補完エピソードまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回追加した後日談は、本編とエピローグで描いた「館林見晴が伝説の木まで歩く」「佐伯達也の隣を歩き始める」という流れを、もう少しだけ日常側へ伸ばすための補完でした。
本編のラストで、見晴は伝説の木まで歩きました。
エピローグで、見晴は達也の隣を歩きました。
そして今回の補完エピソードでは、達也が見晴を知り始め、詩織がその二人を見送る形にしています。
まず「佐伯達也は、館林見晴の好きな本を知る」は、達也側の補完です。
見晴は三年間、達也を見ていました。
でも達也は、ようやく見晴を見始めたばかりです。
だから、伝説の木の下で「好き」とすぐに返すのではなく、「館林さんのことを知りたい」と答えました。
その言葉を、日常の中へ落としたのがこの後日談です。
本屋という場所を選んだのは、見晴にとって自然に立てる場所を描きたかったからです。
学校の廊下では、彼女は隠れていました。
下駄箱の近くでも、校門の少し手前でも、彼女は見つからない場所にいました。
けれど本棚の前では、見晴は少しだけ自然に立っていられる。
そこには、彼女の好きなものがあるからです。
達也が知るべきなのは、「自分を好きでいてくれた少女」だけではありません。
どんな本が好きなのか。
どんな場所で落ち着くのか。
どんな話をすると、少し言葉が増えるのか。
そういう、恋愛以前の一人の人間としての館林見晴です。
だからこの回では、達也が見晴の好きな本を知ることが、とても大事でした。
一冊だけ。
でも、その一冊から始まる。
それが、二人のこれからに合っていると思います。
そして「藤崎詩織は、隣を歩く二人を見送る」は、詩織側の補完です。
今作における藤崎詩織は、非常に難しい位置にいました。
彼女は、伝説の木に一番近いと思われている少女です。
佐伯達也の幼馴染であり、周囲から見れば特別な位置にいる存在でもあります。
その詩織がいる世界で、館林見晴が伝説の木まで歩く。
ここに、今作の大きな意味がありました。
だからこそ、詩織をただの負け役にはしたくありませんでした。
詩織は、達也と何もなかったわけではありません。
近すぎたからこそ、何も確かめないまま三年間を過ごした。
幼馴染という安全な関係の中で、関係に名前をつけないまま卒業式を迎えた。
それもまた、一つの時間でした。
けれど、卒業式の日に伝説の木まで歩いたのは、館林見晴でした。
詩織にとって、それがまったく痛くなかったとは思いません。
悔しくなかったと言えば、きっと嘘になる。
寂しくなかったと言っても、たぶん嘘になる。
でも、それだけではない。
館林さんが歩いたことを、詩織はちゃんと見ていました。
隠れていた少女が、隠れずに名前を届けに行ったことを。
見ているだけだった少女が、自分の足で関係を始めに行ったことを。
その一歩を、詩織は否定しなかった。
この補完エピソードでは、その詩織の「見届け」を書きました。
「気をつけてね」
本編エピローグでは短い一言でしたが、詩織視点では、その中にいろいろな意味が入っています。
急ぎすぎないでね。
無理に歩幅を合わせすぎないでね。
でも、止まらないでね。
せっかく歩いたのだから。
せっかく隣にいるのだから。
どうか、そのまま少しずつ進んでね。
そういう、藤崎詩織なりの祝福です。
今回の補完によって、作品全体の流れはこうなりました。
本編で、館林見晴は伝説の木まで歩く。
エピローグで、館林見晴は佐伯達也の隣を歩く。
達也視点の後日談で、佐伯達也は館林見晴を知り始める。
詩織視点の後日談で、藤崎詩織は二人の始まりを見届ける。
この形にできたことで、見晴、達也、詩織の三人それぞれに、少しだけ着地点を用意できたと思います。
館林見晴は、もう遠くから見ているだけではありません。
佐伯達也は、もう見つけて終わりではありません。
藤崎詩織は、ただ外側に置かれた少女ではありません。
それぞれが、自分の位置から少しだけ前へ進んでいます。
この作品は、伝説の木の下で完成する恋愛ではなく、伝説の木まで歩いた後に始まる関係を書いた物語でした。
見晴は歩きました。
達也は見始めました。
詩織は見届けました。
そして、三人ともそれぞれの道を歩き出しました。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。