第24章「制空」
北米上空は、まだ人類の支配圏を保っていた。
完全ではない。だが、戦線は崩れていない。低空では大型武装ヘリ部隊が整然と隊列を維持し、機銃掃射でラドンの小型個体を確実に削っていく。無理に撃ち落とすのではなく、進路を制限し、地上への侵入を押し返す。その積み重ねで、戦場の“底”は守られていた。
中空ではLC部隊が空域を切り分けている。高速で横断しながら群れの密度を崩し、狙撃型が進路に圧をかける。撃墜にこだわらない。動きを歪ませ、飛行のリズムを乱す。それだけで十分だった。そこへHCが前に出る。シールドを張りながら空域を押し上げ、怪獣の進路を一方向へ寄せていく。
空に“流れ”が生まれる。
その流れに乗るように、アースガロン Mod.3 が低空へ投入される。着地と同時に上空へ火力を集中し、降下してきた個体の軌道を強引にずらす。直撃させる必要はない。姿勢が崩れた瞬間、進路が変わる。その先にはヘリ部隊の射線がある。空から落ちた個体は、そこで確実に削られる。
一つひとつは小さな変化だが、戦場全体では意味を持つ。
さらに中層ではエクドロモイが連携を見せていた。MG型が弾幕で進路を狭め、PG型が上から逃げ場を塞ぐ。自由に飛べなくなった個体は軌道が単調になる。その一瞬を逃さず、EP型が距離を詰める。捉えるのではない。進む先に入り込み、叩き込む。弾かれた巨体は姿勢を崩し、そのまま戦線の外へ押し出される。
「このまま押し込める」
誰かの声が、現実を伴っていた。
その直後、空が光る。
バルテウス。
展開されたミサイルが一斉に放たれ、空域全体を覆う。誘導は正確で、逃げ場を残さない。直撃しなくてもいい。爆風と圧力で飛行を乱し、群れの密度を削り取る。その一撃で、押し込まれていた戦線が一気に前へ出る。
空が、開く。
——いける。
誰もがそう感じた。
だが、その感覚にわずかな違和感が混じる。
最初に気づいたのはLCだった。ロックした目標の軌道が、ほんのわずかにズレる。誤差と呼べるほどの差だが、それが繰り返される。撃った弾が、あと一歩で届かない。
ヘリ部隊でも同じことが起きる。何もないはずの空間で、機体が揺れる。直後、遅れて衝撃音が通り抜ける。
「今の……なんだ?」
答えはすぐには出ない。
だが、アースガロン Mod.3 がそれを捉える。
上空、高速反応。
一瞬だけ映る影。
デルタンダル
直線的な突入。だが速い。照準が追いつく前に通り過ぎる。掠めるだけで装甲に傷が入る。それでも致命にはならない。
「……速いな」
短く言って、再び構える。
今度は追わない。
進路を読む。
空気の揺れ、音の遅れ、わずかな痕跡。その先に射線を置く。
二度目の突入。
今度は、かすめる。
完全には止まらない。だが軌道がわずかに乱れる。そのズレが、次の動きを限定する。
「……見える」
一方で、バルテウスのミサイルにも微細なズレが生じ始める。ロックはできている。だが完全ではない。弾道がわずかに散り、空間の削りが甘くなる。
その原因に気づいている者はいない。
遠方で、ガゾート が旋回している。
戦線はまだ優勢だ。押し込んでいる。空は取り返せる位置にある。
それでも、何かが噛み合わなくなり始めている。
その違和感だけが、静かに広がっていった。
■第24章「制空」終