翼「遂に前回のあらすじに私達が登場だ。ではあらすじは私が―」
弦「俺がやろう!」
翼「叔父様!?」
弦「一つ。響君が我々からシンフォギアについての説明を受けた後、ノイズが出現して翼と
ともに現場へ向かった。
二つ。ノイズを殲滅し終えた二人だが、響くんを受け入れられない翼は響くんへ攻撃
し、俺が間一髪で阻止した。
三つ。二人の関係性に亀裂が入る中、兎に擬態したエボルトが二課へ入り込むことに成
功!」
緒「司令、それ翼さんの担当です...」
翼「ま、まあ叔父様なら別に―」
了「じゃあ次回は私がやろうかしら?」
翼「ちょ、ちょっとまってくれ!私の出番がなくなる!」
戦「...こいつらは置いといて、今回はいくつかの衝撃的な再会が行われる。では、第4話をどうぞ!」
―響と翼のすれ違いから数日後の夜、二課にて。
そこでは二課のメンバーたちによる会議が行われていた。
ちなみに部屋の隅の兎ケージででエボル兎もその会議を見ている。
「遅くなりました!すみません!」
遅刻してしまった響が頭を下げながら謝る。
「では、全員揃った所で仲良しミーティングを始めましょう!」
了子は明るくそう言うが、響と翼の間の険悪な雰囲気はどうしても見過ごせなかった。
その雰囲気は一度置いておいて、モニターに此処ら一帯の地図が映し出される。
そして、様々一つの点を中心として広がる多くの円も表示された。
「どう思う?」
と弦十郎が響に問いかける。
「ん...いっぱいですね」
「ハハハ、全くその通りだ」
その問いに響きは率直な感想を述べ、弦十郎はその答えに笑う。
「これは、ここ一ヶ月のノイズの発生地点の全てだ」
「確か人間がノイズに出会う確率は、通り魔と出会う確率をも下回るんですよね?」
「その通りだ。ところで響君は、ノイズについて知っている事は?」
「ニュースとか学校で教えてもらった程度ですが、無感情で、機械的に人間だけを襲う事。そして、襲われた人間は炭になって死亡してしまうこと、不特定に突然現れて被害を及ぼす特異災害として認定されている事です」
「おお、意外と詳しいな。流石だ」
「丁度今纏めてるレポートの題材なんです」
弦十郎に褒められて嬉しかったのか、響はにこりと笑う。
「そうね。ノイズ問題が国連での議題に挙がったのが十三年前だけど、観測そのものは世界中の太古の昔からずぅっとあったらしいわ」
「そんなに前から...」
「それと、さっき響ちゃんが言ってくれたように、ノイズの発生率はとても低いの。この発生率は明らかに異常事態。となると、作為的なものになると考えるのが妥当でしょうね」
「作意、ってことは、第三者によるものってことですか?」
「ああ。そうなるな」
「一体誰が何の目的で...」
「そして中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科。『デュランダル』を狙い、何者かの手によって、ノイズがこの地に向けられていると考えられます」
そう指摘したのは翼だ。
だが、勿論デュランダルとやらについて知らない響は疑問に持つ。
「デュランダル...ってなんですか?」
「この本部よりも更に下、『アビス深淵』と呼ばれる最深部て、日本政府の管理下によって二課が研究及び管理しているほぼ完全状態の聖遺物、それがデュランダルよ」
「翼さんの天羽々斬や、響ちゃんの胸のガングニールは歌を歌ってシンフォギアとして再構築させないとその力を発揮出来ないけど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は常時百%の力を発揮し、装者以外の人間も使用可能という研究結果がでているんだ」
友里と藤尭がそう答える。
『(デュランダル...そんなに莫大なエネルギーなら俺の力を取り戻すことも可能かァ?)』
「そう。それが私の提唱した櫻井理論。でも完全聖遺物の起動にはそれ相応の莫大なフォニックゲインが必要なのよ」
「うん...?」
難しい話に響はついていけていない
「あのライブの事件から2年。今の翼の歌なら...」
「...」
その弦十郎の言葉に顔をしかめる翼
「そもそも起動実験に必要な日本のキャ化も必要なのに、それ以前に安保を糧に、アメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきてるらしい。そのせいで起動実験どころか、扱い自体に慎重にならざるを得なくなった。下手に手を打ってしまえば国際問題だ」
「アメリカ...ですか」
「まさか今回のこの件、アメリカ政府が裏から糸を引いているということは...」
「どうやら調査部からの報告によると、ここ数か月における本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が数万回に及んで認められているそうだ」
翼は手に持っていた紙コップを握りつぶし、響はその様子に目を逸らし続けることしかできない。
「ハッキングのアクセスの出所は不明。これらを米国政府の仕業とはまだ断定できません」
「だが、勿論痕跡は辿らせている。本来はこれこそが俺達の本業だからな」
そこで、緒川が会議に割り込んできた。
「風鳴司令」
「そうか。そろそろか」
「皆さんこんばんは。翼さん、これからアルバムの打ち合わせが入っています」
「はえ?」
「どうも、表の顔では、国内トップアーティスト、風鳴翼のマネージャーをやっています」
そう言いながら名刺を差し出す緒川
「わあ!名刺を貰うなんて初めてです。ありがとうございます!」
響が名刺を受け取ったのを確認した緒川は、翼とともに仕事の為に指令室を出ていく。
その様子を見送りつつ、響は弦十郎に尋ねる。
「私達にとっての脅威って、ノイズだけじゃないんですね」
その言葉に、会議室にいる全員が頷く。
『(その脅威がお前らの中にいる可能性もあるんだけどなァ)』
「今もどこかの誰かがここを狙ってるなんて...考えたくもないです...」
「大丈夫よ」
「え?」
「何故ならここは、テレビや雑誌で有名の天才考古学者櫻井了子が設計した、人類守護の砦よ?安全はこの私が保証するわ!」
「了子君が手掛けた最先端にして異端のテクノロジーが悪意ある輩を寄せ付けることはないだろう」
「すごい...よろしくお願いします!」
自信満々に言う了子だが
『(いやもう現在進行系で俺がここに紛れてんだよなァ。ってか、あの櫻井了子ってやつ、変な気配がするなァ...なぁんかやけに余裕があるというか、仕草が演技じみていると言うか...こいつが黒幕かスパイの可能性が高いなァ...後で戦兎たちに報告しとくかァ)』
もう本部に血塗られた蛇(兎)が紛れ込んでいることには気付かないのだった...
そして翌日。
カフェnascitaにて、戦兎たちはエボルトが戦兎の体内に残した遺伝子の一部から報告を聞いていた。
「つまり、その櫻井了子って人が黒幕かスパイの可能性が高いってことか?」
『ああ、そもそもあの本部を設計したのは奴だからなァ。本部に攻め入るときもあいつなら楽に侵入することができるだろう』
「その場合、かなりまずいことになるね」
「そうね。なら余計に私達が二課のもとに行くのは現実的ではなくなったわね...」
「まあ協力関係は結んでおいても良いんじゃないかな?」
「ああ。そのつもりだ。だが、顔だけはバレないようにしないとな。俺達には戸籍がないから、顔がバレて戸籍がないことまで発覚したら、不審に思われるのは分かりきっていることだ」
『まあ、俺はもう少し情報収集しておこう。...ああそうだ。デュランダルっていう常時百パーセントの効果を発揮し続け、奏者以外でも使用できる完全聖遺物ってのがあるらしいんだが、その力なら俺の力を取り戻すことができるかもしれねェ』
「まじか...じゃあもしそのデュランダル関連の情報が入ってきたら教えてくれ」
『りょーかい。じゃあまたなァ』
「ああ、また」
情報交換が終わった後の地下室では、戦兎が早速考察に励んでいた。
「デュランダル...か。それだけの力があれば、その力を吸収して壊れた装備の修復もできるかもしれない」
「確か、今持ってるのは万丈のドラゴンフルボトル以外の59本のフルボトル、修理中のラビットタンクスパークリング、ハザードトリガー、成分が抜けたジーニアスフルボトル、壊れたクローズマグマナックル、修理途中のフルフルラビットタンクボトル、フルボトルバスター、あと4コマ忍法刀やドリルクラッシャーとかの武器一式、だよね?」
「そう。よく覚えてたなマスター。ちなみに、フルボトルバスターは修理はしたがまだ不安定なため、数回使ったらまた壊れる」
「そっか...」
「まあだがそのデュランダルとやらの力を吸収できれば、一気に修復できるかもしれない。希望はまだあるさ。とにかく、万丈たちの行方を探しながら、デュランダルの情報も探してやっていこう」
「了解」
そう新たに意気込む戦兎達なのであった。
放課後の私立リディアン音楽院高等科、屋上。
前に進もうと決心する戦兎たちとは対象的に、未だに前に進めないものも居た。
「...」
翼は、屋上から街の景色を眺めていた。
「...叔父様から休めとは言われたが...私には休んでいる暇なんて無い。私はこの身を"剣"として鍛えた身...休みも、娯楽なんてものもいらない」
その目線はどこか遠くを睨んでいる
「私の歌は、戦うためのものだ。2年前のあの日、奏が"絶唱"を使うのを止められていれば...もっと私が強ければ、奏では死なずに...。...奏が死んだのも、犠牲者が多くでてしまったのも、全て、私の弱さが招いた事だ...」
そう自分を責める翼は、自分の拳を血が滲むほど強く握りしめていた。
その時通信機から連絡が入る。
「...はい」
『ノイズだ!すぐに出てくれ!』
どうやら、翼にも前を向かなければならないときが迫ってきているようだ―
一方響は誰かに電話をかけていた。
『響! 貴女……』
相手は響の同居人で親友の小日向未来。
「...ごめん、未来。また急な用事が入っちゃった。今日の流れ星、一緒に見られないかも......」
響は普通のトーンを装っているものの、その声はごまかせないほど沈んでいた。
その言葉に、数秒後未来の優しい声が帰ってきた。
『また、大切な用事?』
「...うん」
『そっか、なら仕方ないよ。...遅くならないでね。気を付けて』
最後にそう言って、未来は電話を切った。
響も三雲、今日の流れ星をとても楽しみにしていた。
それを見られないというショックはどちらも同じだったが、
それでもお互いがお互いを気遣い合っていた。
だが、響から急に断られた未来のほうがショックが大きいのだろう。
だから。
「ありがとう......。ごめんね...」
誰も聞いてはいないのに、響はそう言い、走りながらノイズの発生源まで向かっていった。
―――いや、一人だけ、その響と未来の会話を聞いていたものがいる。
『...へェ...面白いことになりそうじゃねぇかァ...』
エボル兎はそう言って人間体になる。
惣一と背格好は似ているが、その服は全く違う。
惣一は白いシャツに紺色のスーツ、茶色のズボンを履いているが、
エボルトは暗い血のような赤色のワイシャツに、背中に朱いコブラの意匠がついた真っ黒なジャケットを羽織っている。
また、惣一は帽子と眼鏡をつけているが、エボルトは着けていない。
「俺もしばらく暇だったし、少しちょっかいでもかけてみるかァ...」
「ちょっとちょっと、エボルト、あまり余計なことしないでよ?」
意気揚々とノイズ出現地の駅内部へと入りこもうとしたエボルトの元へ戦兎が来る。
「ああ、分かってるってェ。ただハザードレベルは上げておいて損はないからなァ。俺達にとっても、アイツラにとっても、なァ?」
「ま、そりゃそうだけどさ。たしかにあの子達のハザードレベルが上がると俺達もデータが取りやすくなるし。でもあまりやりすぎるなよ?」
「ハイハイ、分かってるよォ。俺はしばらく潜伏するが、お前はァ?」
「俺は、この周辺にノイズがいないか確認したら行こう」
「りょーかい。じゃ、またなァ」
そう言葉をかわして、二人は別々の方向へ進んで行った。
その頃。
響は駅内部でただひたすらにノイズを倒していた。
『小型の中に、一回り大きな反応が見られる。まもなく翼も到着するからな。くれぐれも無茶はするな』
「はい!分かってますッ!」
通信越しに聞こえた弦十郎の声に、響は力強く答えた。
「私は、私にできることをするだけですッ!!」
そのまま地下鉄へと向かっていくと、改札の近くへとでた。
そして、そこにも大勢いるノイズの中に、1匹だけ見たことがない姿をしたノイズが居た。
紫色の球体をいくつも背負ったノイズ。
さしずめぶどう型ノイズと言ったところか。
「一回り大きな反応があるって通信、多分あれが...」
響が先程の通信で言われたノイズがこのブドウ型ノイズだと確信するが、
ブドウ型ノイズは自分の体から紫の玉を飛ばした。
その球は何度かバウンドした後、突如爆発を起こした。
「えッ!?ぅわッ...!」
その中々威力のある爆発は、地下鉄の天井を崩落させた。
爆炎や煙、そして瓦礫に読み込まれた響を余所に、ブドウ型ノイズは地下鉄の駅の奥へと逃げていった。
一方瓦礫の下敷きになった響は―
「...見たかった」
瓦礫の中からかすかに声が聞こえたかと思いきや、怒りの形相で響が瓦礫の中から出てきた。
響はその身に宿す怒りのままに、ノイズにひたすら拳を打ち込んでいく。
「未来と一緒にぃ!流れ星見たかったあああああ!!」
響を突き動かすのは、怒りのみ。
「(...あいつのハザードレベルが急上昇しているが...理性が無いなァ。暴走かァ?)」
その様子を物陰に隠れたエボルトが見ていた。
「うおおおおぉおぉあああぁぁああぁ!!」
たったの一撃で何体ものノイズが吹き飛ばされ、炭化していく。
それを見て、ブドウノイズは球状の爆弾を復元させ、逃げ続ける。
「おいエボルト!これどういう状況だ!?お前がやったのか!?」
「おお戦兎ォ。残念ながらこれは俺がやったわけじゃないなァ...あいつの精神面での問題だァ。あいつ、暴走しやがったァ。...あれじゃあただの獣だなァ」
「ッチ、こんなときに...!」
エボルトのもとに戦兎が合流する。
「...とにかく、あの子を止めないと...!」
「お前達が、誰かの約束を侵し...!」
ブドウ型ノイズが新たなノイズを呼び出す。
「嘘の無い言葉を...争いの無い世界を...なんでもない日常を...!」
「...待て、なにかおかしい...」
「...あァ、見れば分かるさァ」
理性を失いただノイズを破壊するだけの存在となった響は、
「...黒い...」
顔も、体も、ただ爛々と赤く光る双眼以外が真っ黒に染まっていた。
その黒はまるで―
「...ハザードに、似てる...?」
かつて、戦兎がそれに変身し、暴走し、仲間を傷つけ、そして、人を殺めてしまった、黒いビルド。
それにどことなく似ている。
「おい、ガングニール!―」
「―――剥奪すると、言うのならァッ!!」
より狂気に満ちた攻撃で、ノイズを片っ端から潰していく響に、エボルトも、戦兎も同じことを思った。
「「これはまずいな」」
「しょうがない...!」
戦兎はそう言うと、ラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出し、ビルドドライバーに挿入する。
『ラビット!』『タンク!』
『ベストマッチ!』
『Are You Ready!?』
「変身!!」
『鋼のムーンサルト!!ラビット!!タンク!!イエェイ!!』
即座に変身したビルドは一線を越えようとしている響のもとに行き呼びかける。
「ガングニール!正気に戻れ!それ以上やったら戻れなくなる!」
だが、ドレだけ呼びかけても、動きを止めようといても振り払われ、響は止まらない。
「があああぁぁあああッ!!」
「(...ハザードとは違うな)」
ビルド・ハザードフォームは、暴走時、目に映るものを全て破壊するために、すべての思考を放棄して対象を破壊することしか考えられなくなる、まさに戦闘兵器と呼ぶにふさわしい姿になってしまう。
だが、響の暴走は膨大すぎる怒りによって、敵を蹂躙したいという感情が溢れたような姿。
似て非なる暴走状態。
その時、ブドウ型ノイズが放ったであろう爆弾が、響の元へと一直線に飛んできた。
「ッ!危ない!」
このままだと確実に響に当たる。そう考えた戦兎は響の首根っこを掴み、自らの後方へと投げた。
「...え?」
「う"あ"ッ...!」
響を庇って爆発を直に受けたビルドは、大きなダメージを負ってしまう。
「...ビ、ビルドさん!?」
「...よ、かった...正気に戻ったんだな...」
「す、すみません!私を庇って...!」
「俺のことは良い!それよりも今はノイズを追うぞ!」
「は、はい!」
逃げ続けるブドウ型ノイズを追おうとする響とビルドだが、ノイズは天井を爆弾で崩壊させ、その穴から地上へと出ていった。
「ッまずい!」
「待て!上だ!」
響がビルドの声で上を見ると、一条の光が空を走っていた。
「流れ星...?」
「いや、あれは...」
そう。その光は。
『蒼ノ一閃』
風鳴翼が纏う、蒼い光だった。
次の瞬間、特大の斬撃がノイズを襲うい、一瞬で全てのノイズを消し飛ばした。
「...威力高っか...エボルト大丈夫かな...」
あまりに高すぎる攻撃ちょくに軽くビルドが引いている中、翼が静かに着地する。
翼が響とともにいるビルドを敵意丸出しで睨む中、響は駆け寄って言う。
「私だって、守りたいものがあるんです!」
だが、翼は響を見ようともしない。
「だから...!」
今度こそ翼と分かり合うと望んだ響だったが、そこから先の言葉が浮かんでこない。
その様子を見かねて、ビルドが二人に話しかけようとしたとき。
「―――だから?んでどうすんだよ?」
と、何処かからか誰かの声が聞こえてきた。
「...誰だ」
ビルドの問いかける声に答えるように、その者は姿を表す。
雲が動き、月が出て、月明かりがそのものの姿を照らし出す。
照らし出されたのは、白い鎧をまとった少女だった。
「誰だ、あいつ...?」
ビルドと響の二人はそれが誰なのか走らなかったが、唯一、翼だけは、その少女を、
否―
その少女が纏う『
「...『ネフシュタンの鎧』...」
翼が、呆然としながらその鎧の名を呼んだ。
「ネフシュタン...ヘブライ語の聖書に出てくる、青銅の蛇?」
「あ、あれは...?」
『ネフシュタンの鎧。2年前のあのライブの事件で奪われた完全聖遺物の一つよ』
響の言葉に、了子が答える。
「へえ、って事はあんた。この鎧の出自を知ってんだ?」
少女の表情はバイザーでわからないが、先程の完全生物という言葉を聞いて、ビルドは警戒する。
おそらく、いや確実に、あの鎧は危険なものだと。
「二年前...私の不始末で奪われた物を忘れるものか。そして何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!」
翼はその手の大剣の切っ先を少女に向ける。
それに対抗するように、少女も刃の鞭と杖を取り出す。
「(...風鳴翼が天羽奏を失うことになった要因、そして天羽奏が残したガングニールの破片...その2つが同時に今この場に揃うとは...とんだめぐり合わせだなァ)」
その様子を、物陰からエボルトが見ていた。
(...とにかく、今はこの子をどうにか...)
「やめてください!」
「うおっ!?」
ビルドが少女を止めようと動き出そうとしたとき、突如として響が叫ぶ。
「相手は人です!同じ人間です!」
「いや、たしかにそうだが今はそんなことを―」
「「戦場で何を馬鹿な事を!」」
「見事に被りやがった...」
響は人と争うことを嫌うが、その考えは翼からも、少女から見ても甘っちょろい言葉。
たかがそんな言葉で二人の戦いが泊まることはあり得なかった。
「むしろ、貴方と気が合いそうね」
「だったら仲良くじゃれ合うかい!?」
そう言いながら少女はその手に持ったムチを振るう。
「あーもう!仕方ねぇ!」
「え!?ビ、ビビビルドさぁん!?!?」
ビルドは響は掴むと、思いいっきり翼たちとは逆方向へと投げ飛ばす。
「な!?」
「あの縞々、仲間がどうなっても良いのか...!?」
このままだと地面に思い切り叩きつけられてしまうであろう響と、そうした元凶であるビルドに驚きを隠せない二人だが、
ビルドは何も考えず響を投げたわけではない。
「スタアアァァク!!」
なぜなら、
「はァ、人使いが荒いなァ?」
その先には、マントを被ったエボルトがいたのだから―――
エボルトはトランスチームガンのスロットにコブラロストボトルを装填し、トリガーを引く。
Cobra...!
「...蒸血!」
Mist Match!
CoCo...Cobra! Cobra...!
FIRE!
――エボルトの周囲に紫の蒸気が立ち上り、
「―よっと...大丈夫か?御嬢ちゃん」
「え、ええ...?」
「...貴様は...!?」
ブラッドスタークになったエボルトは、響を見事にキャッチした。
「――ってキャッ!?!?」
「うおっ!?危ねぇだろォ!」
―...お姫様抱っこで。
「スターク!その子を頼んだ!」
「りょーかい」
ブラッドスタークに響を任せたビルドは、尚も戦闘を続けている二人の元へ行こうとするが、
「お呼びじゃないんだよ、お前らはこれでも相手にしてな!」
そう叫んだ少女は、持っていた杖を上に向けてかざした。
すると、杖から光が放たれ―
なんと、その光からノイズが出てきた。
「なんだと!?...まさかここ最近のノイズ騒動はお前か!」
そう言いつつ、ビルドは新たに二つのフルボトルを取り出す。
『忍者!』『コミック!』
『ベストマッチ!』
『Are You Ready!?』
「ビルドアップ!」
『忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!!イエェイ!!』
忍者フルボトルとコミックフルボトルを使って変身する機動力に長けたベストマッチフォーム。
その名も、仮面ライダービルド・ニンニンコミックフォーム。
「...あの、スターク、さん?」
「なんだァ?」
「...忍者とコミックってなんでベストマッチなんですか?」
「...世の中には、知らないほうが良いこともあるもんだぜェ」
二人のその会話は聞かなかったことにする。
(二人の元へと群がるノイズはブラッドスタークが片っ端からスチームビュレットで撃ち抜いていた)
『四コマ忍法刀!』
ビルドは4コマ忍法刀を取り出し、少女の操る鞭を忍者らしい機動性で躱しながら、一気に肉薄する。
だが、戦闘力は少女のほうが上のようだ。
「ぐぅっ!?」
「っは!どうしたぁ!?その程度かよ!」
少女の一撃を食らって距離を取らされるビルドだが、
『蒼ノ一閃』
ビルドと少女の間に翼が割り込み、少女に斬撃を浴びせる。
「っ!ちょせぇ!」
少女が怯んでいる間に、ビルドはもう一度4コマ忍法等のトリガーを引く。
『分身の術!』
瞬間、ビルドが3人に増えた。
「はッ!?」
「分身の術...!?何故貴様が...!」
増えたビルドのうち、2人は同時にいくつもの手裏剣を投げ、少女はそれを叩き落とす。
そのうちに残りの一人が少女の背後まで周り、
『風遁の術...竜巻斬り!』
風をまとった刃で少女を切りつけようとし、
また、もう一人のビルドも、
『火遁の術...火炎斬り!』
今度は燃え盛る炎をまとった刃で襲いかかる。
3人のビルドの連携により、少女は追い詰められていった。
だが―
「...吹き飛びやがれ!!『NIRVANA GEDON!!』」
「ぐあ"っ!」
「がッ!」
突如統合されたエネルギー弾によって、2人のビルドは吹き飛ばされてしまった。
「ッ!ビルドさん!」
「落ち着けェ、ガングニール。ほら、よく見てみろォ。」
吹き飛ばされたビルドの元へ駆けつけようとした響を制し、ブラッドスタークは少女の背後を指す。
一方少女は。
「はっ。威勢が良い割には弱い...
そう。先ほど少女が吹き飛ばしたビルドは
つまり―
『ボルテックフィニッシュ!』
「なに!?」
そう。少女が2人に気を取られているうちに、本体である残りの一人が少女の背後に回り込んでいたのだ。
更に。
『天ノ逆鱗!』
翼がビルドの横に並び立ち、巨大な斬撃を放つ。
「これでッ、終わりだああ!!」
「ックソがああ!!」
ビルドの必殺キック、翼の巨大な斬撃。
その二つは、同時に少女へと当たり、辺りには一気に煙が立ち込める。
いつの間にか、あれだけいたノイズも全て炭になっていた。
おそらく、ビルドたちの戦いに巻き込まれたか、ブラッドスタークの攻撃に敗れたか、だろう。
「...さて、あの少女を拘束した後は貴様だ。ビルド。強制的についてきてもらう」
その名の通り「必殺」の技を二つ同時に食らったのだ。
「...御免だけど、俺達はそっちにはいけない。まあ、協力関係ぐらいは結んでも大丈夫だけど」
彼女は無事ではすまないだろう。
「...では、貴様もあの紅い異形も拘束させてもらおう」
だが―――
「はぁ...だから――ッ!?」
「気ィ抜くなァ!まだ終わってねェぞ!」
『メガスラッシュ!!』
「なッ!?」
「きゃっ!?」
「...」
「この音声...」
突如、そんな音声とともに斬撃が飛び、煙が晴れる。
そして―、
「な、んで...お、前がそっち、に...?」
呆然とした様子のビルドが問いかけた先、煙が晴れた向こうにいたのは、―――
「...すまねぇ。戦兎」
ビルドの、桐生戦兎の唯一無二の相棒、万丈龍我が変身する、『仮面ライダー
「もう一人のビルドだと...!?」
「ビルドさん、あの人は...ビルドさん?」
ビルドにどことなく似たクローズの登場に困惑する二人だが、ビルドの様子がおかしいことに築く。
「...なんでだよ、なんでお前が...!」
「...すまねぇ、本当にすまねぇ...!でも!もう俺は後戻りはできない!俺が抜けたら...!こいつが...!」
「...なにが、あったんだよ...!」
悲痛な声色で話す二人。
「...ビルド、奴は貴様の知り合いか?」
「...。...あいつは仮面ライダークローズ。...俺の、相棒だ。唯一無二のな。...ああ、後クローズ。本名を隠したいからな。俺のことはビルドって呼んでくれ」
「...ああ」
そう言うやいなや、ビルドは地面を蹴り、クローズの腕を掴んで森へと突っ込んでいった。
「...話は、それで終わりか?」
「ああ...第二ラウンドと洒落込もうじゃねえか...」
再び少女と翼の間に火花が散り始める。
「スターク、ガングニールを頼む」
「りょーかい」
ビルドがそう言うやいなや、
「うおおっ!?!?」
いきなりクローズの右腕を掴み、前方の森へとふっとばした。
「じゃ、天羽々斬。俺はあの馬鹿とやり合ってくるから―」
「誰が馬鹿だ!!せめて筋肉つけろ!!」
「...あの筋肉バカとやり合ってくるから、その子は頼んだ。」
「...その後は貴様らの番だ」
「了承として受け取っておくよ。それじゃ!」
ビルドはそれだけ言い残すと、クローズの方へと向かっていった。
「...では」
「ああ」
残った少女と翼がそう短く言葉をかわした次の瞬間。
「「...ッ!!!」」
二人はまたも鞭と刀で打ち合っていた。
一方その頃、ビルド&クローズSIDE
『レディーゴー!ボルテックブレイク!!』
『メガヒット!!』
ビルドのドリルクラッシャーとクローズのビートクローザーが激しくぶつかり合う。
「(万丈はパワー型...だったらこれだ!)」
ビルドはゴリラフルボトルとダイヤモンドフルボトルを取り出し、ビルドドライバーに挿入する。
『ゴリラ!!』『ダイヤモンド!!』
『ベストマッチ!!』
『Are You Ready!?』
「ビルドアップ!」
『輝きのデストロイヤー!!ゴリラモンド!!イエエェエェイ!!』
ゴリラモンドにフォームチェンジしたビルドはすかさずクローズに向け拳を振るう。
「―――ウオオオオォォッ―!」
負けじとクローズも青い炎を纏った拳を振るい、二人の拳がぶつかる。
「「―――ッ!!」」
そのあまりの勢いに周囲は空気を震え、地面には亀裂が入る。
「ぐあッ!?」
お互いの拳は暫くの間拮抗したが、力負けして吹き飛ばされたのはビルドだった。
「ッハアッ、ハアッ...」
「...フゥーッ、フゥーッ...」
行きを荒くして再び睨み合う両者。
「...万丈、なんでお前はあの子の味方に付いてるんだ?」
緊迫した空気を打ち破って話し始めたのはビルド。
「...さっきも言っただろ。...あいつを守るためだ」
「...なんでそこまでして守ろうとする?あの子はノイズを操って大勢の人を危険に晒したんだぞ!?」
「でもあいつは何も悪くねえ!あいつの過去を分かってないからそんなことが言えるんだよ!!」
「...!」
クローズの感情を顕にした叫びに、ビルドは何も言えなくなってしまった。
「...あいつはな、似てるんだよ。旧世界でお前のために戦争を止めようとしてた頃の俺と」
「なっ...」
「...だから、あいつの考えには賛同できる。でも、それが駄目なことだってことぐらい分かってる!だけどな、あいつを止められるのは、救えるのは俺だけなんだよ!!」
「万丈...」
「...それにな、どっちにしろ俺はあいつを放って置くことなんてできなかった。...だって、あんなに悲しそうな顔でボロボロになったまま路地裏に座り込んでたあいつを、見捨てられるわけ無いだろ?」
表情はマスクで伺えないが、声色から察するに、とても悲しい顔をしているのだろう。
「...分かった。何があったのかは今は聞かない。だから、――
『ラビット!』『タンク!』
『ベストマッチ!』
『Are You Ready!?』
『鋼のムーンサルト!!ラビット!!タンク!!イエェイ!!』
あの子を救うって決めたんなら、必ず最後までやり遂げなさいよ、筋肉バカアアア!!」
『レディーゴォー!!ボルテックフィニッシュッッ!!!』
「...ああ。
任せとけ!!戦兎オオオオオ!」
『レディーゴォー!!ドラゴニックフィニッシュッッ!!』
―お互いの思いを叫びに変えた二人は、同時にドライバーのレバーを回し――
「「ウオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」」
グラフを模したビルドのキックと、蒼い龍を模したクローズのキックは、お互い真正面にぶつかりあった――
―二人の仮面ライダーのキックが発動する数分前
少女が操る無知と翼の刀な激しくぶつかり合う。
「ッチ!さっさとくたばりやがれ!!」
『NIRVANA GEDON』
「...くっ!」
少女が投擲した巨大なエネルギー弾が翼に直撃し、吹き飛ばされる。
「...はっ、流石に爆発の衝撃までは防ぎきれなかったか」
体制を立て直しつつ少女を睨みつける翼。
巨大化した刀を立てのようにしたとはいえ、全て防ぎきれる威力ではなかった。
「...ちょうどいい。あの縞々野郎のボトルとそこのガングニールをよこしな」
「何だと...!?」
「アタシの狙いは最初っから、あの縞々野郎が持っているっていうボトルとそこの現ガングニール所有者を掻っ攫うことさ」
「なっ!?」
「えっ」
少女が明かした目的に驚愕する翼と響。
「...何故こいつを狙う?ネフシュタン」
「誰が教えるかよバーカ!さあ、さっさと渡して―――ッ!?」
その時、空から無数の刃が雨のように降ってくる。
『千ノ落涙』
「ッチィ!また!」
「繰り返すものかと...私は誓ったんだ...!」
翼が立ち上がリながら叫ぶ。
「だから!ここでお前を必ず仕留めてみせる!」
「ハッ!やれるもんならやってみやがれ!!」
「おおおおぉぉおぉ!!」
翼と少女がまたもぶつかる。
何回も何回も、激しい金属音と火花が散る。
その様子を、響はただ呆然と見ていることしかできない。
ブラッドスタークも響のそばにいるだけで、何もしようとしない。
ビルドもクローズと戦闘中のため、ここに来ることはできない。
つまり、今翼を助けることができるものは誰もいない。
―響以外は。
「...!そうだ、アームドギア...!」
そこで響が、以前翼から言われた『アームドギア』を展開しようとする。
「奏さんの代わりになるには、私にもアームドギアが必要なんだ・・・それさえあれば・・・!」
響は必死にもがきその手にアームドギアを呼び出そうとした。
だが、いくらやってもでない。
「来い!出て来い!アームドギアァ!」
どれだけ試しても、どれだけ叫んでもでない。
彼女の手に、彼女自身の戦いの意志であるアームドギアが出現することはなかった。
「...なんで!なんででてきてくれないんだよぉ...!」
今すぐにでも翼を助けに行きたいのに、アームドギアは響の思いに応えてくれない。
これほどまでに自分の思いが打ちのめされたことはないだろう。
もがき苦しむ響を、ブラッドスタークはただ黙ってみていた。
―そのマスクの下に、歪んだ笑みを浮かべて。
走行している間にも、戦いはどんどん激化していく。
「鎧に振り回されている訳ではない...この強さは、本物...!?」
「ここでふんわり考え事たあ、ちょせぇ!」
「くッ!」
蹴りをバク転で躱すが、ノイズを追加で召喚され、追撃される。
「...くぅッ...!」
自らの持つ技のすべてをノイズに向かって放ち、そのうちの一つ、『蒼ノ一閃』が少女の元まで一直線に向かっていくが、交わされる。
攻撃し、交わされ、鞭を避け、激しく打ち合う。
その最中に翼は探検を何本か投げるが、
「ッ、ちょせぇ!」
それをすべて弾かれた上に、あの巨大なエネルギー弾を投擲する。
「おっらあ!!」
『NIRVANA GEDON』
それを避けることができなかった翼は、直撃し諸に食らってしまう。
「翼さん!」
大剣で受け止めるも、防ぎきれず、またも吹き飛ばされる。。
何度も地面をはね、倒れ伏す翼。
「ふん、まるで出来損ない」
そんな翼を嘲笑するように、少女は言葉を発する。
「...確かに、私は出来損ないだ」
「...ああ?」
「この身を剣と鍛えてきたのに、あの日、無様に生き残ってしまった...!!」
忘れることはないだろう、2年前の惨劇。
「出来損ないの剣として...恥を晒してきてしまった...!」
歌を戦うためだけに使い、毎日鍛錬し、ノイズを殲滅するためだけに生きてきた。
だから、だからこそ――
「だが、それも今日までの事!奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名をそそがせてもらうッ!」
刀を杖にしながら、翼は立ち上がる。
「へえ、そうかい。脱がせるものなら脱がして――ッ何!?」
少女は、ボロボロの翼に攻撃をしようとしたところで、突然体が止まる。
何故か体が動かない。
振り返ると、少女の影には、先程翼が放った短剣の一本が刺さっていた。
その名は―『影縫い』。
影を剣や刀で地面と縫い付ける事で、敵の動きを封じる技。
「ッチィ!こんなもので、アタシの動きを―――」
そこで、少女は翼の真意に気づく。
「まさか...お前...!」
それを悟った、いや悟ってしまった少女の顔は一気に青ざめる。
「......月が覗いている内に、決着をつけましょう」
月を見上げる翼の顔は、覚悟を決めたかのように清々しかった。
「...まさかァ、」
その顔を見て、ブラッドスタークは気づく。
「詠うのかァ―――『絶唱』を」
それは、自らの命を燃やし尽くして詠う、シンフォギアの奥義にして諸刃の剣。
そして、相手もろとも自分も滅びてしまう、自爆技。
「翼さあああん!」
それを察してしまった響は、翼に叫ぶ。
「防人の生き様!覚悟を見せてあげる!」
翼は初めて響と目を合わせながら、叫び、告げる。
「―貴方の胸に、焼き付けなさい!」
「―うおおおおおおぉぉぉっ!?」
―そこに、キックのぶつかり合いで力負けしたクローズが吹き飛んでくる。
「...おい!今どういう状況―まさか」
クローズを追ってきたビルドも、翼が成そうとしていることに気付いてしまった。
「クソっ!やらせるかあ!好き勝手にぃ...ッ!」
影縫いから逃れようともがく少女。
しかし、翼は月に向かって、その刀を掲げた。
月明かりに照らされたその姿は、とても、幻想的だった。
「―――Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl―――」
静かな歌だった。
騒音はなかった。
メロディはなかった。
テンポはなかった。
それでも、翼の覚悟を知るには十分すぎるほどだった。
その歌の最中で、翼は、少女にゆっくりと歩み寄る。
少女は抗う。
その歌から、翼から逃げるために。
腰の杖を手に取り、ノイズを出現させる。
だが、その時にはもう、翼は目の前にまで来ていた。
「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」
「...」
ブラッドスタークは、ただ見ているだけだった。
ビルドから言われた通り、響を守るためにそばにいるだけだった。
「翼さんッ!」
響は、翼の名前を呼び、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。
「お前ッ!」
「動くんじゃねえッ!お前は俺が守る!」
クローズは、歌から少女を守るために、翼を背にして少女を抱きしめた。
「翼アアアアアアアアッッッッ!!」
ビルドは、届かないと分かっていても、翼に手を伸ばすことだけはやめなかった。
―もし止めたら、二度と『ヒーロー』を、『ビルド』を名乗れないような予感がしたから。
翼の元まで後数秒。
もう少しで手が届く。
翼はビルドの方を見ると、哀しげに笑った。
―今にも消えてしまいそうな、儚い笑みで。
「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」
ビルドの思いも届かず、詠唱は、終わった。
それでも、尚もビルドは手を伸ばす。
それでも、尚もクローズはより力強く抱きしめる。
戦兎は翼からいつも狙われていた。
遭遇する毎に拘束されそうになり、刃を向けられて。
戦兎自身、翼のことが苦手だった。
それでも気付いていた。
―翼は、自分を剣だと思いこんでいる、一人の少女なのだと。
翼はビルドを見ていた。
しかし、その口や目からは血が流れ続けていた。
「...くッ!」
それでも手を伸ばし続けるビルドに、翼はとても小さく呟いた。
―ば、か―
今まで見たことがないような笑みを浮かべてこちらを見る翼を見たビルドは、一瞬思考が固まった。
―次の瞬間、その場に居た全員が吹き飛んだ。
「......ぐ.........ッ!?」
爆心地から数十メートル離れたところで、戦兎は変身が解けた状態で倒れていた。
「...気絶していた、のか?」
そう言いながら無理矢理立ち上がり、体に鞭を打って歩き出す。
「...ッそうだ!風鳴翼は!?」
そのままクレーターが発生しているところまで、ゆっくりと、だが確実に歩んでいく。
そしてやっとたどり着いたとき。
戦兎が見たのは。
響の隣で何かを持っているブラッドスターク
顔面から地面に突っ伏している響。
車から降りてきた弦十郎と了子。
まだ変身を保っているが、木の幹に寄りかかって苦しそうにしているクローズ。
そのクローズに心配そうに寄り添うネフシュタンの少女。
―クレーターの中心で、体中の穴という穴から血を流している翼
「...私とて...人類守護の務めを果たす...防人...」
掠れた声で、翼はゆっくりと振り返った。
彼女の足元には、大きな血溜まりができていた。
その場に居た殆どの者たちが、その様子を呆然としながら見ていた。
「こんな所で、折れる剣じゃ、ありません」
そう、小さく言い残した瞬間、翼がゆっくりと倒れ始めた。
「翼さあああああああああん!!」
「ッ!」
響の絶叫が響く中、戦兎はラビットフルボトルを激しく振り、駆け出した。
その反動で足に鋭い痛みが走ったが、戦兎はそんな事を気にせずにただ走った。
そして翼が地面に倒れる瞬間。
「...っ、ふぅ...」
戦兎はギリギリで翼を抱きかかえることに成功した。
「おい!しっかりしろ!天羽々斬!死ぬな!」
「...」
戦兎の呼びかけにも答えない、答えることができない翼。
「早く救急車を!」
「もう呼んでるわ!」
背後で弦十郎と了子のやり取りが聞こえる。
「......」
そのやり取りを聞きながら、戦兎はある決意を固める。
「...なあ、弦十郎、だったか?」
「...ああ。俺が弦十郎だが、何のようだ?」
なぜか自分の名前を知っている戦兎に警戒しつつ、答える弦十郎。
「...頼む、俺に天羽々斬を任せてくれ」
「...残念だが、それはできない。お前が我々の敵だとは限らな―」
「頼む!俺しか彼女を救えないんだ!」
「...」
戦兎の必死の頼み込みに考え込む弦十郎。
「...分かった。だが、翼になにかしようとしたら...分かってるな?」
「...ああ。勿論だ」
無事に弦十郎からの許可をもらい、戦兎は懐からフェニックスが描かれたフェニックスフルボトルを取り出し、よく振って成分を活性化させる。
そして十分に活性化させた後、そっと翼の右手に握らせ、戦兎は離れる。
「...何をした?」
戦兎が何をしたのかわからない弦十郎は問う。
「...すぐに分かる。でも、絶対にそのボトルを天羽々斬から離すな。いいな?」
「それはどういう――ッ!?」
意味不明な戦兎の発言に再び問いかける弦十郎だったが、ブラッドスタークが発生させた赤黒い霧によって視界が遮られる。
―そして、霧が晴れたときには、戦兎も、ブラッドスタークの姿もなかった。
「...あれって...!」
唐突に聞こえた響の叫びに、弦十郎達が振り返ると、
翼の右手に握らされたフェニックスフルボトルから赤い炎が漏れ出し、その炎が翼の傷口を覆っていき、少しずつ傷口が塞がっていった。
「...これは...!」
その直後、救急車が到着し、翼は搬送されていった。
「はあ...はあ...はあ...」
とある森の中、変身を解除したクローズこと万丈と、ネフシュタンの少女は歩いていた。
「おい、大丈夫か?」
「...ああ、俺は大丈夫だ。...お前は?」
「アタシも大丈夫だ。でも、お前のほうが...!」
二人がお互いを気遣っていたとき、
「...どうして風鳴翼を仕留めなかった?」
一人の女が現れた。
「...フィーネ...!」
「...少し油断してただけだ。次は必ず仕留める...!次はちゃんとやってやるから!」
その女を睨みつけるクローズと、問いに答える少女。
「...お前の指示に従ってれば、この世から戦争はなくなるんだろ?だったらやってやるよ」
そういい、万丈とともに森に消えていく少女。
その様子を見下すように見つめるフィーネと呼ばれた女。
―そこに。
「
そうフィーネに話しかける一人の男。
「...
「左様で。では、私は失礼します」
そうして、男は去っていった。
「...ダカーポは手放す気はないが...あの二人はもうそろそろだな...」
次の瞬間には、そこにフィーネの姿はなかった。
「...さっきはありがとな。アタシのこと庇ってくれて」
「...言っただろ?お前は俺が救うってな」
「...そっか、そうだったな...アタシは、お前のことだけは信用できる」
「...ありがとな」
次回予告
「万丈が、敵側にいる」
「そう言えばお前何持ってたんだ?」
「翼さんを、世界に独りぼっちになんてさせないでください」
「今度こそは一緒に見ようね」
「約束。次こそは約束だからね!」
「たーのもー!」
「朝から...ハード...過ぎますよ...」
次回〘約束のためのコンダクト〙
「―広木防衛大臣が、殺害された」
作者です。
遂にオリキャラがでてきました。
ダカーポはダ・カーポまたはD.C.のことです。
音楽記号なので、ぜひ調べてみて下さい。
違和感ないようにこれからも作っていきます。
かなりの文字数でしたが、次回はできるだけ減らします。
それでは、次回もお楽しみに!