「れい、頼まれてた仕事が終わったぞ」
「ありがとう。今からチェックするね」
ここはまことみらい学園中等部の生徒会室。ここにいたのは悠司と生徒会長のれい、数名の生徒会役員だ。
あの日、れいから生徒会に入らないかと誘われた悠司はその誘いを受け、生徒会に入ることにしたのだ。最初は探偵の事もあるので返答に困っていた悠司だったが、れいはあんなとみくるが探偵をしていることも、悠司が二人の助手をしている事も把握していたので『行ける時で良い』と言われ、そのまま生徒会の一員になったのだ。
「…うん、問題なし。入ったばかりなのに凄いね」
「大したことじゃないよ」
「謙遜しないで。鳴上君が入ってくれたおかげで、前より生徒会の仕事が捗ってるもの」
「そうか…ありがとう」
「鳴上君!ちょっといい?」
「どうした?」
役員の一人である女子生徒に呼ばれた悠司は彼女の元へ行く。悠司が生徒会に入ってしばらく経つが、既に彼は生徒会役員に頼られるようになり、生徒会にも馴染んでいるようだった。それは生徒会長であるれいもわかっていた。
それからあっという間に放課後になり、悠司は自分の教室に置いていた荷物を取りに行って教室を後にした。ちなみに部活等に入っていないあんなとみくるは既に探偵事務所へ帰っていた。
「はぁ!?どうしてよ!」
「ん?」
すると悠司の耳に女子の怒鳴り声が聞こえてきた。
「れい?」
悠司の視線の先にはれいと二人の女子生徒の姿があった。どうやらタダ事ではないようだ。
「どうしても何も、ピアスもメイクも校則違反です」
「意味わかんない!ちょっとくらいいいでしょ!?」
「そうよ!」
「…如何なるものであろうと、あなた達のしている事が校則違反である事に変わりありません」
「…フン!生徒会長だからってお高く留まってんじゃないわよ!」
「こんな頭でっかちほっといて、行こ行こ!」
二人の女子生徒はその場から去っていった。それを見たれいは複雑そうな表情をしているようだ。
「大丈夫だったか?」
「鳴上君…」
それから二人は学校の帰り道にあるベンチに座っていた。
「落ち着いたか?」
「うん…」
悠司がそう訊くと、れいがある事を話し始めた。
「…鳴上君はクラスの人から、私がどんな人か聞いてるでしょ?」
「…友達は、『校則や決まりごとに厳しい人』、『近寄りがたい』って言ってたな…」
「やっぱりそうだよね…みんな、注意されたくないでしょうから…」
「…苦しくないのか?」
「…大丈夫。それに、誰かが言わないと事だから…たとえ嫌われたとしても、私は生徒会長としての務めを果たすつもり」
そう告げるれいの表情は覚悟と責任感に満ち溢れたものだった。
「…れいは強いな」
「えっ?」
「嫌われようと、拒絶されたとしても、自分の役目を全うしようとするのは中々出来る事じゃない。だかられいは強いよ」
「鳴上君…」
「だけど、あまり無茶はしないでほしいかな」
「え?」
「心配だからさ、れいの事が。生徒会の仲間としても、友達としてもさ」
「友達…」
悠司の言葉を聞いたれいは少し驚いているような表情になっている。
「どうかしたか?」
「ごめんなさい。友達って呼ばれたから…」
「俺達、友達じゃないのか?」
「あっ!決して鳴上君を友達じゃないと思ってるわけじゃなくて…」
「なら友達だな」
「あっ…もう!」
れいは少し恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
「…なぁ、れいはプリティホリックの事を知ってるか?」
「それって、あなた達がいる探偵事務所にある化粧店よね?」
「よかったら、今度の日曜に来てみないか?」
「でも、学校でメイクは…」
「わかってる。だからプライベートで楽しめばいいんだよ。良い気分転換になると思わないか?」
「…わかった。行ってみるよ」
「ありがとう」
「そんな訳で、今度の日曜にれいが来る事になったから」
「「…えぇぇぇぇぇーーーー!?」」
家に帰ってきた悠司からそう聞かされたあんなとみくるは盛大に驚いてしまったとか。
「「ありがとうございました~!」」
あれからあっという間に約束の日曜になった。悠は悠司になってあんな達と店の手伝いをしていたが、当のれいはいつまで経っても店には来なかった。
「生徒会長、来ないね…」
「いくらなんでも遅すぎるよね…」
「都合が悪くなって来れないんじゃないのか?」
「いや、だとしてもれいが連絡をしないなんて考えにくい」
そう言って悠司はこの場から去ろうとしていた。
「悠司君?」
「れいを探してくる」
「あ、それなら私達も!」
「二人は店の手伝いをしていてくれ。すぐに戻るから」
悠司は町へ行き、れいを探していたが中々見つからなかった。
「ん?」
そんな中悠司は二人の少女を見つける。二人は数日前、れいに注意されていた女子生徒だった。二人はどこか慌ててる様子だった。
「何かあったのか?」
「えっ!?」
「俺は二人と同じまことみらい学園の生徒だ。何かあったなら話してくれ」
「せ、生徒会長が、連れていかれちゃったの!」
「えっ!?」
「私達、さっきチンピラ達に絡まれて…そしたら生徒会長が来て助けてくれたの」
「でも、チンピラ達が私達を見逃す代わりにって、会長を無理矢理連れて行っちゃって…」
「…れいがどこに連れていかれたかわかるか?」
「わ、わかんない…」
「そうか…君達はどこでチンピラ達に絡まれたんだ?」
「えっと…」
悠司は二人からチンピラに絡まれた場所を聞き出し、事務所にあった地図から書き写した自作の地図に印をつける。
「その近くに、人目がつかなそうな場所はあったりしないか?」
「えっと…」
「廃工場が一つあった筈よ!」
悠司は女子生徒に廃工場がある場所を教えてもらい、地図に描き記した。
「ありがとう!」
悠司はこの場から走り去り、れいが居るであろう廃工場へと向かっていった。
場所は移り、この廃工場に四人の男、そしてれいの姿があった。
「…本当に、約束は守るんですね?」
「ああ。嬢ちゃんが俺達と遊んでくれるんなら、あの子達に手は出さねぇよ」
「…わかりました。好きにしてください」
「へへ、強気な女は嫌いじゃねぇぜ」
「そんじゃ、楽しませてもらうとするか」
そう言ってチンピラの一人がれいに向かって手を伸ばしてきた。
「ガハッ!?」
『なっ!?』
その時、誰かがチンピラに蹴りを入れて吹き飛ばした。あまりに強力な蹴りだったからか、チンピラは気を失っていた。
「…里中との特訓が役に立ったな」
「鳴上…君…」
チンピラを蹴り飛ばしたのは悠司だった。
「な、なんだテメェ!?」
「彼女の友達だ」
そう言って悠司はれいを守るように、彼女の傍に行った。
「女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞゴラァ!」
「ギッタギタのコナゴナにしてやんよ!!」
悠司とれいの目の前に転がっているのは四人のチンピラ達。あれからどうなったかは言うまでもないだろう。
「…大丈夫か?」
「え、えぇ…どうしてここに…?」
「二人の女子から聞いたんだ。れいがチンピラに連れていかれたって。だから…」
「そういうことじゃないよ!…何とかなったから良かったけど、あなたにもしもの事があったら…!」
「…どんな状況だろうと、それから目を逸らすような事はしたくないんだ」
「えっ…?」
「それに、友達が危ない目に遭いそうだったんだ。助けないわけにはいかないだろ?」
「鳴上君…!」
するとれいは何を思ったのか、悠司に抱き着いてきた。
「え?」
「…ごめんなさい。もう少し…このままで…」
そう言っているれいは少しだけ身体が震えているようだった。勿論それに悠司は気づいていた。
「…ああ」
しばらく経つと、れいが悠司から離れた。
「落ち着いたか?」
「うん…その、ごめんなさい…異性に抱き着くなんて、はしたないよね…」
「怖い思いをしたんだ。無理もないよ…そろそろ出てきたらどうだ?」
「えっ?」
悠司の呼びかけに応えるように廃工場の入口から二人の人物が出てきた。それは例の女子生徒二人だった。
「あ、あなた達…」
「その、私達、会長が心配で…」
「…こ、この前はすみませんでした!」
「わ、私もごめんなさい!」
すると二人はれいに頭を下げて謝罪をしてきた。
「…いいよ。私もきつく言い過ぎたし」
「でも…」
「…あの、あなた達さえ良かったら…その…」
れいはどこか歯切れが悪かったが、ある事を二人に頼んだのだった。
「…おススメの化粧品を、教えてほしいの…」
「「…喜んで!」」
しばらくして悠司とれいはプリティホリックへやってきた。
「あっ、悠司君!生徒会長!」
「いらっしゃいませ!」
「こんにちはみくるさん。それと初めまして、明智さん」
「わぁ…本当に私の事を知っててくれてる!」
「生徒会長たるもの、全校生徒の顔と名前を憶えるのは当然です」
「は、はなまる素敵です!これからも頑張ってください!」
「フフッ、ありがとう」
それかられいは化粧品を何個か購入し、店の外に出た。
「良かったな、良いのがあって」
「えぇ…今日はありがとう、鳴上君。とっても楽しかったわ」
「そうか」
「…私ね、あなたが生徒会に入ってくれて、本当に良かったと思ってる」
「え?」
「あなたが入って仕事が捗るようになったのは勿論だけど、何よりあなたが入ってから生徒会に活気が出るようになったわ。あなたにはとても感謝してる。それに…」
「それに?」
「…ううん、なんでもない。これからも生徒会の一員として…友達としてよろしくね、
満面の笑みを浮かべ、れいはこの場から去っていった。こうして悠司はまた一つ、新たな絆を結んだのであった。
「みくる…恐れていたことが起きちゃったよ…!」
「えぇ…新たなライバル出現ね…!」
なお、凄い顔で今の光景を見ていた者達がいたそうな。
―今回手に入れたアルカナ―
女帝:金田れい