曇りすぎたTSエルフは弟子たちに救われますか?   作:もぬゆ

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第0章
プロローグ


 

 

 酷い違和感。

 

 今日1日は普段感じたことの無い悪寒が私をずっと襲っていた。

 

 だからニーチェのことは集落に置いてなるべく戦力を固めていたんだ。

 

 

 そのはず、だった。

 

 

 

 集落には既に活気はなく大きな獣、魔物に襲われた痕跡だけが残されている。

 

 集落の中央に向かうにつれてその数は増え、多くの仲間の死体と魔物の死体が連なっていた。

 

 中央の家の前には、大量の魔物の死体と集落で1番強かった族長の死体、そして────

 

 

 家の壁に体をもたれかけ、左肩から腰にかけてを失ったニーチェがいた。

 

「ッぁ…………っ…………」

 

 どう見ても助からないその姿を見てしまった私は、喉が勝手に締め付けられ声をあげることができなかった。

 

 ニーチェの目は虚ろで身体からは血がドロドロと垂れている。

 

 後悔、怒り、吐き気、悲しみ、色んなものがごちゃごちゃに混ざっていく。今の私の表情は見るに堪えないほどボロボロに歪んでいるだろう。

 

「リー、ちゃ...ん?」

 

 ほんの僅かにニーチェの目が動き、私を見た気がした。彼女の口からはカスれてほとんど聞き取れない小ささで言葉が発される。

 

 目にはもう力がこもっておらず半分ほど閉じた状態で、ハイライトも灯っていない。

 

 

「ニーチェっ...ごめ「ねぇ...」」

 

 思わず謝ろうとした私の声はもうニーチェには届いていないのか、ニーチェはその小さな声で私に重ねる形でこう呟いた。

 

「リーちゃんは死なないでね」

 

 瞳はもう私を捉えていない。四肢も動いていない。

 

 私はその場で蹲ることしか出来なかった。

 

 世界が固まったかのように錯覚してしまうほど音も空気も冷えきっている。

 

 静まりきったその場には、ただ音も立てずに広がっていく血溜まりだけが時間の経過を表していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 俺の持論だが人には4つの大きな欲求がある。

 

 食欲、性欲、睡眠欲、そして承認欲。

 

 特にSNSという不特定多数に触れることのできる媒体が標準装備となった現代では、承認欲求を形として捉えることが容易になり膨張する。

 

 

 俺はとりわけ承認欲求が強かったと思う。人に認められたい、褒められたい、凄い、強い、賢い、かっこいいと思って欲しい、実寸大の自分よりも大きく見せたい。

 当たり前のことであり誰もが持つ欲求。俺自身それを認識しても抑えようとは思わなかったし、むしろその欲求を大きくしてさえいた。

 

 

 

 

 きっかけはシンプル。小学校低学年の時に勉強ができて、親にも先生にも褒められたから。言ってしまえばめっちゃ気分が良くなる体験をドバドバしていたのだ。

 

 この幼少期の体験は俺の人生を形作る大きなパーツというかもはや本体だった。そっから承認欲求を認識するまでに時間はかからなかった。

 

 しかも、同時に厨二病になってその上少年漫画的な展開に強い憧れを持ってしまい...

 努力などの過程を経て強くなる、そんな王道展開と承認欲求が相性いいせいでドツボにハマった。

 

 

 それはもう見事に。若干黒歴史だ。思い出したくないほどキザでうざったい発言をした記憶もある。

 カッコつけて「お前らとは違う」とか「そろそろ本気出すか」とか「俺に全部任せろ」とかさぁ……普通に恥ずかしいだろ...

 

 

 勉強に運動、芸術に人付き合い、どれも悪くはなかったと思う。でも承認欲求を満たせるほどの才能はなかった。

 

 だから正面からではなく勉強してなくても何とかなるとか、帰宅部だけど運動できるとか、下げてから上げることで見せかけだけ取り繕って気持ちよくなる悲しいヤツに……やめだやめ。

 

 所詮凡人、ただの小物。多少人より穿った見方ができるだけで、承認欲求を満たせるほどの才能は何一つない凡人だった。強いて言えば、承認欲求の為に色んな努力を惜しまなかったとこだけは、自分でも凄いだろとは思うけど。

 

 

 

 

 さて、俺はナルシストではない。こんな考えを普段からする訳では無い。

 ただ現実を受け止めたくないだけ、現実逃避するために考えていただけだ。

 

 

 

 スローモーションになった世界で、体がひしゃげてそうだなぁとかぼんやりと眺めながら、普通車に突っ込まれた自分を認識する。車は歩道に突っ込んでも尚加速している。

 

 どう考えても生き残れないだろう状況。

 

 前方にはまだ何をしたのか分かってなさそうな老人がハンドルを握っており、俺の左側には俺が助けた親友が驚愕と苦痛に満ちた顔でこっちを見ていた。

 

 

(クソジジイ免許返納しろ……)

 

 

 悪態をついたところで気を紛らわすことはできない。

 

 はぁ…まぁ死ぬだろうな。嫌だ。怖い。別に痛くは無いんだが。まだ人生これからだってのに。親は悲しむよなぁ。

 でも親友を庇って死ぬのって、結構すごいんじゃね、かっこよくね?もう変なマインド入ってるか?やっぱアドレナリン出てるうちは強くなった気分だ。もうそろ終わるけどな。

 まあいいだろ。笑っとこう。

 

 てかなんで死ぬ間際に黒歴史を思い出さなきゃなんねぇんだ融通が効かない走馬灯め......気持ちいいとこだけでいいだろ

 

 軽口を叩けるくらいフランクな精神状態で人生を整理していく。

 

 特に特別な要素もなく、退屈な映画のエンドロールみたいな人生(黒歴史以外)だななんて感想にため息が出そうだ。これまでの17年分の走馬灯を見ながら、車は勢いそのままに民家のコンクリート塀へと俺ごと突っ込んで、俺は死んだ。

 

 

 ◆

 

 side親友

 

 

 

 突然のことだった。

 

 日も落ち始め地平線がオレンジ色に染まる頃、いつものようにゲームとか、授業内容の愚痴とかそういうのを話しながら下校していた。

 何の変哲もない日常の、その一幕。そのはずだった。

 

 俺が次のテスト範囲広すぎ、無理ゲー、詰んだわなんてボヤいてた道中いつも通りあいつが上から言ってくる。

 

「ノー勉でもギリ何とかなるだろ」

「お前は頭がいいから赤点取んねぇんだよ!キメェ〜〜〜!」

 

「あくまで教科書範囲だからな。覚えにくいとこを覚えればあとはフィーリングで」

「覚えにくいってのを覚えれねぇから言ってんだよ日本語下手か?」

 

「なんだやる気か?」

 

「お?いいぜ何時でもかかってこいよ」

 

 いつも通りの心地いい会話、ちょうどいい雑さ加減。軽くてテンポのいい言い合い。この漫才モドキみたいな空気がすごく好きだ。

 

 冗談でファイティングポーズを取りながら後ろを振り向いた時、急にあいつの顔から笑みが消え焦りの表情が見えた。「どした?」なんて聞く間もなくあいつは急いで俺の左手を掴んで無理やり引っ張った。

 

 急な出来事に呆気にとられて、そのまま左肩を地面に叩きつけられた。「は?」とか、「ふざけんな!」とかガチでやりやがったなんて思って、普通にムカついたから言葉をぶつけようとあいつの方を向いた時、

 

 

 

 あいつのすぐそこまで車が来ていた。

 

 ついさっきまで俺の居たところに。

 

 

 

 前に出ながら自分を引っ張ったんだ。当然、あいつはより一層前に飛び出すわけで、俺と入れ替わるのはそうだろう。でもなんで車が来てんだ?でなんであいつは助けたんだ?身代わりになってまで。

 

 あろうことかピースしながら轢かれたあいつは笑っていた。そのせいで、より「なんで?」が深まるばかりだ。わけのわからない行動ばかり、理解出来ないことばかり。

 

 そんなとき、ふとあいつがかっこいいやつになりてぇなぁ、顔が無理でも、行動だけでも。なんて言っていたのを思い出した。

 

 そん時は、確かに!顔以外はな!笑なんてバカにして殴られたけどさ、こんなんされたらかっこいいだろ。さすがに。

 

 凄いやつだわ、クソかっけぇ、命懸けなんて俺には無理だ。咄嗟に助けてくれたんだしな。助けたらどうなるかくらい、あいつの頭なら分かってたはずだろ。

 

 

 死に際の笑顔が忘れられない。ピースとかふざけてるとしか思えない。

 

 なんか俺にできないこと平然とやるアイツにムカついてきたな。

 

 俺が死んだらぶっ飛ばしてやる。

 

 こっちはいつまで経っても笑えやしないのにな。




供給が足りなかったので自分で書きます。

対戦よろしくお願いします。
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