新しい一日が始まる。
しかし、魔界の空は相変わらず紫色で、心機一転、という気持ちにはなれないでいた。
魔が差したのだ、文字通り。
昨晩の自分の思考が、身体の深いところに入り込んだみたいで、ひと眠りした今でも、じんわり僕を蝕んでいっているような気がする。
けだるい気持ちに逆らうように、無理矢理に身体を起こす。
(今日も一日、頑張ろう)
と、決心してみても、やることは庭いじりなんだけど。
代わり映えせずとも、平和に暮らせればいいと思っていたけど、なんだか今日は、やけにそんな毎日に嫌気がさした。
寝床の藁が、僕の後頭部や身体に付着しているのを払い落とし、ひとまとめにして、部屋の隅に追いやる。
カチャリと小屋の扉を開け、川まで顔を洗いに行き、朝食を受け取りに行く。
ルーティンと呼ぶにはみすぼらしい僕の朝。
しかし、小屋の外に出た僕は、異変を感じた。
お城の扉の前に、何人かの人が訪れていた。
人に見えても、恐らく彼らは悪魔なのだろうけど。
(こんなに朝早くに、どうしたんだろう)
まだ頭がしっかりと働いていない僕が、ぼんやりとその悪魔の方を見ていると、城からサグレナさんとお嬢様が現れた。
随分慌てた様子で。
会話の内容までは聞こえなかったけど、少しやり取りをした後すぐに、全員が駆け足で門の外に出ていった。
ただごとではないことが起こっているのだと感じさせられた僕も、少し遅れてその後を追う。
門を出た僕の目に映ったのは、馬車のような乗り物が、街へと続く道を走っていく光景だった。
馬車のような、と表現したのは、それを引いているのが、馬のような四足歩行ではあるけれど、まるっきり別の生き物だったからだ。
乗物の屋根より背が高く、深い赤色の毛色が、魔界の生き物であることを知らせているような禍々しさを演出しているように見えた。
「なにかあったんすかねぇ……」
慌てて振り向くと、まだ眠そうにしているムニさんがそこにいた。
「今日のお仕事は休みっすかね、ふあぁ……」
あくび交じりにそんなことをつぶやきながら、身を翻すムニさんを慌てて呼び止めて
「あ、あの……!ムニさんは今日の事、なにも聞いてないんですか?」
「聞いてないっすよ、まだ寝てる時間だったのに、城の中がうるさくて起こされちゃったんすよ。ということで、もう一眠りしてくるっす」
もう一つ大きなあくびをしながら、城に戻っていくムニさんを、再び呼び止めるのははばかられた。
「僕は、どうしよう」
サグレナさんがいないなら、さぼってもバレないかもしれない。
と言っても、やることもなかったし、進捗を把握している、なんてことを言っていたから、やっぱりバレてしまう気もしてきた。
うん、おとなしくいつも通り作業しよう。
そう決め、顔を洗うために再度川に向かおうと思った僕の目の前に
「よう、久々だな」
と、グアンが突然現れた。
彼の言った通り、本当に久々だった。
日にちにすれば、一週間も経っていなかったけど、それ以上に久しく感じる。
「お久しぶりです、どうしたんですか?」
「なんだか面白いことになってるみたいだな」
「面白いことって?」
「お嬢様の両親がくたばったらしいぜ」
……………
言葉を失ってしまった。
体調が悪いのは母親だけだったよな?
父親は仕事が忙しいとしか聞いていなかったけど……
あまりにも突然、それに、軽い調子でこんなに重たい事実を告げられたことも相まって、混乱してしまった僕の頭に
【両親を失う痛みを、あいつも味わえばいい】
昨晩僕に住み着いた言葉が、少し形を変え、再び顔を覗かせた。
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週二回(火・金 21時)更新を予定しております。