「…ああぁぁーーーーっ!!」
キュアット探偵事務所をリフォームしてから少し経ったある日、みくるの叫び声が事務所内に響き渡った。
「いきなり叫ぶなよ!ビックリするだろ!?」
「だって、依頼人が全然来ないんだよ!」
「それだけ平和だって事だろ?」
「そうだよみくる」
「それはそうだけど…そういえば、悠さんは?」
みくるは辺りを見回すが、悠の姿がどこにもなかった。
「あいつならバイトに行くって言ってたろ?」
「あ、そうだった…パティスリーチュチュでバイトするんだったよね?」
「うん。この前エリザさんのペンを取り返した時に行ったお店だよ」
一方、悠はパティスリーチュチュの前まで来ていた。
「鳴上さ~ん!こっちですよ~!」
そこへ悠を呼ぶ声が聞こえてきた。それはパティスリーチュチュでパティシエとして働いている帆羽くれあだった。
「今日からお世話になります、帆羽さん」
「そんなに畏まらなくても良いんですよ。鳴上さんの方が年上なんですから」
「そうか…なら、帆羽もタメ口で話してくれ。ここだと帆羽の方が先輩だしな」
「そういう事なら…よろしくね、悠君」
「よろしくな、帆」
するとくれあが人差し指で悠の口を押さえてきた。
「悠君も、くれあって呼んで?」
「く、くれあ…」
それから二人は従業員専用の出入口から店内に入っていった。制服に着替えた悠はくれあと共に営業開始の準備を始めていた。
「悠君って、前は学童保育のバイトをしていたのよね?」
するとくれあが悠に話しかけてきた。くれあは悠が面接時に持ってきていた履歴書に目を通していたので、悠がバイト経験者だという事を知っているのだ
「他にも家庭教師とか病院の清掃…後はスナックの皿洗いとかもしてたな」
「色々やってたのね…家庭教師をしてたのなら、将来は学校の先生とかが向いてるかもね」
「実はなるらしいぞ」
「…え?」
「…ちょっとしたジョークだ」
「そ、そうよね!未来の自分の事なんてわからないわよね!?」
「…当然です(危なかった…)」
以前あんなから聞かされていた自身の未来をうっかり喋ってしまった悠だったが、何とか誤魔化す事が出来たようだ。
それから営業時間となり、悠は主に接客をこなしていった。
「凄いじゃない悠君!本当に接客するの初めてなの?」
「これでも初めてだ。上手く出来てたか?」
「初めてであれなら上出来よ。これなら安心して任せられるわ」
どうやらくれあから見ても悠の接客態度は問題なく、むしろ予想を上回っていたようだ。
「帆羽さん、鳴上君、お疲れ様」
そこへケーキを手に持っているパティスリーチュチュの店長がやって来た。
「お疲れ様です。ハイカラなデザインですね」
「ああ、このケーキの事かい?昨日新しいケーキを思いついてね、ついさっき完成したところなんだ」
「これって、店長が一からデザインしたんですか?」
「えぇ。このお店のケーキは全部、店長のオーダーメイドなのよ」
「なるほど…流石プロですね」
悠はケースの中に入れられているケーキを見ながら感心している様子だった。
「オリジナルケーキを作るのがパティシエの腕の見せ所だからね。それに、帆羽さんが作るケーキも良い物ばかりだよ」
「くれあもオリジナルケーキを作れるのか?」
「これでもパティシエよ?よくお客さんに頼まれて作ったりするの。ちょっと待ってて」
しばらくしてくれあが持ってきたのはパティスリーチュチュのメニュー表だった。メニュー表には様々な物をモチーフにしたケーキが写っていた。例を挙げるとサッカーボールやドレス、動物といった物だ。
「凄いな。どれもクオリティが高い…!」
「フフッ、良かったら悠君も作ってみる?オリジナルケーキ」
「えっ?」
くれあからの提案に悠は声を漏らす。
「良いんじゃないかな?勿論売り物にはできないけどね」
「悠君、どうかしら?」
「…わかった、やってみよう」
「決まりね」
「それじゃあ、店の事は僕がやっておくよ。帆羽さん、鳴上君の事は任せたよ」
「はい」
店の事は店長に任せ、悠とくれあは厨房でオリジナルケーキの構想を考え始めた。
「…思いつかない」
最初こそ張り切っていた悠だったが、中々オリジナルケーキのアイディアが浮かばず、頭を抱えていた。
「う~ん…そうだ!悠君が大切に想っている人を思い浮かべてみて」
「大切な人を?」
「えぇ。その人に贈るケーキを作ってみるの」
「…大切な人か」
悠にとって、大切に想っている人間は大勢いる。唯一無二の相棒、肉とカンフーを愛する女の子、一見大和撫子だが、誰よりもよく笑う女の子、不良と恐れられているが可愛い物が大好きな後輩、自身を慕ってくれていたアイドルな後輩、探偵王子と称されているが、本当は女の子な後輩、普段はよく大騒ぎするが、やる時はやる頼もしいクマ、甥である自分を家族だと言ってくれる叔父、本当の妹の様に可愛がっていた従妹。他にも大勢の人間と八十稲羽で絆を結んでいたのだ
しかし、その全員にケーキを贈る事は叶わない。今の自分を知ってくれている人間がこの時代に一人もいないからだ。
「…く…ゆ…ん…悠君!」
「…すまない、ちょっと考え事をしてた」
「そうなの?なんていうか、寂しそうな顔をしてたけど…」
「寂しそう…俺がか?」
「えぇ…大丈夫?」
「…ああ、心配させて悪いな」
悠は笑みを浮かべながらそう口にする。
「…そうだ!あの探偵さん達に作ってあげたら?」
「探偵さん…あんなとみくるの事か?」
「うん。あの子達へなら贈れるでしょ?日頃の感謝の気持ちも込めてね」
「…良いアイディアだ。さっそくデザインを考えてみるよ」
それから悠はスケッチブックにオリジナルケーキのアイディアを纏めていった。
「…出来た」
悠とくれあの目の前にあるのは悠が作ったオリジナルケーキだった。くれあがケーキを箱に入れ、それを悠に渡した。
「はい悠君。崩さないようにね」
「ああ…ありがとう。ケーキが作れたのはくれあのおかげだ」
「私は何もしてないわ。ケーキを一からデザインしたのは悠君なんだから」
「だけど、くれあが大切に想っている人を思い浮かべてみろって言わなかったら何も思い浮かばなかった。だから礼くらい言わせてくれ」
「…それじゃあ、受け取っておくわ」
それから時計を見てみると、丁度悠のバイトが終わる時間帯になっていた。
「それじゃあ、そろそろ帰るよ」
「あ、もうそんな時間なんだ…気を付けてね」
「ああ…一つ良いか?」
「どうしたの?」
「…今度、くれあが作るケーキを俺に食べさせてくれないか?」
「…え?」
悠の一言にどういう訳か、くれあは頬を少し赤くして呆然としていた。
「くれあ?」
「あ、あのね悠君!気持ちは嬉しいけど、私達、会ってそこまで経ってないし…」
「ダメなのか?くれあのオリジナルケーキ…」
「…あっ、そっちね!?勿論良いわよ!」
「そ、そうか…」
くれあが慌てている理由がわからず、悠は少し困惑しているようだった。
それからパティスリーチュチュを後にした悠はキュアット探偵事務所に向かっている途中だった。
「ハンニンダァーーーッ!!」
「…え?」
意気揚々と歩いていた悠の目の前に漫画の原稿の様な姿をしたハンニンダーが現れた。ハンニンダーだけではない。アンサーとミスティック、どこか古風な男の姿がそこにはあった。どうやらプリキュアの二人はハンニンダーと交戦中のようだ。
「あっ、悠さん!」
「アンサー、ミスティック?」
「んん?もしや、お前が例のペルソナ使いって奴かい?」
「…怪盗団ファントムの奴か?」
「その通り!俺の名はゴウエモン!して、お前さんの名は?」
「鳴上悠」
「鳴上悠!見せてもらおうか、お前の力とやらを!」
「ハンニンダー!」
ハンニンダーが悠に襲い掛かると同時に、悠は『正義』のアルカナが描かれたタロットカードを握り潰した。
「スラオシャ!!」
悠が召喚したのは正義のアルカナを持つペルソナ・スラオシャだった。スラオシャは物理技のブレイブザッパーでハンニンダーを攻撃し、大ダメージを与えた。
「な、なにぃ~~~!?」
「決めろ!」
「「うん(はい)!」」
アンサーとミスティックはジュエルキュアウォッチの長針を動かし、浄化の準備に入った。
「「これが私達の、アンサーだぁーーー!!」」
アンサーとミスティックはハンニンダーをパンチで貫いた。
「「キュアっと解決!」」
無事にハンニンダーは浄化され、ハンニンダーだった物は漫画の原稿に姿を変えた。
「ポチポチ!キュアキュア~!」
マコトジュエルも無事ポチタンに渡され、また一つ成長したようだ。
「楽しませてもらったぞ、プリキュア、そして鳴上悠!また相まみえよう!」
そう言い残し、ゴウエモンはこの場から撤退していった。
どうやら悠がバイトに行っている間、漫画家志望だという男子大学生が失くした原稿探しの依頼に来たらしい。それから紆余曲折あったが無事に原稿を見つけたあんなとみくるだったが、先程のゴウエモンにマコトジュエルが宿った原稿を奪われてしまい、先程の光景に至ったようだ。
ちなみにその漫画家志望の大学生は、あんながいた2027年では大ヒット漫画家になっているようだ。悠も元居た2012年に帰れたら、彼が描いた漫画を本屋で探してみようと心に決めたみたいだ。
「そうだ、今日はあんなとみくるにお土産があるんだ」
「「お土産?」」
「これだ」
悠は自作のオリジナルケーキを二人に見せた。
オリジナルケーキは虫眼鏡の様な形をしており、真ん中にはあんなとみくるの顔が生クリームで細かく描かれていた。
「わぁ~!これって私とあんなですよね!?」
「ああ。俺が一からデザインしたんだ。どうかな?」
「はなまる上手だよ!」
二人は悠のオリジナルケーキを見て目を輝かせていた。
「これは、お前達二人に贈る為に作ったケーキなんだ」
「え?」
「私達に?」
「あの店には女性のパティシエがいただろ?どんなケーキを作ろうか迷ってたら、彼女が言ってくれたんだ。俺が大切に想っている人に贈るケーキを作ったらどうかって…俺が大切に想っている人は、お前達二人だ」
「私達が…ありがとう悠さん!はなまる嬉しいよ!」
「そうか…みくる?どうした?」
頬を赤らめながら喜ぶあんなだったが、みくるは頬を赤らめながら胸を押さえ、呆然としている様子だった。
「な、なんでもありません!悠さん、ジェット先輩にも食べさせてあげませんか!?」
「あ、ああ。確かに全部食べ切れないからな。今から呼んで来るよ」
「あっ、私も行く!」
悠とあんながリビングを離れ、この場にいるのはみくる一人だけとなった。
「…まただ。初めて悠さんと出会った時みたいに、胸がドキドキする…」
みくるは胸を押さえてそう呟いていた。
そんなみくるの脳裏を過ったのは、先程楽しそうに悠と話していたあんなの様子だった。それを見ていた時のみくるの心の中は、決して穏やかではなかった。
「私、本当にどうしちゃったの…?」
―今回手に入れたアルカナ―
女教皇:帆羽くれあ
今回って実質、石川五右衛門モチーフの怪盗VS十三代目石川五ェ門って事でOK?(中の人ネタ)