夜分倍河原家
窓の外では雨が降っていた。灰斗のいる部屋だけまだ明かりがついている。
机の上には分解途中のモール、開いた設計図、工具、コンビニ袋
カサッ
モールが袋を運んでくる
「……そこ」
ピタッ。
指定位置へ置く。以前よりかなり賢くなった。
時計を見るともう二十三時過ぎ。
「遅いな」
ピロン。スマホに通知がきた。
《叔父:今から帰る!!!》
《叔父:半額弁当勝ち取った!!!》
《叔父:今日は豪華だぜ!!!》
「……またやってる」
いつもの事だった。
数十分してようやく仁が帰宅した。
「ただいまァ!!」
大量のコンビニ袋を抱えていた。
「今日は唐揚げだ!!いやコロッケもある!!勝ったぜ俺!!」
「うるさい」
「冷たい!?」
仁は灰斗の部屋へ入り袋を広げる。
「飯食っちゃったか!?食ってねぇ顔してるぞ!!」
「食べた」
「信用ならねぇ!!」
騒がしいけど家ではそれが普通だった。仁がふと机のモールを見る。
「おお、増えてんな」
「改良中」
「相変わらず蜘蛛好きだなぁ」
「別に好きじゃない」
「好きだろ絶対!!」
仁はモールを持ち上げる。
「へぇ……前より頑丈じゃねぇか」
「分かるの?」
「現場仕事してたからな!!」
昔の色んな仕事。バイトに雑用。その経験だった。
「……使う人が困るから」
「お前、最近ヒーローっぽい事考えてんな」
「別にヒーローになりたい訳じゃない」
「知ってるよ。お前、昔っから興味なかったもんな」
小さい頃テレビのヒーロー番組を見ても、灰斗はヒーローより装備やメカばかり見ていた。
「これどう作ってるんだろ」
そんな子供だった。
仁はコンビニ弁当を開けながら言う。
「でもさ……誰かを助ける道具作ってんなら、十分すげぇと思うぜ」
灰斗は少し目を伏せ、その言葉に返事はしなかった。
テレビニュースが流れる。
《ヴィラン被害増加》
《各地で小規模犯罪が多発》
仁の視線が少しだけ止まる。ほんの一瞬笑顔が消えた。灰斗はそれを見ていた。知っているから。叔父は昔、ギリギリの場所にいた。今も完全に消えた訳じゃない。
社会からの視線
周囲の反応
時々向けられる警戒
全部灰斗は見て育った。
仁はすぐ笑う。
「ま!!俺らには関係ねぇか!!」
明るい声だが少しだけ無理をしているのが灰斗には分かった。
その夜仁がソファで寝落ちした後、灰斗は静かにモールを見ていた。
“守る”
最近よく考えるようになった。ヒーローじゃないし正義でもない。でももし、目の前の誰かが壊れそうなら少しでも支えられる物を作りたい。そんな事を少しだけ考え始めていた。
カサッ
一機のモールが寝落ちした仁へ毛布を運ぶ。
「……学習したのか」
多分自分を見て、覚えた。