「という訳で、街へ向かいますね」
お嬢様のもとを後にした僕は、サグレナさんになにがあったかを簡単に説明した。
「なるほど、それは大役を賜りましたね」
もう少し驚かれたり、お嬢様のために動くことになったのだから、もしかしたら褒められたりするのかな、なんて思っていたけど、相変わらず淡々と反応するサグレナさん。
「たまにですが、雑貨屋に人間界の本も入荷しますし、最近は確認していませんでしたから、掘り出し物があるかもしれません」
「グアンさんはよく本を探しに行かれてるんじゃないんですか?」
「えぇ、ですが、そのほとんどは人間界に出向いて…というものですね。本が入荷すると言っても、大した種類でもありませんし」
「なるほど……」
だとしたら、少ない選択肢だったから、面白い作品を見つけられなかった。
そんな言い訳を、今このタイミングから想像してしまうのだから、嫌になる。
でも、文字通り命がけになるかもしれないのだから、仕方ないのだと、これまた言い訳を付け足した。
「ですが、一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫と言いたいところですが、正直不安です……」
お嬢様やムニさんと違って、冷静なサグレナさんには弱音も吐きやすい。
激情に駆られてお仕置き、なんてことにはならなさそうだし、笑い者にされるなんてことはないはずだ。
少なくとも、あの二人よりは可能性が低いはずだ。
「そうですか…ですが、私もムニも手は空いていません。ドナ家として正式に契約を結んだ今なら、危険なことは滅多にないはずですよ」
滅多に、という文言が引っかかったが、これ以上駄々をこねるわけにはいかないし、腹をくくるしかなさそうだった。
「じゃ、じゃあ、一人で行ってきます」
「はい。お気をつけて」
そういえば、スケルトンの先生も似たようなことを言っていたのを思い出した。
ドナ家の所有物であれば、待遇は悪くならないはず。
そんな風に言ってたっけ。
(そもそも、僕がドナ家の奴隷だって、気づいてもらえるのか?道行く悪魔一体一体に言って回るわけにもいかないし……)
そんなことを考えている僕の目に、手の甲の模様が入った。
(もしかして、これで判別してもらえたりするのかな)
そうだということにしておこう。
どのみち、一人で街に行かなくてはならないことに変わりはないのだから。
僕は、覚悟を決めて城の門を出た。
……門番の役目をしているこの魔物にも、慣れる日が来るのかな……
街に着くどころか、城を出た瞬間に早くもひるんでしまう。
魔物は僕を横目でジロリと見ただけで、ほかにアクションはない。
(早く街へ行って、良い本を探さなくては)
足取りはまだ重かったけど、暗くなる前に帰らなきゃ、なにが起こるのか分かったものではない。
そう考えると、両足に感じる重さとは裏腹に、足取りは早くなっていくのだった。
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