天使と悪魔と人間と   作:虹光ふみ

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39話「紋章」

「という訳で、街へ向かいますね」

お嬢様のもとを後にした僕は、サグレナさんになにがあったかを簡単に説明した。

「なるほど、それは大役を賜りましたね」

もう少し驚かれたり、お嬢様のために動くことになったのだから、もしかしたら褒められたりするのかな、なんて思っていたけど、相変わらず淡々と反応するサグレナさん。

「たまにですが、雑貨屋に人間界の本も入荷しますし、最近は確認していませんでしたから、掘り出し物があるかもしれません」

「グアンさんはよく本を探しに行かれてるんじゃないんですか?」

「えぇ、ですが、そのほとんどは人間界に出向いて…というものですね。本が入荷すると言っても、大した種類でもありませんし」

「なるほど……」

だとしたら、少ない選択肢だったから、面白い作品を見つけられなかった。

そんな言い訳を、今このタイミングから想像してしまうのだから、嫌になる。

でも、文字通り命がけになるかもしれないのだから、仕方ないのだと、これまた言い訳を付け足した。

「ですが、一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫と言いたいところですが、正直不安です……」

お嬢様やムニさんと違って、冷静なサグレナさんには弱音も吐きやすい。

激情に駆られてお仕置き、なんてことにはならなさそうだし、笑い者にされるなんてことはないはずだ。

少なくとも、あの二人よりは可能性が低いはずだ。

「そうですか…ですが、私もムニも手は空いていません。ドナ家として正式に契約を結んだ今なら、危険なことは滅多にないはずですよ」

滅多に、という文言が引っかかったが、これ以上駄々をこねるわけにはいかないし、腹をくくるしかなさそうだった。

「じゃ、じゃあ、一人で行ってきます」

「はい。お気をつけて」

そういえば、スケルトンの先生も似たようなことを言っていたのを思い出した。

ドナ家の所有物であれば、待遇は悪くならないはず。

そんな風に言ってたっけ。

(そもそも、僕がドナ家の奴隷だって、気づいてもらえるのか?道行く悪魔一体一体に言って回るわけにもいかないし……)

そんなことを考えている僕の目に、手の甲の模様が入った。

(もしかして、これで判別してもらえたりするのかな)

そうだということにしておこう。

どのみち、一人で街に行かなくてはならないことに変わりはないのだから。

僕は、覚悟を決めて城の門を出た。

……門番の役目をしているこの魔物にも、慣れる日が来るのかな……

街に着くどころか、城を出た瞬間に早くもひるんでしまう。

魔物は僕を横目でジロリと見ただけで、ほかにアクションはない。

(早く街へ行って、良い本を探さなくては)

足取りはまだ重かったけど、暗くなる前に帰らなきゃ、なにが起こるのか分かったものではない。

そう考えると、両足に感じる重さとは裏腹に、足取りは早くなっていくのだった。




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週二回(火・金 21時)更新を予定しております。
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