やるしかない。
捉えようによっては、諦めのような、しぶしぶといった具合を演出するだろうけど、西山さんの発したそれは、力強く前向きなものだった。
その言葉に背中を押されたのは間違いなかったけど、僕はどうしても
「山下さんは、これからどうなっちゃうんですか?」
という疑問を投げかけずにはいられなかった。
しかし、返ってきた答えはやはり残酷なもので
「十中八九、森の中の魔物に殺されてしまうでしょう。逃げ出すとなれば、ホベリスとは逆方向へ向かうでしょうが、街の中心部から離れれば離れるほど、コミュニケーションの取れない魔物が生息していますから」
というものだった。
「コミュニケーションの取れない魔物?」
「はい。森にはゾンビのような、言葉を話す知能がない魔物がたくさん生息していますし、多くの魔物にとって、人間は新鮮なお肉ですから」
無意識のうちに、生きたままゾンビに貪り食われる山下さんを想像してしまった。
映画やゲームでならよくあるような出来事だけど、少し遠くに見える森の中でそんなことが起きているかもしれないと考えると、たまらなく恐ろしい気持ちになった。
「ただ、ここで講習を終え、それぞれの家できちんと契約を結べば、あなた方は正式にその家の持ち物となりますので、街の中で過ごす分には安全ですよ」
「えっ、契約ですか?」
西山さんが、ピクリと反応する。
「えぇ、先ほど西山さんが仰ってくださったように、悪魔は契約に重きを置いていますから。特に田中さんのいるドナ家は、格式高い家柄ですので、下手な悪魔よりも安全に過ごせるはずです」
「いいな~順くん」
「西山さんの過ごすラゴルン家も、ドナ家ほどではないにせよ、立派な家柄ですよ。それに、ラゴルン家の方々は、悪魔、それもオークにしては珍しい穏やかな方々だと聞いています」
オークって、あのオークだよな?
人型だけど人間離れしたようなゴツさとか、乱暴なイメージがあるけど……
そんな僕の心配をよそに
「そうなんです!私も初めてお会いしたときはびっくりしたんですけど、皆さんとっても優しくて!」
と、嬉しそうに西山さんが話していた。
「それはなによりですね」
先生もそんな西山さんを見て、嬉しそうにそう言い
「そもそも、このホベリスは、ほかの街に比べても治安は良いですし、誰かの所有物となった奴隷をむやみやたらに襲ったりはしないはずです。ですが、くれぐれも街外れにはいかないように」
と、続けた。
「さっき仰っていた魔物がいるからですか?」
「その通りです。不完全ながら天魔法にも効力がないわけではないですが、街外れは文字通り治外法権ですので」
ともかく、街で過ごし、ドナ家の奴隷としてきちんと働いていれば、命の心配はなさそうだった。
そう思い込みたかっただけかもしれないけど、危機を意識していようがいまいが、やるしかないことには変わりはないのだから、たとえそれが仮初であっても安心したかった。
「さて、講義というには雑談の延長のような感じになってしまいましたが、ここまでは大丈夫ですか?」
「はい!」
相変わらず元気な西山さんに釣られて、僕も少し大きな声で
「はい」
と、返事をした。
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週二回(火・木 21時)更新を予定しております。