自室、もとい物置小屋に戻ると、扉の前にお昼ご飯が置いてあった。
これでここでの食事は三度目だ。
もう三度目と見るか、まだ三度目と見るか。
人によってとらえ方は違うだろうけど、僕はどうやら前者のようで、全く同じメニューを三食続けただけで、少しげんなりしてしまっていた。
美味しくないわけではないし、まだ食事が苦痛になるほどではなかったが、このままではノイローゼかなにかにでもなってしまいそうな気がした。
(栄養だって偏るよな……)
普段から気を使っていたわけじゃないけど、今後ここで、パンと干し肉のみのメニューを食べ続けることになると思うと、そんなことも気になってしまう。
(そもそも、死後の世界なら、病気なんてものにはならないんじゃないか?)
さっきの講義では、ホベリスに病院はあるみたいだったけど、どうなんだろう。
考え事をしながら、椅子に腰かけ、漫然と干し肉を口に運ぶ。
(そういえば、お給料も一応支給されるんだっけ。お金の使い道の一つに、街での食事をサグレナさんは提案してくれていたけど……)
ムニさんと訪れた食事処で提供されたコウモリを思い出し、やっぱり気が滅入ってしまう。
様々な考えが頭を渦巻き、ぼやけた思考を繰り広げていた僕は、トレイに乗ったパンをつかみ損ねてしまった。
「あっ」
机の下に転がっていったパンを拾うため、腰をかがめ、机の下を覗き込んだ。
「……なんだこれ」
薄暗くてよく分からなかったが、模様と呼ぶにはいびつな、何者かによって書かれたであろう何かが、僕の目に入った。
壁に書かれたそれを確認するために、目を凝らしてみるけど、薄暗くてよく分からなかった。
(文字……?)
(こっちの世界の言語は、契約とやらをした後なら読めるようになるんだっけ)
ムニさんとの会話を思い出しながら、机の上に置いてあったロウソクに火をつけ、再度腰をかがめ、書かれていた何かを確認する。
「うっ……」
ロウソクの光に照らされた壁のそれは、僕のよく知る言語、日本語で書かれた文章だった。
いや、文章と呼ぶには拙い単語の羅列で、読めない文字群もあるほど、乱雑に書きなぐられていた。
もっとも、読めない言語だったとしても、何を込めて書かれたものかは、読み取れていた気がする。
そこには
【たすけて】
【いたい】
【いやだ】
書かれた文字を読んでいるだけなのに、すぐ側で誰かが悲鳴混じりに叫んでいるような感覚に陥る。
僕の第六感のようなものが、見るなと言っている。
しかし、僕はその壁から目を離すことが出来ずにいた。
【ころされるころされるころされるころされるころされる】
【ころして】
凄まじい恐怖と嫌悪感が僕を襲う。
(これって…きっと僕の前にいた……)
ドンドンドンッ!
突然、扉を叩く大きなノックが聞こえ、さらにその恐怖心が大きくなるのを感じた。
『おーい!いつまで食べてるんすか!?』
【ころされる】
ノックの音と連動するように、今見た言葉の一つ一つが僕の中で大きくなる。
出なきゃきっと殺される。
しかし、出てもきっと、いつか僕もこれを書いた人と同じように……
しかし、今の僕はここから逃げ出すこともできない。
文字通り、僕はこの悪魔の呼びかけに対応するしかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・金 21時)更新を予定しております。