ムニさんの背中から、決心を揺らがされたことに加え、草むしりをする気も奪われてしまった気がする。
仕事をさぼる言い訳を、ムニさんに押し付けているわけじゃない……と思う。
この城で暮らしたのは、まだほんの少しだけど、いて当たり前に感じていた者たちが、どんどん離れていくことが、なんだかたまらなく寂しく感じる。
厳密に言うと、過ごしたのは、城の外にある小屋で、だけど。
揺らがされた決心は、寂しさが手伝い、違う形に変わっていた。
(僕は、ここに残ろう)
恐ろしい目に遭う可能性はあるだろうし、後になって後悔するかもしれない。
でも、お嬢様はきっと、悲しむと思う。
両親を亡くし、自宅であるこの城に帰ってきたとき、きっと長い間共に過ごしてきたであろうグアンとムニさんがいなくなったと知れば、きっと。
表面上は、激高し、そんな繊細な心の変化などどこへやら、といった具合になることの方が、想像に難くないけど、いつかきっと、怒りのボルテージが落ち着いたとき、そこに寂しさはやってくると思う。
(サグレナさんは、どうするんだろう)
彼女のお嬢様への忠誠のようなものは、ほかの悪魔より強いように感じられるけど、仕事だから、と割り切っているだけのような気もする。
もしそうだったらなおさらだ。
家族や大切な人を失うのは、悪魔だってきっと悲しいはず。
僕なんかが残っていても、気休めにもならないだろうし、できることだってほとんどない。
この状況で僕がいなくなったとしても、比較的気にもとめられないだろうという気はする。
でもこれは、お嬢様のためというより、ただ僕がそうしたいって気持ちの方が強いかもしれない。
この状況で、ここを離れることは、僕にはできない。
勝手にお嬢様の気持ちを想像して、勝手に胸を痛める僕は、なんだかとても人間らしい感受性でいられている気がする。
悪魔のささやきは、もう僕の耳には届いてこなかった。
(……とりあえず、ご飯を食べよう)
いつもと同じ、パンと干し肉。
同じメニューではあるけど、これはムニさんが最後の仕事として持ってきてくれたものだった。
そこに特別ななにかを感じているつもりはなかったけど、少しだけ、丁寧な所作を心掛けた。
(……いつもより、味気ないかも)
心というのは不思議なもので、いや、不思議なのは食事なのかな?
気の持ち方ひとつで、味覚まで変えられてしまうような。
食べ物の良し悪しだけでなく、雰囲気もきっと、食事の大切なファクターなのだ。
(そういえば、料理長とやらは、どんな方なんだろう)
唯一、このお城の住人で、僕の会ったことのない料理長。
普段から僕の食事を用意してくれている方なのだから、ひとことお礼を言いたいとは、前々から思っていたけど、僕は自由に城を出入りできる身分じゃなかったし、料理長とやらも、そんなに敷地内をうろうろしているわけでもないらしく、姿すら見たことが無かったのだ。
(緊急事態だし、現状の報告も兼ねて、会ってみよう)
そう決めた僕は、食事を再開した。
このパンや干し肉が、どういう風に作られたかは分からない。
どこかで買ってきただけのものを、ただトレイに並べただけかもしれない。
しかし、作り手の気持ちや手間暇はどうあれ、用意してくれた方のことを想像しながら再開した食事は、さっきよりほんの少しだけど、美味しく感じられた。
読んでいただきありがとうございます。
週二回(火・金 21時)更新を予定しております。