「…つまり、あなたは今から13年後の未来から来たって事?」
「…たぶんな」
少女から今は1999年だと告げられた悠。悠にとって特に隠す理由がない為か、すぐさま少女に自身がタイムスリップしてきたと白状した。
(まさかタイムスリップするなんてな…まぁ、テレビの世界なんてモノがあるし、有り得なくはないか)
全く知らない町、ほとんど記憶に残っていない時代に一人きりで飛ばされた悠だったが、意外にも冷静を保てていた。
「意外と冷静ね」
「慌てたってどうしようもないからな…って、信じてくれるのか?」
「あなたの話し方を聞いていれば嘘じゃないってわかる」
「そうか…ありがとう。えっと…」
「るるか。森亜るるか」
「森亜か…俺は鳴上悠だ」
「るるかで良い」
「そうか…それにしても、これからどうすれば…」
「…良い場所がある」
「え?」
「ここか、るるかが言っていた場所は…」
悠の目の前にあるのは大きめの建物だった。入口には『キュアット探偵事務所』と書かれた看板があった。るるかが言うにはこの建物でなら生活する事が出来るようだ。帰る場所が存在しない悠にとってはありがたい事だった。
(そういえば、みくるがキュアット探偵事務所がどうのって言ってたけど…ここの事なのか?…ひとまず、入ってみるか)
さっそくキュアット探偵事務所の中に入ってみる悠だったが、建物の中は電気がついておらず、至る所にダンボールが置かれていた。まるで建物の中の家具を片付けているかのように。
(誰もいない…でも家具が片付けられているって事は、少し前まで誰かが居たとは思うけど…何でるるかはここに俺を…)
「悪いが、依頼は断ってる」
「ん?」
どこからか声が聞こえ、辺りを見回した悠だったが声を出した人物の姿は見えなかった。
「どこ見てるんだよ?こっちだこっち」
声が聞こえたのは悠がいる場所の真下だったようで、そこに居たのは黄色の髪にゴーグルを頭につけている少年だった。
「子供?」
「僕は大人だ。子供じゃない」
「そうか。すまないな」
「おい!頭を撫でるな!子供じゃないって言ってるだろ!?」
悠に頭を撫でられ、少年は嫌がりながら悠から離れた。
「ったく、何なんだよお前…」
「鳴上悠、未来人だ」
「別に名前は聞いてな…未来人?何言ってるんだ?」
「本当だ。どういう訳か2012年からこの1999年に飛ばされたんだ」
「…そんな冗談に付き合う程僕は暇じゃない。帰ってくれ」
(まぁ、そう簡単には信じないよな…そうだ、あれを見せてみるか)
そう言って悠は財布からある物を取り出し、少年にそれを見せた。少年に見せたのは原付免許だった。これは八十稲羽に居た際、唯一無二の相棒である花村陽介と共に取得した物である
「それは…原付の免許か?…鳴上悠、平成
「その免許に書かれている通り、この時代の俺はまだ5歳の子供なんだ。これで信じてくれるか?」
「…正直、まだ完全には信じ切れていない。けど、話くらいは聞いてやる」
「ありがとう」
それから悠は少年と話す事になった。
「僕はジェット。天才発明家だ!様々な探偵道具を作ってる」
「さっきも言ったが、鳴上悠だ。よろしく頼む、ジェット」
「ジェット?…お前、もうすぐ18歳だったろ?」
「ああ」
「僕は222歳だ。お前より僕の方が年上なんだからな!」
そう言いながらジェットは誇らしげに胸を張っていた。
「すまない。今度から気を付けるよ、ジェットおじいちゃん」
「おじいちゃんって言うな!僕は妖精の中じゃ若い方なんだよ!」
「…妖精?」
「(し、しまった…!)な、なんでもない。気にしないでくれ」
「なるほど、君は人間じゃないのか」
「気にするなって言ったよな!?そもそも僕は人間だ!」
「普通の人間は222歳まで生きられないぞ」
「うっ…」
「安心しろ。ジェットさんが困るような事を言いふらすつもりはない」
「…ったく、わかったよ」
「これが僕の本当の姿だ」
「モフモフだ…」
「だから触るなって!」
悠が触っているのはぬいぐるみの様な姿をした小動物だった。言わずもがな、その正体はジェットだった。悠に触れられていたジェットはすぐさま少年の姿へ戻った。
「まったく…そもそもお前、何しにここへ来たんだ?」
「るるかって女の子が教えてくれたんだ。ここでならとりあえず暮らすことができるって」
「?…誰だ、そいつ」
「え…?」
どうやらジェットはるるかの事を知らない様だ。
「…知らないのか?」
「ああ、知らない…そもそも、ここで暮らす事は出来ないぞ」
「…どうしてだ?」
「この事も言いふらさないでほしいんだが…この事務所には数ヶ月前まで名探偵がいたんだ。けど、どういう訳か突然消えてしまった…だから僕はこの事務所を閉める為にロンドンのキュアット探偵事務所から来たんだ」
「つまり、至る場所に置いてあるダンボールは片付けた家具を仕舞ってるって事か…」
「そういう事だ。お前には悪いが、ここで暮らす事はできない。出来たとしても、この事務所を閉める直前までだ」
「…そうか、それなら仕方ないな。じゃあ俺はその辺の公園で暮らす事にするよ」
「は…?」
「安心しろ、これでもサバイバルには多少自信がある。寝床も自分で用意する。食料も山か海で調達するつもりだ。だからジェットさんは安心してこの事務所を閉めて…」
「だぁーーーっ!わかったよ!ここで暮らしていいから!」
「良いのか?」
「あのな、子供を野宿させるほど僕も鬼じゃないぞ…」
「ジェットママ…!」
「誰がママだ!…けど、料理はあまり期待しないでくれよ」
「ムドオンカレーじゃなければ大丈夫だ」
「ムドオンカレーってなんだよ…」
その後、ジェットが用意した夕食を食べた悠はあまりにちゃんとした料理に感動し、涙を流してしまったとか…
(ここか、ジェットさんが言っていたのは…)
あれから数日後の4月2日。悠はまことみらい市の結婚式場にやって来ていた。何でもジェットが金に困っている悠の為にバイトに応募してくれたようだ。ジェットが言うには結婚式の準備が主なバイト内容の様だ。
「あっ、あなたがバイトの子ね!」
式場に入った悠を出迎えたのは式場のスタッフと思われる女性だった。
「どうも、鳴上悠と言います。今日はよろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも。私はウェディングプランナーの幸野さちよです」
どうやらこのスタッフは幸野さちよと言う名前の様だ。
それから悠は式の準備を他のスタッフ達と一緒に進めていった。しばらくするとスタッフの指示で悠は花嫁の控室にやって来ていた。
(…綺麗なティアラだな)
作業をしていた悠の目に留まったのは一つのティアラだった。おそらく花嫁が身に着ける物だろう。
「フフッ、綺麗でしょ?」
後ろから話しかけられた悠は内心ドキッとしながら後ろを向く。話しかけてきたのは花嫁の想田まりだった。
「すみません、勝手に見てしまって…」
「いいの、気にしないで…そのティアラ、私のお母さんが式で付けていた物なの」
まりは微笑みながらティアラを見ていた。
「そうなんですか…お二人に使ってもらえて、このティアラは幸せですね」
「フフッ、ありがとう」
「鳴上君!ちょっといいかい?」
「あ、はい!…では、しつれいします」
スタッフに呼ばれた悠は控室を後にしていった。
「今日は助かったよ鳴上君!」
「いえ、お役に立てて何よりです」
一通り準備を終えた悠はスタッフと共に休憩していた。
「鳴上君!!」
そこへ幸野がやって来たのだが、どこか慌てている様子だった。
「幸野さん?どうかしたんですか?」
「大変なの!想田さんのティアラが…失くなったの!」
「えっ!?大変じゃないですか!」
「えぇ…それで、あなたには今から想田さんの控室に行ってほしいの!」
「控室に?わかりました」
悠は幸野と共にまりの控室にやって来た。控室にはまりの他に男性一人、女性一人、そして少女が二人いた。
「あっ!悠さん!」
少女の一人は、悠の見知った人物だった。
「みくる?どうしてお前がここに?」
「こっちのセリフですよ!どうして悠さんがここにいるんですか!?」
「バイトで来てたんだよ」
「そうだったんですね…あっ、あんなさん、この人は…」
「鳴上先生…?」
みくると一緒にいた少女は信じられない表情で悠を見て、そう呟いた。
えっと…るるかと足立さんが同級生ってマジっすか?
るるか:1983年11月1日生まれ。
足立さん:1984年2月1日生まれ。