天使と悪魔と人間と   作:虹光ふみ

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28話「お迎え」

西山さんが話し終えると、僕たち二人の間に沈黙が流れた。

「もう、そんな顔しなくていいって」

困ったように笑う西山さんに、僕はどんな顔を向けていいか分からなかった。

彼女の気持ちが分かるなんて風には、とても言ってあげられなかった。

西山さんが死を選んだこともそうだけど、僕には、好きなことの為に夢を追って、たどり着いた先でその夢を壊されてしまった事実が、どうにもやりきれなくて、胸を深くえぐられた。

「…それで、天使に連れてこられたんだ」

「うん。こっちは必死だったのに、人身事故は迷惑がかかるよって、説教までされちゃった。でもこうして死んだ後も意識があるなら、電車に飛び込まなくてよかったなぁ、なんて」

そう言うと、西山さんはまた、自虐的に笑ってみせた。

「順くんはどうなの?変な質問だけど、綺麗に死ねたのかなって」

「僕も死のうとしてるところに天使が現れたんだけど、結局は悪魔が乱入してきて、そのまま首を刎ねられちゃったから、奇麗ではないと思う」

「それはなかなか…スプラッターな感じだね……」

「だよね…その、西山さんは結局どうやって殺されたの?」

「う〜ん、それがよく覚えてないんだよね。感覚的には眠らされたような感じだったけど」

不幸中の幸い、なのだろうか。

人身事故でバラバラになったり、僕みたいに首を切られた、なんて事態でないのは、死という結果は変わらないにせよ、悲惨さが違うな、なんてことをのんきに考えていると

「おーい!迎えに来たっすよー!」

と、声が聞こえてきた。

声のした方を見ると、こちらに歩いてくるムニさんが見えた。

「ちゃんと迎えが来てくれたんだね」

「そうみたい、よかった」

西山さんと話したいことはもっとあったけど、一人で魔界を歩くなんてことにならなくて安心した。

「あれ?その子はどうしたんすか?もう彼女作ったんすか?」

「ち、違いますよ!講習で一緒だったんです」

「ふ〜ん、まぁいいや。早く帰るっすよ」

相変わらずといえるほど、ムニさんのことを知っている訳ではないけど、そんなマイペースなムニさんはすでに身を翻して歩き出していた。

「じゃあ、行くね」

「うん、また会えたらいいね」

「どうなんだろう、同じ街だし、会えるんじゃない?」

「だといいなぁ」

柔らかく微笑む西山さんを見て、年甲斐もなくドキリとしてしまう。

「おいてくっすよー!」

「ごめん、じゃあまた」

「うん、またね!」

お互い軽く手を振り、また会えることを願いあった。

そんな何気ないやり取りが心地よくて

(生きているうちに再会していたら、なにか変わっていたのかな)

なんてことを考えてしまう。

こんな状況だから、価値のあるやり取りに感じられているだけで、実際そうなっていたとしても、きっと僕は自分の現状が恥ずかしくて、まともにやりとりすることを拒んでいたような気がするし、当時の西山さんも、僕なんかに気をかけている余裕はなかっただろう。

人間だった僕たちが、人間の世界を離れることによって生まれた、穏やかなやり取りは、皮肉にすら思えた。

 




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