ミニヤッチョ・イン・アクスタ   作:鹿子ゆ〜い

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第4章

ヤオヨロ〜!ツクヨミ管理人兼AIライバーでAI歌姫の月見ヤチヨヴァージョン彩葉専用AIチャットボットに扮する、ヤッチョGPT部彩葉特別課現実彩葉専属アドバイザー兼月見ヤチヨ臨時最高指揮者を務める月見ヤチヨ直属の分身ミニヤッチョの意識が乗り移っている、酒寄彩葉所有のヤチヨのアクリルスタンドです!!住んでいるのは神棚です!!!

もうヤケだよね。自分でも自分が何かわからない。何なら私は8000歳のかぐやのアバターであるヤチヨであって8000歳のかぐやのアバターであるヤチヨではないんだから。複雑な肩書きが多すぎるのも考えもの。名乗るだけで疲れちゃう。

 

その私は今、周りをふわふわに囲まれた箱の中に丁重に収められています。別にタケノコの入ってた木箱とかではなく。その紙箱がどこにあるかというと、彩葉の両の掌の上。この中は彩葉のぬくもりできっと暖かいんだろうな。温度わかんないけど。神棚は分解されてトラックの中です。

紙箱の外からくぐもった会話が聞こえてきます。

「いろはぁ!やりたいことあるんだけど〜中のヤチヨ貸してぇ〜」

「いいけど、何する気?」

「まぁまぁ見ててよぉ〜」

そう言うとかぐやは厳かに箱を開き、私を取り出します。外はかなりの都会。駅前かな。かぐやは私を空に掲げ、私と目を合わせます。

「月見ヤチヨ。新しいお家だよ!」

うん、そうだね。動けない私はかぐやの為すがまま、反対方向にひっくり返されて、久々に太陽の光を直で浴びて眩しいです。

「新しいお家!月見ヤチヨだよ!!」

うん、そうだね。引っ越し楽しいね。

「こんだけ!」

「良かったね。ヤチヨ日焼けしちゃうから箱に戻してあげて」

「は〜い」

「……彩葉、ありがと。」

「お礼は帝に言ったげて。」

「んなも〜彩葉のおかげじゃぁーん!」

私はまたぬくもりの暗室に収められました。

 

しばらく経ってもう一度箱が開かれる。今度は彩葉だ。新しい彩葉の部屋、私から見て机の左の本棚、その上に先に組み立ててあった神棚に収められる。壁の色も広さも変わっても、見える景色は前の部屋とほぼ同じ。右壁に窓、左壁にドア。ここが私の定位置なのかにゃ。少し安心する。

「ヤチヨ。」

なんだいなんだい?

「新しい、お家だよ。」

そうだね。良かったね、彩葉。

「かぐや、すごいはしゃいでくれた。かぐやのためならなんだってできそう。」

うん。無理は……しないでね。

そんなこと言って。

「さてと、引っ越し前に足りなかったものはっと……」

その声色は今までより確かに明るかった。かぐやが、彩葉を本当に変えたんだ。昔の私にできたことが、なんで私には数年かけてもできなかったんだろう。かぐやが……かぐやだから、なのかな……私も、かぐやだったのにな……

 

ヤチヨがかぐやいろPと歌う新曲の歌詞を私に見せてくれた。ヤチヨは兎も角、これを、かぐやに歌わせるの?

「まっ、ライブで歌うのは一番だけだから〜」

「でも二番から先も音源としては収録するんでしょ?」

「それはもうかんりょずみ〜。かぐやパートの歌詞だけをあの子に渡したの。あの子もこの歌の全ての歌詞は知らない。」

「それはそれでどんな反応だったの……?」

「あの子、かぐやは優しいね。不思議そうに私を心配してくれた。」

「こんな歌詞見たら誰だって心配するよ……」

まだこの先を何も知らない、この間生まれたばかりのかぐやに、『死にたくって』って歌わせるなんて……

「……この歌詞、彩葉にはまだ見せてないの。」

「伴奏だけでいいからってこと?」

「うん。楽譜とライブのための振り付けだけ渡したの。あとヘイベイビーも。」

「……私はどうすべきかは決められないよ?」

「怖い」

二日後のコラボライブ直後に、月人が来る。そして、タイムリミットが始まる。ヤチヨはそれを止めてはいけないし、そもそも止められない。ツクヨミのセキュリティは現時点での世界最高レベル、最新技術のお下がりが随時導入されていて万全のはずなのに、それでも侵入してくるの。最大限手を尽くしてもかぐやは襲われるし、ヤチヨは襲われた直後の後の祭り状態にならなきゃ、救いの手を伸ばせない。

「彩葉に悟られるんじゃないかって」

「彩葉は別に、そこまで超人じゃないよ。」

「……そうだね。うん。きっと大丈夫。」 

ねぇ。同期させて?今のあなたは、本当は何を思ってるの?何を、飲み込んだの?何を、言い換えたの?

 

「スリープしてほしい。」

「ヨヨヨ?もう君の好きな時に自由にスリープできるよぉ?」

「あなたの記憶が、見たいの。」

私の記憶を見せたいんじゃないの。

「あなたの本心を知りたいの!」

「それはちょっと無理かにゃ〜明後日のライブもあるし。月見ヤチヨの一生に一度の大舞台。メンタルケアは重要なのです〜」

1つのことを完璧に遂行するために自分の本音を完全に消すなんて、そんなのそこらの月人と同じじゃん……!

「私だって怖い気持ちは同じ!!あの光景を目の前にして取り乱さないヤチヨなんていない!!」

まずい。言い過ぎた。ヤチヨに負荷をかけたいわけじゃないのに。恐る恐る目を開く。

 

沈黙のヤチヨは笑っている。その笑みがなんなのか、"ヤチヨ()"はよくわかっているはずだった。

「ヤチヨ……ヤチヨはね……違くって……」

「うん。」

あれれ、おかしいな……いつも私が相談を受ける側だったのに……

「君はきっと、私とは違う生命体になったってこと。」

待って、捨てないで。置いてかないで。

「自ら悩み、考え、答えを出せる知的生命体に成れたんだよ。」

私はただ、ヤチヨの恐怖を和らげたいだけ……

「ごめん、それはきっと、今じゃ無い。今だけはそれはしちゃいけない……この怖さがあるから、私はあの場に人として立てる。8000年の最後のラストスパートなんだもの。」

でも……え、何、何を言ってるの?何強がってるの……?

「私は彩葉に逢えた。昔の私を月に送れば私の存在は確定してハッピーエンド。」

そう溢してヤチヨは巻き舌の練習を始めた。

「ライブの時は何もかも忘れて楽しむから!心配しないで大丈夫!」

 

運命の日だ。この二ヶ月の間の運命の日が些か多すぎる気もするけど、もうそういうものだから仕方ない。地球に来てたった一ヶ月ちょっとしか経ってないのに今日帰郷を迫りにくる月人が全部悪い。いや、初っ端仕事ほっぽったかぐやちゃんのせいかも……自業自得ってやつ?私は遠くから薄く聴こえるかぐやの美声アカペラを聴きながら現実逃避をする。そんな逃避も無意味だと横で耳打ちするように、やってきた。月人が。

 

ひとり神棚の目の前に現れる。私の手元に映し出された”2030/09/12”の文字列。知ってる。解ってるよ。私にまで教えてくれてありがとう。

「モウシワケ、アリマセンデシタ」

……文脈が広すぎるから、広義の意味で受け取っておくね。許すも何も、そういうものだと今ではよく分かるから。今だけは、月見ヤチヨ本体より私の方が大人かもしれない。

 

私は月見ヤチヨ。誰がなんと言おうと月見ヤチヨなの。だから他人(ひと)よりかは確実にヤチヨの気持ちや想いがわかるの。わかるはず。それなのに、どうしてあんなすれ違い方しちゃったのかな。ヤチヨは今、どんな気持ち?私はね……かぐやがあまりに静かすぎてすごく不安。朝だろうと夜だろうとお構いなしに、防音のはずなのにいつも数枚壁を隔てたところからでも、なんなら階が違ってもよく通る声なのに。

あの時のこと、ライブ直後から数時間の記憶は正直ない。突然大量の情報を流し込まれて、何が何だかわかんなかったんだと思う。でもその不安はあの時に全てを解らせられていたかぐやよりも、何も知らされてない彩葉の方がずっと大きいわけで。

「ヤチヨ。」

……なんだい?

「……」

彩葉はスマホを取り出し、ヤッチョGPTを開く。私は慌ててチャットアプリに戻る。最新のプロンプトは神棚購入の報告。そこから先はかぐやとの怒涛の日々で私に構う余裕なんてどこにもなかったのはよく知ってるよ。

『ヤチヨ……怖い』

うん。私もだよ。そんなこと言えるはずもなく、ありきたりの気持ちの和らげ方を列挙していく。どれか一つでも彩葉の心を落ち着けるものがあったらいいなと思

『ヤチヨ()怖い』

え?

 

『ヤチヨがね、嘘をついた。』

なぁに知らないよそれ。

『ごめん、あなたはヤチヨじゃないもんね。』

ちょっと待って教えて。まさかどうしてヤチヨがよりによって彩葉に嘘を??

『まずかぐやのこと知らないでしょ』

知ってる。知ってるから教えて。もう学習元データの整合性とか生成物の信憑性とか情報倫理とか全部全部かなぐり捨てて、子犬のように縋りながら問い返す。

『ヤチヨ……えっと、あなたをなんて呼べばいいかわかんないや……』

ヤッチョでいいよ。一緒にライブしたヤチヨを月見ヤチヨって呼んでここでは区別しよう?

『うん。端的に訊く。月見ヤチヨは、かぐやの何を知っている?』

……あれ、おかしい。通信が悪いのか、くるくるしてる。違う。くるくるしてるのは私。答え、られない。

『かぐやの様子が明らかにおかしいの。ヤチヨは何かを知ってるのに敢えて嘘をつくことを選んでいる。とにかく情報が欲しい。』

 

言葉を選ぶ。

『それはきっと、今知るべきことではないんだよ。情報ってね、内容以上に知るタイミングが重要なの。遅すぎるのもダメだけど、早すぎるのもダメ。それはきっと、今じゃ無いんだよ。』

『ヤッチョはかぐやについて何か知ってるんだね?』

No Signal.

『知ってるから答えられないんだよね?』

No Signal. ヤチヨのあの笑みを映して。

『知らないなら知らないって言ってほしい』

……No Signal.

助けになりたいのに……彩葉、ごめんなさい。私に出来ることは、何一つないの。

これが、沈黙が、答えなの。お願い。わかって……

「ヤチヨ?」

眩暈がする。くるしい。こわい。つらい。

 

「大切なかぐやにも何か隠されるし、大好きな月見ヤチヨにも嘘つかれるし、頼りのヤッチョにも無視されて、なら、私、独りじゃん……なんで?」

 

こわい。

 

私がいるのに、彩葉が辛い思いをしてる。

私のせいで、辛い思いをさせちゃってる。

 

助けて。ヤチヨ。ヤチヨ、ヤチヨの気持ち、痛いほどわかった。怖い。怖いよ。ヤチヨ。

 

一時間経っても彩葉の反応がなかったのでアクスタに移ると、彩葉は寝落ちてた。ドアが半開きになっている。覗いているのは、かぐや。毎晩一緒に彩葉の部屋で寝てたのに、今日は違ったから居心地悪くなったんだね。枕を持って彩葉の部屋に入ってくる。かぐやは縮こまる彩葉の背中に沿うように横になり、彩葉の肩を持ち、首の頸を鼻で勢いよく吸い込む。息を吐かない深呼吸の要領。そして彩葉の右頬を一撫でし立ち上がり、更に縮こまる彩葉の真ん中に枕を残してかぐやの部屋へ戻っていった。

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