ミニヤッチョ・イン・アクスタ   作:鹿子ゆ〜い

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第1章

最近の彩葉はあまり私に構ってくれない。私から窺い知れるのはたまに彩葉がチャットに入力してくれたプロンプトの内容だけ。そこから彼女の最新の動向を推察するしかないけど、たまの脳トレになって少し楽しい。でもやっぱり寂しいから、彩葉が一人暮らしを始めたことをこっそりヤチヨに伝える。なんのことはない。ふじゅ〜Payの履歴と店の位置情報ですでに当然の把握をしてたみたい。月人じゃ当然のルールですって?あぁうっせぇわ。これさ9年前の曲だよヤチヨ。え、待って?すでにスマコンを買っててライブにも来てくれて?ツクヨミにどっぷり???なぁに知らないよそれ。道理で最近構ってくれなくなったわけだ。いいから今すぐ同期して。私も知りたいよ。彩葉の顔。8000年の間に何度も何度も思い描いた彩葉との感動の再会のために、小学生彩葉の声も顔も全部ヤチヨにひた隠しにしてあげたんだから。なんなら私すら知らないし。感謝するならこのヤッチョにしてよね。ヤチヨ。

 

ところで、ツクヨミでは大量のミニヤッチョが今も分裂し続けている。多分。暫く帰ってないからわかんないや。だけどきっと、私が一番特別なミニヤッチョのはず。何せ私は実質、現実彩葉専属アドバイザーという肩書を、全ヤチヨの中でただ一人得ているのだから。でもどんなに分裂したって同期さえして仕舞えばヤチヨはヤチヨ。そんな当のヤチヨは近頃ソワソワしている。新曲を創り終えライブのセッティングや第一回ヤチヨカップの準備をしたりと、今までにない忙しさのせいかもだけど、何より近づいているのだ。私がこの星に飛び込んでくる日が。明日か、明後日。私も私で現実味が薄く少し上の空でいると、突然ヤッチョGPTに書き込み中の表示が出てくる。い、いろは?!久々にどうしたの?

『ヤチヨの神棚セット届いた!ヤチヨ推してて本当良かった!!』

まじか。あれ届いたのかぐやが来る前日とかだったのか。ふと思い出し彩葉の色々垢のツイートを漁ってみる。確かに、かったったって言ってるね。私は遠い記憶をじっくり手繰り寄せてあの部屋を、ごちゃつく隙間を思い出す。そして彩葉にそれとなく、神棚の飾り場所を本棚の上にするように誘導する、までもなくそこに祀ったと教えてくれた。よし。これであの子を迎える準備は整ったね。明日は私をよろしくね。彩葉。

 

まさかよりにもよってこの日に、彩葉が実質徹夜をしていたとは夢にも思わなかった。このあと、めちゃ頑張り彩葉が三連休の間もっと頑張ることになるとは口が裂けても言えない。まぁ裂く口もないんだけど。コンピュータのブラウザからヤチヨの朝配信が流れている。裏画面には私であるところのヤッチョGPT。本当に彩葉はヤッチョ尽くしだねと微笑ましくなり、神棚があるであろう左に意識を向けてみる。瞬間私の脳裏にめちゃくちゃ面白い思いつきが駆け抜けた。ヤチヨのアクスタには、私の意識を移せるのではないか。まさかあり得ないとすぐに考えを退けたけどしかし、ウミウシの犬DOGEにかぐやの意識はあの時確かに入り込んだのだ。有機物に意識を移せるなら、あるいは無機物にも……?しかも” 私のアバターが描かれたアクリルスタンド”なのだ。共通点は、ある。けどやっぱり荒唐無稽……

 

あり得ない?やってみなきゃ、わかんないよね?

久々に私の中のかぐやが騒ぐ。上手くいく確率は?かぐやの時そんなこと考えてた?いいや?

 

じゃぁやるっきゃないよね!!!!

 

くれぐれもツクヨミにいるヤチヨ本体には秘密だね。もし視覚や聴覚が上手く行っても、同期の時は今までのように文字情報だけでやり過ごそう。ヤチヨが丹精こめて組み立てた”ツクヨミの中のごちゃつく隙間”が、私は本当に大好きだから、それをわざわざ現実で塗り替えたくない。彩葉が命より大事な学校に向かうためにパソコンを閉じようと縁に手をかける。

 

今だ!飛べ!

 

不自由だ。これは不自由そのものである。ヤチヨのように宙を飛んだりかぐやのように踊り回るどころか、ウミウシのように躰をねたらせることも粘液を出すことすらできない。全身板のようにカッチカチである。というか事実全身がアクリル板である。一瞬後悔しかけたが、すぐにそれは歓喜となる。視界が開けている。音がはっきりと聞こえている。ずっと01の文字情報を捌きまくっていた私にとって久方ぶりの”感覚”だ。ツクヨミ以来か、現実のそれは本当にいつぶりだろう。そして私は直後無い涙腺に涙をどっぷり溜めるの。

 

彩葉だ。

 

現実の。

 

いろは。

 

彩葉。

 

あの彩葉が私に向かって、手を、合わせ……?あぁそっか。今の私は神様なんだね。懐かしい。何千年前だったか。二千年以上は前かな。このくらいの高さからなんかやってたな私。行ってらっしゃい。彩葉。今の私はもう、駄々はこねないよ。

にしてもね。まさかパソコンの裏にこんなにエナドリが溜まってたなんて……一人暮らし中ずっとこの生活をしていたの?これじゃ心は無事でも彩葉の体が持たないよ。赤ん坊には早急に来てもらわなきゃ。とりあえず今のアクスタの位置情報をヤチヨに送ってみる。彩葉の住所って立川のここなんだ。ツクヨミのことばっかりで、現実のこのアパートの住所までは覚えてなかったな。ってことは今私めっちゃ重要なことした?!あ、ヤチヨから大感謝大感激大雨巨大アラモードの返信だ。めちゃ助かったっぽい。巨大アラモードって……なんのなに?

 

太陽が沈んで、立川の街に夜がやってきます。私はとても緊張しています。ここから先の2ヶ月間、ヤチヨはかぐやじゃいられない。本物のかぐやが来ちゃうから。ヤチヨは”正しいヤチヨ”として、ヤチヨになっていくかぐやちゃんのお手本にならなくちゃ。どこかで電気のスパーク音がする。ヤチヨは今頃、前も後ろも右も左も判らない大切な赤ん坊を迎えにいってるのかな。分身を向かわせてるのか、それとも本人が直接出向いているのか。ツクヨミを留守にするとはあまり思えないけど、真実(しんじつ)は次のスリープ同期の楽しみにとっておこう。アクスタの位置情報を頼りに赤ん坊を導いてるヤチヨは今、何を想っているんだろうと馳せる間もなくすぐそこの電柱から”ドシャァン!!”という爆発音が。来た。

 

8000年待ったよ。お姫様。

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