技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
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ヅダの狭いコックピットを満たしていた、あの金星エンジン特有の狂おしい高周波の振動が、ようやく静かなアイドリングのハミングへと落ち着いていく。
コンソールパネルに整然と並ぶ計器のバックライトが、オールグリーンで安定したままコンバットからアイドリングへと切り替わるのを見届けて、私は大きく息を吐き出した。ヘルメットのバイザーの内側が、自分の熱い吐息でわずかに曇り、内蔵されたファンがそれを即座に吸い込んでいく。
減圧されたヨーツンヘイムの格納庫へ滑り込み、電磁着艦フックがヅダの細い足の裏をガッチリと固定した時の金属音は、真空の宇宙ゆえに直接耳には届かなかった。しかし、機体のフレームを通じて私のノーマルスーツ、そして肉体へと直接伝わってきた確かな質量振動は、私にひとまずの死線を越えたことを実感させるに十分だった。
コンソールのレバーをテキパキとした手つきでニュートラルに戻し、私は駆動系の電源を落とす。三面モニターの映像が、ツィマット社のロゴを映し出した後に上から下へと静かにフェードアウトし、暗転した正面スクリーンには、ノーマルスーツに身を包んだ私の輪郭がうっすらと映し出された。
「――こちらアスカ・ナカノミヤ少尉。着艦手順、すべて終了しました。乗艦許可願います」
生まれつきのやたらと鋭い勘と、人の感情がなんとなく伝わって来て分かること、そして血の滲むような訓練で叩き込んだ戦術的な知識。それらが私を幾度となく導いて来た。今回もそうだ。
オペレーターから乗艦の許可が下りたので、ハッチ解放のスイッチを押し込む。コックピットが冷却用不活性ガスの排出音と共に外側へと開き、真空の格納庫の光景が目に飛び込んでくる。そこには、パプアの轟沈によって艦内に飛び込んで来たらしい大小のデブリが、ヨーツンヘイムの非常灯の赤い光を反射して、不気味に明滅していた。
あの時、私の進出が数分早ければ、あの古びた補給艦パプアとその乗組員たちは死なずに済んだはずだった。その悔恨が、私の胸の奥をチリチリと焦がし続けている。私は決して、自分の挙げた武功に酔いしれるなんてことはできなかった。
私はコックピットの中から無重力の空間へと身体を投げ出した。ツギハギの装甲を持つ私の愛機、EMS-04Sの巨躯を蹴り、格納庫の端に設置された、加圧された高架キャットウォークへと浮遊していく。
エアロックに入り、気圧の同調を待つ。シュウという激しい音を立てて空気が満たされ、完了を知らせる電子音が鳴るのを聞きながら、私は首のロックを外し、重いヘルメットを両手で引き抜いた。
途端に、人工的に精製された、少しオイルの匂いの混じった艦内の空気が肌を刺す。額にべっとりと張り付いていた艶のある黒髪を、私は手袋を外した右手で手荒にかき上げた。
私の身長は185センチある。ただでさえ男ばかりの軍隊において、この体格はどこに行っても嫌でも目立つ。おまけに、軍服やノーマルスーツの上からでも隠しようのない、豊満すぎる胸の膨らみや腰の曲線というプロポーションを持っているものだから、前線の男どもの視線はいつも、性的な視線か好奇の視線に晒される。
だが、今、エアロックの向こうで私を待っていた者たちの視線は、そのどちらでもなかった。
彼らの瞳に宿っていたのは、剥き出しの驚愕。そして、姿の見えない遥か彼方から、連邦の巡洋艦を瞬殺してみせた死神に対する、本能的な戦慄だった。
「君がナカノミヤ……少尉、で合っているかな」
真っ先に私に近づいてきたのは、眼鏡の奥の瞳をこれ以上ないほどに爛々と輝かせた、線の細い青年士官だった。軍服を着ていながらも、軍人というよりは大学の若き研究員といった風情が隠せない男。この艦の技術士官、オリヴァー・マイ技術中尉である。
「オリヴァー・マイ技術中尉だ。よろしく」
こちらから敬礼をすると、マイ中尉も敬礼を返してくれた。
「アスカ・ナカノミヤ少尉であります」
彼は私の顔を一度まじまじと見上げ、自分よりも少し高い身長に一瞬だけ怯んだものの、すぐに私の背後に佇むヅダへと、取り憑かれたように視線を戻した。その様子は、まるで世紀の大発見を目の当たりにした考古学者のようだった。
「しかし、先程の戦闘はすごかった!見事、いや、見事などという言葉では足りないよ! ミノフスキー粒子の高濃度散布下、それも連邦の索敵範囲の完全に外側からの実体弾による一撃必殺……。データリンクに送られてきた弾道軌道を見た時は、システムのバグかと思ったよ。あんな狙撃を出来るのは、ジオン軍といえども殆どいないはずだ!」
マイ中尉は興奮を隠しきれない様子で、身振り手振りを交えながら早口でまくしたてる。
「だが、それ以上に驚いたのはあの機体だ。ツィマット社のEMS-04……たしか名前はヅダ。ジオニック社のザクとのコンペティションに敗れたあの幻の機体が、なぜ実戦配備されているんだ? しかも、バックパックの形状が技術本部の資料で見たものと形状が違うし、それにカタログデータにある水準を遥かに凌駕している!」
私は、彼のそのオタク的とも言える純粋な技術屋としての熱量に、内心で小さく苦笑した。軍の上層部の政治的な思惑や、エースパイロットへの嫉妬など微塵もない、ただ目の前の機械の真理を知りたいという無垢な探究心。それは、殺伐とした戦場において、奇妙なほど新鮮に私の心に響いた。
私は気怠げな笑みを薄く唇に浮かべつつ、しかし背筋を伸ばし、はきはきとした口調で応じた。
「技術的な話がお望みなら、いくらでもお答えしますよ、マイ中尉。ただし、あれをただのヅダと呼ばないでいただきたい。あれはツィマット社の技術者たちが、ジオニックのザクに負けた悔しさを晴らすためだけに、意地と執念で魔改造を施した、世界に一機だけの特別製です。EMS-04S、向こうではヅダS型とかヅダ指揮官機、ツノ付きなんて呼ばれていました。サブカル好きは、スーパーヅダなんて言っていましたよ」
私は振り返り、強化ガラスの向こうに鎮座する、サフグレーとチタンシルバーのツギハギの装甲を見つめた。
「あの推進器は『木星エンジン』の素材を別の物に変更して、形状を少し改良したものになります。『金星エンジン』と呼ばれるあれの最大推力は、公表されているEMS-04のカタログスペックの実に1.5倍。そこらのザクなら一瞬で置き去りにする加速力を誇ります。……まあ、その代わりと言っては何ですが、EMS-04のコンペ敗北の原因となった、制限速度超過による機体の空中分解という欠点は直っていないのですが…最高にピーキーなじゃじゃ馬ですよ」
「空中分解……! 推進器の出力に、フレームの強度が追いついていないということか。なんという、なんという狂気的で、美しい機体なんだ……」
マイ中尉は、恐怖するどころか、その欠陥の理由にすら陶酔するように吐息を漏らした。やはりこの男、本物の変人だ。だが、兵器の不完全さを愛せる技術者というのは、この第603技術試験隊においては、何よりも貴重な美徳なのだろう。
私も一緒になり、愛機を見やる。EMS-04S、ツィマット社に近しい私の実家に対する嫌がらせによって、本来受領されるはずだったザクは回してもらえなかった。それで、ツィマットの倉庫に仕舞われていたこの機体を引っ張り出し、狂気に満ちたツィマットのMAD達が改造を加えたのがあの機体だ。
機体の各所を超硬スチール合金から超硬チタン合金に差し替え、機体設計の一部を変更した上でエンジンも別の物に載せ替えている。おかげでEMS-04の速度制限から1.5倍近く上がっており、誰も追い付けないモンスターマシンへと変貌していた。
「そこまでにしてもらうわよ、マイ中尉。技術的な雑談は、任務の報告が済んだ後に職務室でやりなさい」
マイ中尉の背後から、凍りつくような冷徹な声が響いた。
静かに歩み寄ってきたのは、整った軍服の襟元を寸分の乱れもなく着こなした、冷艶な美貌を持つ女性士官だった。モニク・キャディラック特務大尉。総帥府からこの不遇な部隊へと送り込まれた、規律の権化のような職業軍人、それが私がモニク大尉を初めて見た時の印象だった。
彼女の鋭い瞳は、私の長身、そしてノーマルスーツの上からでも目立つプロポーションを、まるで値踏みするかのように冷たく射抜いていた。
私は、彼女の心の奥底から放たれる精神の波動のようなものを、持ち前のやたらと鋭い勘で敏感に感じ取っていた。そこにあるのは、うらぶれた技術試験隊への苛立ち、パプアを救えなかったことへの軍人としての焦燥や緊張、そして何より、突然目の前に現れた、規格外の力を持つ私という存在に対する、底知れない化け物を見るかのような強い警戒心と反発だった。
ここでエース気取りの傲慢な態度をとったり、あるいは体格を理由に不遜な振る舞いをすれば、彼女は即座に殻に閉じこもり、私を敵と見なすだろう。それは今後の艦内生活において、最も避けるべき地雷だった。
私は即座に軍人としての居住まいを正した。長い脚をピタリと揃え、左脇にヘルメットを抱え、モニク大尉の視線から逃げることなく、完璧な角度の敬礼を捧げた。
「宇宙攻撃軍より正式に出向を命じられました、アスカ・ナカノミヤ少尉です。遅参の程、大変申し訳ありませんでした」
私の口から淀みなく発せられた、謝罪の言葉と申し訳なさそうにした表情を見てか、モニク大尉は目に見えて拍子抜けしたような表情を浮かべた。長い睫毛が驚きに小さく震える。
彼女は、曰く付きの左遷パイロットである私が、もっと鼻持ちならない、あるいは野良犬のような荒んだ人間だと思い込んでいたのだろう。だが、自分よりも遥かに体格のいい女が、実直に頭を下げてきたことで、彼女の心の奥の刺々しい警戒心は、潮が引くように和らいでいった。
「……歓迎するわ、ナカノミヤ少尉。モニク・キャディラック特務大尉よ」
モニク大尉は小さく咳払いをし、自分の威厳を取り戻すように顎を引いた。
「先ほどの狙撃、見事だったわ。パプアの件は……あなたの責任ではないわ。あの状況で連邦の巡洋艦を瞬殺しなければ、私達諸共ヨーツンヘイムも沈んでいたのだから。あなたの迅速な救援行動は、総帥府への報告書にもその通りに記載させてもらうわね」
「恐縮です、キャディラック特務大尉」
「大尉で良い」
私は頭を下げながら、内心で小さくガッツポーズをしていた。地雷の回避は完璧だ。それどころか、モニク大尉の心の波動が、どこか目をかけるべき妹分を見守るような、姉御肌らしい親愛の色へと変化しつつある。この艦での人間関係の第一歩としては、これ以上ない滑り出しだった。
「おいおい、冗談だろ……。あのサラミス二隻を、マジでそのツギハギのモビルスーツで片付けちまったのかよ」
モニク大尉の少し後ろで、ノーマルスーツのヘルメットを抱えたまま、放心したように呟いた青年がいた。ヒデト・ワシヤ中尉である。
彼は、私の圧倒的な身長の高さと、女性としての豊かなプロポーション、そしてさっきまでブリッジの大型モニターで見ていたであろう、連邦軍を恐怖に陥れた冷酷なスナイパーとしての残像との間で、激しい混乱を起こしていた。
「ワシヤ中尉、規律を乱さないでちょうだい」
モニク大尉がすかさず鋭い視線を向けると、ワシヤ中尉は慌てて直立不動の姿勢を取った。
「は、はい! 申し訳ありません! 宇宙攻撃軍のパイロットってのは、どいつもこいつも化け物揃いだとは聞いてましたが、まさか、こんな……綺麗で、デカい少尉殿だとは思いもしなかったもんで!」
口を滑らせたワシヤ中尉に対し、私はいたずらっぽい笑みを向けてみせた。
「同じパイロット同士、仲良くやりましょう、ワシヤ中尉。貴方がこれまで慣れ親しんできたザクに比べれば、このヅダはとんでもないじゃじゃ馬ですから、お互い苦労しそうですね」
「へへ、そいつは心強いね。よろしく頼むよ、ナカノミヤ少尉」
ワシヤ中尉は頭を掻きながら、親しみやすい笑みを浮かべた。彼の心根は、良くも悪くも裏表のない、戦場のムードメーカーとしての健全さに満ちていた。彼のような男が艦内にいてくれるだけで、死の匂いが漂う技術試験隊の空気はどれほど救われるだろうか。
「騒がしいな。だが、それほどの活気があるのは良いことだ」
キャットウォークの重厚な自動扉が開き、厳かな、しかしどこか温かみのある声が格納庫に響いた。
現れたのは、白髪を綺麗に整え、数々の戦場をくぐり抜けてきた男だけが持つ、静かな威厳をまとった老将だった。マルティン・プロホノウ艦長である。彼の着ている公国軍の制服は、どこか着古された馴染み深さがあり、軍艦の冷酷な指揮官というよりは、一隻の大きな船を守る不器用な主のような安心感を与えてくれた。
「艦長!」
全員が一斉に直立し、敬礼を捧げる。プロホノウ艦長はそれを穏やかな手つきで制し、私の前にゆっくりと歩み寄ってきた。私の長身を見上げる形になっても、彼の目にはいささかの動揺もなかった。あるのは、一人の優秀な軍人を、あるいは若くして重い十字架を背負わされた少女を、静かに労うような慈愛の光だった。
「よく来てくれた、ナカノミヤ少尉。マルティン・プロホノウ中佐相当官だ。君の着任が、我々の絶体絶命の危機を救ってくれた。パプアの生存者を救えなかったことを気に病んでいるようだが、あの状況で自艦の安全を最優先にしつつ、敵を完全に殲滅した君の判断は、一人の艦長としてこれ以上ないほどに賞賛に値する」
艦長のその言葉は、私の胸の奥に澱のように溜まっていた悔恨を、優しく溶かしていくようだった。
「ありがとうございます、プロホノウ艦長。私の力が、この艦の盾となれたのであれば、パイロットとしてこれ以上の光栄はありません」
私が凛と答えると、艦長は満足そうに何度も深く頷いた。
「このヨーツンヘイムは、上層部の口さがない連中からは玩具箱などと呼ばれているがね。ここにいる連中はみな、自分の仕事に誇りを持っている。君のその素晴らしい腕前と真摯な心があれば、きっと彼らも君を家族として迎え入れるだろう。期待しているよ、少尉」
「はっ、全力を尽くします」
艦長の温かい受容の言葉に、私はこの艦が、自分が命を懸けて戦うに値する場所だと、確信を深めていた。
しかし、そこに大きい影がキャットウォークの奥から近づいてきた。
一同が視線を向けると、ガタイのいい一人の老兵の姿があった。
アレクサンドロ・ヘンメ大尉。ジオン公国軍の誇る老練な砲手であり、この艦に積まれた決戦兵器ヨルムンガンドの、事実上の心臓を担う男だった。彼のノーマルスーツの袖口からは、長年の軍務と過酷な戦闘で鍛え上げられた、丸太のように太い腕が覗いており、その顔には、幾多の死線をくぐり抜けてきた者だけが持つ、歴戦の凄みが刻まれていた。
ヘンメ大尉は私の前で止まり、底知れない闘志を秘めた瞳でじろりと睨みつけた。
「フン、宇宙攻撃軍のエリート様が来たってえからどんな面かと思えば、随分と図体のデカいお嬢ちゃんじゃねえか」
ヘンメ大尉の声は、まるで地底から響く地鳴りのように低く、不遜だった。
「さっきの狙撃、ブリッジのモニターで見せてもらったぜ。確かに大した腕前だ。光学センサーも使えねえような超長距離から、サラミスを二隻いっぺんに片付けるとはな。だがな、モビルスーツ一機で戦場をひっくり返せるなんてえ甘い夢を見るんじゃねえぞ。ルウムの主役は、あんなチョコマカ動くお人形じゃねえ」
大尉はそう言って、ガラスの向こうのヅダを顎で指し、それから、格納庫の中央に横たわる、ヨルムンガンドの巨大な砲身パーツへと視線を向けた。
「戦場を支配すんのは、この大蛇の圧倒的な破壊力だ。お前らモビルスーツ部隊は、せいぜい俺たちの撃ち漏らした敗残兵の掃除でもしてりゃあいいんだよ」
古参砲兵特有の、大艦巨砲主義への絶対的自信と、新兵器であるモビルスーツへの不信感から来る反発。並のパイロットであれば、この威圧感に気圧されるか、あるいは反発して言い争いを始めるところだろう。
だが、私は知っていた。ヘンメ大尉のこの頑なな態度が、ただの老害の愚痴ではなく、迫り来る時代の波に押し流されようとしている自分の兵器と誇りを守るための、必死の虚勢であることを。そして、彼のヨルムンガンドを扱う腕前が、決してハッタリではない本物であることを。
私は一歩前に進み出た。私の視線が、ヘンメ大尉の瞳と、まっすぐに交錯する。
私は気怠げな笑みを完全に消し去り、毅然とした、しかし不敵な色を帯びた声で、老兵の瞳を正面から見据えた。
「ヘンメ大尉。私は自分のヅダが戦場の主役だなんて、これっぽっちも思っていませんよ。……ですが、どれほど恐ろしい大蛇の牙であっても、敵の位置が見えなければ、ただの鉄の筒です」
ヘンメ大尉の太い眉が、ピクリと跳ね上がる。
「ルウムの主戦場は、高濃度のミノフスキー粒子で完全に視界が閉ざされるはずです。だからこそ、私のヅダが前線へ飛び、連邦艦隊の正確な座標を炙り出す眼になります。大尉、私の観測データリンクに、貴方のヨルムンガンドの照準は追いつけますか? 私の眼が捉えた標的を、その大蛇の牙は、確実に噛み砕いてくれますか?」
その場の空気が、一瞬にして完全に凍りついた。マイ中尉は息を呑み、ワシヤ中尉は顔を引きつらせて一歩下がった。モニク大尉すら、私のあまりの不遜な問いかけに、制止の声をかけることすら忘れて硬直していた。
ヘンメ大尉と私。二人の軍人の視線が、火花を散らすようにぶつかり合う。
老兵の瞳の奥で、猛烈な怒りの炎が燃え上がったかと思われた、次の瞬間。
「ガハハハハハハハ!!」
ヘンメ大尉は、通路のガラスを震わせるほどの豪快な声で、天を仰いで笑い出した。その笑い声には、若造の無礼に対する怒りなど微塵もなく、ただ、自分に対して一歩も引かずに牙を剥いてきた、本物の戦士に対する、深い歓喜が満ち満ちていた。
「面白い! 実に面白いことを言う若造じゃねえか!」
ヘンメ大尉はおかしさに目を細め、目元を太い指で拭いながら、獰猛な笑みを私に向けた。
「いいだろう、お嬢ちゃん。お前がミノフスキー粒子の霧の底から、完璧な標的を引っ張り出して見せるってえなら、この俺様が、大砲屋の実力ってやつを拝ませてやろうじゃねえか。連邦の戦艦が、肉も骨も残さずに蒸発していく特等席を、お前のその自慢の眼に、とくと焼き付けてやるぜ!」
大尉は丸太のような右手を、私の前にガバッと突き出してきた。
「俺の弾道計算を疑うんじゃねえぞ、少尉」
「ええ、期待しています、ヘンメ大尉」
私はその大きな手を、自分の右手でガッチリと握り返した。老兵の手のひらは、無数の傷とタコで硬く、そこから伝わってくる気迫は、まるで燃え盛る火山の熱量のように、私の鋭敏すぎる感覚を激しく揺さぶった。
これが、私と第603技術試験隊の、本当の意味での出会いだった。
欠陥兵器と呼ばれたヅダと、時代遅れと笑われたヨルムンガンド。その二つの歪な兵器が、私の眼を通じて一つに結ばれた瞬間だった。私たちはまだ知らなかった。この不器用な出会いが、数日後のルウムの地獄において、ジオンの主力艦隊すら驚愕させる、前代未聞の奇跡を産み出すことになるということを。
モニクとアスカが会った時には、既にモニクとプロホノウ艦長がバチバチにやり合った後になります。
ヅダの機体性能です。
・型式番号:EMS-04S
・製造元:ツィマット社
・頭頂高:18.2m(ブレードアンテナ込み)
・本体重量:61.0t
・ジェネレーター出力:1,150kW
・スラスター総推力:88,050kg
・動力源:改良試作型重元素熱核ロケット『金星エンジン』