西山さんが話し終えると、僕たち二人の間に沈黙が流れた。
「もう、そんな顔しなくていいって」
困ったように笑う西山さんに、僕はどんな顔を向けていいか分からなかった。
彼女の気持ちが分かるなんて風には、とても言ってあげられなかった。
西山さんが死を選んだこともそうだけど、僕には、好きなことの為に夢を追って、たどり着いた先でその夢を壊されてしまった事実が、どうにもやりきれなくて、胸を深くえぐられた。
「…それで、天使に連れてこられたんだ」
「うん。こっちは必死だったのに、人身事故は迷惑がかかるよって、説教までされちゃった。でもこうして死んだ後も意識があるなら、電車に飛び込まなくてよかったなぁ、なんて」
そう言うと、西山さんはまた、自虐的に笑ってみせた。
「順くんはどうなの?変な質問だけど、綺麗に死ねたのかなって」
「僕も死のうとしてるところに天使が現れたんだけど、結局は悪魔が乱入してきて、そのまま首を刎ねられちゃったから、奇麗ではないと思う」
「それはなかなか…スプラッターな感じだね……」
「だよね…その、西山さんは結局どうやって殺されたの?」
「う〜ん、それがよく覚えてないんだよね。感覚的には眠らされたような感じだったけど」
不幸中の幸い、なのだろうか。
人身事故でバラバラになったり、僕みたいに首を切られた、なんて事態でないのは、死という結果は変わらないにせよ、悲惨さが違うな、なんてことをのんきに考えていると
「おーい!迎えに来たっすよー!」
と、声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、こちらに歩いてくるムニさんが見えた。
「ちゃんと迎えが来てくれたんだね」
「そうみたい、よかった」
西山さんと話したいことはもっとあったけど、一人で魔界を歩くなんてことにならなくて安心した。
「あれ?その子はどうしたんすか?もう彼女作ったんすか?」
「ち、違いますよ!講習で一緒だったんです」
「ふ〜ん、まぁいいや。早く帰るっすよ」
相変わらずといえるほど、ムニさんのことを知っている訳ではないけど、そんなマイペースなムニさんはすでに身を翻して歩き出していた。
「じゃあ、行くね」
「うん、また会えたらいいね」
「どうなんだろう、同じ街だし、会えるんじゃない?」
「だといいなぁ」
柔らかく微笑む西山さんを見て、年甲斐もなくドキリとしてしまう。
「おいてくっすよー!」
「ごめん、じゃあまた」
「うん、またね!」
お互い軽く手を振り、また会えることを願いあった。
そんな何気ないやり取りが心地よくて
(生きているうちに再会していたら、なにか変わっていたのかな)
なんてことを考えてしまう。
こんな状況だから、価値のあるやり取りに感じられているだけで、実際そうなっていたとしても、きっと僕は自分の現状が恥ずかしくて、まともにやりとりすることを拒んでいたような気がするし、当時の西山さんも、僕なんかに気をかけている余裕はなかっただろう。
人間だった僕たちが、人間の世界を離れることによって生まれた、穏やかなやり取りは、皮肉にすら思えた。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・金 21時)更新を予定しております。