第16章「閾値」
都市で繋ぎ直された戦線は、時間差を伴いながらも確実に前線へと影響を及ぼしていた。分断されていた通信は安定し、補給も滞りなく行き渡るようになる。それによって各部隊は同一の戦況を共有し、これまで個別に戦っていた動きは、ひとつの流れとして機能し始めていた。
だが——それでもなお、決定打には至らない。
前線中央。
ガイガン(FW)
鋼の巨体は一定の間合いを保ちながら、静かに圧をかけ続けている。無理に踏み込まず、こちらの出方を測るその挙動は、すでに単なる怪獣のそれではない。
その正面に立つのは、
G1ミシガン
「来たなァ!いい圧だ!!——だが止めるぞ!!」
真正面から受け止め、戦線を維持する。その背後では火力が絶えず供給されていた。
G4ヴォルタ
「はぇな……だが慌てるほどじゃねぇ」
側面から食らいつくのは、
G5イグアス
「チッ……見えてるっつってんだろ!」
その全体を制御する声が、戦場に重なる。
V.IIスネイル
「左へ抜ける。……それは既に対策済みです」
「V.IV、塞ぎなさい。逃げ場は不要です」
V.IVラスティ
「了解した、対応しよう」
無駄のない機動で退路を削る。戦線は成立している。だが、崩せない。均衡は保たれているが、決め手がない。
その均衡に、異物が差し込まれる。
「対象、戦線に到達」
ヴァルチャー
滑らかな軌道で一気に間合いを詰める。次の瞬間には、すでに懐に入っていた。
衝撃。ガイガンの体勢が崩れる。
「いいぞ!!そのまま押し込め!!」
ミシガンの号令と共に、戦線がわずかに前へ出る。
——流れが変わる。
そう見えた、次の瞬間。
ヴァルチャーの挙動が乱れる。
司令部
「ヴァルチャーの出力低下を確認!挙動が不安定です!」
「チッ、来るぞ!!」イグアス
即座に反撃。振り下ろされる刃が、正確に隙を捉える。
「焦んじゃねぇイグアス、見えてんなら当てろ」ヴォルタ
衝突。ヴァルチャーは押し返され、流れが途切れる。
司令部
「このままでは戦線維持が——」
「機体は限界か。……離脱しろ」スネイル
一拍。
「まぁいい、その為のV.Iです」
司令部
「……V.Iはまだ到達していません!」
戦線がわずかに押され始める。あと一歩が届かない。その感覚が再び戦場を覆いかける。
司令部
「V.Iはまだか!?間に合うのか!」
そのときだった。
戦線に、一機が割り込む。
音が違う。
動きが違う。
司令部
「……V.I、戦線到達」
V.Iフロイト
「おいおい、重役出勤かよ」ヴォルタ
フロイトは止まらない。視線だけをガイガンへ向ける。
「……お前がガイガンか。ここまで暴れてるやつは初めてだ」
「退屈させてくれるなよ」
踏み込み。
衝突。
一撃。
それだけで、流れが変わる。
司令部
「圧力減少……前線、押し返しています!」
「……なんだ今の」イグアス
ラスティが静かに呟く。
「……遅かったな」
フロイトは何も言わない。ただ位置を取り、次の動きへと移る。
スネイルの声が戦場をまとめる。
「フロイト、そのまま正面を維持しなさい。V.IV、右を詰める」
V.IVラスティ
「了解した、こちらで詰める」
戦線が再構築される。今度は迷いがない。
「流れ来てるぞ!!今だ、押し切る!!」ミシガン
「……今だな、押し込むぞ」ヴォルタ
「止まんな、そのまま行け!」
「うるせぇなぁ!!今やってんだろ!」イグアス
踏み込み。
一撃。
ガイガンが、明確に後退する。
「へっ……やるじゃねぇか」ヴォルタ
司令部
「対象後退!前線、優勢に転じました!」
戦場が、完全に繋がる。
ガイガンが距離を取る。
それは——初めての、明確な後退だった。
■ラスト
戦場はまだ終わらない。だが、その質は確実に変わった。
未完成だった力は形を得て、分断されていた戦線はひとつに繋がる。
そして人類は、ついに辿り着く。
“対抗できる戦い方”へ。
■第16章「閾値」 完