技術試験隊斯ク戦ヘリ 作:ザクスキー2世
答え合わせは後半になります。
宇宙世紀0079年4月6日
私は行きと同じ下士官の運転するエレカに乗り、要塞内部の通路をヨーツンヘイムの停泊する軍港区画へと戻っていた。
帰りの道中には何ら問題もなかったが、一つ困っていることがあるとすれば、人事部から一時的に貸し出されたこの吊るしの佐官用軍服である。胸回りの寸法に合わせた結果、大柄な男性向けのものを渡されてしまい、肩幅やウエストの辺りが酷く余っているのだ。
肩の縫い目は本来の位置より下へ落ち、袖も長い。腰の辺りを整えようと余った生地を背中へ寄せれば胸元に横皺が入り、それを伸ばすと今度は裾がだらしなく膨らんでしまう。鏡の前で試していた時から分かっていたことだが、座っていると余計に収まりが悪かった。
私は助手席で袖口を少し折り返し、上着の裾を引き直した。運転中の下士官が横目でこちらを窺っていたが、気付かないふりをしておく。本人は見ていないつもりでも、私が軍服に手をやるたびに視線を向けてくるので、気になるのだろう。私だって、この格好に満足しているわけではない。
名家ナカノミヤの令嬢として、そして新たに少佐となった戦隊指揮官として、あまりにもだらしない姿で同僚や部下たちの前に出るのは避けたかった。かといって、合わないものはどう引っ張ったところで合わない。仕立てを頼んだ軍服が届くまでは、この借り物で我慢するしかないのである。
どうにか肩の生地を落ち着かせてため息を吐いたところで、聞き覚えのある低く澄んだ声がした。
「ナカノミヤ大尉ではありませんか!」
ちょうど無重力通路の交差点に差し掛かったところだった。私は下士官に停車を指示し、声のした方へ顔を向ける。
白い長髪を後頭部で綺麗にまとめた長身の男性が、ノーマルスーツ姿で壁面のハンドレールを離れ、こちらへ滑るように近づいてきていた。途中で僅かに身体を捻り、エレカの進路を避けて足先を床へ向ける。その無駄のない動きには見覚えがあった。
「ガトー中尉!」
士官学校時代の2期上の先輩、アナベル・ガトー中尉だった。
最後に言葉を交わしたのは、ルウム戦役の終結後に本国で開かれた戦勝会である。あれからまだ3ヶ月も経っていないのに、随分と久しぶりにお会いした気がする。その間に艦の修復を手伝い、敵と砲戦をし、地球へ降ろされて試作機にまで乗せられたのだから、そう感じるのも仕方ないだろう。
私が士官学校で右も左も分からない四号生徒だった頃、優秀な上級生だったガトー中尉には、軍人としての心構えから操縦の基礎まで何かと世話になった。配属が離れてからも、同じ宇宙攻撃軍に先輩がいるということは、私にとって心強いことであった。
こちらへ降り立ったガトー中尉はマグネットシューズで床に身体を固定し、懐かしげに私を見た。その視線が襟元で止まる。
「お久しぶりです、ナカノミヤ大尉。……いや、少佐に御昇進されたのですか!大変重畳、これは目出度いことです!」
ガトー中尉が姿勢を正して敬礼するので、私もすぐに背筋を伸ばして答礼を返した。その後で手袋越しに固い握手を交わす。彼は私の軍服の不格好さには触れず、ただ後輩の昇進を喜んでくれているようだった。
「ありがとうございます。ですが、先輩であるガトー中尉にそう畏まられると、なんだか変な気がします。昔のように接していただけませんか」
「いえ、そういう訳にはいきますまい。周囲には他の兵たちの目もあります。それに何より、軍の階級において私は中尉で、貴女は既に少佐でありますからな。上官、ましてや高級将校に対して気安い口などきけるはずがありません」
微かに口元を緩めながらも、返答には迷いがなかった。
通路を行き交う兵たちは、私たちに気付くと邪魔にならないよう脇へ避けている。運転席の下士官も会話の終わるのを黙って待っていた。そうした者たちの前で、ガトー中尉が軍の序列を曖昧にするはずはない。
ルウムの戦勝会でも同じことを思ったのだが、かつて世話になった先輩から敬語を使われるというのは、頭で理解していても落ち着かないものである。私が少尉だった頃には、彼の言うことを聞きながら学べばよかった。それが今では、形式の上では私が命令する側になっているのだ。
戦功による昇進とはそういうものだと分かっていても、私自身の感覚は簡単には追い付かなかった。もっと気安く話してほしいという気持ちはあったが、こちらの都合で先輩を困らせるわけにもいかない。
昔から規律に厳しい方だった。その堅さが頼もしくもあったのだから、今になって私にだけ曲げてくれと頼むのは、少々勝手が過ぎるだろう。
「ガトー中尉の実力でしたら、すぐに私に追い付かれると思うのですが」
「そうだと良いですが。地球への降下作戦が始まって以降、我々宇宙攻撃軍の持ち場には、戦果を挙げるような連邦の相手がめっきり減りましたからな。もっぱら哨戒と訓練の日々です。……ともあれ、お忙しいところをお呼び止めして申し訳ありません、少佐」
「いえ、私も久しぶりに先輩にお会いできて嬉しい限りです。今度は時間のある時にでも、ゆっくりお話しできれば」
「ええ、もちろんです。少佐の武運長久を祈っております」
「中尉も、どうか御無事で」
最後にもう一度敬礼を交わし、私はガトー中尉と別れた。エレカが走り出してから振り返ると、彼はまだ通路の脇でこちらを見送っていた。
次に会う時には、せめて寸法の合った軍服を着ていたいものである。私は軽く会釈を返し、袖口に触れようとした手を膝へ戻した。
ソロモンのドックに停泊していたヨーツンヘイムは、本国サイド3までの航海に必要な物資と推進剤の補給を済ませていた。私が到着した時には既に機関にも火が入り、いつでも発進できる状態で待機しているとのことだった。
ハッチを抜けて見慣れた無重力通路を進み、ブリッジへ足を踏み入れる。手近な席にいた通信士が顔を上げて挨拶しかけたが、私の姿を見ると一瞬言葉に詰まった。その目が肩の辺りから折り返した袖へ移るので、私は気付かないふりをして艦長席へ向かった。
人事部の窓口からここまで、何人に同じような顔をされたことだろうか。紙に借り物だと書いて、額にでも貼り付けておけばよかったかもしれない。
だが、プロホノウ艦長は私の軍服に施されたエポレットや装飾を先に見たらしい。艦長席から立ち上がると、笑みを浮かべて敬礼を送ってくれた。
「おお!遂にナカノミヤ大尉も、少佐へと昇進したのか!」
その声で、腕を組んでいたモニク大尉もこちらへ向き直った。最初は不揃いな肩幅を見て怪訝な顔をしたものの、すぐに佐官用の装飾に気付いて表情を明るくする。
「ナカノミヤ少佐、昇進おめでとう!」
「お二人とも、ありがとうございます」
私は照れ隠しに上着の裾を引きかけ、途中で手を止めて答礼した。
艦長はまるで身内の出世を聞いたように顔を綻ばせており、モニク大尉も手近なハンドレールを押して私のそばまで来ると、両手を取って喜んでくれた。手袋越しにも伝わるその喜びに、私の方まで頬が緩んでしまう。
「私も、貴女が多くの戦果をあげるのに対し、一体いつ昇進するのだといつも思っていたのよ。でも……遂に私よりも階級を抜かされちゃったわね」
冗談めかした口調に、少しだけ寂しさが混じっていた。どう返したものかと思ったところで、艦長がわざとらしく咳払いをする。
「何を言うと思ったら。キャディラック特務大尉は、私と同じく中佐待遇ではないか」
「ええ、待遇面ではそうです。ですが、軍の正規の階級上は私と彼女は同階級であったのですから、少し感傷に浸っただけです。ご自身の発言に少し風情がないとは思いませんか?……マルティン・プロホノウ
モニク大尉は笑顔のまま、最後の肩書きを殊更丁寧に発音した。艦長も笑ってはいるが、先ほどまでの好々爺然とした表情とは少し違う。
余計な口を挟むとこちらにまで飛び火しそうなので、私はモニク大尉の手をそっと離し、返事を求められる前に軍服の襟を直した。
その仕草で彼女の注意がこちらへ戻り、今度は服の寸法をからかわれることになったが、2人がこのままやり合うよりはよい。人事部で胸に合わせて選ぶとこれしか残らなかったのだと説明すると、モニク大尉は肩の余った生地を摘まんで同情してくれた。
「仕立てたものが届いたら、これはすぐに返してしまいなさい。せっかくの昇進なのに、その格好では勿体ないわ」
「ええ、私もそうしたいと思っています」
しばらく面談の様子などを話した後、私は持ち帰った辞令を取り出した。昇進についての報告だけで終わるわけではない。
「一つ、第603技術試験隊に対して朗報が……いえ、朗報と言ってよいか分かりませんが、とにかく報告があります。私の率いる護衛戦隊に、もう1隻のオキノトリシマ級が加わることになりました」
艦長とモニク大尉の顔が揃って曇った。
私もドズル閣下の前で聞いた時には、思わず顔を顰めそうになったので、その反応を責めることはできない。技術本部は二度と造らないつもりだったのか、当初は艦級すら与えていなかった。それが同型艦を増やし、とうとうオキノトリシマ級と呼ばれることになるのだ。
たった1隻でも十分に目立つ艦を、2隻並べてどうしようというのだろうか。ジオンの艦橋と連邦の船体を繋いだ姿は何度見ても妙であり、性能が良いと知っていても、見栄えまで良くなるわけではない。
もっとも、あの艦はヨーツンヘイムを守り、マゼラン級の回収でもよく働いてくれた。同程度に使えるのであれば、護衛戦力の増強としてはありがたい話である。閣下が仰った『貧乏籤』の中身は気になるが、その点は私も認めなくてはならない。
「それに加えて、丸々1個MS小隊もパイロット込みで付属してきます」
「おお!それは大変喜ばしい報告だ!フフフ、正に朗報といったところか。少佐が試験で地球に降りている間、我々の尻は常に寒く、心細い思いをしていたからな。モビルスーツの直掩部隊が常に一小隊でも居てくれるというのが、我々船乗りにとってどれほど頼もしい事か!」
艦長は先ほどの渋面を引っ込め、両手を叩いて喜んだ。
なんとも現金な反応ではあるが、私のようにMSのコックピットに座り、自分で機体を動かして回避できる者と艦乗りとでは、敵を迎える時の心持ちも違うのだろう。
私自身、オキノトリシマのブリッジでサラミス2隻との砲戦を経験した時には、自分の意思で機動できないことが恐ろしかった。敵の攻撃を察しても、自分で操縦桿を倒せば済むわけではない。ガネバン中尉へ伝え、艦が動くのを待つしかなく、ヅダに乗っている時には当たり前にできることが何一つできなかったのだ。
まして、このヨーツンヘイムは貨客船を改造した艦であり、砲戦を生き残るために造られた生粋の軍艦ではない。艦長が操艦の判断を誤れば、乗組員全員を巻き込むことになる。その重圧を普段から負っている人にとって、敵が近づく前に迎撃できるMSの存在は、私が思っている以上に大きいのかもしれない。
「それについては同意します。我々の本務である試作兵器の評価試験に於いても、周辺宙域の警戒や敵の迎撃を独立して行える戦力があるだけで、随分と違いますから」
モニク大尉も、MSの配備については艦長と同じ考えのようだった。護衛のために試験の手を止めることが減れば、彼女にとっても都合はよいはずである。
「そも、自衛武装の貧弱な大型の輸送艦に過ぎない本艦を、軍の重要機密を扱う技術試験隊の母艦として運用するのにも関わらず、正規の搭載MSが一機も配備されていないと言う事自体が、異常だと私は思うのだがな……。まだ我々は、ナカノミヤ少佐とオキノトリシマが常に傍にいてくれるだけでも随分と手厚くマシな方で、第604技術試験隊を載せているムスペルヘイムなど、未だに丸腰の単艦で評価試験といった活動を強いられることが多いそうだからな」
他の試験隊の事情を引き合いに出し、艦長は嘆息した。
ヨルムンガンド以来、私たちは試験だけでなく戦果も挙げてきた。鹵獲艦を修復して送り返し、次期主力機の評価にも携わっている。上層部からしてみれば、仕事をさせた分だけ結果を出している部隊にはなるのだろう。その成果が巡洋艦2隻とMS小隊になって返ってきたと考えれば、他の試験隊より恵まれていることは確かだった。
だが、これだけ戦力があれば多少の無理も利くだろうと考えられるのは困る。
ヅダが1機いるから護衛は十分だと言われ、ワシヤ中尉に機体が回ってこなかったこともあった。今度は2隻もいるのだから危険な宙域へ行け、MS小隊がいるのだから敵の近くで試験をしろ、と言い出す者がいないとも限らない。
戦力が増えた分だけ任務を増やされては、余裕などいつまで経ってもできないだろう。そんな考えが頭をよぎったが、増援を喜んでいる艦長たちの前で水を差すようなことは口にしなかった。
「確か、そのムスペルヘイムの艦長とプロホノウ艦長は、個人的なお知り合いでしたね」
モニク大尉が、バインダーに挟まれた資料を捲りながら尋ねた。
「そうだ。艦長のルデルとは、軍に徴用される前の民間貨客船時代からの古い仲で、私の婚礼付き添い人にもなってもらったほどの間柄だ。奴の艦にも、せめて旧式でも良いからMSの護衛を一機でも付けて欲しいものだが……」
「上層部が必要性と予算を認めるかどうか……。私からも総帥府を通じて何度か、技術試験隊全般の護衛戦力配置について上奏と陳情を行っているのですが、完全に梨の礫です。本艦にだって、MSのパイロット資格保持者がワシヤ中尉とシェル中尉*1と2名もいるのに、与える機体がないせいで遊兵になっています。人的資源の無駄としか言いようがありません」
モニク大尉は資料の端を揃え、少し乱暴にバインダーを閉じた。
資格を持つパイロットを遊ばせながら、人が足りないと言っているのだから妙な話ではある。ワシヤ中尉にいつか私の右翼を任せると言ったことを思い出し、私は申し訳ない気分になった。今回も私の戦隊に配属される機体であって、彼自身に割り当てられるものではないのだ。
だが、軍港で耳にした補給の実情も厳しかった。
地上侵攻軍の維持が最優先で、自前の生産設備を持たない部署では、MSの予備部品どころか推進剤の確保にも苦労しているという。機体を送るだけなら済んでも、使い続けるための補給まで引き受けられるところが少ないのだ。
必要なのは分かっていても、順番が来ない。待っている間に襲われれば、それまでというわけだ。
とはいえ、ここで補給全体を改める案など私に出せるはずもない。せめて自分の部隊に必要なものは確保しておかなくてはならず、ソロモンではそのための話もしてきたのである。
「私もソロモンで需品部と掛け合ってみたのですが、新規製造分のMSは地球攻撃軍への割り当てで手一杯だと言われました。前方発進可能なムサイの改修型や、大型空母とやらの部品製造もあるそうで、資源も人手も足りないとのことです。ソロモン配備の直轄部隊ならともかく、技術本部の試験隊にまで新しい護衛機を賄うのは難しいとも」
「そうなると、今回少佐の戦隊に配備されるMS小隊の整備部品や予備パーツは、満足に手に入らぬのでは無いか……?」
艦長が心配そうに眉をひそめたので、私は首を横に振った。
「それに関しては大丈夫です。新規の機体配備は無理でも、私の戦隊は宇宙攻撃軍司令部直轄ですから。予備パーツや整備資材の優先補給枠は、少し強引な手を使いましたが、需品部からしっかりともぎ取ってきました」
私が微笑むと、モニク大尉が何か言いたげな目でこちらを見た。どの程度強引だったのか、察しが付いたのかもしれない。
実際、ソロモン要塞需品部の担当将校は相当に渋っていた。既に補給計画は決まっており、どこも余計なものを貰っているわけではない。私の要求を通せば、他所へ回す分を減らすか入荷予定を組み直すことになるという。
それは分かる。だが、ドズル閣下から部隊を預けられた以上、私としても必要な資材を揃えなくてはならない。機体を動かす部品がありませんので任務はできません、などと報告するために帰艦するわけにはいかなかった。
私は閣下が直接差配された人事であることと、司令部直轄部隊であることを繰り返し説明した。その上で、先ほど頂いたばかりの少佐という階級も遠慮なく使わせてもらった。窓口の将校からすれば、昇進早々に権力を振り翳す面倒な娘っ子が来たと思ったことだろう。
しかし、口約束だけ貰って帰れば後回しにされかねない。新たな配属機の部品をどこへ請求し、どの枠で受け取るのか、それを書面にしてもらうまでは退く気がなかった。
最後には私の相手をしきれなくなった担当将校が、ドズル閣下へ直接裁可を仰いだ。上から無理だと言っていただければ、流石の私も諦めるだろうと考えたらしい。
ところが返ってきたのは、該当戦隊への優先供給を認める命令だった。
私を止めてくれると縋った相手に、逆に私の要求を通すよう命じられたのである。担当将校が通信を終えた時の顔は、思い出すだけで笑ってしまいそうになる。補給計画を組み直すことになって頭を抱える彼を前に、私はなるべく真面目な顔をして必要書類を差し出した。
気の毒ではあるが、私の部隊を後回しにして済ませられると思われても困る。しっかりと署名を頂き、礼も述べてきた。これで機体が来れば、少なくとも整備資材を求めて窓口をたらい回しにされることは避けられるはずだった。
「ところで、そのオキノトリシマの2番艦とMS小隊は、一体どこで我々と合流する予定なのかしら」
モニク大尉の問いに、私は思い出し笑いを引っ込めた。
「部隊の人員と2番艦は、現在サイド3本国の軍港に留め置かれているそうです。我々が本国へ戻ったところで合流することになります」
「それならば、ソロモンでの用事も済ませた事であるし、さっさと本国サイド3に帰るとするか」
艦長の一言で、クルーたちがそれぞれの持ち場へ取り付き、最終確認の声を交わし始めた。既に発進準備は済んでおり、管制から許可が下りれば出られる。
やがてヨーツンヘイムは巨大なドックを離れ、オキノトリシマと共に本国への航路に乗った。私は手元の辞令をしまい、窓の向こうで離れていくソロモンの姿を眺めた。
増援の艦とMSがどのような状態なのか、乗ってくる者たちがどれほど使えるのか。閣下からは、そこまで詳しい説明を頂いていない。部隊を迎える準備は進められても、訓練や運用を決めるのは実物と人員を見てからになるだろう。
今度こそワシヤ中尉と共に飛べるのではと少し期待していたのだが、配属はパイロット込みである。まずは新しい部下たちの腕を確かめ、ヨーツンヘイムを守れるようにしなくてはならない。帰還後も、しばらくは忙しくなりそうだった。
宇宙世紀0079年4月7日
ヨーツンヘイムとオキノトリシマは、無事に本国サイド3へ帰還した。
そして現在、私は戦隊旗艦オキノトリシマのブリッジで、新たに麾下へ加わる部隊員たちとの顔合わせを行っていた。
「本日付で、特別義勇兵部隊より第603技術試験隊専属護衛独立戦隊へ転属いたしました!エンマ・ライヒ中尉以下6名、着任いたします!」
張りのある声とともに、小柄な女性将校を筆頭とした6名のパイロットが一斉に敬礼してきた。
1個MS小隊なので3人かと思っていたが、半数は交代要員とのことだった。哨戒を続けながら休息も取らせるのであれば、人数がいるに越したことはない。問題は各人の技量と、小隊としてどの程度の連携ができるかだろう。
エンマ・ライヒと名乗った中尉は私を真っ直ぐに見ていた。その後ろの5人も姿勢こそ正しているものの、表情は固く、緊張している様子が窺える。伝わってくる感情には警戒や恐れも混じっていたので、単に新任地での挨拶に気を張っているだけではなさそうだった。
私は答礼を返し、手元の配属書類へ目を落とした。
「……なるほど」
思わず声に出してしまい、ライヒ中尉が僅かに眉を動かした。
私は書類から顔を上げ、彼女たちの向こうに見える軍港へ視線を移す。オキノトリシマと全く同じ妙な形の船体が、指定された泊地に収まっていた。新しい僚艦、ミナミトリシマである。
ドズル閣下の仰っていた『貧乏籤』とは、まさにこのことだったのか。
特別義勇兵。通称『外人部隊』とも蔑称される彼らは、サイド3のジオン国民ではなく、同じスペースノイドでありながら我々の自主独立に同調せず連邦側についた他のサイド*2の出身者*3や、ジオンの独立思想に共感して地球連邦軍から亡命してきた者たちで構成される寄せ集めの部隊である。
自らの意思でジオンへ来ていても、周囲がその志を認めるとは限らない。特に元連邦兵ならば、つい先日まで味方を撃っていたかもしれない相手でもあるのだから、簡単に受け入れられない者がいること自体は分かる。
しかし、受け入れた以上は同じ軍人として働かせるべきだろう。今さら出自を理由に遠ざけ、まともな仕事も与えないのであれば、何のために軍へ入れたのか。少なくとも、私には部隊へ配属された者を持て余しておけるほどの余裕はなかった。
だが、このブリッジに漂い始めた空気は、私の考えとは違っていた。
先ほどまで通常の当直業務をしていた兵たちが、端末を操作する手を止めて6人を見ている。彼らの挨拶を聞いて顔を見合わせた者もいた。ガネバン中尉も艦長席から様子を窺っていたが、まだ歓迎の言葉はない。
私に向けられていた時にも覚えのある冷たい感情が、今度は新しく来たパイロットたちへ向いていた。
この艦の乗員たちは、旧ダイクン派というだけで宇宙攻撃軍の主流から弾き出された者たちである。腕前や働きぶりを見ずに値踏みされる不愉快さは、嫌というほど知っているはずだ。それなのに、今度は他サイド出身者を自分たちより下に見るのか。
もっとも、私も人のことは言えない。
オキノトリシマを受け取った時、私はこの人たちが自分を見捨てるのではないかと疑っていた。何をされたわけでもないうちからだ。
ここに来た者が信用できるかどうかは、これからの働きで判断すればよい。操縦が下手なら訓練をさせ、規律を守らないなら叱れば済む話である。
私は自分が黙っていたことにも腹が立ち、閉じた書類を脇へ置いた。
「あの……少佐、我々に何か不備でもありましたでしょうか」
ライヒ中尉が恐る恐る尋ねてきた。待たせている間に、彼女の顔まで一層強張ってしまっていた。
「……いえ。よく私の戦隊に来てくれました。エンマ・ライヒ中尉、そして他の5名も、心から歓迎します」
私は一歩前に出て、6人へ順に視線を向けた。その後ろにいる当直要員にも聞こえるよう、声を少し張る。
「お互いのためにも、一度ここではっきりしておいた方がよいでしょう。私はザビ派のナカノミヤ家の人間ですが、旧ダイクン派であろうと特別義勇兵であろうと区別するつもりはありません。ジオン公国に忠誠を誓い、同じ釜の飯を食い、ジオンの勝利に努力し、仲間のために共に血を流せるのであれば……何処の生まれの何者であろうと、分け隔てなく仲間として接します」
そこで顔を上げ、艦長席から各部署の席まで見渡した。
特別義勇兵たちだけを慰めるために言っているのではない。この場の全員に、私の戦隊をどう運用するつもりなのか理解してもらう必要があった。
旧ダイクン派の彼らを引き受けた時も、政治的な立場を捨てろとは言わなかった。私の指揮の下で任務を果たし、ヨーツンヘイムを守ってくれればそれでよかったのである。新しく来た者たちにも、同じように働いてもらうつもりだった。
ガネバン中尉と目が合うと、彼は咳払いをして艦長席から立ち上がった。背筋を伸ばし、6人に向き直る。
「戦隊旗艦オキノトリシマ艦長のマッツ・ガネバン中尉だ。少佐の仰る通りだ。私も、諸君らが少佐の剣となり盾となって共に戦う覚悟があるというのであれば、喜んでこの戦隊に歓迎しよう」
「ありがとうございます。御期待に添えるよう、努めます」
ライヒ中尉が改めて敬礼し、後ろの5人もそれに続いた。
ガネバン中尉が明確に支持を示してくれたことで、乗員たちの視線も少し変わった。顔を見合わせていた兵は持ち場へ向き直り、通信席からも短い挨拶が返される。6人から伝わっていた緊張も僅かに緩み、ようやく着任の挨拶らしい空気になってきた。
ただ、これで内心の偏見までなくなったと思うほど、私も楽観してはいなかった。
私に従うことと、彼らを信用することは別だろう。少なくとも今は、戦隊長と艦長の前だから態度を改めただけの者もいるはずだ。それでも、部隊としての扱いを揃えることはできる。所属や出身を理由に任務の連絡を怠ったり、補給や整備で不利益を与えたりすることは認めない。
私の目の届くところであれば、その場で止めさせればよい。艦内のことはガネバン中尉に注意してもらい、MSの運用については私が見ていく。まずは互いに仕事をする機会を作らなくては、信頼するもしないも始まらないだろう。
いずれにしても、新任者に勝手に馴染めと言って放り出すつもりはなかった。こちらから必要な説明もせず、後から使えないと文句を言うのでは、部隊を預かる私の方に問題がある。
私は今後の顔合わせと手続きについて伝え、ひとまず彼らに解散を命じた。部屋や荷物の案内は当直の兵に任せ、後ほどヨーツンヘイムへ紹介に連れていくことも告げておく。
ライヒ中尉は来た時よりも少し落ち着いた声で返事をし、5人を伴ってブリッジを出ていった。
私の戦隊については、まず方針を示すことができた。ガネバン中尉にも後で話をしておこう。彼が協力してくれるなら、艦内での扱いが露骨に悪くなることは防げるはずである。
だが、技術試験隊の母艦であるヨーツンヘイムでは、どうなるだろうか。
私が彼らの出自を黙っていても、他人の口に戸は立てられない。それに、モニク大尉には管理官として配属者の経歴を確認する権限がある。護衛を任せることになるMSパイロットについて、彼女が何も調べずに済ませるはずもなかった。
あちらは私の部隊ではない。こちらで示した方針を、そのまま命令することもできないのである。
私は配属書類をまとめ、ガネバン中尉に後を頼んで連絡艇の手配に取り掛かった。
ご高覧ありがとうございます。
後々(作品日時12月)の布石のために、第7話で名前だけだったガトー中尉が登場!ソロモンはどうなるのか…
さて、答え合わせですが、漫画版イグルーの幸薄枠である特別義勇兵の皆さんでした。
漫画版には、エンマ・ライヒを入れて6人出て来ますが、全員にちゃんと名前があります。(大半が名字不明)
名前があると言っても、大半が撃墜された時に名前呼ばれてるくらいなんですがね…
ちなみに、特別義勇兵についての考察はあくまでも私の独断と偏見によるものですので、みなさんの考えがあったら聞かせてもらえると嬉しいです。
それと、この小説一年戦争終わった時点で完結にするのか、デラーズフリート、Zと続いていかせるのか悩みますよねぇ…
ご感想、高評価お待ちしてますね!
登場させるとしても大分先になりますが、ジークアクスのキャラを出すのはアリかナシか。(出るならニャアン)
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アリ
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ナシ
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どっちでも良い
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早く書け