第3章「優勢」
初撃破の報告が広がってから、戦場の空気は確実に変わっていた。
怪獣は、止められない存在ではない。
時間と手段さえ揃えば、対処できる対象だという認識が広がっていく。
もちろん被害が消えたわけではない。だが、防衛線は以前よりも長く持ちこたえ、崩されても立て直せるようになっていた。
“戦い方”が、ようやく形になり始めていた。
都市外縁の防衛ラインでは、その変化がはっきりと現れている。
バルガを前面に据え、その後方に火力を集中させる陣形。怪獣の進行を止め、その間に一点へ攻撃を集める。単純だが、確実に効果のある戦術だった。
そこへ、新たな個体が現れる。
ゴロザウルス
地面を蹴り上げながら高速で接近してくるその姿に対し、防衛線は崩れない。
進路上にバルガが踏み込み、正面から受け止める。完全に止めることはできないが、速度は確実に落ちる。
その一瞬で、砲撃が集中する。
側面、脚部、関節。動きを削ぐことだけに狙いを絞る。
ゴロザウルスは体勢を崩し、そのまま方向を変える。
撤退だった。
撃破には至らない。
だが、防衛線は維持されている。
この結果が意味するものは大きかった。
人類はついに、“戦場をコントロールし始めている”。
この流れをさらに押し進めるため、EDFは新たな戦力を投入する。
バラム
歩行要塞。
単体で戦うのではなく、“戦場そのものを作る”ための兵器だった。
展開と同時に、周囲一帯に火力が行き渡る。死角はなく、近づけば確実に削られる。怪獣にとっては、ただそこに存在するだけで進路を制限される領域となる。
やがて、その効果ははっきりと現れ始める。
怪獣が近づかない。
あるいは、近づいても押し返される。
こうして、人類は初めて“守れる場所”を手に入れる。
“制圧域”の成立だった。
制圧域は一箇所で終わらなかった。
主要都市を中心に展開され、それぞれが点として機能する。そして次第にそれらが繋がり、線となり、面となっていく。
避難は進み、補給も安定する。
人類の活動圏が、わずかずつ取り戻されていく。
それは確かに、“優勢”と呼べる状態だった。
だがその一方で、別の変化が進んでいる。
制圧域の外側。
そこでは、怪獣同士の接触が明らかに増えていた。
これまで互いを避けていた個体同士が、ぶつかり始めている。縄張りの境界が曖昧になり、競争が激化しているのだ。
その戦いは、人類の戦闘とは規模が違った。
地形が変わり、環境そのものが書き換わる。
だがその変化は、制圧域の内側には届かない。
人類は、“見えている範囲”で勝ち始めていた。
そして、それが錯覚であることに気づかない。
ある制圧域。
バラムが展開し、安定した状態が続いていた。
避難も完了し、補給も機能している。
戦線は落ち着き、久しぶりに“日常に近い時間”が戻りつつあった。
そのときだった。
地面が揺れる。
小さな振動ではない。
明確な“下からの圧力”。
一箇所ではない。
複数地点で、同時に。
次の瞬間、地面が割れた。
出現する。
メガロ
防衛ラインの“内側”から。
想定外だった。
制圧域は外からの侵入を前提に設計されている。内側からの出現には対応していない。
至近距離。
回避も展開も間に合わない。
バラムが砲門を向ける。
だが近すぎる。
直撃。
構造が大きく揺れる。
同時に、外側からも怪獣が接近してくる。
制圧域は二方向から圧力を受ける。
それまで“絶対”だった防衛が、音を立てて崩れ始める。
人類はまだ知らない。
これは偶然ではないことを。
そして、この一撃が“崩壊の始まり”であることを。
■第3章「優勢」 終