天使と悪魔と人間と   作:虹光ふみ

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21話「授業開始」

僕の通っていた学校とはまるで違うし、教壇のような舞台に立っているのは骸骨で。

木造の校舎に足を踏み入れたのは初めてだったけど、ほのかな木の香りと、黒板にチョークでカツカツと字を並べていく音が、僕を少しセンチメンタルな気持ちにさせた。

「改めて、本日皆さんに受講していただくのは、魔界の仕組みや、簡単な歴史を学んでいただくためです」

スケルトンの講師が僕たちに向き直りながら、そう言った。

黒板には、本日のカリキュラムを案内する文字。

魔界の歴史やルール、これからの過ごし方のすすめなど、右も左も分からない僕にとってはどれも必要な知識になりそうだった。

チラリと横を見ると、最前の列に並んでいる受講者、興味津々な様子の西山さんと、それとは対照的な、死んだような顔をした男性が目に入る。

人のことを気にしている余裕なんてないけど、先ほど放った男性の沈痛な訴えは、まだ僕の頭の中に残っている。

それでも、西山さんとの再会のおかげか、ひとまずこの講習に対して、前向きに取り組めそうではあった。

「と言っても、本日学んでもらうのは、どれも初歩的な必要最低限の部分ですので、あまり固くならなくても大丈夫ですよ」

「先生!で、いいのかな」

「いい響きですね。是非それで」

剥き出しの頭蓋骨からは、表情は読み取れなかったけど、嬉しそうな声色に少し和む。

「え~…西山楓さんですね、どうしました?」

「えっと、今必要最低限のという風に仰ってましたけど、もっと知りたいことが出てきたらどうすればいいんですか?」

「意欲があっていいですね。基本はホベリスにある図書館で調べることができますよ」

「ホベリス?」

聞きなれない単語に、思わず口をはさむ僕。

「えぇ、ドナ家のお城からだと、ホベリスの街を通ってここまで来たと思うのですが」

「あぁ、あそこがホベリスなんですね」

本当に僕はこの世界について、何も知らないのだと再認識させられた。

(こっちに来てから、まともに何か聞ける機会なんてなかったからなぁ)

この先も、聞きなれない単語や、突拍子もないようなことを教わると思うと、着いていけるか少し不安になった。

 

「では早速、魔界や天界に関する歴史と、現在の情勢なんかを学んでいきましょう」

「はい!」

明るく返事をする西山さんを見て、彼女が自殺したという事実が、やっぱり信じられないでいた。

「まず、いの一番に触れておきたいのが、約200年ほど前に起きた天界と魔界の戦争ですね」

戦争?それも天使と悪魔の?そんなの、僕たち人間にだって影響を及ぼしそうなスケールだけど……

「これは、人間界に魂を迎えに行った天使を、居合わせた悪魔が殺してしまったことがきっかけになり、発生しました。古くよりいがみ合っていた種族同士だったので、これによって天使側が侵攻を始め、悪魔側が受けて立ったという構図になっています」

概要を聞いて、少しゾクリとした。

僕を迎えに来た天使と、相対したグアン。

僕の部屋の中で起きたことも、場合によっては戦争の引き金に…なんて未来もあったのかもしれない。

「この戦争は約20年ほど続き、お互い傷つけ合うだけだという結論に至りました。しかし……」

「しかし、なんなんですか?」

背筋をピンと伸ばした、西山さんが食いついた。

「その際に生まれた制度を管理するのは天使と悪魔の代表者なのですが、利権争いが水面下で…と言っても、確かな証拠もないですし、今のは雑談として聞き流してください」

(こっちの世界も、ドロドロしてるんだなぁ)

人ごとのように聞き流してしまいそうになったけど、よく考えてみると、今僕がいる環境の話で。

(そういえば……)

「あの、僕がここに来る前に送られた、審問所?と呼ばれている場所にいた方たちは、仲がよさそうに見えました」

「えぇと、皆さんは特例審問所を通過してきているはずなので……天使側はウェラさん、悪魔側はベルディオさん。そうですね、ウェラさんは天使を絵に描いたような柔和な方ですし、ベルディオさんも血の気が多い方ではなかったはずなので、比較的平和かもしれないですね」

(そんな天使にすら僕はあんな扱いだったのか)

あの時受けた冷たい雰囲気と、沈んだ気持ちを思い出し、聞かなければよかったかもしれないと後悔した。

「私たちみんな、あそこを経由してきたんですね!」

「えぇ、本日はそういう方たち専用の講習ですから」

「先生、普通の講習と何が違うんですか?」

「ここにいる皆さんは、奴隷として魔界に来ているはずです。ですので、そのあたりの説明も、講義のプログラムに入っています」

「えっ?西山さんもそうなの?」

「ってことは、順くんもそうなんだ」

(女性だからって、待遇が違う訳じゃないんだ…でも、それにしては元気そうだし、うまくやっていけそうなのかな)

彼女が良い待遇であれ、悪い待遇であれ、僕にはどうすることもできないってわかっているけど、それでも、身を案じてしまう。

「せっかくですから、そちらの説明も今やってしまいますか」

(スケルトンなのに、柔軟な対応なんだな)

なんて、洒落のようなことが頭をよぎるくらいには、今この空間は、不思議と悪くない居心地だった。




読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・木 21時)更新を予定しております。
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