「具体的に、契約ってのは何をするんですか?」
一難を逃れた僕は、ムニさんと一緒に城内を歩いていた。
「簡単っすよ!ピッとやって終わりっす!」
「ピッと…?こっちにも機械とかはあるんですか?」
「機械はあるっすけど、使わないっすよ?」
「そうなんですか。じゃあ、ピッとやるって?」
「ナイフか何かで指をピッとやるっす!」
「え?血かなにかを使うってことですか?」
「だからそう言ってるじゃないっすか」
「言ってましたかね……」
これもまた、お約束通りというか、イメージ通りの契約の形で、ホッとしたような、がっかりしたような。
こうして魔界で暮らしてみると、僕たちの人間界に伝わってる悪魔やそれに関連した情報は、何らかの形で実際に悪魔が人間界に伝えたりしたのかなぁと思えるようだった。
陰謀論のような話が好きなわけじゃないけど、そんな気がしてならない。
(西山さんの話、当時もっと聞いておけばよかったな)
蔑ろにしてたわけじゃないけど、あの頃の僕の心のどこかに、冷めた気持ちが無かったと言えるのかな。
ふとしたきっかけから、こういうネガティブな思考に行きついてしまうのは自分の悪い癖だけど、自覚したからといって治せるわけではなかった。
そんなことを考えていると、下りの階段に行きついた。
(この城には地下もあるのか)
城内の華やかな装飾とは打って変わって、石が剥き出しの壁で囲まれた通路は、空気がひんやりとしていた。
それに加えて、うまく説明できないけど、なんだか味わったことのあるような感覚が強くなっていく。
「なにぼーっとしてるんすか?ほら、もう着いたっすよ」
案内された場所は、僕がまだ訪れたことのない部屋だった。
といっても、城内を探索させてもらったわけじゃないから、ほとんどの場所がそうなんだけど……
『入れ』
初めてお嬢様と会った時と同じように、こちらが特にアクションを起こしたわけじゃないのに、僕たちの到着を察したようで、扉の向こうから声が聞こえた。
「失礼しますっす」
ヘンテコな丁寧語と共にムニさんが扉を開ける。
僕もその後ろに続いて部屋に入ると、お嬢様とサグレナさん、それに、石の床に描かれた魔法陣のような模様が僕たちを出迎えた。
その魔法陣を見たときに、さっきから感じていた妙な感覚は、僕が魔界に転送される時に利用した部屋で味わったものと同じだと気付いた。
「では、始めましょう」
サグレナさんが淡々と告げるけど、僕は、指を刃物でピッとすること以外に、この契約について分かっていなかった。
「何してるんですか?早く契約許可書を出してください」
「契約許可書…って、これですか?」
僕は先生にもらった紙を、サグレナさんに見せた。
「はい、ではそれを、魔法陣の真ん中に」
僕は恐る恐るその通りにした。
「よし、ではサクッと終わらせるとするかの」
お嬢様がそう言うと、いつの間にか握られていたナイフを、僕にふわりと放り投げた。
「うわっ!」
優しく投げられたとはいえ、飛んでくる刃物をキャッチする度胸も技術もなかった僕は、慌てて飛びのき、ナイフはそのままカチャリと床に落ちた。
「なにをしておるんじゃ」
理解できないといった表情で、お嬢様が僕を見つめる。
「すみません、怖くて」
「そのくらいで大げさな反応をしおってからに」
この方たちにとっては、簡単な動作なのかもしれないけど、それに付き合って怪我をするのはごめんだった。
床に落ちたナイフを手に取り、次の指示を待つ。
「ほれ、さっさとその紙に血を垂らせ」
そういう流れになるのはなんとなくわかっていたけど、いざやろうとすると、やっぱりためらってしまう。
刃先を指先に当てただけなのに、チクリと痛みを感じ、さらに僕は怖気づいてしまった。
「まだるっこしいのぅ」
そんな声が聞こえてきたかと思えば、僕の頬を、この間感じたのと同じ痛みが襲う。
「痛っ!」
慌てて頬に触れ、その手を確認してみると、やはり、血に濡れていた。
「余は忙しいのじゃ。その血でさっさと済ましておくれ」
退屈そうに言ってのける彼女。
【ころされる】
さっき見た壁のメッセージが、さらにリアリティを伴った気がした。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・金 21時)更新を予定しております。