ドアノブを握り、ゆっくりと押してやると、ギィっと少し不気味な音を立てて、すんなり扉は開かれた。
確かにたくさんの品物が陳列されているけど、店内は少し薄暗く、恐る恐る中へと足を踏み入れた。
「す、すみませ~ん……」
ここでお会計をしますよ。といった具合のカウンターに、店員の姿はなく、不安が少し大きくなる。
問いかけに返ってくる声はなく、僕は仕方なく、少し店内を見て回った。
よくわからないモチーフの置物や、見たことのない植物。
(八百屋さんのようなお店はほかにあったし、もしかして薬草のようなものだろうか……)
宝石のようにキラキラと光る石(僕には宝石の鑑定はできないので、もしかしたら人間界にあるものかも)に少し目を奪われたりしながら、店内を物色する。
(本はどこにあるのだろう)
当初の目的を思い出し、それほど広くない店内を、ゆっくり見て回る。
「うわぁ!」
思わず大きな声が出てしまった。
薄暗い店内、それに見慣れない商品は、近づいて見てみないと、それが何なのか分からない。
僕が不意に近づいたそれは、ビン詰めにされ、液体に漬けられたネズミのような小動物や昆虫。
時折ビクビクと動いており、まだ生きているようだった。
気持ち悪いと感じているはずなのに、なぜだか目が離せない。
こちらの世界に来て、僕は自分が思っているより、怖いもの見たさのような好奇心が旺盛なのだと気付かされた。
心拍数の上がった鼓動を深呼吸して鎮めようとする。
(気を取り直して……)
繰り返しになるが、僕は今日ここに本を探しに来たんだ。
良い作品を見つけられなければ、標本のようなものより恐ろしい目に遭いかねない。
再び店内を見て回ろうとしたところで
「わぁっ!!!」
さっきより数段大きな声が出てしまった。
いつのまにか、悪魔が僕のすぐそばにいたのだ。
落ち着きを取り戻しかけていた僕の心臓は、再び早鐘を打ち始める。
心臓に手を当て、その鼓動を確かめながら
「えっと、店員さんですか?」
と、少し震えた声で尋ねてみた。
……?
返事がない。
口を少し半開きにし、僕の目をじっと見つめるその悪魔は、薄暗い店内ではあったが、少し肌が青っぽいのが確認できた。
二十歳くらいの女性のように僕の目に映ったが、悪魔の寿命は人間の約十倍だったっけ……
年下のように見えても、きっと随分年上なのだろう。
「び、びっくりした……」
不躾だとは思いながら、人間観察ならぬ、悪魔観察をしていた僕の耳に、ようやく彼女の声が届いた。
びっくりしたのはこちらのセリフだと言いたかったが、大きな声を出してしまったことを思い出したので、そこには触れないことにした。
「えっと、お客さん?」
「あ、そうです。すみません、ズカズカと」
「それは別にいい。……あぁ、ドナ家の」
胸に手を当てたままの僕の手の甲をチラリとみて、彼女はそう言った。
「そうなんです。えっと、今日は本を探しにきてて……」
「だろうね。ドナ家がここに来るときは、大半が本目的だから」
「そ、そうなんですね……」
「こっち」
無愛想というより、ただただ淡白なやり取りだった。
同じように淡々としているサグレナさんとは違った印象を受けるのは、言葉遣いの違いだけだろうか?
そんなことを考えながら、彼女の背中についていく。
「うちにあるのは、これで全部」
そう言いながら、彼女が指した指の先に目をやると、本棚と呼ぶには随分ちんまりとした棚だった。
パッと見た感じ、50冊もないんじゃないだろうか。
迷う余地は少なくなったけど、お嬢様の気に入る本がこの中にあるのだろうか、という心配も同時に湧いてくる。
「ありがとうございます」
「ううん。仕事だし」
そう言い残し、彼女はその場を離れていった。
(これも個性なのだろうか)
キャラが分かりやすいとでも言ってしまおうか。
僕の接した悪魔はみんな
(きっとこういう性格なんだろうな)
というのが、二言三言交わしただけでも伝わってくる。
いわゆる、余所行きの顔のようなものが、まるで無いようだった。
(奴隷である僕なんかに、遠慮する必要がないってだけかもしれないけど)
悪魔という生き物が、だんだんわかった気になってきたけど、だからといって、今後の暮らしに役立てられるかは、別問題だと思う。
そんなことを考えながら、僕は部屋の隅に置かれた本のあらすじを、片っ端から読んでいった。