アザラシの暇つぶしから始まった「バッセのアトリエ、大人狼ゲーム大会」が熱狂冷めやらぬまま終わって一週間がたった頃、ユニオンハウスには17人のメンバーが集められていた。
「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。今日は再び、殺し合いをしていただきます」
そんな物騒な事を言いだしたのは、裏切りそうで裏切りきれなかった美しい糸目顔をした一人の男。
名をラーヒー・クヤクフィカ=ルスト・ポサと言う。
前回の大人狼大会では仲間の人狼達すら自らの手で吊るしあげ、一時期は村人たちから絶大なる信頼を集めながらも、最後の最後に仲間たちへの情が勝り、そこを見抜いた村人ジェラルドの手により吊られてしまった、アトリエ人狼界きっての伝説のラストウルフである。
そんな糸目の男の前に白い身体を滑り込ませたのは、前回の村で村長を務めた謎のアザラシである。
「よぉ集まったな村の衆。第二回、アトリエ人狼開催や~っ!」
「おお~~っ」
アザラシの掛け声に、固唾をのんで見守っていた人々から大きなどよめきと共に拍手が湧きが起こる。
それもそのはず。
ここに集まった人々はどこからか前回の人狼ゲーム大会の噂を聞きつけ、ネビュラがこっそりと撮影していたプレイ動画をエニグマフォンで実際に見た後、次回があれば「我こそは参加したい!」と立候補した意欲溢れる選りすぐりの参加希望者達なのである。
その数、合計16名。
前回のプレイヤーだったアヤミがゲームマスターとして参加する事で、今このアトリエには合計17名のメンバーが所狭しとひしめき合っている。
「今回は前回のオーソドックスな人狼ゲームとは違い、少し変則的なルールを設けるわ! 事前に通知はしておいたけれど、各自ちゃんと目は通しておいたかしら?」
ラーヒーの隣に並び立ったアヤミは、確認するようにぐるりと周囲を見渡した。
アヤミも前回の人狼ゲームでは村人として最終日まで残り、最後までラーヒーと一進一退の戦いを繰り広げた猛者である。
そんな彼女の一声で、皆が一斉にエニグマフォンを確認しながら大きく頷く。
「あ、あの……一応確認はしてきましたが、正直全部覚えられているかというと少し自信が……」
そういって申し訳なさそうにおずおずと手を挙げたのは、白髪に猫のような耳をはやした少女。
名を白理という。
他の参加者たちの熱に押されてしまったのか、安易に参加してみたいと言ってしまったことを若干後悔したような面持ちで、白理は両耳をしょぼんとさせたままアヤミに頭を下げた。
だがそんな様子を前に、アヤミはさして困った様子もなくあっけらかんと笑った。
「一通り目を通してきてくれたなら大丈夫よ! 会議の最中にエニグマフォンでルールを確認してみてもいいしね。何か進行上困ったことがあったら、ゲームマスターであるあたしがアシストするわ!」
「そ、それなら助かります……あ、ありがとうございます……!」
ほっとしたように引っ込んだ白理の後から、今度はクロムがスッ……と音もなく片手を上げた。
「すまん。根本的に俺の問題なのだが……俺はえにぐまふぉん?というものを操作することが出来んッ……!」
「えぇっ!?」
会場にひと際大きなどよめきが起こった。
今度ばかりはアヤミも顔を若干引きつらせている。
「機械というものと真正面から向き合った事がなくてな……ただでさえ今まで触れた機械類はもれなく全て爆破させてきた」
「ば、爆破……!? 一体、どうやって……!?」
「わからん。ただ俺が触るとなぜか爆発してしまうのだ……それで、借り物のこれをいじり倒して壊してしまうのも忍びなくてな……普段はいつもレイに操作してもらっている」
「……さすがに人狼ゲームでエニグマフォン壊されたら話にならないわ。しょうがない、今回だけ特例よ! 一切レイ君が議論や推理に参加しないという事を条件に、クロムさんの補佐に回る事を許可するわ。クロムさんとレイ君の二人は、夜になったらあたしの居る一階に残って。そこでクロムさんの意見を通訳しながらレイ君にチャットを送ってもらいましょう」
「かたじけない。感謝するぞアヤミ……!」
「そのかわり、今回一度きりだからね!」
「次回開催の募集要項には「エニグマフォンを自力で操作することができる事」も追加しなきゃいけませんねぇ」
「まったくよ。とりあえずレイ君にちょっと連絡入れてくるわ。ついでに任務が終わったスズもそろそろ合流するはずだから。待ってる間、少しだけみんなで雑談でもしてて」
アヤミがそう言い、少し皆から離れたところでエニグマフォンでレイに連絡を入れている。
その様子を確認して、少し伸びた間を穴埋めするべく櫂が口を開いた。
「俺、今回はマジで勝たせてもらいに行きますよ。今日の日の為に、少しは人狼ゲームを勉強してきましたから!」
「なんや櫂、えらい気合の入りようやな!」
アザラシが驚きの声を上げる。
「俺に人狼ゲームではこうあるべきと教えてくれた、伝説の神人狼プレイヤーがいるんスよ……」
「それ絶対ラーヒーだろ」
即座に突っ込みを入れたジェラルドのすぐ目の前で、ラーヒーがふふふと笑った。
「そうなのですよ。櫂さんは前回の人狼ゲームが終わった後日、私のもとに人狼ゲームのセオリーというものを学びに来たんです。なんでも鼻セレブ隊で人狼ゲームの話をした際に、このゲームが実際の情報戦でも役に立つと言われたとか。人狼ゲームからバースセイバーとしての資質を磨き上げようとするところに、私は思わず感銘を覚えました。どのぐらいその成果が発揮できるか、いやぁ楽しみですねぇ」
糸目を更に細めながらラーヒーが微笑む。
「もう櫂君、とは言わねぇんだな?」
ジェラルドがにやりと笑うと、ラーヒーも負けじと目を細めて微笑み返した。
「ええ。前回はそれでまんまとやられてしまいましたから。気合を入れ直すつもりで呼び名も元に戻します」
「せっかく仲良くなれたのに、ちょっと残念っすね……でも、ラーヒーさんの人狼魂を俺は引き継いでますんで!」
気合十分な櫂の前でそれに負けじと声をあげたのは、白くふくよかな身体をした大福餅……あかすみだった。
「まぁ一週間程度の付け焼刃の座学でどうにかなるとも思えませんが、せいぜい同じ陣営になったとしたら俺ちゃんの足を引っ張らないように頑張って下さい。俺ちゃんはまた今回も勝たせてもらいに行きます」
「ワイも負けへんで! というか前回は村長のくせして初回吊りやったからな! 今日は三日……せめて四日生きたいわ」
「切実な想いがこぼれ出ていますねぇ」
現実的な希望を漏らすアザラシの後ろで、はっはっはとラーヒーが笑っている。
その様子を見て前回村を勝利へと導いた男、クリムゾンストーム隊隊長ジェラルドも気合を入れるように腕をまくった。
「今でも人狼ゲームのセオリーはよくわかんねぇけどよー! 今回もオレは、信じられるヤツを信じて生きていくぜ!」
「それでこそジェラルドさんです。いつぞやの借りは、必ずやお返ししましょう。ククク……」
「ラーヒーとオレ、今回も別陣営になること前提で話すなよ……」
「それはそうでした。今回はもしかしたら仲良く手を繋いで、最後まで同じ陣営でビクトリーロードを歩める可能性もありますからねぇ」
「それはそれで熱い展開だね……! 昨日の敵が今日の友になるっていうのは、ボーイズラブでもよくある人気展開だよ!」
美咲が何か尊いものを見たような目で、神や仏に感謝を捧げるかのように手を合わせている。
その横でキラーンと眼鏡を光らせたのは、十本眼鏡部隊のソニドリだ。
「それそれ。僕はラーヒーさんとジェラルド君の最終日の対決を動画で見て今回参加を決めたんだよ。前回以上に熱い戦いを見てみたいし、その場に残ってる人物の一人が僕だったとしたら、たまらなく幸せだね」
「俺は恋人陣営が追加されるって聞いて興味が湧いたんだ! 自部隊で人狼ゲームをやったことはあるけど、恋人入りの人狼ゲームは初めてなんだよな」
そうやってまるで少年のような口調で目を輝かせているのは、14の屍天使部隊のレーゼという少女である。
他の者達を見まわしてみても、一同がそれぞれ何かしら興味や思わぬ事情がありこのゲームに参加していることがわかる。
「なんだかみんな、今日が待ちきれなかったみたいね」
レイとの通話が終わったらしく、エニグマフォンを片手に戻ってきたアヤミが笑った。
「無事レイ君と連絡がついたわ。オッケーだって。バイク飛ばしてアトリエまで来てくれることになったから、あとはスズが到着するのを待ちましょうか。って、今度はスズからメールだわ。何々……えぇーーーっ!?」
「なんや、どしたんアヤミ。話きこか?」
アザラシが距離感のバグったおやじのような声をかけながら一緒にメールを覗き込むと、そこには今回の人狼ゲームに参加予定だったスズの帰宅が遅くなるという旨が書かれていた。
なんでも任務先の帰り、新たな《感染源》を発見してしまったらしく、その対処に今は追われているらしい。
「スズさん大丈夫なんすか?」
「人手は足りてるみたいで、事態の鎮圧はほぼ出来てるみたい。でも後処理の関係ですぐには戻ってこれないみたいなの」
「って事は……人狼ゲーム参加は無理っすかね……?」
櫂のためらいがちな問いかけに、アヤミが大きく頷く。
「どうしよう、これだとメンバーが一人足りなくて当初の予定のゲームが出来なくなるわ……」
「困りましたね……しょうがないから村人かどこかの役を一つ削ってやるしかないんじゃないすか?」
「櫂君の言う通りそれしかないんだけど、それだと狼の数が多すぎてパワーバランス大丈夫かしら?」
「確かに……」
エニグマフォンを覗き込みながらアヤミたちがちょうど頭を抱えていたその時。
「ごめん下さい」
アトリエハウスの扉を開き、一人の少女がその白い顔をゆっくりと覗かせながら声をかけてきた。
「あの……この間こちらのユニオンに参加希望を出したコンクエスタ隊のルアです。いつでも挨拶に来ていいと言ってたので来てみたんだけど……もしかして今、取り込み中かな?」
すごい人数が集約されている一階エントランスの様子を見て、ルアという少女が少し遠慮がちに問う。
その姿を天恵と取ったのか、アヤミは物凄い速さでルアへと駆け寄ると、その肩を両手で掴みながらのたまった。
「ああ! コンクエスタ隊のルアさん! ちょうどいいところにっ! あなた今日は時間ある……!??」
「ええっと……うん、一応挨拶に来てみたぐらいだから、ある程度まとまった時間はとってこちらにお邪魔する予定だったけど……?」
「よかった! それなら交友を深めるついでに、よかったらこれから人狼ゲームをやらない!??」
「えっ」
「俺からもお願いします! どうしても……どうしてもルアさんの力が今、バッセのアトリエには必要なんです!」
アヤミの隣で櫂も両手を合わせ、ただ事ではないといった様子で懇願する。
……こうして二人の熱意に押し切られるような形で、急遽コンクエスタ隊のルアが参加する事となり、第二回人狼ゲームはつつがなく執り行われる運びとなった。
任務の後片付けが終わり次第スズは見学者として合流するという事となり、クロムの通訳係となるレイが到着するまでの間、一同はさっそく人狼ゲームの準備を始める事となった。
「今回は恋人陣営がいる関係上、役職カードをここで配る事ができないの。最初にキューピットを一人選出して、その人に恋人二人を選んでもらわなきゃいけないからね。だから今回の配役の殆どはエニグマフォンで通知するわよ!」
そういってアヤミは山札からカードを一枚手に取ると、皆に見えるように頭の上に掲げた。
そこにはとても愛らしい、キューピットの姿が描かれている。
「今ここで決めるのはキューピットただ一人。参加者全員にこれからカードを一枚引いてもらうわ。16枚は真っ白。1枚だけこのキューピットのカードが入ってるわ。それを引いた人がキューピットよ。初日の夜に恋人にしたい人物2人を聞く事になるから、キューピットを引いた人は今からバレないようによ~く考えておいてね!」
キューピットのカードを山札に戻したアヤミはそれらを丹念に切ったあと、エントランスを一周しながら一人一人にカードを手渡していく。
全員へカードを配り終えたちょうどその時、けたたましいバイクの音が近づいてきたかと思うと、暫くしてすぐアトリエのドアを開き一人の男が息を切らしながら顔を出した。
「……またせたな! クロムの馬鹿がエニグマフォンいじれねぇって言うからハイスピードでやってきたぜ! ΕΛΠΙΣのレイだ! 今日はゴーストライターとしての参加だけどよろしくな!」
「突然の招集ごめんね。助かるわ! 会議や推理には参加できないけど、クロムさんの話を聞いて夜時間にエニグマフォンへの打ち込みをお願いするわね!」
「ああ、任せろよアヤミ」
「すまんな、レイ……」
「エニグマフォン爆発させるよりゃーマシだ。それに俺もアトリエ人狼自体は気にはなってたからな! クロム、ΕΛΠΙΣの代表としてCOOLに決めて来いよ!」
「……ふっ。言われるまでもない。俺にまかせろッ! 応ッ!」
「ふふっ、クロムさんも気合十分ね! それじゃあ第二回アトリエ人狼、はじめましょうか! 今回はなんと全員役職あり! そして第三陣営のキューピットと恋人が加わった三つ巴の戦いよ。人狼陣営の役職もより多彩に、そしてより複雑になっているわ。みんなで力を合わせて、それぞれの陣営が勝利できるよう頑張ってね! そして何より楽しい試合にしましょ。それじゃあ一日目の夜、はじまりはじまり~!」
――かくしてアトリエ人狼セカンドシーズンは幕を開けた。
新しい伝説を作り出すのは、人狼か。村人か。
それともただ愛に生きる恋人達か。
三勢力に分かれた疑心暗鬼の人狼ゲームが今、始まる……!