前回、ムニさんと一緒に街へ向かった時より、長く感じる道を歩く。
一人きりから来る心細さが、それを演出しているのだろうか。
城からまっすぐ街へ向かって伸びる道は、少し遠くに森が見えるくらいで、迷う心配も、なにかが突然飛び出してくるような危険もないような、だだっ広い平原だ。
城を離れ、空がよく知る鮮やかな青色を覗かせてくれると、少しは気が晴れる。
こうしてどんどん城と距離が開いていくと
(僕は自由なのでは)
という気持ちが少し芽生えてくるが、当然、そんなわけはないということを、手の甲の紋章が教えてくれる。
手に刻まれた瞬間こそ、僕が奴隷であることをさらに決定づけられたようで、気落ちしていたものの、そこにあるものだと理解してしまえば、なんだか新しい自分になれたような気さえしてくる。
少しだけ、少しだけタトゥーを入れている人の気持ちが分かった気がした。
生前の僕には考えられないことだ。
そんなことを考えながら歩いていると、もう街の前までたどり着いてしまった。
街の外からでも、がやがやとした雰囲気が伝わってくる。
(なぁに、誰も僕のことなんか気にも留めないさ)
そう言い聞かせ、止めていた足を再び動かし始め、僕は街へ入った。
お昼過ぎだということもあってか、悪魔の往来は、ムニさんと一緒にここを訪れた時より、ずっと盛んだった。
(そういえば、雑貨屋さんってどこにあるんだろう)
思えば、肝心なことは何も聞かせてもらっていなかった。
これに関しては、質問しなかった僕が悪いよなと、反省。
なんとなく、街に着けば分かるような気がしていたけど、無謀だったのだろうか。
きょろきょろと辺りを見回しながら、とりあえず散策を開始する。
(ムニさんと入った食事処も、目立つような店構えはしてなかったよな……)
街に住む者たちにとっては、そこがなんのお店で、どこが誰の家かなんてのは、当たり前のことなのだろうか。
実に来訪者に優しくない街だなぁと思いながら、引き続きしきりに首を振っていると、やけに通行人(通行悪魔だろうか?)と、目が合う。
いや、目が合うというよりは、物珍しいものを見るような目にさらされているといった方が適切だろうか。
じろじろと見てくる者もいれば、横目でチラリと確認してくる者。
決して気のせいなどではない。
最初は人間が珍しいのかな、なんて思っていたけど、恐らくはこの紋章のせいだろう。
なにかに気づいたように、少しギクリとした反応をする者がちらほらいたことから、その結論に至った。
ちゃんとドナ家の奴隷だと認識されているようで一安心。
ここら一帯では有名な家だというのは、本当のようだった。
まぁあんなお城の持ち主なのだから、当然と言えば当然な気がした。
こうなったら、道行く悪魔に雑貨屋の場所を聞いてしまうのもいいかもしれない。
(もう少し自分で探してみて、ダメだったら尋ねてみよう)
少し気が楽になり、散策を再開した僕は、わずかの間ではあったが、自分が死んで奴隷になった、という事実から目を背けられていた。
人間界では見たことのない商品が並べられているお店がいくつかあり、八百屋や魚屋のような店舗は、店先に商品を並べ、そこが何のお店であるかをアピールしてくれていた。
しかしそうなると、雑貨屋というのはどうだろうか。
本が売られているということ以外、なにを取り揃えているかもわからないし、こうして店先に商品が並べられているとも限らない。
看板のようなものは、どのお店を見ても見当たらなかったし、これ以上は自力では無理かもしれない。
諦めた僕は、その辺りにいる悪魔に、雑貨屋の場所を尋ねることにした。
(なるべく怖くなさそうな悪魔は……)
ドナ家の奴隷が、この街ではそれなりに地位があるとは聞いていても、怖いものは怖い。
(せめて見た目だけでも優しそうな悪魔がいればいいんだけど……)
そんな中、僕のよく知る顔が、こちらへ歩いてくるのが見えた。
「あ、あれは……!」
そこに現れたのは、僕と同じ人間で、僕と同じように自殺してここにやってきた西山さんだった。
声をかけようとしたところで、異変に気が付く。
少し遠目からでもわかるほどに、元気がないようだった。
とぼとぼとした足取りに、暗い表情。
だからといって、そっとしておく選択肢は僕にはなかった。
僕自身が迷っているというのもあるけど、そんな彼女を放っておけなかったから。
「西山さん!」
僕はそう声をかけながら、西山さんに近づいた。
「え、順くん?」
僕を認識した西山さんは、とても驚いた表情を浮かべたかと思えば、途端に顔をゆがませ、涙を頬に伝わせていた。
「え、どうしたの!?」
返答に少し時間を要した後、西山さんは
「もう、私ダメかも……」
と、涙声でつぶやいた。
「な、何かあったの?」
そう聞くと、西山さんは涙を拭い、やがてぽつぽつと語り始めた。
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週二回(火・金 21時)更新を予定しております。