一日目の蟲毒が終了した事で現時点での合計生存者が表示される。
・死亡者115名。
・残存数385名。
蟲毒「鬼」討伐数。
一位・
討伐数:三十五体。
報酬:祓刀「鬼神薙」提供。
副報酬:現金35万円支給。
二位・
討伐数:二十八体。
報酬:特級呪物「鬼子母神の子宮」提供。
副報酬:現金28万円支給。
三位・比良坂メイ
討伐数:十九体。
報酬:一級呪物「雷鬼の指」提供。
副報酬:現金19万円支給。
スマートフォンに表示されている學園のSNSを確認した後、ネットバンキングに通知が届く。
〈オンミョウジガクエン:フリコミ:50.000〉
(鬼を討伐すれば、その分追加で報酬が貰える、と言ったところかな)
幸いな事にSNSの討伐ランキングは上位十位のみ表示されている様になっていた。
余り目立ちたくは無い夜那岐旭人は通知が届いたメールを即座に消去する。
(こういった情報が残るから、攻略組や暗躍組は台頭しない様に立ち回っている筈……道真小路と比良坂の名前は十家に連なるから見た事があるけど、裏辺は無いな……野良で来た野生の天才児だろうか)
事前に情報を取り入れている夜那岐旭人だが、一位の名前には見覚えが無かった。
基本的に入学者は一般人が七割、残りの三割が陰陽師関係者であるので、この裏辺と言う名前の男は大方その七割の方では無いかと簡単に予想出来た。
(不確定要素は余り残したくは無いが、取り合えずは様子見だな)
そう思った所で女子トイレの扉が開いた。
スマートフォンをポケットにしまうと、夜那岐旭人は女子トイレから出て来る出リ羽ユズハに視線を合わせる。
「あ……夜那岐、くん」
目を細めて安堵の息を漏らす出リ羽の姿に、夜那岐も同様に好青年の様な顔をした。
彼女は鬼に制服を破られてしまった為、上半身はほぼ裸と言っても良い状態だった。
なので、夜那岐が上着を彼女に貸してあげたのだ、その制服を出リ羽は大事そうに着用している。
「キズ、大丈夫ですか?保健室で見て貰えれば……」
心配しながら出リ羽は彼の傷を心配していた。
「いやぁ……保健室は他の生徒で順番待ちだから、暫く空きそうに無いかな……俺はまだ、浅い方だよ」
と、健気に傷に対して痛くない素振りをするのだが、急に横腹を抑えて痛みを発する素振りを行う。
「あ、っ」
彼女が声を挙げると、自然と夜那岐の横に移動して彼を支える。
彼女の柔らかな指先が、夜那岐の胸板に手を添え、肩を掴んで支えとなっていた。
「こんなになるまで……本当にごめんなさい」
罪悪感を抱く彼女の謝罪の言葉に、夜那岐は首を左右に振る。
「気にする事は無いよ……いてて、少し、休める所が無いかな」
気丈に振舞いながら、それでも妙に恰好が付かない人間を演じると、それに騙される出リ羽は周囲を見回しながらふと勘付いた。
「休める場所なら……私の部屋が近いです」
と、出リ羽ユズハは、夜那岐を自らの寮室へと連れて行く事にした。
陰陽師學園には女子寮と男子寮が學園校舎を挟む様に対極に位置する。
これは太極図の陰陽を意味する位置であり、それ意外の理由は特には無い。
陰陽師學園にはある程度の校則がある、しかし校則は掟では無い。
必ずしも、遵守し続ける事が絶対と言う事では無かった。
「足の方は、大丈夫かい?」
夜那岐旭人は彼女の容態を心配して聞く。
出リ羽ユズハの足は、破れた衣服で簡単な包帯を作り、それを巻いていた。
「はい、捻挫だと聞いて、安心しました……夜那岐くんは、博識なんですね」
「いや、そこまでは……でも役立って良かったよ」
捻挫などの場合は局部のみ炎症を起こし熱を持つ事があるが、骨に罅が入る場合は発熱を起こしてしまう、彼女の足の怪我は其処まで大した事では無く、鬼の出現による恐怖が痛みを助長させている様なものだった。
他愛のない雑談をしながら二人は一番近い休憩場所へと向かっていた。
女子寮へと足を踏み入れた時、其処は女性専用のオートロックマンションの様だと夜那岐旭人は思った。
本来ならば足を踏み入れる事が出来ない場所で、基本的に校則を守る側である規則に準じる出リ羽ユズハだが、今回ばかりは非常時であると言い訳をして、自らの部屋の番号を押してロックを解除する。
「さあ、どうぞ」
エントランスから先に入る様に言うが、其処で夜那岐は彼女の性格を分析した後にたじろぐ姿勢を見せる。
「いや、……流石に入る訳には、
横腹を抑えながら痛みに堪える仕草をすると、出リ羽の気持ちは確固たるものに変わった。
(こんなにも苦しんでいると言うのに、彼は規則を守ろうとしている……私が破る姿勢を見せないと、夜那岐くんは遠慮してしまう)
その思考に至ると、出リ羽は彼の身体を支えた状態で心配ないと告げる。
「他の方に発覚したとしても、私が弁護します、貴方の誠実さを証明しますから……その様な痛ましい姿は見ていられません」
彼女の言葉に夜那岐は出リ羽が完全に自分に対して特別な感情を抱いている、あるいは芽吹き始めている事を察した。
「っ、うぅ」
横腹を抑えて、痛みで意識が保てない様な表情を浮かべる。
陰陽術を使用している事を彼女に悟られない様に、火行と水行の二種を組み合わせた体温を上昇させる術式を使うと、顔が赤くなっている事に出リ羽は即座に変化を察した。
「顔色が……っ、凄い熱、……骨折による発熱、やっぱり保健室に……でも、満室で使えない、なら……」
本当に、休むべき場所を提供しなければならないと、出リ羽は彼を支えながら足首の痛みを感じながらも必死になって自室へと移動する。
(自分が痛い思いをしても優先順位が俺になっている……彼女の善性によるものかも知れないが、それ以上に好意を感じるな)
冷静に、夜那岐は彼女の行動を分析していた。
「ん……」
夜那岐旭人は目を覚ましたふりをする。
室内には予め用意されたベッドの上で、夜那岐は寝かされていた。
近くには必死の顔をしながら夜那岐の事を看病している出リ羽ユズハの姿があった。
自室に備わる薬箱から鎮痛剤を取り出すと、それを自らの手に出して夜那岐旭人に呑ませようとする。
「夜那岐くん、お薬、飲めますか?」
蒼い髪が彼女の動乱と共に左右に揺れる、必死の表情が目に見えた。
その時に、夜那岐は意識が朦朧とする演技をする事にした。
「うう……か、母さん……」
意識が朦朧としながら、居るもしない幻影を追い求める様な迫真の演技である。
夜那岐のベッドの横に座ると、涙を流しながら涙を流す彼の姿に心を打つものがあった。
(お母さん、だなんて……夜那岐くんには、何か事情があるのでしょうか)
例えば借金のカタで陰陽師學園に強制的に入学された。
あるいは病に臥せた母親を陰陽師の術で治す為に、より高度な陰陽術を学ぼうと入学した。
それ以外の何か、この誠実な青年には、事情があるのではないのかと出リ羽は連想してしまう。
「大丈夫ですか、これ、睡眠薬と鎮痛剤です、効き目があるかどうかは分かりませんが……」
薬を掌に置いた状態で、夜那岐の口の中に錠剤を入れようと、彼女は夜那岐の唇に触れる。
(家族以外で、男性に触れるのは初めてかも知れません……いえ、今はそんな事、考えている場合では)
少しでも自分が破廉恥な事を考えている事に、今はそんな事を考えている場合では無いと自らを戒める出リ羽は、彼の口の中に錠剤を含ませた時。
「ぐ、ぁ……みずっ」
口の中に異物が入った為にうわ言を口にし始める。
決して口から吐き出そうとせずに錠剤を口の中で留めていると、出リ羽がペットボトルの蓋を開けて水を飲まそうとした瞬間。
「っ、ん」
夜那岐の手が彼女の髪に触れる、そして頬に触れて、顔を近付けると彼女の唇に向けて夜那岐は口元を覆った。
彼の口の中に残留しつつある錠剤が、舌先を通じて無理矢理、出リ羽の口の中へと押し込まれると、驚きのあまり彼女はそのまま錠剤を口の中に飲み込んでしまった。
「ん、はっ、けほっ……ぁ、え……?き、キス、あっ」
赤面をする彼女は夜那岐の姿をじっと見つめる。
夜那岐の表情は普遍的であり、その顔を見た出リ羽は彼が何故、急に元気になったのか分からなかった。
「げんき、に、ぃ?ぁ、れ?」
だが、既に彼女の意識は混濁しつつある。
「……悪いね、薬の効能を上げさせて貰ったよ」
意識が歪んでいく出リ羽は、夜那岐の言葉すら歪んで、何を言っているのかすら理解出来なくなっていた、陰陽術による薬品の効能を倍増させ、彼女の意識を刈り取る様にしたのだ。
「いや、今日は楽しかったよ、多分薬の効果で記憶の前後が喪失しているだろうけど……明日も、宜しくね、出リ羽」
意識が途切れる出リ羽はその場に転がり、ペットボトルの中身を零しながら気絶する。
そんな彼女を抱き上げると、そのまま夜那岐は彼女をベッドに寝かしつけるのだった。