EDF 怪獣戦記   作:究極神黎斗

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第26章「断層」

第26章「断層」

崩れは、音もなく広がっていった。

最初に違和感として現れていたズレは、もはや誤差ではなかった。低空で持ちこたえていた大型武装ヘリ部隊は、ついにその維持を放棄せざるを得なくなる。これまでのように隊列を組めば、散開したギャオスに内側を食い破られる。間隔を開けば、今度はラドンの小型個体が隙間を抜けてくる。どちらを選んでも守りきれない。その結果として、部隊は“形”を失い、個々の判断で回避と攻撃を繰り返すしかなくなっていた。

それでも撃ち続ける。進路を削り、地上への侵入を抑える。その動き自体は間違っていない。だが問題は、そのすべてがわずかに遅れていることだった。回避が一瞬遅れ、射線が半拍ズレる。その積み重ねが、確実に機体を削っていく。横から差し込まれた一撃で一機が爆散し、その炎が別の機体の視界を奪う。立て直そうとした動きの中に、さらに別の個体が入り込む。連鎖が止まらない。

その揺らぎはすぐに中空へ伝播した。

LCの射線はまだ機能している。だが、以前のように“流れを作る”には至らない。狙いは合っているのに、決定打にならない。抜けてくる個体が確実に増えている。その穴を埋めるようにHCが前へ出るが、押し上げるための圧が足りない。空間そのものが緩み始めている。

エクドロモイはなおも連携を維持しようとしていた。MG型が弾幕を張り、PG型が上から圧をかける。だがギャオスの動きが明らかに変わっている。集団としてではなく、個別に“選んで”動いている。弾幕が張られる前に進路を変え、張られた後にはもうそこにいない。EP型が距離を詰めても、すれ違うだけで決定的な一撃にならない。連携が崩れているわけではない。ただ、“噛み合っていない”。

その原因がどこにあるのか、まだ誰にも見えていなかった。

上空では、バルテウスが戦線の立て直しを図るように再びミサイルを展開する。これまで何度も空域を押し返してきた一手だ。今回も同じように空間を削り、流れを取り戻す——はずだった。だが発射された弾道は、明らかに散っていた。ロックは成立している。それでも追い切れない。わずかな遅れとズレが、爆発の密度を落としている。空間に“穴”が残る。

その穴を、怪獣は迷わず通り抜けてくる。

遠方で旋回する ガゾート の存在が、ようやく意味を持ち始める。完全な妨害ではない。だが戦場全体の精度を削るには十分だった。すべての動きが、ほんの少しだけズレる。その“ほんの少し”が、今の戦場では致命的だった。

その時、空気が裂けた。

アースガロンが即座に反応する。上空からの高速接近。今度は見失わない。軌道を読む。進路の先に照準を置く。引き金を引く。弾は確かに掠め、デルタンダルの軌道をわずかに歪ませる。

「……捉えた」

そう判断した瞬間、別の角度からもう一つの影が突っ込んでくる。同じ速度、同じ挙動。対応が間に合わない。衝撃が機体を揺らし、姿勢が崩れる。さらに三つ目の影が、その上を通過する。衝撃波が周囲を薙ぎ、近くにいたヘリが巻き込まれて落ちる。

一体ではなかった。

二体でもない。

複数のデルタンダルが、同時に空を走っている。

その存在は“撃墜できない敵”ではない。だが、“対処を分散させる敵”としては十分すぎた。アースガロンが一体に対応した瞬間、別方向が空く。その空いた一瞬が、戦線全体に波及する。

そしてついに、その瞬間が来る。

低空と中空を分けていたラインが、完全に消える。

それは突破ではなく、決壊だった。

ラドンが降り、ギャオスが滑り込み、空と地上の境界がなくなる。これまで積み上げていた“層”が意味を失い、戦場が一つに繋がる。

バルテウスが最後の制圧を試みる。残存火力を一気に展開し、空間ごと押し潰そうとする。だがその瞬間、誘導が大きく乱れる。ガゾートの干渉がピークに達し、ミサイルは狙いを外れ、空間の削りが成立しない。

その隙に、ギャオスが一斉に突っ込む。

衝撃、爆炎、連続する打撃。機体が大きく揺れ、外装が剥がれ、推力が乱れる。それでもなおバルテウスは空に留まろうとするが、その“わずかな高度低下”が致命的になる。

さらに一撃が入る。

今度は深い。

機体の一部が吹き飛び、制御が崩れる。

巨大な機体が、ゆっくりと傾き始める。

それは撃墜というより、“支えを失った”ような落ち方だった。

その瞬間、空に空白が生まれる。

そして怪獣の群れが、その空白を埋めるように流れ込む。

もう、押し返す流れは残っていない。

戦場は完全に、怪獣側へ傾いた。

■第26章「断層」終

 

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