それでも。翼は応えてくれた。

 

キィィィィンーー

 

砂が舞い上がる。身体が浮く。

数メートル。

高くは飛べない。それでも十分だった。

彗斗は砂漠の上を低空で飛翔した。

風が顔を叩く。

しかしそのたびに背中へ激痛が走る。翼の向きを変える度に傷が軋む。

飛ぶというより翼に引き連れられている状態だった。

それでも進む。そして数分後。

銃声が聞こえた。

 

ダダダダダダッ!!

 

轟音。叫び声。砂煙。

現場が見えた。

 

「ヘルメット団……!」

 

十数人はいる。

いや。

二十人近い。どうやら複数グループが抗争を起こしているらしい。

互いに銃を撃ち合い、辺りは混乱状態だった。その中心へ。ホシノが突っ込んでいた。

 

「邪魔です」

 

ショットガンが火を吹く。

轟音。

ヘルメット団員が吹き飛ぶ。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「アビドスだ!」

 

一瞬で戦場の視線が集まる。だがホシノは止まらない。

圧倒的だった。

砂漠を駆けるピンク色の影。次々と敵を制圧していく。その後ろをユメも走る。

 

「ひぃん!数が多すぎるよぉ〜!」

 

ハンドガンで援護射撃。

ホシノの死角を完璧にカバーしていた。

二人の連携は見事だった。

だが。

敵の数が多い。混戦になっている。

その時だった。

 

「っ!?」

 

ユメが振り向く。遅かった。

砂煙の中から飛び出してきたヘルメット団員。

完全な死角。ユメは気付くのが一瞬遅れた。

銃口が向く。

 

「ユメ先輩!!」

 

彗斗が叫んだ。

考えるより先に身体が動く。

翼に強引に力を込める。先ほどより翼が赤に染まる。

激痛。

視界が揺れる。それでも。

間に合え。間に合え。間に合え――!

次の瞬間。

彗斗はユメを庇っていた。

 

キンッキンッ!

 

翼が銃弾を弾く。

銃弾が明後日の方向へ飛んで行く。

 

「えっ……!?」

 

ユメが目を見開く。

その間にも敵が再度銃を構える。

だが。

 

「余所見しすぎです」

 

轟音。

ホシノのショットガンが敵を吹き飛ばした。

静寂。

数秒遅れて状況を理解したユメが彗斗を見る。

 

「彗斗君……?」

 

「大丈夫ですか」

 

そう言った瞬間。

背中が悲鳴を上げた。

 

「ぐっ……!」

 

傷が開いた。熱い感覚。包帯の内側へ血が滲む。

ユメの顔色が変わる。

 

「傷……!」

 

「問題ないです」

 

「あるよ!?」

 

珍しく強い声だった。

だが。

まだ戦闘は終わっていない。

ホシノが前へ出る。

 

「ユメ先輩」

 

その声だけで十分だった。ユメも戦闘へ意識を戻す。

 

____________________________________________

 

それから数分後。

ヘルメット団は完全に制圧された。

逃げ出す者。気絶する者。

抗争は終結した。

夕暮れの砂漠に静けさが戻る。ホシノがショットガンを肩へ担ぐ。

 

「終わりましたね」

 

そして。

ゆっくりと彗斗を見る。その視線には呆れが混じっていた。

 

「なんで来たんですか」

 

「なんとなく」

 

「ヘイローもないのにその傷で?」

 

「なんとなく」

 

「馬鹿ですね」

 

即答だった。

だがその直後。

ホシノがふっと視線を逸らす。

 

「……助かりましたけど

 

小さな声。

聞こえたかどうかも怪しいくらいだった。彗斗は少しだけ笑う。

そして。

視線を感じた。恐る恐る振り返る。そこにはユメがいた。

笑顔だった。柔らかい笑顔。

いつもと同じ。

だが。なぜだろう。ものすごく怖かった。

恐ろしいことにあう気がする。

気のせいかもしれない。いや、絶対に気のせいじゃない。

 

彗斗君

 

優しい声だった。本当に優しい声だった。それが逆に怖い。

ホシノが一歩下がる。

 

「…私は辺りを見てきます」

 

逃げた。完全に逃げた。

彗斗は助けを求めるようにホシノを見る。しかしホシノは視線を逸らした。

見捨てられた。

その後。

アビドスへ戻った彗斗は――。

たぶん人生で一番長い時間、説教を受けた。内容は途中から覚えていない。

正確には覚えている余裕がなかった。ただひたすら謝り続けていた気がする。

そしてアビドス校舎に戻った後。

保健室のベッドへ倒れ込む。

 

「はぁ……」

 

天井を見上げる。

背中は痛い。身体も重い。精神的にも疲れた。

だが。

不思議と嫌な気分ではなかった。

ユメが本気で怒ったのは心配してくれたからだ。ホシノが呆れながらも助かったと言ってくれた。

異世界へ来たばかりの自分を。二人はちゃんと仲間として見てくれている。

それが少しだけ嬉しかった。背中の痛みを感じながら。

彗斗は小さく笑う。そして心の中で誓った。

 

――次はもう少し上手くやろう。少なくとも。ユメ先輩にあんな顔をさせない程度には。

そう思いながら、彗斗は静かに目を閉じた。

静寂が戻る。

____________________________________________

 

その日の昼下がり。

生徒会室。三人が向かい合って座っている。

静かな空気。やがてホシノが口を開いた。

 

「ユメ先輩」

 

「うん?」

 

「反対は取り下げます」

 

彗斗が顔を上げる。ホシノは真っ直ぐこちらを見ていた。

 

「正体は分かりません」

 

「今でも怪しいです」

 

「ひどいな」

 

「事実です」

 

即答だった。だが。

 

「少なくとも」

 

ホシノは続ける。

 

「私達を裏切る人には見えません」

 

「……」

 

「危険を承知で助ける人間は、そう多くないですから」

 

少しだけ。

ほんの少しだけ。彼女は笑った。

 

「だから信用します」

 

その言葉に彗斗は目を見開いた。ホシノが誰かを認める。

それは簡単なことではない。ユメは嬉しそうに立ち上がる。

 

「じゃあ決定だね!」

 

机の引き出しから一枚の書類を取り出した。

 

「編入届!」

 

どうやら最初から準備していたらしい。ホシノが呆れた顔になる。

 

「やっぱり用意してたんですね」

 

「もちろん!」

 

「でしょうね」

 

彗斗は苦笑する。

そして。

しばらく書類を見つめた後。ゆっくりとペンを取った。

帰る場所はない。未来も分からない。それでも。ここには居場所がある。

助けてくれた人達がいる。だから。

 

「よろしくお願いします」

 

名前を書く。天宮彗斗。

その瞬間。ユメが満面の笑みを浮かべた。

 

「ようこそ!」

 

ホシノも小さく肩をすくめる。

 

「改めてよろしくです」

 

こうして。

空から落ちてきた翼の少年――天宮彗斗は、正式にアビドス高等学校の生徒となった。

 




4000文字を超えましたね…自分でもびっくりです。
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