第10章「連鎖」
戦場は、繋がったまま崩れ続けていた。
前線では押し返せる。だが維持できない。後方では戦闘そのものが成立せず、補給も指揮も途切れがちになる。個別の問題は把握されているのに、それを同時に処理する手段がない。
その状況の中で、司令部は初めて“順番”を決めた。
まず前線を繋ぐ。完全な勝利ではなくていい。ガイガンを止めるのではなく、通さない。それだけで戦場は変わる。
都市外縁。
再編された部隊が配置についた直後、例の影が現れる。
ガイガン(FW)
動きは変わらない。無駄がない。地形を読み、火力の薄い箇所を選び、最短で突破する軌道を取る。撃てば外れ、詰めれば抜ける。
これまでと同じ。
だからこそ、同じ結果になるはずだった。
その時、司令部で判断が下される。
「このままでは抜かれます。時間の問題です」
過去の戦闘ログが並ぶ。
どれも同じ結論に収束していた。
追えない。
捕まらない。
防げない。
短い沈黙のあと、声が落ちる。
「……ヴェスパーを出すか?」
空気が変わる。
「対人戦想定の機動部隊です。対怪獣での実績は——」
「関係ない。動きを止められるなら、それでいい」
別回線。
「レッドガンはどうする」
「出さなければ崩れます」
結論は早かった。
「……投入する。両方だ」
戦場。
ガイガンが防衛線へ突入する直前、通信が走る。
「ヴェスパー部隊、展開開始」
最初に滑り込んだのは、
V.IVラスティ
低空をかすめるように進み、そのままガイガンの進行軌道を横切る。
続いて左右へ展開するのは、
V.IIスネイル
と
V.Vホーキンス
三方向から“逃げる先”へ先回りする動き。
追うのではなく、先にいる。
遅れて、重い振動が地面を伝う。
「レッドガン部隊、前進」
先頭に立つのは、
G1ミシガン
その両側を固めるように、
G4ヴォルタ
と
G5イグアス
三機を軸に、後方の機体群が火力ラインを形成する。
回避ではなく、“受け止める”布陣。
その構えの中で、ガイガンが動く。
横へ抜ける。
これまでと同じ動き。
だが今回は、その先にヴェスパーがいる。
逃げる軌道に合わせ、複数角度から同時に斬り込む。
回避の“先”を潰す戦い方。
完全には避けきれない。
装甲が削れる。
ガイガンは即座に方向を変える。
だが、その進路にはすでにレッドガンが構えている。
回避しない。
正面から受ける。
火力が一点に集中する。
衝撃が叩きつけられ、進路がわずかに逸れる。
止めてはいない。
だが、“流れ”が変わる。
そのズレに、イェーガーが重なる。
ストライカー・エウレカ
逃げる先ではなく、押し込む位置に入る。
削られた空間をさらに狭め、正面から踏み込む。
衝突。
これまでで最も深い接触。
ガイガンの体勢が崩れる。
それでも完全には捕まらない。
刃が返り、ストライカーの装甲が裂ける。
それでも離さない。
数秒。
その短い時間、ガイガンの動きが止まる。
同じ頃、都市内部。
崩壊した区画に、コンバットフレーム部隊が突入する。センサーは乱れ、索敵は不完全。それでも進むしかない。
影が動く。
ジラ
速い。
そして複数。
一体ではない。
同時に現れ、同時に消える。
コンバットフレームが射線を分け、逃げ道を制限する。そこへ上空からウイングダイバーが急降下し、近距離から射撃を重ねる。
撃破には至らない。
だが、動きを誘導できる。
ジラは分散する。
逃げるのではなく、広がる。
だが今回は違う。
補給も通信も、完全ではないが繋がり始めている。
戦場が維持されている。
それだけで、対応が追いつく。
前線。
ガイガンは再び加速を試みる。
だが、もう以前のようには動けない。
LCが進路を削り、
ヴェスパーが崩し、
レッドガンが押し返す。
完全ではない。
それでも——通らない。
その状態が、数分続く。
やがて司令部に報告が入る。
「前線、維持しています」
続いて、
「都市部、機能回復を確認」
撃破はない。
勝利でもない。
それでも——
戦線は、繋がった。
人類は初めて、同時に二つの戦場を維持した。
だがそれは、あくまで一時的な安定に過ぎない。
ガイガンは健在であり、ジラの活動も止まっていない。むしろ、その分布はさらに広がっている可能性すらある。
そしてもう一つ、まだ十分に認識されていない領域がある。
海。
補給路の先で、異常が拡大し始めていた。
今はまだ、それが主戦場になるとは思われていない。
だが確実に、次の崩壊はそこから始まる。
■第10章「連鎖」 終