第14章「崩落」
均衡は、音もなく崩れ始めていた。
それは爆発のようなものではない。どこか一つが壊れたわけでもない。ただ、わずかな遅れや判断のズレが、積み重なるように広がっていく。
最初に異変として現れたのは、都市部だった。
ジラ
これまでの出現は、ある程度予測できる“点”だった。ひとつ現れ、対処し、次に備える。その繰り返しでどうにか抑え込めていた。
だが今は違う。
ひとつの区画で反応が出た直後、離れた地点でも同時に出現し、さらに別の場所でも続けて反応が重なる。個別だったはずの出現が、明確に連動し始めていた。
「……同時多発か」
誰かの声が、状況をそのまま言い表す。
コンバットフレーム部隊が分散して展開し、各所の抑え込みに入る。上空ではウイングダイバーが高速で巡回し、反応の動きを追い続けている。
だが、それでも足りない。
ひとつ抑えた瞬間に、別の地点で新たな個体が現れる。まるでこちらの動きを見ているかのように、わずかな隙間を正確に突いてくる。
「数が……合っていない」
その言葉に、誰も反論できなかった。
増えている。しかも、ただ増えるだけではなく、動きが噛み合っている。
ある区画で、コンバットフレーム部隊が一体の制圧を終える。
一瞬だけ、戦場が静まる。
「クリア——」
報告が上がった、その直後だった。
新たな反応が重なる。
一つではない。二つ、三つと同時に増え、さらにその外側でも動きが検知される。
ジラ
複数個体が、ほぼ同時に突入してくる。
これまでのように逃げ回るのではなく、明確に前へ出る動きだった。
コンバットフレームが迎撃に入るが、対応が追いつかない。ひとつに集中すれば、別の個体が側面へ回り込み、さらに背後からも接近してくる。
「後方——!」
警告が飛ぶが、間に合わない。
衝撃とともに一機が倒れ、その瞬間に隊列が崩れる。
上空からウイングダイバーが急降下し、近距離からの射撃で押し返そうとする。だが、その間にも別方向から新たな個体が入り込み、戦線は一気に圧迫されていく。
気づいた時には、完全に包囲に近い形になっていた。
「……撤退!」
決断は早かった。
だが、それは同時に、一つの区画を放棄することを意味していた。
その影響は、すぐに他の戦場へ波及する。
補給線が途切れ、通信にわずかな遅延が生まれる。情報の更新が遅れ、判断にほんのわずかなズレが生じる。
それだけで十分だった。
前線。
ガイガン(FW)
ガイガンは、その変化を見逃さない。
これまで距離を取り、様子を見るように動いていたが、その一瞬の隙に、最も薄くなった一点へと進路を変える。
その前に立つのは、
G1ミシガン
その両側で火力を支えるのが、
G4ヴォルタ
G5イグアス
横からは、
V.IVラスティ
が割り込み、その動きを制御するように
V.IIスネイル
が位置を調整する。
本来であれば、ここで止まるはずだった。
だが、その瞬間に届く。
「都市が崩れた」
その一報で、すべてがわずかに遅れる。
ほんの一瞬。だが、それで十分だった。
ガイガンが踏み込む。
一直線に、最も薄くなった一点へ。
ヴェスパーが反応するが、わずかに間に合わない。
レッドガンが正面から受ける。
衝撃が走り、これまで維持されていたラインが、初めて目に見えて押し込まれる。
突破ではない。
だが、確実に“押された”。
海でも、その影響は現れていた。
潜水母艦
セイレーンが捉えたのは、再び広がり始める異常流だった。
かつて一点に収束していたものが、今は複数方向へと分散し、じわじわと海域を侵食していく。
ダガーラは消えていない。
形を変えて、残っている。
■ラスト
都市は一部を失い、前線は押し込まれ、海は再び広がり始める。
どこも壊滅しているわけではない。だが、それぞれの戦場で確実に余裕が失われていく。
それは敗北ではない。
だが、明確な劣勢だった。
沈黙の中で、誰かが低く呟く。
「……次を出すしかない」
その意味を、全員が理解していた。
■第14章「崩落」 終