技術試験隊斯ク戦ヘリ   作:ザクスキー2世

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(あったかもしれない)オリヴァー・マイの手記

格納庫に行くと、ナカノミヤ大尉が怒っていた。

「貴様は〜〜〜!!だからジオニックに馬鹿にされるというのだ〜〜〜!!この〜〜!!」

とツィマットの主任技師の首を絞めていました。
絞められた主任技師は「ぐええぇーー!悪霊退散悪霊退散!!」と十字を切っていた。割と絞められているらしく、顔がドンドンピンクになっていった。

そこにワシヤ中尉が近付いて行って二人に声を掛けた。

「お!ナカノミヤ大尉と主任技師さん!奇遇ですね!」

私はもう限界だと思った。

「おお!そういう貴方は※※※※!(聞き取れず。だが、ワシヤ中尉で間違いない)ではないですか!敬礼!」
「敬礼!出た!敬礼でた!得意技!敬礼出た!敬礼!これ!敬礼出たよ~~!」

私は限界だと思った。




第15話

 

 

 宇宙世紀0079年3月19日

 

 

「……これは一体どういう事ですか」

 

 私は08Aの膝を指した。泥を落とした関節は曲がったままで、外された装甲を戻す場所さえ分からない。脚の下では、整備兵がノズルに詰まった土を掻き出している。

 主任技師はそちらを見た後、手元の端末へ目を落とした。

 

 昨日の戦闘が終わってから、ここへ戻るまでに10時間以上も掛かっている。

 最初は泥から脚を抜けば動けると思っていた。だが、第4地上機動師団第4大隊のザクが両側から支えても、08Aの膝は伸びない。さらに引き上げられ、泥の下にあった部分が見えたところで、回収を指揮する兵士が作業を止めた。

 

『膝が曲がっています。大尉、脚は動かさないでください』

 

 それまで泥に埋まっていたせいで分からなかったが、着地の衝撃で関節そのものが変形していたのだ。

 自分では歩けない。私がその報告を送る間に、ザクは4機へ増えている。こちらの腕と脚の付け根に近い場所をそれぞれが受け持ち、何度も位置を直して、ようやく泥から抜いてくれた。

 

 大きなカブでも引き抜くような騒ぎの後で、今度は横倒しに抱えられ、4機のザクに運ばれることになってしまった。

 頭部のカメラを動かすと、自分を抱えたザクの胸がすぐそばにある。向きを戻せば、今度は空しか見えない。

 

 運搬が始まってからも、そう簡単には進めなかった。機体を抱えたザクが足を取られるたびに、全員が止まる。持つ位置を直し、足場を確かめて、また少し進む。

 私を乗せたまま落とすなよ、と通信では何度も念を押している。聞こえていると返したかったが、言ったところで歩けるようにはならない。

 

 揺れるたび、首の付け根が痛んだ。

 座席に身体を固定し直しても、向きが変われば、今度は肩へベルトが食い込む。頭を動かさずに済む位置を探すうち、どちらを向いているのかまで分からなくなる。

 

 安全に機外へ出られる場所もなかった。私がハッチから顔を出そうとして、支えているザクのどれかが沈めば、それこそ今度は生身で放り出される。

 動かされるまま待つしかない。外の通信では、まだ半分も戻っていないという声がした。出撃した時には、走りづらい機体でも自分の脚で進めた距離である。

 

 途中から空は暗くなり、降下地点の方にだけ灯りが見えるようになった。それでも、灯りはなかなか近づかない。

 ようやくHLVへ着く頃には夜が明けかけ、回収に付き添っていた兵士から、時間が掛かって申し訳ないとまで言われた。謝るのはこちらの方だ。

 礼を返した後は、ラックへ収められるのを黙って待った。

 

 今朝、診察を済ませてハンガーへ戻ると、泥を落とす作業はまだ続いていた。

 HLVの側面ハッチは開いたままで、外には照明と作業用の機材が並んでいる。仮設のMSドックになった貨物区画は、濡れた土と油の臭いが混じっていた。

 

 08Aの脚部装甲は、膝の周りから形が変わっている。ノズルの縁には草の根が引っかかり、落とした泥の中へ、剥げた塗装の小片が混じる。

 空から来た敵を追い払った機体だと、これを見て分かる者がいるだろうか。運んでくれたザクの方は、もう洗浄を終えて別の仕事へ出ている。

 

「……これと言われましても、大尉の無茶な操縦による過負荷が原因の可能性も……」

 

 主任技師が顔を上げた。その目が、私から脚部の損傷へ動く。

 

「あそこまで異常に燃費が悪いなどとは、事前の説明で一言も聞いていないし、分厚い機体マニュアルのどこを探しても書いていませんでしたよ。私は空中で推進剤を失い、あわや墜落して死ぬかと思いました。それが私の操縦のせいだとでも言うのですか?」

 

 声を張ったつもりはなかったが、近くで工具を運んでいた整備兵がこちらを見た。

 主任技師は端末を持ち替える。何か言いかけた口が閉じ、その間に、ノズルから土の塊が落ちる音がした。

 

 ツィマットは、もともと宇宙貨客船や高速貨物船のエンジン、推進器を造っていた会社だ。その大型推進器に目を付けたムンゾ共和国政府*1の下で、アルカナ級貨客船の大規模な製造にも携わっている。

 戦時には簡単な改装でムサイ級となる、あの船である。戦艦や木星間往還船の大馬力の機関にしても、ツィマットの名前を見かけることは多い。

 

 だから、推進器のことなら信用できると思っていた。

 ヅダで世話になった時にも、少々話の通じにくいところはあったが、欲しい推力は出してくれた。ヨーツンヘイムでの説明を聞いた時も、今度は地上でそれを使えるのだと期待したのだ。

 だが、飛ぶところまでしか考えていなかったのなら、こちらはたまらない。私は試験の記録を残すために乗るのであって、残骸を拾って調べてもらうつもりはないのだから。

 

 頭ツィマット。

 若者たちが口にするその呼び方を、以前なら眉を顰めて聞いていた。今は、何の文句もない。

 

「大尉、記録を見ていただけますか」

 

 オリヴァー・マイ技術中尉が、隣の作業台から端末を差し出した。私が受け取る前に、主任技師も画面を覗こうとする。

 中尉は同じ記録をそちらへ送り、噴射を始めた時刻を指した。

 

「総推力は瞬間的に51,000kgに達しています。そこは説明どおりです。ただ、その後の消費が大きすぎます」

 

 画面では、私が跳び上がったところから主系統の残量が急に減っている。脚部の噴射を絞った後も、背部へ送る推進剤は勢いよく減り続け、空中で向きを変えている間に底へ着いていた。

 最後の短い操作は、私がペダルを踏み直したところだ。そこだけは、説明されなくても分かる。

 

「必要な推力に対して、推進剤の供給が過大になる設定です。噴射の指示と消費を合わせると、短く使っている箇所でも効率が悪い。最大推力で飛び上がった時だけの問題ではありません」

 

「それで、30秒も使えなかったと」

 

「少なくとも、昨日の操作で背部が止まった理由は説明できます。J型の試験記録と同程度の推力を出している区間で比べても、推進剤あたりの効率は半分以下です」

 

 主任技師が、比較に使った条件を尋ねた。マイ中尉は記録の欄を開き、該当する数値を見せる。

 そこを読んだ後、主任技師から反論は出なかった。

 

「脚部には残っていたんですよね」

 

「はい。別系統だった分を、着地まで残せています。最後に使い切ったのはこちらです」

 

 中尉の指した線が、遅れて下まで落ちる。あの一度の噴射をするために、残しておいた分だ。

 ジェネレーターの出力は、その間も落ちていない。1,200kWを出す機関は動いたまま、私は地面へ落ちていったわけである。

 

「では、歩くにも支障があって、飛べば戻る分まで使ってしまうということね。次の地上主力MSにするには、随分と手が掛かりそうだこと」

 

 腕を組んでいたモニク大尉が、主任技師の方へ身体を向けた。

 

「ナカノミヤ大尉を殺しかけておいて、操縦が悪かったと済ませるつもりではないでしょうね」

 

 技師へ近づこうとした私の前へ、大尉が一歩出る。伸ばしかけた手を止めると、首の付け根がまた痛んだ。

 宇宙へ戻った時に護衛がいなくなっては困る、とでも考えているのかもしれない。そう思うことにして、私は大尉の横へ戻った。

 

 モニク大尉は、今朝からずっとこの調子である。

 私がハンガーへ来る前には、07Aの記録を巡ってエメリッヒ技官を相手にしていた。診察から戻る途中、開いた区画の入口で二人の声が聞こえ、足を止めたのだ。

 

 07Aから基本的な運用記録は届いている。降下前にも、ワシヤ中尉との回線を使って確認したものだ。

 だが、マイ中尉が比較のために詳しい項目を追加で求めると、ジオニック側は、その都度機密に触れると回答してくる。既に送られた記録だけでは、同じ条件で比べられない箇所が残っていた。

 

 そのやり取りを、マイ中尉がモニク大尉へ見せたらしい。

 私が入口へ着いた時、エメリッヒ技官は提出項目の一つを指し、ツィマットの社員が同じ基地にいる以上、取り扱いを曖昧にできないと主張していた。

 

「競合する開発部へ、我が社の技術を渡すわけには参りません。こちらにも守るべき機密があります」

 

「ツィマットへ資料を渡すよう命じた覚えはありません。軍の試験官へ、必要な記録を出しなさいと言っているのです」

 

 モニク大尉は、机の上に置かれた軍の命令書へ手を添えた。エメリッヒ技官が指していた項目からは、目を離していない。

 

「閲覧する者も、使用する目的も示してあります。それでも、まだ試験に協力するかどうかを、あなたがお決めになるつもり?」

 

 エメリッヒ技官の口元が強張る。隣ではマイ中尉が提出を求める一覧を開き、二人の返答を待っている。

 こちらの姿に気づいた技官と目が合っても、今はその機嫌を取ってやる気にはならない。私は入口に立ったまま話の続きを聞いた。

 

「それでも拒むのなら、その回答を技術本部へ送ります。軍命より、あなたの判断を優先するということでよろしくて?」

 

 声は大きくなかった。

 エメリッヒ技官は、命令書と提出一覧を交互に見た後、閲覧者を記録するよう求めた。マイ中尉がそれを引き受け、ようやく必要な項目の話へ戻る。

 機体構造の全てを開示するという話ではない。実働の記録を試験隊が扱い、比較に使う範囲が、そこで一つずつ確かめられていく。

 

 書類へ印を付けるエメリッヒ技官を見ながら、私は少しだけ気分がよくなった。

 顔を上げた彼女の視線は、私を通り越してモニク大尉へ向いている。あの目つきだけでも人を傷つけられそうだが、大尉は気にした様子もなく、次の書類をマイ中尉から受け取っていた。

 

 今、07Aの方の試験は進んでいる、とマイ中尉が話せるのも、その記録が揃いつつあるからだった。

 こちらの作業台へ表示されるのは、試験隊がまとめた比較の結果だ。ツィマットの社員が他社の内部資料を自由に眺められるようになったわけではない。

 

「現状では、07Aの方が完成度は上です。向こうは、次の試験項目へ進めます」

 

「そ、それは困りますよ!!YMS-07Aに敗北するなど、我が社の威信に関わります!」

 

 主任技師の声に、作業台の反対側にいた社員まで顔を上げた。

 モニク大尉は組んでいた腕をほどき、マイ中尉へ向き直る。

 

「困ります、だと?フンッ、パイロットを殺しかけるような酷い欠陥品を作っておいて、随分な言い草だな。マイ中尉、技術将校としての客観的視点から見て、このYMS-08Aの処分はどうするのが妥当だと思うか?」

 

 中尉はすぐには答えず、脚部の損傷を写した画面へ切り替えた。膝の画像には、私が外から見ても分からない箇所まで印が付いている。

 

「この状態では、J型から置き換える利点を示せません。歩行と推進剤の問題を直せないなら、開発凍結を進言します」

 

 主任技師が口を開きかける。だが、中尉はその前に、曲がった関節の部分を拡大した。

 

「まず、ここを直さなければ、比較するところまで戻れません。推力が出たことと、予定どおりに試験を続けられることは別です」

 

「しゅ、修正ならいくらでもします!不眠不休で働きます!ですから、どうか開発凍結の進言だけは御勘弁を!それだけは……!」

 

「いくらでも修正する時間があるなら、何故、最初から地球環境に合わせてブラッシュアップしたものを持って来ないのかしら。無能を晒している自覚はある?」

 

 主任技師の返事が止まった。

 低速の歩行は確認した、と説明していた口である。ザクと並んで走らせれば、あの脚が邪魔になることくらい分かったはずだ。今からいくらでも直すと言われても、それを昨日の私に聞かせてやることはできない。

 

 私は作業台へ片手を置いた。屈むと肩まで痛むので、手元の画面だけをこちらへ寄せる。

 マイ中尉の付けた印は、脚の外側にも内側にもある。噴射の制御だけ直せば済む機体ではなかった。

 

「ざっと見た分だけでも、修正する項目は50箇所以上になりそうです。関節は交換が必要ですし、支えている部分も調べなくてはいけません。ここの設備で全部を直すのは無理です」

 

 作業台の奥で、整備兵が交換部品の一覧を開いている。持ち込んだ予備品の数へ書き込んだ印を見て、別の兵士が貨物区画へ向かった。

 本国の工廠ではない。昨日まで兵士と機材を乗せて降りてきたHLVの中で、次の試験へ戻せるかどうかを話している。

 

「では、せめて足回りだけでも最優先で修理して、歩行の邪魔になっている内側の余計なスラスターや装甲を削ぎ落とすだけなら、ここの設備でも出来ませんか?」

 

 マイ中尉が私を見た。モニク大尉も、何か言いかけた口を閉じる。

 まだ怒っている。許したかと聞かれれば、そんなつもりは少しもない。それでも、ラックに載せた機体を眺めているだけでは、私の乗るものは戻ってこないのだ。

 

 ここを離れて本隊へ合流するにしても、降下地点を守るにしても、動くMSはあった方がよい。ほかの部隊へ、もう1機回してくれと頼める見込みもない。

 主機は生きている。空で使った推力も、出ることだけは確かだった。せめて自分の脚で走れるようになれば、使いようはあるはずだ。

 

 それに、ツィマットを支えてきたのは私の実家でもある。比較する前から脱落されては、何を見込んで支援していたのかとナカノミヤ家まで笑われる。

 こんな時にまで家のことが頭へ浮かぶ。主任技師に文句を言うより、そちらの方が面倒である。

 

「修理ですね!可能です可能です!脚部の内側に張り出している補助スラスターもブロック構造になっていますので、取り外せます!すぐやります!」

 

「先に、関節を戻せるか確かめてください」

 

 マイ中尉が声を挟んだ。

 勢いよく頷いた主任技師は、すぐに脚部の部品表を開く。少し前までの頼み込むような声から、部品の番号を読み上げる声へ変わった。

 

 持ち込んだ試験用の予備品と、ザク系の共通部品で交換できる部分を選ぶ。改めて造らなくてはならないものがあれば、そこで修理は止まるという。

 主任技師が適合する箇所を示し、試験隊の整備兵が手持ちの数を確かめる。外して調べる必要がある部分も残っているが、膝を支えるところまでなら、何とか揃えられそうだった。

 

「内側のユニットを外せば、その分のタンクもなくなります。脚部で使える推進剤は減りますよ」

 

「その代わり、脚を開かずに走れるようにする。そういう話ですよね」

 

「はい。ただ、外した後の動きは調整します。今の歩き方のままでは、形を変えても使いにくさが残りますから」

 

 私は改修する部分を確かめた。外へ張り出した推進器まで、全部なくすわけではない。残す方を使えるようにしながら、脚の内側を空ける。

 あの補正が出るたび、機体は私の行かせたい方から外れていた。次に乗る時には、まずそれを確かめたかった。

 

「とにかく、最優先で足回りを修理して下さい。それから、あの干渉して歩行の邪魔になっている不格好な装甲を取り払い、なるべくスマートな外観にしてもらわねばなりませんよ」

 

「ええ、ええ!分かっておりますとも!必ずや大尉の御期待に添えるよう、軽量化と最適化を施してみせます!」

 

 主任技師はもう、別の社員へ必要な工具を尋ねている。

 今度こそ分かっているのかと念を押したくなったが、声だけを聞いて判断するのはやめておいた。あの調子のよさを、私は一度信用している。

 

「マイ中尉。お手数とは思いますが、彼らが無謀な改造を施さないか監視しつつ、修復作業の全体の指揮をお願い出来ますか?」

 

 中尉へ向き直り、頭を下げる。首の痛みで途中までにしかならなかったが、中尉はすぐに頷いてくれた。

 

「ジオニック側のYMS-07Aの評価も見なければならないので、最後までこちらの修理に付きっきりで携われるか分かりませんが……試験隊の技術官として、最大限善処します」

 

「マイ中尉がジオニックの相手をして不在の時は、私が監視の目を光らせておこう。それで良いかしら?」

 

「はい、キャディラック特務大尉。よろしくお願いします」

 

 モニク大尉が作業一覧を受け取ると、主任技師もその前へ戻ってきた。何を先に直すのか、今は手を付けない箇所はどこか。中尉の説明に沿って、こちらにも同じ印が付いていく。

 主系統の供給設定も見直すことになった。脚を直しても、また同じように推進剤を失えば、昨日へ逆戻りしてしまう。

 

 最初に外されたのは、泥の詰まった内側のユニットだった。

 供給を止めた配管が取り外され、作業台へ渡される。装甲の裏側を見た整備兵に呼ばれ、主任技師が機体の下へ入っていく。膝の方では、別の班が変形した箇所を調べ始めていた。

 

 私はその様子を見ていたが、モニク大尉から、いつまでそこに立っているつもりかと聞かれた。

 確かに、見張る役はもう頼んである。昨日からの疲れも戻ってきて、立っているだけなのに肩へ力が入ってしまう。

 

 次に私の判断が必要になったら呼んでほしいと伝え、作業区画を出た。背後では、主任技師が部品の到着を急がせている。

 その声には、さっきまでとは違う勢いがあった。今度は、出来上がったものを見てから信用することにしよう。

 

 

 宇宙世紀0079年3月21日

 

 

 08Aが、両脚で立っている。

 ラックの支えを離した機体を見上げ、私はまず膝へ目をやった。取り付け直した装甲の継ぎ目は揃い、その下の脚も、以前より細く見える。

 

 19日のうちに損傷の確認と部品の手配を済ませ、20日は丸一日、脚部の修復と改修に費やしている。夜中に一度ハンガーを覗いた時も、膝の周りには整備兵が取り付いていた。

 変形した関節を外して交換し、支持部を点検してから組み戻す。内側のユニットを外すだけでは済まない作業に、試験用の予備品が次々と使われていく。

 

 マイ中尉は07A側にも出向いていたが、戻るたびに作業の進み具合を確かめていた。不在の間に問題が出れば、整備兵が該当する箇所を残しておき、ツィマットの技師と一緒に判断を求める。

 モニク大尉へ新たな改修を持ち掛けた社員もいたようだが、今の仕事を終わらせてからにしなさいと追い返されたという。私が戻った時には、脚部の話に落ち着いていた。

 

 外した内側の補助スラスターは、装甲と一緒に枠へ留めてある。小さなタンクもその横へ並び、繋がっていた配管には札が下がっていた。

 残した外側の推進器は、噴射する向きが調整されている。脚の形が変わった分に合わせ、マイ中尉が計算し直し、技師たちが取付位置を詰めたという。

 

「乗れますか」

 

「はい。ゆっくり歩かせるところまでは確認しました。今日は、速度を変えた時の動きから見ます」

 

 その説明を聞き、私はハッチへ上がった。

 コックピットの中には、まだ乾き切らない土の臭いが残っている。座席へ腰を下ろすと、身体を支えるベルトの位置をいつもより慎重に直した。首の痛みは薄れていたが、回収中の揺れは覚えている。

 

 外へ出る前に機体の状態を確かめ、整備兵の合図を待つ。ラックの前を片づけていた者が脇へ寄った。

 私は右足を前へ送る。次に左。ハッチを越えて地面へ下りても、今度は脚が無理に外へ逃げない。

 

 速度を上げると、一歩で進む距離が伸びた。

 前へ出す脚が、反対側のカウルを避けるために回り込むこともない。地面を蹴った分だけ機体が進み、以前のような小刻みの歩みから抜け出せる。

 

 試験用の目印まで走り、そこで速度を落とす。地面にはまだ水の残る場所もあるが、それを避けて向きを変えられる。脚部の表示で、干渉を避ける補正が何度も点くことはなかった。

 私は同じ区間を引き返した。来た時より強く踏み込んでも、左右へ振られる前に歩幅が伸びる。

 

『今の区間、もう一度お願いします。比較機を出します』

 

 マイ中尉の声に了解と返すと、試験へ回されたザクIIJ型が横へ並んだ。同じ目印を使い、同じ合図で走り始める。

 初めは隣に見えていたザクの肩が、少しずつ後ろへ下がっていく。08Aはまだ速度を上げられた。次の目印で向きを変えた後にも、足が出遅れる感じはない。

 

 1,200kWの機関を積んでいながら、今まではその力を使う前に脚が邪魔をしていたのだ。

 止まるよう指示され、私はペダルを戻した。もう一度走ってみたいと思えたのは、この機体に乗ってから初めてかもしれない。

 

 続いて行ったのは、短い噴射と跳躍だった。

 主系統の供給設定は見直され、噴射ごとの消費をマイ中尉と技師たちが照合している。こちらも残量を見ながら、指定された操作を一つずつ試す。

 

 脚部の推進剤は、内側のタンクを外した分だけ減った。推進器の数も減り、総推力は51,000kgから、およそ49,000kgへ下がっている。

 それでも、地面を蹴って短い距離を移ることはできた。低く跳び、脚を下へ向けて着地する。噴射を終えた時には、こちらが見込んだ範囲に残量が収まっている。

 

 先日の戦闘のような高さへ上がる気にはなれなかった。

 推進剤の消費が改善しても、脚部に積める量まで増えたわけではない。背部と脚部の残量をそれぞれ確かめ、次の試験を待つ。

 少なくとも、歩いて走り、短く跳んで帰ってくる。その一続きの動作を、自分のつもりどおりに終えられるようにはなっていた。

 

 HLVへ戻ると、主任技師が下から大きく手を振っている。降りてきた私へ何か言いかけたが、先にマイ中尉が試走の記録を見せると、そちらへ顔を寄せた。

 私は機体から少し離れ、改めて脚を見上げる。装甲を外した箇所の形には、まだ急いで仕上げた跡がある。それでも、前の膨らんだ脚より、よほど頼もしく見えた。

 

「最低限、実戦で運用できる形にはなりましたね。ですが、これ以上の根本的なジェネレーターの改修や装甲の軽量化となると、ここの野戦設備では難しいです」

 

 マイ中尉が隣へ来た。作業着の袖には油が付き、端末を持つ手の爪の際まで黒くなっている。

 手元には、今日の試走では終えられなかった項目がまだ残っている。

 

 有能で常識的*2な、この人たちがいてくれて助かった。

 修理の見込みが立たなければ、本社へ圧力を掛けてでも、開発を止めさせるところだった。実家への説明に困るとはいえ、同じ失敗を繰り返せば、会社も支えた家も今以上に恥をかく。それに、私の命まで差し出す気はない。

 

「まともに動いて、自分の足で歩けるのであれば、あとはパイロットの腕でなんとかします。……いえ、必ずなんとかしてみせます」

 

 中尉は私の顔を見て、それから試走の記録へ目を戻した。

 

「では、今日確かめた動きを使って、次へ進めましょう。まだ比較できていない項目があります」

 

 私は了解と返した。大きく言ったのだから、その分は乗って見せなくてはならない。

 08Aの足元では、整備兵が試走後の脚部を調べている。今度は、歩いて戻ってきた機体の点検だ。

 

 第4大隊の本隊は、別の地点へ降下した部隊と合流し、ペキンへ向けて出発していた。

 降下地点に残ったHLVの周りでは、道を整え、荷を置く区画を広げる作業が続いている。ペキンが陥落するまで、ここは後方から届く物資を送る補給拠点として使われるという。

 

 私たちも、その防衛の一部を受け持ちながら試験を続けることになった。新しく荷が着く時には進路を空け、守備の配置に合わせて使う場所を決める。

 広い平原でも、どこでも好きに走れるわけではない。次に使う区間を地図で確かめていると、マイ中尉から翌日の予定が届いた。

 そこには、07Aとの比較試験が入っている。

 

 

 宇宙世紀0079年3月22日

 

 

 残るのは、今回予定している対MS戦闘の比較だった。

 昨日の機動試験に続いて射撃の基本項目も確かめ、今日はワシヤ中尉の07Aと向かい合う。模擬戦である。

 

 いつか連邦軍のMSが現れた時にも、こちらだけが一方的に撃てるとは限らない。動くMSを相手にして、何ができるかを調べる必要がある。

 マイ中尉から聞いた話では、07Aは地上での接近戦を重視しているという。踏み込みや格闘でどう動くのか、まだ私は間近で見ていなかった。

 

 08Aには、跳躍を使って敵の上や横へ出る狙いがあったはずだ。そこまで出られる推力はあっても、戦って戻るまで持たなければ使えない。

 改修した今なら、自分の脚で相手へ近づくこともできる。短い噴射をどこで使えばよいか。その間に07Aがどれだけ動けるのか。図面を見て考えるより、今日の方がよく分かるだろう。

 

 演習場に指定されたのは、基地から少し離れた平原だった。

 地面には試験用の目印が置かれ、観測のために出た者が、そこからさらに離れていく。雨水の残る窪みもあるが、見渡せる範囲に大きな遮蔽物はない。

 

 私は08Aの足元に立ち、向こうへ運ばれてきた07Aを見ていた。

 黄色と黒の塗装が、曇りがちな空の下でも目に付く。ザクより前へ突き出した口元のダクトと、その上の頭部。モノアイの可動レールは側面から後ろへ回り込み、頭頂にはブレードアンテナが付いている。

 

 左前腕には盾がある。私の08Aと同じ取付位置だが、形は違った。鋭い角を持った菱形に近く、あれを突き出されれば、ただの防具と思って近づくわけにはいかない。

 その内側にある手へ目をやり、私は首を傾けかけて、まだ少し痛むのを思い出した。

 

 指が、普通のマニピュレーターではない。太い筒のようなものが3本並び、その先端には黒い穴が開いている。

 盾の陰から見える範囲では、こちらと同じように武器を持ち替えられそうにはなかった。

 

「ナカノミヤ大尉!本日はお手柔らかに頼みますよ!あんまり無茶苦茶やられると、自分死んじゃうんで!!アハハ……」

 

 声のした方を見ると、07Aの足元からワシヤ中尉が手を振っている。ノーマルスーツを着込み、片手にはヘルメットを抱えていた。

 私は手を上げて返した。中尉は機体を一度振り返り、近くの技術者と何か確かめてから、こちらへ歩いてくる。

 

「こちらこそ。そちらの動きを見るのも、今日が初めてですから」

 

「そう言われると、少しは安心しますけどね」

 

 中尉は笑いながら、08Aの脚へ目を向けた。修理が済んだとは聞いていても、実際の姿を確かめておきたかったらしい。

 こちらが口を開く前に、別の声が入った。

 

「聞きましたよ、大尉殿。なんでも、そのツィマットの自称高機動機が、空から推進剤切れで無様な墜落事故を起こして、汚泥に突っ込んだとか……それも、よりによって戦闘中に」

 

 ワシヤ中尉の後ろから来たエメリッヒ技官は、私のそばにいるツィマットの社員たちにも聞こえる声で言った。

 背後で、誰かが息を強く吐く。振り向かなくても、主任技師の顔は想像できた。

 

 訂正できるところがないのが、なおさら腹立たしい。

 修理が済む前なら、そのまま同意してツィマットへ文句を言っていたかもしれない。だが、修理を終えた機体を前に、今それを聞かされるのは別だ。

 

「大尉、命が有って何よりでしたねぇ。その08Aも、いつかの欠陥機のように、模擬戦の最中にバラバラに分解するかもしれませんから、精々お気をつけて」

 

 私はエメリッヒ技官へ顔を向けた。

 ヅダのことまで、わざわざここへ持ち出すのか。中尉への返事に用意していた言葉は、もう出てこなかった。

 

 横にいたワシヤ中尉が、口を開いたまま技官を見ている。ツィマットの社員が半歩前へ出たが、その先をモニク大尉が塞いだ。

 

「……そんな下らないことよりも、早く機体を動かして、模擬戦のデータで決着でも付けたら如何かしら。企業の能書きを垂れるのは、それからでも遅くはないのでは?」

 

 大尉が顎で2機を示すと、エメリッヒ技官の目がそちらへ動く。

 少し離れたところでは、マイ中尉が開始位置を確かめていた。こちらを見た後、手元の予定へ目を戻す。今ここで言い合いを始めれば、その分だけ試験が遅れる。

 

「良いでしょう。まぁ、やる前から結果は見なくても分かりますが。所詮はエンジン屋に過ぎないツィマットが作ったMSが、我々ジオニックのMSに勝てるとは思いませんがね」

 

 エメリッヒ技官は答えを待たず、07Aの方へ戻っていく。その後ろへワシヤ中尉が慌てて続いた。

 

「ちょ、ちょっと!エースパイロットのナカノミヤ大尉に挑発してどうすんの!?ねえ、ちょっと!戦うのオレなんすよ!?」

 

 中尉の声は、こちらまでよく聞こえた。

 エメリッヒ技官が足を止めたところで、中尉は自分の胸を指している。何か答えられたらしいが、納得した顔には見えない。最後に一度こちらを振り返ったので、私は小さく手を上げておいた。

 

「大尉!どうか、あのジオニックの07Aを完膚なきまでに叩き潰して下さい!お願いしますよ!!」

 

 主任技師が、すぐ隣で拳を握っている。

 こちらにも、操縦する者の気持ちを考える気はなさそうだった。帰還した時には、この人に文句を言っていたはずなのだが、今は一緒に腹を立てている。

 

「……ええ、分かっていますよ。任せて下さい」

 

 主任技師の顔が上がるのを見て、私は08Aへ向き直った。梯子へ手を掛け、足を上げる。

 機体の横では整備兵が発進前の作業を終え、上へ来る私を待っていた。ハッチのところですれ違うと、足回りは今朝も確認してありますと声を掛けられる。

 

 私は礼を返し、座席へ収まった。

 ベルトを引いて身体を固定し、補助電源で表示を呼び出す。主機を始動させると、低い音が足元から伝わってくる。関節の状態が順に表示され、メインカメラの映像が開いた。

 

 画面の中では、ワシヤ中尉が07Aへ上がっている。

 申し訳ないとは思う。挑発したのは彼ではないし、修理に手を貸してくれた整備兵たちも、こんな言い合いのために働いていたわけではない。

 

 それでも、ここまで言われて負ける気にはなれなかった。

 私は脚部の表示を閉じ、開始位置を確かめた。まともに動けば、あとは腕で何とかすると言ったばかりだ。その相手がワシヤ中尉になったことだけは、勘弁してもらうしかない。

 

『メテオ01、準備はよろしいですか』

 

 マイ中尉からの通信に、私は操縦桿を握り直した。

 

「準備できています。始めてください」

 

*1:
当時

*2:
ツィマットと比較した場合




頭ツィマット…流行らせたい言葉ですね。

ご高覧ありがとうございます。
前書きは、昨日頂いたご感想のお返事を書きながら思いつきました笑
茶番です。

とりあえず、野戦改修で最低限使える(直喩)機体にはすることができました。
大体、僕の考えたサイツヨの機体にするだー!と、てんこ盛りにするから駄目になるのであって、無駄なものを省けば概ね使えるものになりました。という回ですね…1ヶ月近くお待たせしてこのクオリティで大丈夫かしら…
ちなみに、主人公は既にこのコンペティションには見切りを付け始めていますが、それはそれとして、キチンとヤレるだけヤルつもりではあります。


そう言えば、気付いたら皆さんから頂いた評価が48件になっていました!
ありがとうございます!!大変嬉しいです(涙)
50件まで行ったら評価バーが全部埋まるらしいですね…
良かったら、ポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします!

登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)

  • アリ
  • ナシ
  • どっちでも良い
  • 早く書け
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