技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
ようやく書き終わりました…
宣言通りヒルドルブ回なのですが、わたくしザクスキーがやりたいことを好き勝手やりたい放題した結果、文字数はとんでもない事になるわ話数は多くなるわと、相変わらず迷走しております。
第5章は全12話+報告書回になりますが、また今章を最後までお付き合い頂けると幸いです。
第18話
宇宙世紀0079年4月6日
私と第603技術試験隊を乗せたヨーツンヘイムは、宇宙攻撃軍の最前線拠点である宇宙要塞ソロモンへと寄港した。
プロホノウ艦長から、私が下艦している間に物資や推進剤の補給をすべて済ませておくと言われていたので、私は遠慮せず、そのまま宇宙攻撃軍司令部へと出頭することにする。
つい先日まで地球の重力に全身を押さえ付けられ、泥と雨の中を試作機で駆け回っていた身には、久しぶりに戻ってきた完全無重力の感覚がひどく懐かしい。マグネットシューズを切れば身体がふわりと浮き、壁面のハンドレール一つで自在に進める環境は、やはりスペースノイドである私にとって生まれ育った故郷そのものだった。
もっとも、懐かしさに浸っていられるほど時間に余裕があるわけではない。司令部から出頭を命じられた理由は一切知らされておらず、地球で行ったことを頭の中で一つずつ思い返すほど、胸の奥には次第に重たい不安が沈殿していく。
暗礁宙域の資源採掘用小惑星を丸ごとくり抜いて要塞化したソロモンは、地球連邦軍の擁する宇宙最大の要塞ルナツーには遠く及ばないものの、全幅およそ30kmという途方もない威容を誇っている。
要塞の内部は、万が一敵の部隊に侵入された時の籠城戦や閉所戦闘を想定して、幾重にも複雑に入り組んだ構造をしており、外部のドックから司令部のある最奥の区画に向けて、真っ直ぐに繋がる直通の通路というものは存在しない。
私は下士官が操縦する無重力空間用の軍用エレカに乗り込み、迷路のように張り巡らされた内部通路網を進んでいく。
道中、高級将校である佐官や将官であればフリーパスで通れるのかもしれないが、一介の尉官でしかない私は、要所に設けられた複数の検問でその都度身分証を提示し、厳格な手続きを経なければならなかった。
検問を一つ通過するたび、背後では分厚い隔壁が閉じられ、次の区画へ進む許可が下りるまで短い待ち時間が生じる。移動する者にとっては煩雑極まりない構造だが、敵兵や間諜の侵入を一つの区画ごとに食い止めるためには、必要不可欠な備えなのだろう。要塞そのものが巨大な城であるなら、この幾重もの検問と隔壁は本丸へ至るまでに設けられた堀と城門というわけだ。
そうして数十分の時間を掛けて、漸くドズル中将閣下の私室と執務室が存在する、司令部の中枢区画へと辿り着く。
司令部入口に立つ完全武装の警衛兵に対し、直接の命令により出頭した旨を伝えると、彼は無言のまま壁面の有線式通信機でどこかへと連絡を入れる。確認が取れたのか、受話器を置いた警衛はすぐに居住まいを正し、私に向かって鋭い敬礼をした。
「ナカノミヤ大尉ですね。ドズル閣下が中でお待ちです。こちらへどうぞ」
事前にプロホノウ艦長から宇宙攻撃軍司令部からの出頭命令だと聞かされてはいたが、まさかドズル中将閣下御自らの直接の呼び出しだとは思いもせず、一体自分が地上で何をしでかしたのかと考えると、軍服の下を冷たい汗が背筋に沿って流れていくのを感じた。
地球での越権行為か、それともジオニック社への不当な干渉と受け取られたのか。必死に頭を回転させて最悪の事態を想定しつつも、私は無言のまま重厚な木製の扉の前へと連れて来られた。
チラリと、私を案内してきた警衛の兵士の顔を見るが、彼はこくりと一つ頷くだけで何も言って来ない。
せめて彼の感情から呼び出しの理由を探れないものかと意識を向けてみたが、伝わってきたのは、宇宙攻撃軍司令官の執務室を守る者としての張り詰めた緊張と、職務を全うしようとする強固な意志だけだった。私を犯罪者として警戒している様子は感じられない。それが僅かな慰めにはなったものの、この扉の向こうで何が待っているのかまでは、当然ながら知りようがない。
ここには士官学校を繰り上げ卒業し、宇宙攻撃軍に配属された着任時の挨拶の際にも、一度来たことがある。だが、顔見せの挨拶で訪れるのと、何か理由があって出頭させられるのとでは、その性質も肩に掛かる重圧も全く違う。
二度目の訪問とは言え、既にこの重厚な扉を前にしただけで滲み出てくる、ザビ家特有の圧倒的な威圧感に気落ちしそうになる。だが、名家ナカノミヤの令嬢としての矜持を奮い立たせ、私は力強く扉をノックして声を張り上げる。
「アスカ・ナカノミヤ大尉、御命令により出頭致しました!!」
『入れ』
すぐに扉の向こうから、部屋の空気を震わせるような太く重い声で返事が来た。
扉の両側に直立していた二人の衛兵が、ゆっくりと重い扉を左右に開く。私は軍人として一切の隙を見せないよう、素早く歩を刻んで執務室の中へと足を踏み入れる。
広大な執務室の中央では、巨大なデスクの向こう側にドズル閣下が座っており、巌のような腕を組んでこちらを見据えていた。
私はその場で立ち止まり、ブーツの踵を鳴らして完璧な敬礼をする。
「待っておったぞ。まあ、そこに座れ」
「失礼致します!」
内心では戦々恐々としながらも、私は表情には微塵も出さず、来客用の革張りのソファに浅く腰掛けた。背筋を伸ばし、両手を膝の上に揃える。
「そう固くなるな、楽にしてくれ。なに、お前を叱責するつもりで呼んだわけではないから、そう畏まらんで良い」
「は、はぁ……」
想像していたような空気とは違い、ドズル閣下は存外に機嫌が良さそうに見える。張り詰めていた緊張の糸が不意に緩みそうになるが、閣下が次に何を口にするのか分からない以上、まだ油断はできない。私は黙って次の言葉を待つ。
「先ずは此度の地球における次期主力機選考、大儀であったな。ジオニックの技師から直接報告を受けたが、コンペの最中にライバルである彼らにかなり有益な助言をしたそうじゃないか。ガルマも、お前のおかげで先行生産機の仕様が劇的に向上したと、わざわざ俺に通信を入れて褒めていたぞ」
ドズル閣下が末弟のガルマ・ザビ大佐のことをいたく可愛がっているのは、軍内部の公然の秘密でもあるし、それ以前のザビ家との交流で知っている。ガルマ様が管轄する北米方面軍での兵器開発に貢献したことへの労いかとも思ったのだが、わざわざそんな些末なことだけで、仕事に忙殺されている司令官が私を一対一でソロモンの中枢まで呼び出すだろうか、という当然の疑問が頭をよぎる。
まだ安心するには早い。私は気を引き締め、ドズル閣下が続ける言葉を待った。
「実家のナカノミヤ家はツィマットの支援者だろうに。ツィマットよりも、よく敵対しているジオニックに協力をしたな」
その問いに、私は軍人として言葉を選びながらも、一切へつらうことなく本心から答えた。
「いえ。公国軍の最終的な勝利と、現場で戦う兵士たちの生還率、ひいては軍全体の利益を第一に考えれば、実家の都合や私個人の矜持など、取るに足りない些事です」
そう断言すると、ドズル閣下はふっと目元を緩め、まるで自分の身内が称賛されたかのように破顔して喜んだ。
そのまま腕を組んで深く頷き、私の顔面ほどもありそうな巨大な拳を握り込んで、ガタッと音を立てて立ち上がる。
身長2mを超える巨漢が立ち上がったその凄まじい迫力に、私は思わずソファの上で仰け反りそうになるのを必死に堪えた。
「そうだ、それでこそ真の公国軍人だ!ハッハッハッ!!俺は嬉しく思うぞ、アスカ嬢!!」
執務室の空気がビリビリと震えるほどの豪快な笑い声。
まさかジオニック社へ塩を送った行為が、これほどまでに公国への忠誠と無私の精神として高く評価されるとは思っておらず、自然と私の頬が熱を帯びていく。
「よし、決めたぞ!アスカ嬢、今この瞬間からお前を少佐に昇進させる」
「…………は?」
予想だにしない突拍子もない言葉に、私は令嬢としての作法も忘れ、素っ頓狂な声を上げてソファから飛び上がりそうになった。
「か、閣下!それはいくらなんでも……」
私が慌てて諫めようとすると、ドズル閣下はその丸太のような太い腕と大きな手で私を制し、言葉を続ける。
「元々、お前の積み重ねた戦功は、お前を少佐へ昇進させるには十分だった。知っているか?MSパイロット個人の艦艇撃沈数は、現在公国軍の中でお前がぶっちぎりの一番なのだぞ?……だが、総帥府や一部の高級将校どもから『佐官にするには年齢が若過ぎる』だの『女が部隊を率いるのは心配だ』だの『前線でのMS中隊や大隊規模の指揮統制の経験がない』などと吐かして反対されてな。少佐への昇進を阻まれておったのよ」
ドズル閣下はそう言って、忌々しそうに舌打ちをして座席にドカッと座り直した。
だが、私としても反対したという高級将校たちの言わんとすることは分からないでもない。
幼年学校から士官学校に入って正規の教育を受けているとは言え、私は開戦を目前にして足りない将校を確保するために繰り上げ卒業させられた身だ。しかも、卒業席次は首席ではなく第三席。それにもかかわらず、首席と次席を差し置いて、同期の中では私が一番の出世頭になってしまっている。
弱冠20歳で既に大尉というだけでも異例なのに、そのさらに上の少佐という高級将校の入り口に立つとなると、ザビ家の方々を除けばジオン軍の歴史上でも前代未聞だろう。
上層部が私の暴走や経験不足を不安に思うのも無理は無い。
兵士達だって命が惜しい生身の人間なのだから、経験の浅い若造の指揮官の命令に従って死地に赴くのは怖いだろう。
だが、一度その大きな手で制されている以上、宇宙攻撃軍のトップであるドズル閣下がお決めになった事に、これ以上一介の将校が口を挟むのも憚られる。
そして何より、少佐という階級は、ただ階級章の線が一つ増えるだけのものではない。これまでより多くの将兵の命を預かり、私の命令一つで彼らを生かしも殺しもする立場に足を踏み入れるということだ。
ルウムで積み上げた艦艇撃沈数は、軍人として見れば確かに誇るべき戦功なのだろう。しかし、その数字の裏側には、私の砲弾によって艦と共に宇宙へ散っていった無数の人間がいる。彼らの最期の感情を誰よりも強く受け取ってしまう私には、戦果の数字だけを眺めて無邪気に喜ぶことなど到底できなかった。
その戦功によって与えられる階級であるならば、せめて部下たちを無意味に死なせないために使わなければならない。驚きと戸惑いの底で、私は新たに背負わされる責任の重さを静かに噛み締めていた。
「戦果を上げ続けている優秀な将校を、年齢や建前だけで昇進させないとなると、それは軍の沽券や前線の兵達の士気に関わるからな。個人の損得勘定抜きに、純粋に公国にこれだけの利益を齎せる者を、もうこれ以上据え置きにする理由は無い。文句を言う奴がいたら、俺がぶん殴ってでも黙らせる」
「閣下……私をそこまで高く評価して頂けるのですか」
「当たり前だ。それに、今回の本題だがな……お前の率いる独立戦隊に、もう一隻護衛艦を加える予定だったんだが、一介の大尉では複数の艦を束ねる戦隊司令としての貫目が不足していると煩い輩がいてな。少佐に上げてしまえばちょうど良いというわけだ」
私の率いるヌエ戦隊が、単艦での運用から二隻からなる小艦隊に格上げされるとのことで、私は二重に驚いてしまう。
今日は1日で一体何回驚けば良いのだろうか。
しかし、戦力としてヨーツンヘイムの直掩護衛艦が一隻増えるというのは、純粋に大変良いことだ。
今回のように、私が何らかの機体試験で地球に降りている間、母艦を宇宙で護衛できる手数の多いMSなり艦艇が居るというのは、指揮官としても非常に安心できる。それに、部隊を分離させることができるのは大きい。取れる戦術の幅が広くなるからだ。
二隻あれば、一隻をヨーツンヘイムの直掩に残したまま、もう一隻を前方の哨戒や索敵に回すこともできる。どちらかが損傷して航行能力を失った場合にも、僚艦が敵を牽制しながら曳航するという選択肢が生まれる。これまでのように、オキノトリシマ一隻が攻撃も防御も索敵も全て引き受けなければならない状態と比べれば、戦隊全体の生存性は格段に高まるだろう。
その一方で、複数の艦を同時に動かすとなれば、旗艦から出す命令の重みも責任もこれまでとは比較にならない。今回の昇進は単なる恩賞ではなく、拡大される戦隊を率いるために必要な立場を与えるという、極めて実務的な意味合いも含んでいるように思える。
「それは大変ありがたいお話であります。戦力の拡充は、試験隊の生存率に直結しますので」
「うむ、礼には及ばん。ただな……」
言い終えたドズル閣下が、急にバツが悪そうに口籠る。その様子を目にした途端、なんだか嫌な予感が胸の奥を這い上がってくる。
「本来はお前の戦隊に、新造したばかりの最新型のムサイ級を一隻回そうと思っていたのだが、どうにも各戦線への戦力割り当ての都合がつかなくてな……。総帥府の奴らが、『代わりに最近鹵獲・修復されたサラミス級がある。オキノトリシマというキメラ艦を既に運用している実績もあるし、彼女ならこれでも十分に使いこなせるだろう』などと押し切ってきおってな」
「…………つまり、その。オキノトリシマの『二番艦』が出来るということでしょうか」
「……あぁ、そういうことになる。俺が知った時には、その艦は既にドックで出来上がっていて、艦橋もムサイの物が取り付けられた後だったのだ」
絶望的な気分に襲われ、気付けば私の視線は、救いを求めるように執務室の天井へと逃げている。
またあのような、連邦の艦体にジオンの首を挿げ替えた冒涜的なフランケンシュタインが作られ、剰えそれが『オキノトリシマの運用実績があるから』という身も蓋もない理由で私のもとに配属されようとは。
大凡考えられるのは、誰も使いたがらず受領を拒否され続け、艦政本部や総帥府が持て余していたところへ、私の戦隊が都合の良い引き取り先として目を付けられたということだろう。これに眩暈を起こさない方が無理があるというものだ。
「だが安心しろ。今回はその艦の運用人員と共に、一個MS小隊*1がパイロット込みで丸ごと付いてくる。一人で戦場を駆け回るよりは、少しは負担も減る筈だ」
最悪の知らせの後に、MS小隊の増援という最高の知らせを寄越してくる。ちょうど私の感情の収支がプラスマイナスゼロになるような絶妙な塩梅で、落胆して良いのか喜んで良いのか、頭の中が混乱してくる。
だが、それでも直掩のMS戦力が三機も増えるのであれば、それは素直に喜ぶべきことだろう。
私はドズル閣下の不器用な気遣いに心の中で感謝しつつ、その二番艦と共に新たな戦力を有り難く受領することにした。
MSが三機増えるということは、単に砲口が三つ増えるというだけではない。交代で哨戒に出せる余裕が生まれ、私が試験機で出撃している間にも、ヨーツンヘイムと二隻の護衛艦を守る最低限の戦力を残せるということだ。搭乗するパイロットたちの技量や人柄はまだ分からないが、少なくとも彼らを一つの部隊として纏め上げ、互いに背中を預けられるところまで鍛えることが、戦隊司令となる私の最初の仕事になるだろう。
「十分すぎる戦力です。助かります。……ところで、その新たな艦の部隊要員は、現在のオキノトリシマと同じく、宇宙攻撃軍から弾き出された旧ダイクン派の方々でしょうか」
もしそうであれば、同じ境遇のオキノトリシマのクルーとも上手くやっていけるだろうし、ガネバン中尉を通じて統率も取りやすい。
ただし、私というザビ家寄りの指揮官の元に、反体制的な旧ダイクン派ばかりを意図的に固めて一極集中させられるのも、後々親衛隊やら情報部から全く痛くもない腹を探られそうで、それはそれで色々と困るのだが。
私自身は、旧ダイクン派であろうとザビ派であろうと、与えられた任務を果たし、仲間のために戦える者ならば出自を問うつもりはない。しかし軍という巨大な組織は、個人の能力や誠実さだけで人間を評価してくれるほど単純ではない。どの派閥に属し、誰と親しく、過去に何を口にしたかという些末な事柄が、時として戦場で挙げた功績よりも重く扱われる。その面倒臭さを、私はオキノトリシマを受領した時から嫌というほど思い知らされていた。
「いいや、今回はダイクン派の連中ではない。……ではないのだが、またアスカ嬢にはとてつもない貧乏籤を引かせることになる」
巌のような恐ろしい顔を申し訳なさそうに歪ませながら、ドズル閣下の巨大な背中がシュンと丸くなる。
一軍の最高司令官が、一介の部下に対して見せるにはあまりにも無防備で人間臭いその態度に、何故だかこちらの方が酷く申し訳ない気分になってくる。
ゼナ様や、側室となった幼馴染のマレーネ様は、閣下のこういう不器用で誠実なところにクラリと来て惹かれたのだろうなと、私にもその気持ちが少し分かる気がした。
「……いえ。それが軍人としての私に与えられた使命ならば、どのような訳ありの者たちであろうと、喜んでお引き受け致します」
「すまない……俺の力が足りないばかりに」
頭を深々と下げるドズル閣下を、私が慌ててソファから立ち上がって押し留めるという奇妙なハプニングこそ起きたものの、その後は少し空気が和らぎ、愛娘であるミネバ様の話や正妻のゼナ様、そして側室として召し上げられたマレーネ様の話で、しばらくの間、穏やかで人間らしい時間が過ぎた。
そして、一通りの報告と歓談を終えて私が退室しようとした帰り際、ドズル閣下が思い出したように私を呼び止めた。
「おお、一つ忘れておったのだが、キシリアからお前への伝言を預かっている。依頼された調査にはもう少し時間が掛かる、だそうだ。……一体何を調べさせたんだ?」
キシリア・ザビ少将。情報機関を束ねる彼女からの伝言に、私は少しだけ背筋を伸ばし、事の経緯を説明した。
「地球での滞在中、ニホンの難民キャンプで少し気になる女性に出逢いまして。彼女から聞いた話によれば、連邦政府側の関係者と思われる夫と息子が、サイド6かサイド7のどちらかに出入りしている可能性があります。それで、第四地上機動師団の下士官に素性を調べるよう依頼していたのです。それが突撃機動軍の管轄まで上がったのでしょう」
「ほう、それは確かに気になる情報だな……。連邦の技術者が中立のサイド6にいようが、辺境のサイド7に出入りしていようが、我が軍にとってはそれはそれで問題がある。よくやった、お前の勘は確かだ。あとはこちらで引き継いで専門の機関に探らせよう」
どちらのコロニーにせよ、連邦の軍事機密の詳細が分かった時点で私は上層部へ報告を上げる予定だったので、これは大変都合が良い。
これから私の戦隊には、キメラ艦の二番艦と丸々一個MS小隊が戦列に加わるのだ。人員の掌握や、母艦ヨーツンヘイムを含めた艦隊運動の連携、そして新戦力との慣熟訓練を再度一から施さなくてはならない。
とても私には、その後のサイド6やサイド7における捜査や追跡の指揮にまで割く暇は無いし、次期兵器の評価試験という本務をそっちのけにするわけにもいかないので、まさに渡りに船というものである。
何より、個人の身辺調査とコロニー間の移動記録を洗い出す仕事は、私のような前線将校が片手間で行えるものではない。キシリア少将の情報機関であれば、軍港の入出港記録や連邦側の通信、サイド間を往来する民間船の名簿にまで手を伸ばせるだろう。たまたま出会った女性から聞いた僅かな情報を、ここまで大きな調査へ発展させてよいものかという迷いは残るが、私の勘が警鐘を鳴らしている以上、何もせずに見過ごす方が後悔することになる気がしてならない。
「承知致しました。あとはお任せ致します。では、アスカ・ナカノミヤ少佐、これにて失礼致します!」
「おう、達者でな。ああ、あとで人事部へ寄って行け。そこでお前の新しい階級章と、佐官用の軍衣を支給するよう手配しておく」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
完璧な角度で敬礼をして、ドズル閣下からの力強い答礼を受けてから、私は執務室を後にした。
外で待っていた警衛に閣下との面会が終わった旨を説明し、私はそのままソロモン内部の人事・需品部へと向かった。
ジオン軍において、将校は基本的に軍服や身の回りの装飾品を全て自費で賄わなければならない規定になっているため、支給されたものの代金は後ほど個人の軍用口座から引き落とされる仕組みになっている。
尉官のうちはほとんど統一された規格の軍衣であり、部隊章や勲章の佩用といった特別な許可がない限り、勝手な改造は軍紀違反として許されていない。
しかし、高級将校である佐官以上になると話は変わり、服飾規定を著しく逸脱したり、軍の品位を損なうような奇抜な色使いでなければ、軍衣のオーダーメイドや改造が一定の範囲内で黙認されている。
あのシャア・アズナブル少佐を見ればわかるが、彼の軍衣は鮮やかな赤である。しかし、彼はガルマ様と士官学校時代からかなり親しいためか、少佐になる前の尉官の時から赤い軍衣を身に纏っているが、あれはほとんどコネによる例外中の例外に近い。一般の尉官には絶対に許されていない特権だ。
軍服は単に身体を覆う衣類ではなく、階級と所属、そして着用者が軍の中で占める立場を、言葉を交わすより先に周囲へ示すものでもある。これから新しい部下たちの前に立つ以上、少佐の階級章だけを取り付けた寸法の合わない吊るしの軍衣では、指揮官としてあまりにも格好がつかない。身長185cmの上に胸回りだけが規格から大きく外れている私の体格では、既製品の中から都合の良い一着を見つけること自体が、最初から無理な話なのだろう。
人事部へ向かうエレカに揺られる最中、そういえば私もルウム戦役での戦功により、エースパイロットとして機体にパーソナルカラーを使用する権利が認められていたことを思い出した。
私が当時パーソナルカラーとして申請したのは、ニホンの伝統色である深い紫色の二人静である。
二人静は、シャア少佐の赤のように遠目からでも敵味方の視線を奪う華やかな色ではない。光の加減によっては黒にも見えるほど深く沈んだ紫でありながら、近くで見れば確かな気品と静かな存在感がある。世間知らずの御令嬢であった頃ならいざ知らず、出る杭は打たれるというのを色々と揉まれて学んだので、必要以上に己を飾り立てることを好まない私には落ち着いていて相応しい色だと思っていた。
現在私の搭乗するヅダは、空中分解を防ぐために元のパーツに新規製造された高耐久のチタン合金パーツを組み合わせてあり、サフグレーと銀色が入り混じったツギハギ状態のままだ。
私の部下ではない第603技術試験隊の整備兵たちに、ただでさえ手間のかかるヅダの整備をやって貰っている上、美観のための再塗装まで厄介になるのも憚られて、今の今までそのままにしてあったのだ。
だが、この度少佐へと昇進し、僚艦とMS小隊が丸ごと一隻増えるのであれば、人員にも少し余裕ができるはずだ。新しく来るこちら側の整備兵に、機体を塗装させれば良いだろう。
きっとサフグレーと二人静はよく似合うはずだ。どうせなら、軍衣の色も二人静で合わせてしまうのもアリだろう。
人事部の窓口に到着すると、既にドズル閣下の執務室から最優先の通達が行っていたようで、担当の士官が慌てて対応に出てきて、すぐに真新しい少佐の階級章が支給された。
佐官用のオーダーメイドの軍衣は、採寸して発注し出来上がったら個別に私の所属部隊へ補給物資と共に配送してもらえるようなので、それまでは一時的に規定の佐官用軍衣を着用するべしと言われ、吊るしの軍衣一式を貸し出された。
試着室に入り、大尉の軍服から新しいものを着用してみたは良いが、胸周りの布地が少しキツく、息苦しさを感じた。
窓口に戻り、別のサイズのものかもう少し余裕のある型は無いかと担当の士官に言うと、彼は暫し私の胸元をじっと凝視した後、咳払いをして裏に引っ込み、もう一つ上のサイズの軍衣を渡してきた。
着直してみると、今度は胸周りは良いが、ウエストや肩幅のあたりが少しだぶついており、どうにもシルエットが美しくない。
なんだかんだと悩んだ末に申請した二人静色のオーダーメイドの軍衣が、一日も早く私の手元に届くことを祈るばかりだ。
私はブカブカの佐官服の裾を引き締めながら、新たな部隊員たちが待つであろうソロモンの軍港区画へと歩みを進めた。
御高覧ありがとうございます。
はい、と言うことで、主人公がいつまでも大尉止まりだと使い勝手が悪い関係上(大人の理由)、さっさと少佐に昇進させました。
物語上では最終階級は中佐か大佐か…さてどうなることやら。
それと、設定上で止まったままだった主人公のパーソナルカラーもこれから使っていきたいと思います。まぁ、完全に反映されるのはヅダを使って連邦軍と殴り合いをする時なんで、しばらくはまだお預けです。
紫ババアその2とか言ってはいけない(戒め)
ソロモン内部の描写は、かつて戦場の絆にあったマップ(記憶頼り)とジオリジンの漫画や他の外伝漫画に登場してきた物を脳内で補完して、要塞なんだからこんな感じだろうと独断と偏見により考えたものですので、ツッコミは小さくお願いします…
そう言えば、キルケーの魔女観ました。
可愛い可愛いオニャノコ達をいっぺんに消費しすぎだろぅと思いました。
よく考えると(よく考えなくても)、主人公はこの時代でも生きてるんですよねぇ。ワンチャンVまで生きてそうではありますが、UCやNT、閃光のハサウェイの時は一体何をしているのか…
しかし、ハサウェイ達が生まれる前からMSに乗っていて、スーパーエースで50代。スーパーおばちゃんは人妻で子供いようが多分シャアの反乱でもMSに乗っていそうなので、マフティがハサウェイだと知っていてもエウーゴで知り合ったブライトさんの息子を死なせないためにマフティ側で参戦してそう…とか妄想が捗ります。
『えっ!あのおばちゃん私達が生まれる前からMSなってんの!?ヤバッ!』ってハーラに言わせたい。あと、美少女達だけ生存させたいですね。
アンケートも是非参加いただけると幸いです。
また、明日から章の終わりまで毎日11時に投稿予定です。
13日間になりますが、最後までよろしくお願い致します。
登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)
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アリ
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ナシ
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どっちでも良い
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早く書け