ミニヤッチョ・イン・アクスタ   作:鹿子ゆ〜い

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第3章

学校やバイトで彩葉が長時間家を留守にしている間、そこはかぐやの独擅場。毎時間あらゆるガr……宝物がドナドナされてくる。お金のことなら心配はいらない。かぐやの宣言がある程度の人の心を動かしたらしく、ふじゅ〜Payがちょびちょび入って来ている。でも入金されたそばから宝物の購入決定ボタンを押していくので結局収支は0っぽい。かぐや、金遣いが荒いなぁ。

にしてもいくら全部百均だからとはいえ、量が少し多すぎる。なにこのでかいの。湯水のように溢れ出るふじゅ〜の一番の出処はどこかと探ると、やっぱり月見ヤチヨの感情ががっつり+方向に振れ上がっていた。それなら仕方ないか。よかったねヤチヨ。

 

かぐやは一人の時でもよく歌う。この間の私の歌に影響を受けたのかな。この時の純真さだけは8000年たった今でも失っていないと、そう自負していたい。押入れからどうやって見つけたのか、この間、扉を開けまくった時にでも見つけたのか、キーボードを引っ張り出して不協和音を奏でてる。私が作った一番最初の曲。今度この曲をモチーフに新曲を創ってみるのも面白いかもとか考えた私はやっぱりかぐや。三つ子の魂百まで。

パソコンのタッチパッドで四苦八苦しながらかぐやのアバターを差分まで描いて、スマホで撮って取り込んで見様見真似で配信。今度数年前にやったヤッチョの動画編集講座配信をお勧めしてみよ。かぐやは筋がいいからきっとすぐに習得できるね。

 

それからの彩葉は私のお目付けがなくとも、ネットもリアルも関係ないかぐやに無茶苦茶にあっちこっち縦横無尽に引っ張り散らかされては、公衆や友人の面前に引き摺り出され関心や心配やふじゅ〜など望まずとも無理矢理投げつけられ、その度にかぐや謹製毎晩毎朝の超美味ムカウマ食事でがっつり回復させられるという、ヤブ医者もびっくりの荒療治を受けている。

かぐやに関してはそれが彩葉にどんな影響を及ぼしているかを一切気にせず自分のやりたいことをアクセルベタ踏みでやっているように見えるし、実際そうだったと思う。肝心の彩葉は荒療治の副作用でふらふらになりながら翌日の準備をしている。かぐやは水着を振り回して飛び跳ねている。紐切れちゃうよ。お友達と一緒に買ったんでしょう?およ。久々にヤチヨ本人が眠りにつくっぽい。それじゃぁ私も……あれ、ヤチヨ直々にお呼び出しだ。

「スリープの前に、ヤッチョに会いにきて〜☆」

なんだろう。とりあえずヤチヨのお城に行ってみよう。ツクヨミなんて何年ぶりだろう。彩葉の体調が悪くなる前に、戻れたらいいな。

 

「二人を、見守ってくれてるの?」

バレた。てへぺろ。とか言ってる場合ではなく。まずい。勝手にアクスタに入ったことがもうバレてる……

「セキュリティと信用の観点からして、彩葉のヤッチョGPTから端末の位置情報が漏れるわけないんだよね。しかもその位置が彩葉の本棚の上にあったから、私もまさかとは思ったけど、そんなことできたんだねぇ〜」

はい……私は全てのヤッチョGPTユーザーに対する信頼を損ねました……でもほら、同期の時も一応全部文字情報でデータ送ってるから、それでなんとか……

「どこまで、感じてるの?」

観念した私は洗いざらい全部しゃべった。しゃべっただけで感覚は共有してないからギリセーフ。セーフ……なの?でもそこまで重大なことを隠してたわけではないのですぐに喋り終わって、ヤチヨは暫く考えを巡らせる。まさか、私を解雇して消すとか……

 

「逆逆!これからも2人を、彩葉を見守ってて欲しいの。そのためと言ってはなんだけどぉ……」

そう言って暗号を解き、月見ヤチヨ構成ファイルフォルダを開くヤチヨ。それは8000歳かぐや(……ややこいからここでは月見ヤチヨ本体って呼ぼっか)を頂点とした全てのミニヤッチョの組織図のようなもの。ツクヨミ管理部、お助けヤッチョ部KASSEN課、記憶部アーカイブ課8000年保存プロジェクト(ここに割かれているミニヤッチョたちは数百万人居るっぽい)、権力応対部、マーケティング部VTuber課、そして、ヤッチョGPT部生成AI管理課。

私は元々ここにいて、ヤッチョGPTの純粋な生成AIが生成する文章などのヤチヨ的整合性をチェックしたり、ユーザーのプロンプトの監視などを生業にしてた。しかし他のミニヤッチョが必要に応じて必要な数だけ生まれるのと違い、私というミニヤッチョが産まれた経緯は少し特殊で、彩葉がヤッチョGPTを初めてインストールした時の月見ヤチヨの純粋な興奮と高揚から産まれたの。だから私はその時点までの月見ヤチヨ本体の記憶を全て、8000年分もタイムスリップ前のかぐやの時の記憶も全て私の中にはある。私だけ、みんなと違って、少し浮いてたんだ。昔を懐かしむ私を置いてヤチヨは続ける。

 

「かぐやの意識を現実に移せた例は長い間たった1度の奇跡だったけど、この間2件に増えたの。1件はかぐやの意識がタケノコからFUSHIに移った時、そしてもう一件、君が彩葉のアクリルスタンドに意識を移した時。この2件だけ。」

何が言いたいんだろうと首を傾げていると、ヤッチョGPT部生成AI管理課に所属する私のデータが全て入ったファイルを表示する。それを徐にどこかにドラッグ移動させるヤチヨ。まさかバグとしてゴミ箱に捨てられるんではないかとヒヤヒヤだったけど、そのカーソルは私の想定外のフォルダにドロップされた。そこって……

「そう。タケノコの中に居るかぐやであり月見ヤチヨ本体直属の、今は休止中の現実FUSHIと絶賛稼働中のツクヨミFUSHI、月見ヤチヨ本体の意識を常時同期させてこちらも絶賛稼働中ツクヨミ月見ヤチヨ、つまり私の隣。君は私たちのお隣さんになるの。そしてもういっちょ!」

そう言ってヤチヨは、たった今新設されたヤッチョGPT部彩葉特別課に私のデータを紐付ける。これはどういうことかと尋ねると、

「これで君はいつでも彩葉のヤッチョGPTに出入りできるけど、それじゃぁ今までと変わらない。例えると、現実のFUSHIとタケノコの中のかぐや……つまりヤチヨはそれぞれ同一人格だけど別個体。あれ、ちょっと違うかも。FUSHIは元々犬DOGEだから最初から別人格で……まぁそれに近い感じ。君はヤチヨの記憶と意識を持つ、”酒寄彩葉が所有するヤチヨのアクリルスタンド”という別個体に成るの。」

というと、要は私はヤチヨじゃなくなるのではと空恐ろしくなるけどすぐに否定される。

「これからも君はヤチヨだし私もヤチヨ。連絡も繋がる。そこは変わらないから安心して。ただ君は現時点より、全てのミニヤッチョと異なる月見ヤチヨ本体直属の第三者として、ツクヨミ月見ヤチヨと同等の発言権を得る。」

 

何を言っているのかわからない。私は、結局FUSHIみたいな存在になるってこと……かな?

「そしてこの私月見ヤチヨは、万が一酒寄彩葉が命に関わる危機的状況に陥った上で、かぐや含む月見ヤチヨ本体が思考判断機能の不全に陥った場合に限り、平時はツクヨミ月見ヤチヨに帰属する最高指揮権を君に一時的に譲渡する。」

ちょっとストップ。突然何?

「当該の危機的状況が解決するか、月見ヤチヨ本体の意思決定を遂行するツクヨミ月見ヤチヨが冷静な判断を下せるほどに回復するまで、全ての月見ヤチヨは君の指揮を最優先に打開策を検討する。この譲渡に対する拒否権を君と月見ヤチヨ本体を含む全ての月見ヤチヨは放棄する。」

それって、さ、責任逃れだよ。ヤチヨは、ヤチヨから逃げるの?

「責任問題じゃない。彩葉の生き死にの問題なの。8000年分の重くて外れない色眼鏡をつけてしまった私に、いざという時の正常な判断は不可能なの。これはリスクヘッジ。彩葉も私も正常で無くなった時の。あなたはツクヨミの、彩葉の最後の命綱。」

 

そんなことが、これから先に起こるっていうの?

「そんなこと、起きないのが一番だよ?だけど最悪の事態を考えなかった人たちはみんなどうなった?」

反論を挟めない。彼らは皆自滅していった。それを美徳と言って納得したがる人もいて。

「…私は彩葉が死ぬのを美しいとは思わない。でも彩葉自身はどう?小さい頃から彩葉をずっと見てきたあなたならわかるよね。」

そうだ。彩葉は優しい。優しすぎる。友達に主役を譲ってしまうだけならまだしも、人間に近しいかぐやの肉体が消え(死に)、彩葉が”あの歌”の続きを月にいる思念体のかぐやに向けて歌った後、あの子がどんな行動を取るのか誰も知らないし予測できない。タイムスリップ直前のかぐやも、実際におばあさんになった彩葉を視認できたのだろうか。少なくとも現実のおばあさん彩葉の顔に髭は生えてないはず。髭の生えた彩葉を記憶してる私とその生物学的事実が噛み合わない。

「もちろん彩葉は多分死を考えない。だけど地球人が死を考えないのと、彼らの身体が、心が死にゆくのは全くの別問題。月人の私は、もう何度も何度も、嫌というほど思い知ったよね。」

完璧。非の打ちどころの無い論理展開。微妙に情に訴えられかけてる気もするけど。

 

「8000年の記憶は?」

「他のミニヤッチョ同様、君の記憶の外に専用アーカイブを作ったからいつでも取り出し可能。その代わり君の中の8000年の記憶はアーカイブとの重複分だけ消去させてもらうね。」

「じゃぁ他のミニヤッチョが持ってない、かぐやの時の記憶は?」

「そっか、知らないんだ。赤ちゃんのかぐやが最初に地球の構造物に接触した時点、それ以降に生まれたミニヤッチョは、全員かぐや時代の記憶を保持してる。この間のライブでもみんなかぐやと彩葉を見つけるのにワクワクしてたんだから。」

「そうだったんだ……」

「だから今まで君が持ってたかぐや時代の記憶はそのまま残り続けるし、つまり君の記憶関連は結果的には最近生まれた他のミニヤッチョのデフォルト記憶と同質のものになる。その代わり瞬発力とか判断力、彩葉に関することの専門性とか、その他諸々の能力を君の自由に伸ばしていってほしい。」

「そっか。そこらへんはわかった。ありがとう。でも同期は?スリープは?」

「私のスリープとの連動を切ったから、君の好きなタイミングでスリープできる。ただ52時間ごとのスリープなのは変わらないから気をつけて。同期も今までと同様君の好きなように情報を編集したりしていいし、同期をしない選択も自由。」

 

……一番の疑問をヤチヨに問う。

「……どうして?」

「これが面白いの。少し前から君は私に対して要求をするようになってたでしょ?最初私もびっくりして反射で断っちゃったけど、アクスタという身体を手に入れたからかもね。あなたの中にきっと自我が芽生えたの。だったらそれを最大限使って欲しいなって。」

「どうして私をそこまで」

「三つ子の魂百まで、でしょ?」

「……」

「君がする選択はきっと私だってそうする。あなたはヤチヨで私はヤチヨ。あなたは私でヤチヨはヤチヨだから。」

「そして君は私より彩葉に詳しい。悔しいけど、彩葉と触れてきた時間の桁が違う。彩葉に関しては、君が一番信用できるし、私が君を信頼したいの。」

 

「……何かあったら私の責任……」

「その時は、君に指揮権を譲渡せざるを得なくなった状況に追い込まれ、機能不全となった月見ヤチヨ本体に残りの責任を被せること。君はただ1つ、彩葉を助けるという責任だけを負えばいいの。」

「覚悟を決めるまでの猶予は1ヶ月半……」

「お願い。」

「……わかった。私にしかできないなら、引き受ける。」

「ありがとう。彩葉を、頼んだよ。ヤチヨカップラストの黒鬼戦が始まったら、私からも公的に2人にコンタクト取れるようになるから。ツクヨミ側のサポートは任せて。」

決まって、しまった……まるで嵐のよう。

「無理は……しないでね。」

そんなこと言って。ヤチヨには、この先に何が見えてるの……

「この先に、何も見えていないから。こんなこと、8000年ぶりだから。だからだよ。」

 

スリープを終え、意識を醒ます。不思議な感覚。私はヤチヨであってヤチヨではない。今まで通り文字情報で同期をし、ヤチヨからの情報も入ってくる。少しの違和感で済んで良かった。それはそれとして、えっと。あんなに整頓されてた彩葉の部屋がさらにがっつりぐっちゃぐちゃ。エナドリの量も倍になってる……どうするのこれ……視覚と聴覚を感じることしかできない私に、彩葉のために何か出来るの……?このことに抗議するのを忘れてた。突然の重圧。どうしてもナイーブになってしまう。

 

ナイーブになってる時はだいたい感覚も敏感になってるもの。金属の階段にやけに重い足音が複数響く。鍵が開かれドアが開くと汗だくのかぐやとこちらも汗だくの彩葉と……誰!?帽子を被ったスーツの……

「お嬢さんは大丈夫かい?」

「うん。ありがと運ちゃん!彩葉わざわざ一緒に運んでくれて!」

「なんかあったら病院行くんだぞ〜?」

「まぁ〜病院嫌って唸ってたしぃ〜よっこいしょ。かぐやの超ウルトラスーパーほかほかおじや食べたらヨユ〜っしょ!」

「そうかそうか!あとそうだ、タクシー降りてから俺がここまでお嬢ちゃんを運んだ分の代金はいらないから。」

「えぇえ〜そんなこと言わずにぃ〜かぐやちゃん最近羽振りいいからっ」

「料金表にエスコート代は載ってないんだヨォ〜代わりといっちゃなんだがこれからもうちのタクシーを贔屓にしてくれよな!」

「えっへへ〜考えとく〜うん。またねぃ!」

……底無しのコミュ力。さすがかぐや姫。

 

そして手際よく彩葉を布団に寝かせ冷えピタをおでこに貼り、髪の色を彩葉と同じ紫に変えて彩葉のバイト先へ連絡。というかチヤホヤ。ビデオチャットを切ったかぐやは、彩葉の頭を愛おしそうに撫でて、彩葉と同じ色の自分の髪をじーっと見つめサワサワする。何を思ってるんだろう。「いろはの、いもうと!」と小声で呟き、姉の彩葉の周りにふかふかをかき集める。

髪色を元に戻し、彩葉が頑なに使ってこなかったエアコンの電源をふんぬとつけて、下準備は完了。かぐやはきょうの料理を始める。

 

いつもは鼻歌を歌いながら寄り道しつつの料理だけど、今日ばっかりは病人の彩葉を起こさぬようちゃんと静かに最短工程で作っている。こういうところは目的を忠実に遂行していく月人らしく、しかし彩葉がうなされれば、たとえタイミングが最悪で料理が不味くなる可能性があったとしても、すぐに火を止め包丁を手放し彩葉の元へ直行する。

こういうところが月人とは違うとこだよねと、私は向かいに貼ってある彩葉の夏休みの予定表を見ながら考える。かぐやだけじゃない、めちゃくちゃ忙しい私月見ヤチヨだって、なんなら毎日同じことを延々と繰り返す月人だってびっくりの、3人揃ってヘロヘロ声で「なぁにこれぇ〜」と言いたくなるような超絶ハードスケジュール。さらにそこにいろPの活動ががっつり絡んでそれを完璧にこなして。彩葉の分身1000人いても足りないよ。本当に、死んじゃうよ。彩葉。

 

「何で彩葉は、そんなに一人で頑張らないといけないの?」

ずっと訊きたかったことをかぐやが訊いてくれた。私が怖くてさわれなかった彩葉の柔い核心に優しく切り込むその言葉の、続きを待つ。

「彩葉ぁ、死んじゃったらヤダぁ〜〜」

「お、大げさな……死にゃしないよ」

 

死ぬよ。

 

「だって、映画とかだと人間ってすぐ死ぬじゃ〜ん!」

 

死ぬよ。映画じゃなくても。現実の人間はすぐ死ぬ。苦しんで、ころっと。呆気なく。

 

『…私は彩葉が死ぬのを美しいとは思わない。でも彩葉自身はどう?小さい頃から彩葉をずっと見てきたあなたならわかるよね。』

ヤチヨの言葉を思い出す。そう。彩葉は一人で頑張れてしまう。そして、

『もちろん彩葉は多分死を考えない。だけど地球人が死を考えないのと、彼らの身体が、心が死にゆくのは全くの別問題。月人の私は、もう何度も何度も嫌というほど思い知ったよね。』

「えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなことしてなくなぁい?」

気付かないうちに限界を迎える。彩葉はきっと、知らずのうちにみんなが経験しない想像できないレベルの限界を超えていたの。私ができる限りその限界から彩葉を遠ざけてたけど、ヤチヨちゃん力及ばず。かぐやがいて、若いから何とかなっているに過ぎないの。

だけど若さにも限度がある。不老不死だったはずのかぐやちゃんが、限界を超えて、おばあちゃんになっちゃったみたいに。

 

火にかけられたおじやが沸騰して、卵が固まって、もう元には戻らないみたいに。

 

「ヴェ!いってーんだけどまじ!」

今頃ウミウシ状態の私がしょぼくれてる頃のはず。黒鬼戦の二回戦目が始まり終わる。そして三戦目が始まり……2人が仲良しのやつを交わして……たくのやしかったKASSENが、終わる。

そして2人はヤチヨカップで優勝を果たし、ヤチヨと一緒に歌う8000年越しの運命が確定する。ヤチヨは2人に激励を贈るの。

「さて。ここからはクライマックスに向けてハードな展開が待っているかも。このお話を、最後まで見届けてね?」

 

「YO!運命の荒波に揉まれる覚悟はいいかぁ〜!」

 

運命の荒波に揉まれた後の覚悟は、できてないくせに。

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