技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
格納庫に行くと、ナカノミヤ大尉が怒っていた。
「貴様は〜〜〜!!だからジオニックに馬鹿にされるというのだ〜〜〜!!この〜〜!!」
とツィマットの主任技師の首を絞めていました。
絞められた主任技師は「ぐええぇーー!悪霊退散悪霊退散!!」と十字を切っていた。割と絞められているらしく、顔がドンドンピンクになっていった。
そこにワシヤ中尉が近付いて行って二人に声を掛けた。
「お!ナカノミヤ大尉と主任技師さん!奇遇ですね!」
私はもう限界だと思った。
「おお!そういう貴方は※※※※!(聞き取れず。だが、ワシヤ中尉で間違いない)ではないですか!敬礼!」
「敬礼!出た!敬礼でた!得意技!敬礼出た!敬礼!これ!敬礼出たよ~~!」
私は限界だと思った。
宇宙世紀0079年3月19日
「……これは一体どういう事ですか」
私の静かな、しかし明確な怒りを孕んだ声が、仮設のMSドックとして運用される事になったHLVの薄暗いハンガー内に響き渡った。
昨日の戦闘が終了した後、私とYMS-08Aは最悪の時間を過ごした。
推進剤切れによる自由落下からの不時着という無茶な着地によって、機体の両脚の膝関節は落下の衝撃で完全にひしゃげて変形し、歩行不能な状態に陥っていた。
泥濘の中で突っ立ったまま動けないその巨大な鉄の塊は、結局、戦闘を終えた第四地上機動師団第四大隊のザク四機によって泥濘から、まるで大きなカブもかくやというように引っこ抜かれ、両腕と両脚をそれぞれ抱え上げられた状態で平原を運ばれるという、筆舌に尽くしがたい恥辱と無様な姿を晒したのだ。
見通しの良い平原とはいえ、降雨によって泥沼と化した足場の中、五十トンを超える機体を四機がかりで抱えて歩くザクの歩みは遅く、YMS-08Aを引っこ抜くのに手間取ったこともあり、この降下地点のHLVまで戻ってくるのに丸々10時間以上の過酷な時間が費やされた。コックピットの中で身動きも取れず、味方のザクの駆動音と泥を跳ね上げる音を聞き続けるだけの時間は、パイロットとしての私の自尊心をひどく削り取っていった。
ハンガー内のMSラックに無理矢理押し込まれる形で駐機させられたYMS-08Aの姿は、まさに悲惨の一言に尽きた。
脹脛の太い脚部装甲は膝関節と共に無残に歪み、膝下に増設された補助スラスター群のノズルには、平原の泥土がみっちりと詰まって悪臭を放っている。装甲の至る所が爆風の煤や泥で薄汚れ、塗装は無惨に剥げ落ちていた。
上空の強襲部隊を退け、初陣の戦闘には見事に勝利したはずなのに、このハンガーに押し込まれた機体だけを見れば、まるで一方的に撃破された敗残兵そのものであった。
「……これと言われましても、大尉の無茶な操縦による過負荷が原因の可能性も……」
「あそこまで異常に燃費が悪いなどとは、事前の説明で一言も聞いていないし、分厚い機体マニュアルのどこを探しても書いていませんでしたよ。私は空中で推進剤を失い、あわや墜落して死ぬかと思いました。それが私の操縦のせいだとでも言うのですか?」
あたかも私が悪いかのような口振りで視線を逸らし、口籠もりながら言い訳を並べ立てようとするツィマット社の主任技師に対し、私の内側で冷たい怒りが急速に募っていく。
ツィマット社という企業は、元々宇宙貨客船や高速貨物船のエンジンや推進器の製造をしていた企業だった。ツィマットの高効率な大型推進器に目を付けたムンゾ共和国政府*1によって、アルカナ級という戦時には簡単な改装でムサイ級に早変わりする貨客船の大規模製造に携わることになり、戦艦や木星間往還船などの大馬力の推進器や特殊な駆動系など特定の分野において突き抜けた技術力を持つようになったのだ。故に、推進器関連では一家言も二家言もあるような速度狂を始めとする推力至上主義者や大馬力原理主義者といった、倫理や常識というネジやタガを冥王星の果てまで吹っ飛ばした狂気的とも言える開発者が多く在籍している。社風そのものが技術の探求を優先する気質であるため、時にパイロットの安全性や運用時の兵站といった側面を二の次にしてしまう、或いは忘れてしまうような社会性に問題のある者が多いのだ。
それにしても、今回のYMS-08Aの開発チームの無責任さはあまりにも度が過ぎている。ヨーツンヘイムの艦内でブリーフィングを受けていた時は、立派なスーツを着て自信満々に振る舞っていたため、彼らも連中の中でも少しはまともな部類なのかと気を抜いていたが、やはりそれは私の完全な間違いだったようだ。
世間では若者の間で、頭ツィマットなどと口さがなく宣う者達がいることは知っていたが、以前なら少なくとも眉を顰めるくらいはしていたものの、今では全く同意してしまうくらいには頭に来ている。
「これは…本当に酷いですね。機体からログデータを抽出しましたが、カタログスペック通り、スラスターの総推力は瞬間的に51,000kgを発揮してはいます。しかし、推進剤の燃焼制御アルゴリズムが根本的に破綻している。一気に大推力を引き出そうとするあまり、推進剤の燃焼量が常軌を逸して激しいせいで、実用的な燃費効率がロールアウトされたばかりのザクJ型の半分以下にまで落ち込んでいます」
タブレット端末に表示されるスラスターのログデータを解析しながら、オリヴァー・マイ技術中尉が呆れたような声でそう報告した。
「つまり、実用面ではどこを見ても最新型のザク以下ってことね。ナカノミヤ大尉は危うく自由落下で死に掛けるし、こんな欠陥品では、次の地上主力MSの座も、ジオニックのYMS-07で決まりかしら」
不機嫌そうに腕を組みながら半壊したYMS-08Aを見上げていたモニク・キャディラック特務大尉が、冷ややかな声でツィマットの社員たちへ向けて毒を吐いた。
彼女の目つきはひどく険しい。どうやら、私が理不尽な機体の欠陥によって落下死しかけたことに対して、彼女なりに相当なご立腹であるらしい。
宇宙に戻った際に、自分たち第603技術試験隊を護衛する戦力が居なくなることを危惧しているのかもしれないが…
そもそも、この地球での次期主力機コンペティションにおいて、ジオニック社側は当初、我々第603技術試験隊がYMS-07Aの評価試験や開発協力に介入してくることに対し、企業の機密保持を盾に猛烈に抵抗していた。
特に、あのアリシア・エメリッヒ技官の反発は凄まじかった。
だが、毒を以て毒を制すると言っては少し語弊があるものの、ヒステリックに口煩く我々の介入を拒絶するエメリッヒ技官に対し、女性のヒステリーに辟易してお手上げ状態だったマイ技術中尉は、最終兵器としてモニク大尉をぶつけたのだ。
モニク大尉は、ズムシティの総帥府という絶大な威光と、軍司令部からの特命という錦の御旗を振りかざし、エメリッヒ技官の主張を物理的かつ論理的に完全に叩き潰した。
それはもう、鼓膜が破れて耳が潰れるのではないかと思うほどの凄まじい口撃の応酬となった。最終的にモニク大尉は、戦時下の国家命運を懸けた軍の正式な命令に逆らうというのなら、今すぐジオニック社を反逆罪で告発し、即決軍事裁判を以て銃殺刑でも良いのだという極端な恫喝まで用いて、完全に相手を沈黙させたのである。
最後に完全勝利を収めて勝ち誇ったような冷笑を浮かべたモニク大尉を、視線だけで八つ裂きにして殺せそうなほど憎悪に満ちた目で睨みつけていたエメリッヒ技官の屈辱に塗れた顔は、それはそれは見ものだったとだけ言っておく。
そう言う血生臭い政治的背景もあって、彼ら技術試験隊は技術試験科のワシヤ中尉がテストパイロットとして搭乗しているYMS-07Aの運用データにも、アクセスできる権利を勝ち取っていたのだ。
機体構造やコアな機密情報までは流石に教えてくれないものの、実働データをもとに両機の性能をある程度比較検討してくれるため、私としては非常に有り難い環境であった。
「そ、それは困りますよ!!YMS-07に敗北するなど、我が社の威信に関わります!」
モニク大尉の容赦のない評価を聞き、ツィマットの社員が顔を真っ赤にして反論した。
「困ります、だと?フンッ、パイロットを殺しかけるような酷い欠陥品を作っておいて、随分な言い草だな。マイ中尉、技術将校としての客観的視点から見て、このYMS-08Aの処分はどうするのが妥当だと思うか?」
私は怒りのあまり、勢い余ってツィマット社員の胸倉を掴み上げてしまいそうになるも、モニク大尉が私を制するように前に出て、射殺すような鋭い視線でツィマット社員を睨め付けながらそう言った事で、なんとか思い止まることができた。
「そうですね……。正直なところを申し上げますと、現状この有り様では、これを新型機として導入するメリットが皆無です。これなら、最新型のザクⅡJ型をそのまま運用し続けた方が余程有益ですし、YMS-07Aの方が完成度が上なので、向こうを採用するべきですね。よって、YMS-08Aは直ちに開発計画を凍結するのが妥当かと考えます。ソフトウェアのバランサーからハードウェアの装甲干渉まで、修正箇所が多過ぎます」
マイ中尉は、手元のタブレット端末から一切顔を上げず、淡々とした事務的な口調でそう言い切った。
技術将校からの実質的な死刑宣告とも言えるその言葉に、ツィマット社員は顔を赤くしたり青ざめさせたりしながら、マイ中尉の足元に縋り付くようにして詰め寄った。
「しゅ、修正ならいくらでもします!不眠不休で働きます!ですから、どうか開発凍結の進言だけは御勘弁を!それだけは……!」
「いくらでも修正する時間があるなら、何故、最初から地球環境に合わせてブラッシュアップしたものを持って来ないのかしら。無能を晒している自覚はある?」
モニク大尉の至極尤もな意見が、容赦なく突き刺さる。
全くその通りだ。こんな燃費最悪で歩くこともままならないポンコツを地球に降ろしておいて、自信満々にライバルであるジオニックのYMS-07Aと正面から張り合おうとしていたなんて、彼らの設計思想の甘さと正気を疑わざるを得ない。
宇宙ではヅダで共に戦った味方だと思っていた技術者たちに、背後から鈍刃のナイフで一突きされたような、ひどく裏切られた気分だった。
「しかし、ざっとデータを見ただけでも修正箇所が50箇所以上になりそうです。それに、下半身の関節機構は落下の衝撃でほとんど大破しておりますし、ここはほぼ最前線と言っても良い降下地点です。本格的な仮設基地すら設置されていないこの野戦の環境下では、我々試験隊の整備機材を以てしても、幾らなんでも修理には限界があります」
マイ中尉が、現実的な物理的限界を口にする。
だが、私は沈黙ののち、静かに口を開いた。
「では、せめて足回りだけでも最優先で修理して、歩行の邪魔になっている内側の余計なスラスターや装甲を削ぎ落とすだけなら、ここの設備でも出来ませんか?」
私がそう提案すると、モニク大尉とマイ中尉が驚いたように私を見た。
ここから本隊と合流するために移動するにせよ、我々は敵地を占領しながら進むか、あるいは連邦軍の包囲網の中を突破するかの二択を迫られることになる。
ならば、使えるか分からない半壊の機体であっても、一機でも多く動けるMSの戦力はあった方がいい。あの高出力のジェネレーターさえ生きていれば、足回りの無駄を省いてまともに歩けるように直してもらうだけで、そこら辺のザクよりは活躍してみせる自信が私にはあった。
「修理ですね!可能です可能です!脚部の内側に張り出している補助スラスターもブロック構造になっていますので、取り外しやバイパス回路の遮断は簡単です!すぐやります!」
私の言葉に生き残る活路を見出したのか、ツィマットの主任技師が薄気味悪い愛想笑いを浮かべながら、揉み手をして擦り寄ってきた。
勘違いしないでほしい。私は決して彼らを許したわけではない。
だが、ここで私が感情に任せて何もせず、YMS-08Aが不採用となって開発凍結され、次期主力機の利権が全てジオニックのYMS-07に統合されてしまった時のことを考えると、事態は複雑だった。
我がナカノミヤ家は、前回の次期主力機コンペにおいて、ツィマット社への政治的支援を行っている。惜敗ならいざ知らず、再びここで彼ら惨敗を喫すれば、実家への影響や公国内での発言力にも少なからず影を落とすだろう。
喩え私が現場でどれほど頭に来ようが、個人的な恨み辛みなど、家門の利益や軍益の前では些細な問題に過ぎず、二の次三の次にすべきなのだ。それが政治というものである。
「とにかく、最優先で足回りを修理して下さい。それから、あの干渉して歩行の邪魔になっている不格好な装甲を全て取り払い、なるべくスマートな外観にしてもらわねばなりませんよ」
「ええ、ええ!分かっておりますとも!必ずや大尉の御期待に添えるよう、軽量化と最適化を施してみせます!」
彼らが本当に今の要求の意味を分かっているのか極めて不安であるが、今は彼らの技術力に任せるしかない。
「マイ中尉。お手数とは思いますが、彼らが無謀な改造を施さないか監視しつつ、修復作業の全体の指揮をお願い出来ますか?」
ツィマットの狂気的な技術者たちに音頭を完全に任せると、またどんな非常識な出力設定を施されるか分かったものではないため、私はマイ中尉に深く頭を下げてお願いした。
「ジオニック側のYMS-07Aの評価も見なければならないので、最後までこちらの修理に付きっきりで携われるか分かりませんが……試験隊の技術官として、最大限善処します」
「マイ中尉がジオニックの相手をして不在の時は、私が監視の目を光らせておこう。それで良いかしら?」
「はい、キャディラック特務大尉。よろしくお願いします」
こうして、泥まみれのYMS-08Aの再生に向けた、不眠不休の突貫作業が開始されたのだった。
宇宙世紀0079年3月21日
それから丸一日を掛け、整備兵たちの徹夜の作業により、ついに脚部の修理と改修が完了した。
改修とは言っても、大掛かりなフレームの再設計を行ったわけではない。歩行時に物理的に干渉していた、足の内側に増設されていた補助スラスターユニットを装甲ごと撤去し、外側に残されたメインスラスターの噴射角度と推力のベクトルを、マイ中尉が再計算して配置しなおしただけだ。
だが、その引き算の改修の効果は絶大だった。
内側の無駄な膨らみが無くなったことで、膝下の装甲は随分とスッキリとしたスマートな外観になり、機体の重心バランスが劇的に向上したのだ。
早速外の平原で行ったテスト走行では、なまじ定格1,200kwという出力とそれに伴う馬力があるだけに、邪魔な物が消え去り枷が外れたYMS-08Aは、大地を滑るように駆け抜け、ロールアウトしたばかりの最新型であるザクⅡJ型よりも高速で俊敏な機動性を見せつけるという素晴らしい結果を叩き出した。
その代償として、脚部の推進剤タンク容量は内側のユニットを撤去した分だけ減少し、補助スラスターの数も減っている事から、全体の総推力は51,000kgから49,000kgほどに低下している。
それでも、スラスターの瞬発力を利用した短距離のジャンプ自体は十分に可能であり、前回のように高度を出して長時間の滞空飛行をしようとしなければ、燃費も現実的な範囲に収まり、地上での戦闘には何ら支障はないレベルに仕上がっていた。
「最低限、実戦で運用できる形にはなりましたね。ですが、これ以上の根本的なジェネレーターの改修や装甲の軽量化となると、ここの野戦設備では難しいです」
目を充血させ、作業着をオイルで汚しながら、付きっきりで修理と改修の指揮をとってくれたマイ中尉が、私の隣に立って生まれ変わった機体を同じように見上げながら息を吐いた。
もしこの場に、有能で常識的*2な第603技術試験隊の面々が居なかったら、実家は大変な事になるかもしれないが、私は早々にツィマット本社に圧力を掛けてYMS-08Aという機体自体を闇に葬り、開発を凍結していただろう。
あんなお粗末な欠陥機を自信満々にコンペに繰り出して、地上侵攻軍の前で醜態をさらし、再びツィマット社が恥辱に塗れて会社の株を大暴落させるよりは、最初から無かったことにした方がマシだからだ。それに、私だって命は惜しい。
「まともに動いて、自分の足で歩けるのであれば、あとはパイロットの腕でなんとかします。……いえ、必ずなんとかしてみせます」
私は、マイ中尉の苦労に報いるためにも、力強くそう断言した。
そういう事で、足回りの無駄を削ぎ落としスッキリとさせたこのYMS-08Aを基本形態とし、ようやく本来の目的である機体の性能評価試験が再開されることとなった。
なお、第四地上機動師団の第四大隊の本隊は、付近の別地点に降下した他の大隊と合流して大規模な進軍ルートを形成し、東アジアにおける連邦軍の最重要拠点であるペキンを制圧するべく、既に先陣を切って出発してしまっていた。
我々が陣取るこの降下地点の仮設基地は、ペキンが完全に陥落するまでの間、後方からの物資を中継する重要な補給拠点として機能することになり、我々試験隊とテストパイロットは、この基地の防衛護衛を兼ねながら、平原での試験を継続することとなっていた。
宇宙世紀0079年3月22日
改修されたYMS-08Aの単機での機動試験や射撃テストがある程度順調に終わり、残された試験項目は、いよいよ対MS戦闘のみとなった。
要するに、同軍機同士による模擬戦である。
これは、そう遠くないうちに必ずや戦場に現れるであろう、連邦軍のMSとの戦闘を強く意識したものであった。
試験隊のデータを通じて聞いた話では、ジオニック社が持ち込んだYMS-07Aは、重力下での鈍重な砲撃戦ではなく、最初から近接格闘と白兵戦闘を重視した設計思想で開発されているらしい。
対して、こちらのツィマット製YMS-08Aはどうだろうか。
ツィマット側の当初の想定としては、有り余る推力でのジャンプ飛行によって空を舞い、三次元的な空中戦闘を行い、圧倒的な機動力でもって地上の敵MSを翻弄し叩き潰すつもりだったのかもしれない。だが、その理想は重力と燃費という現実の前に脆くも崩れ去り、結果は私を落下死させかけた酷いものだったわけだ。
要するに、機体コンセプトが汎用性と高機動性の間でイマイチハッキリしていないのが、この機体の最大の欠点であり原因なのである。
だが、足回りの無駄が削ぎ落とされ、大馬力による地上での踏み込み速度が改修された今なら、泥臭い白兵戦になったとしても、少なくともザクよりは遥かに優位に戦えるはずだ。
上層部や企業間でどのような生臭い話し合いが行われたのかは不明だが、予定通り、私はワシヤ中尉の駆るYMS-07Aと本格的な模擬戦を行うこととなった。
演習場とは名ばかりの、ただ基地から少し離れた外の何もない平原のど真ん中に、対戦相手であるYMS-07Aが静かに駐機されていた。
私はその姿を、08Aの横に立ちながら眺めていた。
機体は、砂塵の舞う荒野でも目立つような、警戒色の黄色と黒に塗装されていた。
ザクと比べると口元のダクトが突き出し、やや鋭い印象を与える頭部には、地上での索敵範囲と360度の視界を確保するためか、頭部をぐるりと一周するようにモノアイの稼働レールが設けられている。そして頭頂部には、指揮官機であることを示すようなブレードアンテナも装備されているようだ。
さらに、私の08Aと同じように、防御用の盾は肩ではなく左腕の前腕部にマウントされているが、こちらは鋭角的な菱形のような特殊な形をしており、打突武器としても使えそうな威圧感がある。
極め付けは、その盾を装備している左側のマニピュレーターだ。
通常の五本指ではなく、何やら太い三本の筒のようなものが束ねられており、それぞれの指の先端には銃身のように黒い穴がポッカリと空いている。とても武器や物を掴めるようには見えない、異形の腕であった。
「ナカノミヤ大尉!本日はお手柔らかに頼みますよ!あんまり無茶苦茶やられると、自分死んじゃうんで!!アハハ……」
ノーマルスーツを着たワシヤ中尉が、07Aの巨大な足元に立ち、こちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。彼の明るい声は、ピリピリとした企業間の緊張感を少しだけ和らげてくれる。
しかし、そのすぐそばには、タイトな制服を着こなしたエメリッヒ技官が腕を組み、不快な嘲笑を浮かべながら、こちらに向かって歩み寄ってきていた。
「聞きましたよ、大尉殿。なんでも、そのツィマットの自称高機動機が、空から推進剤切れで無様な墜落事故を起こして、汚泥に突っ込んだとか……それも、よりによって戦闘中に」
まるで拡声器でも使ったかのように、エメリッヒ技官の嘲笑を含んだ声が平原に響き渡る。
それを背後で聞いたツィマットの社員達の顔色が、一瞬にして青くなったり赤くなったりして、怒りで癲癇でも起こしたのかと錯覚するほど小刻みに震え出している者もいる。
マイ中尉が、その間に挟まれてひどく疲れた顔で肩をすくめていた。
「大尉、命が有って何よりでしたねぇ。その08Aも、いつかの欠陥機のように、模擬戦の最中にバラバラに分解するかもしれませんから、精々お気をつけて」
エメリッヒ技官の口から飛び出した、かつてのヅダの悲劇を意図的に抉るようなその言葉に、その場の空気が一瞬にして凍りついた。
「……そんな下らないことよりも、早く機体を動かして、模擬戦のデータで決着でも付けたら如何かしら。企業の能書きを垂れるのは、それからでも遅くはないのでは?」
いちいち人のトラウマや癪に障る言い方をするエメリッヒ技官に対し、傍で聞いていて限界を迎えたらしいモニク大尉が、イライラした様子で腕を組みながら前に進み出た。彼女は顎で平原に立つ二機のMSを指し示し、鋭い声で言い放つ。
「良いでしょう。まぁ、やる前から結果は見なくても分かりますが。所詮はエンジン屋に過ぎないツィマットが作ったMSが、我々ジオニックのMSに勝てるとは思いませんがね」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らしながら、エメリッヒ技官が踵を返し、YMS-07Aの方に向かって歩いて行った。
「ちょ、ちょっと!エースパイロットのナカノミヤ大尉に挑発してどうすんの!?ねえ、ちょっと!戦うのオレなんすよ!?」
向こう側で、ワシヤ中尉が顔面を蒼白にしながらエメリッヒ技官に対して絶叫した。
対してこちら側の侮辱され尽くしたツィマット側の技術者たちは、今にも脳の血管が切れそうなほど顔を真っ赤にして憤怒している。
「大尉!どうか、あのジオニックの07Aを完膚なきまでに叩き潰して下さい!お願いしますよ!!」
ツィマットの主任技師が、涙目で拳を握り締めながら私に向かって絶叫した。
「……ええ、分かっていますよ。任せて下さい」
企業間の泥沼の代理戦争。こちら側も大概であったが、私は乗り込んだコックピットの中で小さく息を吐き、静かに反応炉に火を入れメインカメラの電源を入れた。
ワシヤ中尉には申し訳ないが、本気で07Aを叩き潰させてもらうしかなくなった。
泥臭い地球の平原で、本当にどうしようもなくくだらない企業と企業の意地のぶつかり合いが、今まさに始まろうとしていた。
頭ツィマット…流行らせたい言葉ですね。
ご高覧ありがとうございます。
前書きは、昨日頂いたご感想のお返事を書きながら思いつきました笑
茶番です。
とりあえず、野戦改修で最低限使える(直喩)機体にはすることができました。
大体、僕の考えたサイツヨの機体にするだー!と、てんこ盛りにするから駄目になるのであって、無駄なものを省けば概ね使えるものになりました。という回ですね…1ヶ月近くお待たせしてこのクオリティで大丈夫かしら…
ちなみに、主人公は既にこのコンペティションには見切りを付け始めていますが、それはそれとして、キチンとヤレるだけヤルつもりではあります。
そう言えば、気付いたら皆さんから頂いた評価が48件になっていました!
ありがとうございます!!大変嬉しいです(涙)
50件まで行ったら評価バーが全部埋まるらしいですね…
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