「さぁ、もう開始時刻ですので、あちらへ」
恐ろしい見た目からは想像が付かない柔らかな声色と、口調。
「あ、はい。遅れちゃいましたかね?」
「いえいえ、まだ大丈夫ですよ」
くるりとスケルトンは振り返り、また鳴り出した足音。
今にもボロボロと崩れ落ちそうな見た目が奏でる、不思議な音色。
小気味いいような、不安を煽るような、聞いたことがあるようでないような……
その音に耳を集中させていると、目的の場所にたどり着いたようで、スケルトンが足を止めた。
「さ、こちらです。ほかの受講者様は既に中で待機してますんで」
「ありがとうございます」
「開始まで席について待っててくださいね」
(受講者は僕だけじゃなかったのか)
僕と同じように、人間界で死んでしまった人たちなのだろうか。
自分自身もそうであるはずなのに、死んだ人間と対面するという事実に、妙な緊張感を覚えながら、スケルトンに続いて部屋に入った。
ざっと室内を見渡してみると、思っていたよりずっと少ない人数で、スーツ姿の僕と同じくらいの年の女性と、少し汚れた簡易的な服を着た、僕より一回りほど年上に見えるおじさんの二人だけだった。
きっと、あの服は僕のようにこちらで支給された物なんだろうな、と、根拠もなくそんなことを考えていると
「順くん?」
「……えっ!?」
久しぶりに、本当に久しぶりにその名前を呼ばれた気がする。
その呼び名が僕を指していると、気が付くのに少し遅れるほどだった。
「西山…楓?」
「あはは、なんでフルネーム?」
そこにいたのは、僕の中学生の時のクラスメイトだった。
「びっくりした。最後に会ったのは中学の卒業式だっけ」
「うん、全然変わってないから、すぐわかったよ」
中学生の頃から全然変わってないのは、何か問題があるような気がしたけど、それどころではなかった。
「西山さんもここにいるってことは……」
「えっと…順くんもそうってことだよね?」
「……うん」
「そっかぁ。順くんはなんで死んじゃったの?あっ、今のはデリカシーがなかったかな」
少し慌てて口元を抑えた西山さんを見て、少し和やかな気持ちになった。
「どうかな、あんまり類を見ない質問だろうから」
「ふふっ、そりゃそうだ」
死後の世界だなんて思えないほど、気の抜けた会話だったけど、向こうも向こうで重い事情があったのだろうということが、どこか遠くを見ているような彼女の瞳から感じ取れた。
「僕は……」
死んでもなお、見栄を張りたいような、かっこつけしいな僕がやっぱりいて、少し言葉が詰まる。
「……両親が死んじゃってさ、詳しく話せば長くなるんだけど、それで」
「あ、ごめん。やっぱりデリカシーがなかったみたい……」
気まずそうに視線を落とす西山さん。
「いや、いいよ。今となっては些細なことだし」
「そんなことないよ……」
僕たちだって死んでしまっていたのに、そんな僕の境遇を、すごく気の毒そうに聞いてくれる西山さん。
「ほんとに大丈夫だからさ!…西山さんは?」
空気を変えようとしてみたけど、そうするには最悪な質問だったことに、声を出してから気づき
「あっ、答えたくなかったら聞かないから」
と、続けた。
「ううん、私はよくある話だよ。仕事や人間関係に疲れちゃって」
「そうなんだ……」
(西山さんも、自殺だったんだ)
気の利いた言葉も言えなかったけど、こんなやり取り、どう反応していいか分からないのはきっと僕だけじゃないだろう。
それに、あの西山さんが自殺だなんて……
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週二回(火・木 21時)更新を予定しております。