技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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沢山のご感想ありがとうございました!
楽しく読まさせて頂いております!



第11話

 ガネバン中尉は私の顔を見たまま短く息を吐くと、艦長席の前へ向き直り、敵の航跡を開いた。口髭に触れかけた手が、そのまま画面の端を押す。

 

「了解いたしました、戦隊長。本艦の操艦と砲戦、私が預かります」

 

 こちらへ一度頷き、中尉は各部署の報告を求める。機関、砲術、艦内の配置。返事が届くたびに、準備を示す表示が切り替わっていく。

 私は隣に立ったまま、その声を聞いていた。中尉がもうこちらを見ないので、何か言い添えるべきかと迷っていると、艦長席の右後ろを示される。

 

「戦隊長席をお使いください。動かしますので」

 

 手すりを離して一段高い席へ移り、腰を下ろしてベルトを引いた。前にはガネバン中尉の背中と、その向こうに並んだ操艦席が見える。

 ヅダのコックピットより、正面の画面が遠い。いつものつもりで腕を伸ばしても、手元には操縦桿がない。

 

「配置完了。各砲塔、射撃可能」

 

「本艦はヨーツンヘイムの前へ出る。機関、最大戦速。戦闘配置のまま進め」

 

 床から低い振動が伝わり、背が座席へ押しつけられる。主推進器に加え、艦尾へ増設した3基も動き始めた。

 後方の映像では工廠の外壁が遠ざかり、その隙間に挟まれたヨーツンヘイムとマゼラン級の船腹を、作業艇の灯火が横切っていく。2隻はまだ並んだままだ。

 母艦の状況を手元へ呼び出すと、離脱まで約25分という報告が残っていた。受信時刻は先ほどのもの。少しでも早くなるならよいが、それを当てにして敵を近づけるわけにはいかない。

 

「敵艦2隻、光学で捕捉。距離7万m」

 

 拡大映像には、左右に間隔を取ったサラミス級が2隻。右側の艦が僅かに前へ出ており、動き始めた砲塔の影が、灰色の船体を細く横切る。

 01号と同じ形だったはずの艦だ。見慣れた単装砲がこちらを向くと、私は肩に掛かったベルトを握った。

 

「ミノフスキー粒子、戦闘濃度で散布。面舵、進路を右へ」

 

「敵艦、発砲!」

 

 映像の中で砲口が光り、ガネバン中尉が顔を上げる。その声は、先ほどと変わらない。

 

「照準を定めさせるな。そのまま舵を取れ。前部砲塔、右側の艦を狙え」

 

 艦が向きを変えた後を最初のビームが通り抜け、離れた位置に漂う破片へ突き刺さる。砕けた外板が赤く光る向こうから、また射撃が来た。

 今度は近い。画面の端を横切った光がすぐ脇の残骸を削り、01号はその明るい粉の流れから離れながら、艦首を敵へ向け直す。

 

「前部3基、照準」

 

「撃て」

 

 発射指令の表示に少し遅れ、砲口から6本の緑色のビームが伸びた。敵艦が艦首を振って避けると、その隣のサラミス級も進路を変え、2隻の間隔が広がっていく。

 こちらの砲術員は着弾の映像を待っていたが、ガネバン中尉は次の射撃を命じなかった。

 

「面舵一杯。前方の外壁、その裏へ入れ」

 

 操艦席からの復唱を聞き、正面の映像へ目を戻す。折れたコロニー外壁が、斜めに立ちはだかっている。

 01号の艦首がその端を越えるにつれ、灰色の面が窓の外を塞ぐ。遅れて撃ち込まれた赤いビームに角を砕かれ、細かな破片が向こう側から流れてきた。

 

「レーダー、追跡維持できません。光学観測へ切り替えます」

 

 敵の印は実像を追えなくなり、最後に確認した位置で止まっている。散布した粒子は、向こうの目と一緒にこちらの目も塞ぐ。

 観測時刻を確かめ、直前の映像を見返した。右側の艦はこちらへ向きを変え、左側の艦は大きな残骸を避けている。そのまま来るなら、先に右側と接触するはずだ。

 

「工廠から離れる方へ引く。2隻の射線が揃う場所では撃ち合わん」

 

 ガネバン中尉の示した針路が、私の画面にも伸びる。回収作業で位置を調べた外壁の間を抜ければ、母艦とは別の方向へ出られるようになっていた。

 

「了解しました。母艦への連絡はこちらから出します」

 

 短い文面を送ったものの、受信を示す表示はなかなか出ない。やがて届いた返信には、船外作業員の収容が進んでいるとの報告が添えられていた。

 そこをもう一度読んでから、前の画面へ戻る。ガネバン中尉が見つめる、外壁の端の映像には何も映っていない。

 

 背を座席へ預け、少しずつ呼吸を落としていく。機体を動かす手順を考えなくてよい分、外へ意識を向けられる。

 艦の振動や、すぐ前で交わされる報告の間に、別の気配が混じり始めた。

 焦っている。探しているのに見つからず、苛立ちが募っていく。

 それがどちらの艦から来るのかを追ううち、閉じた目の奥に、右へ寄っていく感覚が残る。目を開けても、そこにはコロニー外壁しか映っていない。

 

「中尉。先に来る艦は、この外壁の右側を回ります」

 

 ガネバン中尉が振り返った。

 

「見えましたか」

 

「いいえ。でも、そちらへ来ると思います」

 

「根拠は」

 

 私は画面へ目をやった。最後に捉えた位置から右側へ回れそうではあるが、それだけなら、中尉にも同じ資料がある。

 

「……勘です」

 

 中尉は返事をせずに残骸の配置図を開き、外壁の右端を指で押しながら、観測員へ最後の敵針路を確かめた。

 

「あの向きのままなら、確かにこちらが近い。右端へ見張りを集中。もう1隻を見落とすな」

 

 確認を終えた中尉が、もう一度こちらを向く。

 

「戦隊長、近づいたら知らせてください。こちらも用意します」

 

「はい」

 

 艦長席が前へ戻るのを見送り、ベルトを離して、右側の映像を手元へ呼び出す。

 

「微速後退。艦首を左へ振れ。右砲戦用意」

 

 短い噴射に合わせて画面の外壁が横へ流れ、遮蔽物の裏に残ったままの01号が、その切れ目へ右舷を向けた。

 艦首と船尾の中心線上にある2基、それに右舷の前後2基。4基8門の連装メガ粒子砲が、敵の出てくる場所へ向く。

 それぞれの照準位置には、艦が通る幅に合わせて少しずつ間隔が取ってある。

 

「各砲塔、指向完了。給電、規定の待機値まで回復」

 

「回頭止め。次の発射まで、そのまま保持」

 

 今は撃ち続けていない。供給の表示が落ち着き、砲術部署から発射までの見込み時間が届いた。それでも、実際に光が出るまでには間がある。

 ガネバン中尉はその報告を受け、外壁の端へ目を戻した。

 

 来る。

 先ほどまで広がっていた焦りが、一つの方向へ寄ってくる。探すのをやめたのか、見失った場所へ飛び込むことにしたのか。理由を考えるより先に、声が出た。

 

「右です。もうすぐ出ます。3、2……」

 

 外壁の端に灰色の細い先端が覗き、観測員が敵艦首の捕捉を告げる。私は迫ってくる気配と、その小さな像を重ねて追った。

 

「1……」

 

「撃て!」

 

 先に響いたガネバン中尉の声で、火器管制の表示が変わる。

 敵の艦首が伸び、斜めに横切る船体の肩まで見えてきた。砲塔はまだ、私たちが消えた時の位置を向いている。

 

「今」

 

 窓の外が緑白く染まった。

 現れたばかりの船体へ、8本のビームが突き刺さる。艦首を抜けた光が反対側へ伸びる一方で、砲塔の付け根を削った別の光は中央部の奥へ消え、外板が内側からめくれ上がった。

 傾いた敵艦の、曲がりかけた艦首と、まだ前へ進もうとする船尾。その間で白い閃光が膨らんでいく。

 

 画面が暗く補正されても光は消えず、艦橋のあった部分が船体から離れ、回転しながら流れていく。折れた船尾に付いたままの推進器から、もう一度光が噴き出し、散った破片を照らした。

 

「敵先行艦、船体破断。撃沈!」

 

 報告を聞いたところで、私は息を吸い損ねた。

 胸の奥へ、熱いものが押し込まれる。驚きと恐怖が一度に来て、どちらを向いても逃げられない。画面の光は消えたはずなのに、閉じた瞼の裏がまだ明るい。

 ベルトを掴もうとした指が滑る。

 

「次だ。機関、最大戦速。ここを離れる!」

 

 すぐ前から聞こえたガネバン中尉の声に続き、床が震え、背中が座席へ押しつけられる。

 目を開けると、中尉はもう撃沈した艦を見ていなかった。別の観測画面へ顔を向け、艦首を上げる準備を命じている。

 

「残る1隻、外壁の切れ目から接近! こちらへ砲を向けています!」

 

 爆発の光が薄れる向こうに、もう一つの艦影が見える。最初の艦が通った隙間よりも左、張り出した構造材の外側から、こちらが一斉射を浴びせた場所へ艦首を向けていた。

 砲口が光る。01号はまだ、撃沈した艦へ右舷を向けた姿勢から抜け切っていない。

 

「上げ舵40! 加速、そのまま!」

 

 艦首が持ち上がるにつれ、窓の外の残骸が下へ流れていく。座席の横から押されるような力に耐える私の前で、赤いビームが艦底の下を抜けた。

 次の光も同じ方へ消える。だが、最後の1本だけが画面の中で途切れた。

 床が跳ねた。

 ベルトに肩を引かれた私の前で、誰かが短く声を上げる。息を詰めて耐えているうちに警報が鳴り、艦内図の船尾側が赤く変わった。

 

「右舷後方、被弾! 損傷箇所を確認中!」

 

「機関と操舵は」

 

「主推進器、出力維持。増設の3基も応答しています」

 

「操舵、異常ありません」

 

「離脱を続けろ。後部砲塔、敵艦を追え」

 

 顔を上げると、中尉は前を向いたまま、次に使う遮蔽物を見ている。私が足元へ目を落としていた間にも、艦はそこへ近づいていた。

 正面に横たわるコロニー外壁は、工廠に使ったものよりずっと大きい。折れながらも10kmほど続く面には、回収作業で通路を調べた時の印が残っている。

 その面に沿って進む01号の後ろで、追ってきた射撃が突き出した梁を砕く。後部の砲塔が撃ち返すと、間もなく別の張り出しが敵との間を遮った。

 

「右舷後方、外板の一部が剥離。機関区画への貫通はありません」

 

 報告を聞き、私はようやくベルトから手を離した。

 まだ、胸の奥に何かが残っている。息を深く吸えば、先ほど流れ込んできたものまで呼び戻しそうで、細く吐きながら後方の映像を開く。

 砕けた梁の端を避けて現れるサラミス級。失った僚艦を振り返る余裕もないのか、艦首側の砲塔はこちらの動きを追い続けている。

 

「距離9千。敵、追撃してきます」

 

 最初に捉えた時には点に近かった相手が、今は砲身の動きまで分かる。外壁の周りへ互いに回り込む間に、それだけ近づかれていた。

 向きを揃えた後部の連装砲3基から、緑色の光が伸びる。傾いた敵艦首の脇をそれが抜けると、入れ替わるように赤い射撃が飛んできた。

 

「次射、準備は」

 

「給電、まだ戻りません。あと少し……射撃可能!」

 

「撃て。下げ舵15、続いて取舵20」

 

 今度はさっきより待たされ、光が伸びる頃には、追跡枠の中で敵の船体がずれていた。1本が艦首の端をかすめ、ほかは船体の上下へ分かれて消える。

 砲術員が補正を入れる間にも、向こうの単装砲からは次の射撃が来る。敵の砲口とこちらの作動表示を交互に見ながら、私は次射を待った。遮蔽物の裏で砲を休ませていた時と、同じようには撃てない。

 

 船体が向きを変えた途端、座席の脚から硬い振動が上がり、背後のどこかで金属が軋んだ。

 振り返っても、厚い壁とハッチしか見えない。あの下に、私が撃ち抜いた船体と、新しく付けた艦橋の継ぎ目がある。

 

「後部取付部、負荷上昇。許容内ですが、今の噴射を続けると温度が上がります」

 

「次の遮蔽物で推力を落とす。右、噴射止め。回頭を収めろ」

 

 艦首が振れるのが収まり、前方の裂けた外壁が窓の上を通り過ぎる。

 試験で何度も設定を変えていた動きだ。私なら、まだ向きを変えようとして噴かしていたかもしれないが、操艦席の兵はもう噴射を切り、次に使う推進器の応答を確かめている。

 後ろから来たビームが、その裂け目の縁を溶かした。追ってくる灰色の艦影は、まだ離れない。

 

「追尾、外れました」

 

 敵の印が砲撃で赤くなった破片へ飛び、観測員が別のカメラへ切り替える。映像の隅を横切る艦首へ枠が戻った時、サラミス級は少し外壁から離れていた。

 こちらを追って曲がる代わりに、張り出した部分を外側から回ろうとしている。

 そのまま進めば、工廠へ戻る側の通路にも出られる。

 

「中尉、あの通路を抜けられると」

 

「分かっています。後部砲、艦尾を狙え。そちらへ向くなら撃ち込め」

 

 砲身を向けながら、01号が外壁の端から少し離れ、敵の後半部が見える位置を取る。

 緑の光が伸びるより先に、敵艦は曲がりかけた艦首をこちらへ振り直し、再び私たちの後ろへ付いた。

 

「戦隊長、母艦の状況は」

 

 受信したままだった文面を開くと、短い更新が時刻をずらして幾つか並んでいた。

 

「作業員は全員収容。外の接続を解除しています。まだ発進できません」

 

「了解。このまま奥へ引きます」

 

 敵1隻撃沈、残る1隻は本艦を追撃中。母艦へ状況を送り、被弾箇所を追記しかけたところで、艦がまた大きく揺れた。

 左側の窓の外が赤く染まり、何かが船体に沿って引き裂かれる。警報が先ほどとは別の間隔で鳴り始めた。

 

「左舷中腹に被弾! 第8隔壁、封鎖!」

 

 後方の映像では、なおも砲撃を続けるサラミス級の艦体上部へ、こちらのビームが1本入った。

 第1主砲塔が付け根から浮き、砲身を前へ向けたまま、台座の破片と一緒に艦尾側へ転がっていく。

 

「敵、上部砲塔に命中!」

 

「第8隔壁、そのまま閉鎖しておけ」

 

 中尉は内側の確認を待たなかった。人員の退避が先ほど報告されている区画だ。

 左舷の被弾を加えて送り直す間にも、後部砲塔の射撃音が床から伝わってくる。

 状況を受け取ったと母艦から返ってきたのは、短い一文。それでも、すぐには画面から目を離せなかった。

 

 サラミス級は撃ち続けてくるが、1基を失った分だけ、こちらを追う光の数は減っている。

 01号は外壁の張り出しを越えるたびに加速し、次の通路へ先に艦首を向ける。敵が同じ場所へ入る頃には、こちらの後部砲塔が既に待つ形になっていた。

 直線へ出れば、間隔は広がる。通常のサラミス級の約1.2倍。数字で聞いていた差が、今は敵に向きを変えさせる余裕になっている。

 しかし、離せば終わるわけではない。砲口が見えなくなるほど距離を取れば、相手は工廠へ向かえる。

 

「後部砲、射撃止め。給電を戻せ。次の切れ目を使う」

 

 ガネバン中尉が開いた全体図では、長く続く外壁の面が少し先で途切れている。その端を越えれば、下側へ回り込む空間がある。

 そこを示してから、中尉はこちらへ顔を向けた。

 

「戦隊長。向こうは、まだ来ますか」

 

 後方の映像から目を離し、追ってくる気配を探る。苛立ちの中に、ためらうような間はあっても、それは離れていかない。追いつこうとして、こちらの曲がった後を遅れて辿っている。

 時々入り込む、さっきの恐怖に引かれそうになりながらも、今動いている方へ意識を戻した。

 

「来ます。次の切れ目までは、このまま追ってくると思います。ただ、こちらが曲がるたび、追い直しています」

 

「ならば、曲がり切る前に横へ出る」

 

 操艦席へ外壁の端までの距離を確かめた中尉は、続いて砲術部署を呼び、今度は左舷側の準備を命じる。

 前の手すりは、立っていた時なら掴めたが、ここからは遠い。私は座席の肘掛けへ手を置き直した。

 

「主推進器、出力を落とせ。外壁の面を下に取る。終端を抜け次第、下げ舵」

 

 床の振動が弱まっても、窓の外では同じ速さで外壁が流れ続ける。

 後方の艦影は大きくなってきた。射撃を止めた01号へ、敵は加速しながら追いつこうとしている。縮まっていく間隔を観測員が読み上げる間、中尉は外壁の終端を見据えたままだ。

 最後の梁を通り過ぎ、正面の下側に星が覗くと、艦首がそちらへ沈み始める。外壁の端はしばらく横に残っていたが、噴射が強まるにつれて、ようやく上へ離れていった。

 サラミス級はまだ外壁に沿った進路を走り、私たちがいた高さへ、その灰色の艦首を突き出してくる。

 

「左舷を上へ。艦首を戻せ。左砲戦、目標は敵艦底!」

 

 01号の横転に伴い、窓の上にあった外壁が右へ回り、星の向きまで変わる。

 正面の映像だけでは相手の位置を見失い、追跡画面へ目を戻すと、サラミス級は私たちの斜め上、少し前へ出ていた。こちらへ向き直ろうとする船体の、灰色の艦底が広く見える。

 その方へ左舷を向け、01号の前後の砲塔が最後の照準を詰めていく。

 

「4基、指向可能。給電回復!」

 

 敵の艦首が下がり、こちらを探していた気配が急に鋭くなった。

 

「気づきました。撃ってきます」

 

「砲術、敵の進路を押さえろ。撃て!」

 

 作動表示が点いても、目を離せない。艦首の向きが変わるにつれ、狙っている艦底の面は狭くなり、下側の単装砲もこちらへ細い砲身を寄せてくる。

 まだか。

 肘掛けを握った指に力が入る。向こうの砲口が光るのと、窓の外が緑色になるのが重なった。

 

 赤いビームが01号の艦首の先を通り、その射撃を放った砲塔が緑の光の中へ消えた。

 4基8門の斉射が敵の艦底を前から後ろまで横切り、1本は船尾の外へ抜ける。中央へ集まった光は外板を破ってその向こうまで照らし、開いた穴から、白く光るガスが噴き出してくる。

 船体が傾く間にも別の穴が膨らみ、下を向こうとする艦首と、同じ向きへ進む船尾の間で、残った構造材が引きちぎられた。

 

「射撃止め! 破片から離れろ!」

 

 ガネバン中尉の号令が終わる前に、裂け目から光が溢れ、折れた艦首を呑み込んでいく。船尾に走る閃光を背に、砲塔らしい塊がこちらへ流れてきたが、01号の艦首はもう別の方を向いていた。

 私は流れていく破片を追った。どれを見ても、もうサラミス級の形には繋がらない。

 

「敵艦、船体破断を確認。大きな熱源は2つに分離しています」

 

 観測員が倍率を変えて確かめる間に、映像に残っていた艦尾でも噴射が途絶え、赤くなった外板だけが回転し始めた。

 

「2隻目、撃沈です」

 

 少し上ずった報告に、操艦席から大きく息を吐く音が重なる。誰かが何か言いかけ、途中で笑った。

 私も口を開くが、声が出ない。

 

 ――おのれジオン星人どもめ!!

 

 耳元で怒鳴られたようだった。

 振り向いても、誰もいない。観測員は画面を見たままだ。別の席から損傷区画への呼びかけが続いている。

 

 ――俺たちのルウムを滅茶苦茶にしやがって!

 ――なんでこんな目に……。

 

 言葉の後から押し寄せる恐ろしさに、息が詰まる。逃げたいのに身体が動かず、何に触れているのかも分からないまま、暗いところへ押し込められていく。

 座席のベルトを引き、指に触れる固い布へ力を掛けて、吐く息を数えようとした。けれど、喉の奥が震えて続かない。

 今沈んだ艦からなのか、その前からここにあったものなのか。確かめようと意識を向ければ、もっと奥まで引かれそうになる。

 

「周辺に別の艦影はありません。引き続き観測します」

 

「各部署、被害を報告。負傷者の有無も確かめろ。戦隊長、母艦へ連絡をお願いします」

 

 こちらを向いたガネバン中尉へ頷き、通信画面を開く。宛先を選ぶ指が一つずれ、選び直した。

 

「……こちら01号。接近していたサラミス級2隻を撃沈しました」

 

 返事を待ちながら口元を押さえる。飲み込んだ唾が喉へ引っかかり、窓の外で小さな閃光が走るたび、そちらを見てしまいそうになる。

 母艦からの受信表示が点き、途切れがちな回線から、聞き慣れた艦長の声が届いた。

 

『確認した。こちらへの攻撃はない。そちらは、戻れるか』

 

「今、損傷を確認しています」

 

 ガネバン中尉へ目を向けると、主機関と増設推進器が使えるとの報告を受けている。

 右舷後方の損傷は外板に留まり、左舷中腹では配管の一部を閉鎖。第8隔壁の内側に圧力の低下はない。最後に艦内の人数が揃い、戦死者も負傷者も出ていないとの報告が来た。

 

「回航に支障はありません。外板の修理は必要ですが、自力で戻れます」

 

 中尉の返事を伝えると、プロホノウ艦長は了解と答え、こちらを迎えるために作業艇の通り道を空けるという。

 その声を聞いたところで、後ろの席から歓声が上がった。

 

「帰れるぞ!」

 

 近くの兵が振り返って隣の者の肩を叩き、返ってきた手を握って強く振る。砲術部署からの通信にも笑い声が混じる中、ガネバン中尉はしばらく待ってから、周辺監視を続けるよう言い添えた。

 観測員が笑ったまま画面へ向き直るのを見て、私も肩から力を抜く。両手はまだベルトを握りしめていて、離すと今度は指先が小さく震え始める。

 それを膝へ押し当てているうちに、ようやく息が胸まで入った。

 

「戦隊長」

 

 ガネバン中尉が、艦長席をこちらへ向けていた。

 

「最初の待ち伏せ、助かりました。あれだけ早く知らせてもらえれば、砲を向けて待つ時間が取れる」

 

「……間に合って、よかったです」

 

 頬を緩めようとしても、ちゃんと笑えているか、自分では分からない。

 中尉の肩越しに見える操艦席では、兵士が帰りの針路を入力し、途中の破片の位置を観測員へ尋ねている。戦闘前と同じ席から、同じ声が返ってきた。

 前へ出てからずっと、私の目の前にはこの背中があった。彼が次の指示を出すたびに、私は座席へ押しつけられ、外壁から離れ、敵の射撃を抜けてきた。自分では操縦桿を握れないまま、ここまで来られたのだ。

 

「ありがとうございました。皆にも、伝えてください。母艦も本艦も、誰も失わずに済みました」

 

「承知しました」

 

 座ったまま姿勢を正したガネバン中尉の敬礼に、私も手を上げて返した。さっきよりは、指が言うことを聞く。

 中尉は前へ向き直り、入力された針路を確かめている。

 

「工廠へ戻します。来た時の通路は破片が増えていますので、外側を回りますが、よろしいですか」

 

「はい。お願いします」

 

 返事をして母艦の位置へ目を移すと、そこまでの線が残骸の多いところを避けて延びている。通る順序も、艦の向きを変える場所も、もう中尉の画面と同じだ。

 主機関の振動が戻り、窓の向こうで、砲撃に焼かれた外壁が遠ざかり始めた。

 

 声はまだ、時々聞こえる。

 そのたびに私は、前の席で交わされる言葉を聞くようにしていた。右舷側、障害物なし。次の目印まで、そのまま。操艦席から復唱が返り、ガネバン中尉が短く応じる。

 工廠から、進入する通路の灯火を点けたとの連絡が来た。

 窓の外を探すと、コロニー外壁の切れ目に小さな光が順に並んでいる。その奥には、灯りの戻ったマゼラン級と、私たちを待つヨーツンヘイムの姿がある。

 01号は速度を落とし、案内の作業艇に続いて、母艦のそばへ寄っていった。

 




ご感想で皆さんが一様に言わんこっちゃない!(意訳)だったのは面白かったです笑
主人公をMSに乗せると無双してしまうので、どうしても艦対艦で戦闘させたかったという理由で実はMSを一機も回さなかったという理由があったりします。(ガンダム的後付け設定)
次回報告書回です。

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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