自殺なんてするような子じゃなかったのに。
なんて風に彼女を評するのは烏滸がましいことだろうか。
明るく、サッパリとした性格だった西山さんになにがあったのだろう。
こうして今話していると、彼女もまた大きくは変わっていないような気がした。
見た目こそ垢抜け、スーツもよく似合っていたけど、やり取りの中で、確かに懐かしさを感じた。
特別仲が良かったわけじゃないけど、西山さんとのやり取りをひとつ思い出した。
彼女はオカルトめいたものが好きで、当時は占いに凝っていたのもあり、僕も占ってもらったっけ。
細かい診断結果は忘れてしまったけど
「すごい!順くんは大物になるよ!」
そう言ってもらったことだけは、なぜだか強く記憶に残っていた。
結果的に、その占いは外れていたようだけど……
「まだ、続けてるの?」
「ん?」
「…占い」
「えっ…あぁ、よく覚えてたね!」
「うん」
西山さんとの思い出と呼べるようなものが、それしか僕の中に残っていなかったことは、なんとなく言い出せなかった。
「そういえば、最近ずっとやってなかったなぁ……」
「そうなんだ。西山さんがああいうオカルトチックなことを好きだったって、思い出してさ」
「オカルトは今でも好きだよ……好き、だと思う」
まるで言い聞かせているような口ぶりに、違和感を覚えた。
「好きだと思う?」
「あっ…ごめんね?うん、好きだよ」
「謝るような事じゃないと思うけど」
「あはは、そうだよね」
なんだか西山さんと喋っているはずなのに、西山さんの形をした人を通じて、共通の知り合いである西山さんについて話をしているような、妙な感覚。
「西山さん…だよね?」
「ふふっ、なにその質問」
軽快に笑い飛ばしてはいるけど、僕の中の違和感は消えなかった。
「それよりさ、順くんはこっちに来てからどのくらい経つの?」
「えっ?えっと、まだ昨日来たばかりなんだ」
「じゃあさ、この世界の生き物って、まだ見たことない?」
「生き物?」
「うん、人とそんなに変わらないような見た目の悪魔や、見るからに悪そうなモンスターとか!教官は見たよね?骨だよ!スケルトンだよ!」
僕の中の違和感を吹き飛ばそうとするように、西山さんが興奮気味にまくし立てる。
「宇宙人とかUMAみたいなのも好きだったからさ!さっきの教官になんて、握手してもらっちゃったんだから」
「そ、そうなんだ……」
気圧されながら、心地よさも湧いてきていた。
(そうだ、僕の知っている西山さんはこういう子だったはずだ)
付随して、学生の頃を思い出す。
好きなものを嬉々として話す彼女は、周りの共感を得られなくてもイキイキしていて、話を聞いている子も、あきれた感じではあったけど、不快になんて思ってなかった。
そんな姿を、なんだかかっこいいなって思いながら眺めていた一幕が、僕の記憶から掘り起こされた。
ニコニコしながら、西山さんがこれまでにあった生き物の話を続けていると
ドン!と、大きな音がすぐそばで鳴り響いた。
かと思うと
「うるさいんだよさっきから!ここがどこだか分かってんのか!?」
すぐそばの席に腰かけていた、くたびれた格好をした男性が、顔を真っ赤にして激怒していた。
「すみません…えっと、教室?」
申し訳なさそうにしながら、真面目にずれた回答をする西山さん。
「そうじゃねぇよ!魔界だぞ!死んでんだ、俺たち!」
息を切らしながら、ものすごい剣幕で怒鳴りつける男性に対し
「うるさくしたのは申し訳ないですけど、そんなに怒らなくても……」
と、なんとかなだめようとする僕。
「うぅ…勇気を振り絞って死んだのに、なんで俺はこんなとこに……」
彼はもう一度、強く机を叩き、今度は涙声になりながら、肩を震わせている。
その様子を見た僕たちは、なにも言えなくなってしまっていた。
男性の嗚咽だけが聞こえてくる部屋で、どうにもならない気まずさと、死んだという事実を改めて感じていると、突然扉が開き
「お取り込み中のところ申し訳ないんですが、時間になったんで、講習を始めますね~」
といった、なんともマイペースなスケルトンの声が響いた。
助かったような気持ちになったけど、それと同時に、これから始まる講習とやらも、それはそれで僕の頭を抱えさせる問題の一つだということを思い出した。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・木 21時)更新を予定しております。